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グランドソード~巨剣使いの青年~

作者:清弥
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第2章
2節―運命が許さない旅―
  戦闘開始

 ドゴォンッ!という凄まじい音が響いたのを聞いて、エレンとレーヌは顔を音のする方へ思わず向ける。
 そこにはモクモクと土煙が立ち上っており、その大きさは遠くにいるエレン達の目で見ても簡単に見つけられるほど。
 あれはソウヤが起こしたものだろう――と立ち上る土煙の大きさでエレンとレーヌは確信した。

「…あとどれくらいで右翼側の部隊に着きそう?」

 未だに走りつつづけるエレンとレーヌ。
 不意にレーヌはエレンにいつ着くのか尋ねた。
 レーヌの問いに、エレンは振り向くこともせず呼吸を乱さないため短い言葉で返す。

「後少し…―――見えたっ!」

 エレンがそう小さく叫ぶのを聞いて、レーヌは顔をエレンの方から再び前に向ける。
 そこには、小さいが黒い物体がこちらに近づいてくるのがはっきりとわかった、当然あの黒い物体は魔物の軍勢だ。

 そして――不意にエレンとレーヌが左右に飛ぶ。
 次の瞬間、エレンとレーヌの隣を2本の矢が通過するのが目に入った。

「…遠距離の弓を使う奴がいるな」
「多分魔法使いもいるでしょうね」
「どうする?」

 エレンがそうレーヌに問うと、レーヌはクスリと笑い…右手を胸のあたりまで上げて――マグマの塊を作って見せた。
 そのマグマの塊に、初めて見るエレンはこれがソウヤから聞いていた『|幻夢(シュレオ)魔法』だと数秒後気付く。

「…それでどうするんだ?」
「エレンは後衛の弓使いや魔法使いを倒してきて」
「しかし前衛が邪魔――なるほどな。わかった」

 レーヌのその第三者的に聞けば「はぁ?」と行ってしまうような提案に、エレンは初めレーヌを疑うが、その考えが読めたのかその行動に肯定する。
 通常、そのソウヤは論外だとして、エレンやルリなどのその圧倒的な強さにレーヌの影は薄いが、しかしレーヌも冒険者の中では上位に食い込む強さを誇るのだ。
 その強さの秘訣とは、生まれつきに手に入れていた希少能力(ユニークスキル)である『幻夢魔法』。
 そしてその希少能力を最大限に発揮できる柔軟な想像力と、その物質の理解力だ。

 『幻夢魔法』を含む幻系の魔法というのは基本、形に捕らわれない。
 術者の想像の思いゆくままに幻とはいえさまざまなものを作り出すことが可能となるのだ。

 そして、希少能力である『幻夢魔法』は幻系の魔法の上位に位置する。
 『幻夢魔法』は通常の幻とは違い、炎を生み出し触れば”暑い”という感覚を生み出すことが出来るようになる。
 だたし、殺傷能力が皆無なので”熱いだけで火傷はしない炎”が作り出せるわけだ。

 だが、その使い方によればものすごく使えると言える魔法も欠点が存在する。
 それは”その物質の成り立ち”を知らなければならないのだ。
 炎からしてしまえば酸素と木の枝、あとは摩擦による熱…などの炎が生み出される肯定を知らなければならない。
 つまり、この『幻夢魔法』はこの文化レベルが低いこの世界の中で高い理解度と柔軟性のある想像力、そして多くの魔力が必要となるピーキーな魔法なのだ。
 それを使いこなせ、マグマまで作り出してしまうレーヌの技量は言うまでもないだろう。

「それでは…行くぞ」
「えぇ、任しておきなさい」
「すぅ……我に光電の力を『|光電の力(フォッツ)』」
「幻よ溶岩で埋め尽くせ…『幻夢溶岩(シュレオ・メレン)』」

 エレンの身体が光る電気により包まれ、レーヌの周りに幻とは言えど、恐怖を感じさせずにはいられないほどの高密度のマグマが集まる。
 そしてエレンとレーヌはちらりと両方の目を見合った――戦闘開始の合図だ。
 エレンはその瞬間、魔物達を一瞥すると声高らかに魔法を言い放った。

「光の速さで走れ光電!『光縮地《フォルト・シグル》!』」

 その刹那、エレンの姿が掻き消え魔物の中心にその姿を現す。
 驚いて固まっている魔物達をレーヌが見逃すはずもなかったのだ。

「…熱さだけで死ぬ方がマシな痛みを味わないなさい?……行けっ」

 レーヌは悪魔をも思わせる笑みで微笑むと、周りに漂っていたマグマを一気に前衛である魔物達に向かわせた。

「グァアアアアッ!?」
「ガ…ハッ…ガ……ッ!!」

 傷を追わないが、感覚はするマグマ。
 マグマの温度は約1000℃で、到底生き物が耐えられるものではない、ソウヤでさえもあまりの熱さの痛みに膝をつくのではないだろうか。
 それほどのマグマの波を、魔物達が耐えられるはずもなくあまりの熱さに魔物が倒れていく。

「…ッ!」

 一方、エレンもマグマが届かない後衛の相手をしていた。
 身体全体がキラキラと光る雷に纏われており、高速で敵を倒していく。
 エレンの持つ美しいフォルムをした『|天使雷鳴(セルンス・スレミルト)』を一振り、そう一振りするだけで5の敵は倒れる。
 その討伐速度はソウヤには至らないものの、その速度は世界の上位に普通に食い込めるほど早い。
 そして、約2000もの魔物の軍団は確実にその数を減らしていった…。




 一方同時刻、ルリとナミルは左翼部隊と交戦していた。

「はぁっ!」

 ルリが1本の剣で魔物の攻撃を防ぎ、左手に持つ短剣で魔物の命を確実に絶命させる。
 魔物をルリが倒した瞬間、もう1体の魔物がルリの背後を取るが…その魔物の命は瞬時に掻き消えた。
 その両手に真ん中だけ細い隙間が空いている大剣を持つ女性…ナミルである。

「大丈夫か、ルリ」
「はい、まったく持って問題ないです。それより、前衛の魔物はお願いしますよ」
「あぁ、任せておけ。腐っても俺は二つ名持ちだ、ルリの所に行かせねぇから安心して行って来い」
「お願いします」

 ルリは、背中を預けている状態のナミルにそう一言だけ礼を言うと魔法の演唱をする。

「貫け弾丸…『風纏銃弾(エア・パレット)!』」

 ルリがそういうと、その手のひらから手のひらほどの銃弾が現れると…凄まじい速さで一部の魔物を餌食に直線状に突っ込んでいった。

 『風纏銃弾』は、読み方が地球チックなのはソウヤが編み出した魔法だからだ。
 土魔法により鉱石の弾丸を作り出し、それを強烈な風魔法によって吹き飛ばすことで直線状とはいえ圧倒的な貫通力と攻撃力を誇るのが特徴である。
 さらに、風魔法により銃弾をコーティングすることでさらなる貫通力を得ることが可能となった。

 『風速銃弾』により魔物の群れから道が出来たルリは、その機会を見逃さずすぐさま最高速度で走り出す。
 近くにいた魔物がルリを止めようと襲い掛かるが、それはナミルのその大剣の餌食となり無残に命を散らした。

「さて…お前らの相手は俺だよ。すぅ…『(まとい)』」

 ナミルが静かに息を吸いそういうと、ナミルの持つ大剣が輝く黄色に包まれ1つの剣と化した。
 ガルフの種族、または『|武戦士(グディド・ソール)』にしか持つことがない特殊能力(エクストラスキル)の『気術』の中の一つ、『纏』だ。
 だが、ナミルが使う『纏』は通常周りの人が使う『纏』とはかけ離れていた。

 通常の『纏』とは薄く輝く黄色の”オーラ”に包まれ、その武器の攻撃力を上げるスキルだ。
 しかし、ナミルの『纏』は通常の者とは違い、濃く輝く黄色の光が大剣を包み1つの剣と化しているのだ。
 そう、これほどの『纏』を使えるナミルだからこそここまで強くなれ、二つ名を手にすることが出来たと言っても過言ではない。

 かつて、この世界がゲームだったころ一時期沢山のプレイヤーが挑戦し諦めて行った伝説の特殊能力…つまり――

「――俺の『仙術』に恐れをなしたか?魔物ども」

 『気術』の上位互換である『仙術』。
 かつて沢山の人がこれを目指したが、一人として手にすることが出来なかったこのスキルを、ナミルは手にしていた。
 もうこの世界にはナミル以外『仙術』を使う者はしばらくでないだろう。
 なぜなら、この『仙術』は特殊能力ではなく――希少能力なのだから。

 そのあまりに強く、存在感を秘めるその光る剣に魔物達を恐怖を覚えた。
 それが行動に出て思わず魔物達は足を一歩下げる。
 しかし、『仙術』使いはその好機を見逃すわけもなく…剣を一振りした。

「ガッ…!?」

 その刹那、周囲の魔物が10体ほどこの世からその姿を消した。
 ナミルは驚嘆の表情を見せる魔物達にどこか拍子抜けた笑みを浮かべると…その手を振りかざす。
 魔物達に、『仙術』を使うナミルに勝つ術なぞ残っていなく、次々とその命を散らした。

 ソウヤを中心として、残虐ともいえる一方的な戦いが続き、あと10分もすれば魔物達は全滅すると思われた。
 ――あの存在が現れるまでは。




 エレン達が戦い始めて少し経ち、その魔物の数は一方的に減る限りを知らない。
 今ではその数は200を軽く下ってしまっていた。

「後、少しだな…」

 エレンは自分の周りを囲む魔物達が少なくなっていることに気付き、静かにそう呟く。
 そうしてエレンは血を振り払い、再び剣を構えなおすと飛び出し――何か横から凄まじい衝撃を受けて横に吹っ飛んだ。

「――――がっ!?」

 地面に身体全体が滑り込み、止まったところでエレンはいきなり脳に痛みが伝わり小さく声を出す。
 ここで叫ばなかったのは一重に叫んでしまえば必ず自分は恐怖してしまう事が分かっていたからだった。
 そう、エレンが倒れている少し先に存在している巨大な者に対して。

「くっ…!」

 その巨大な存在に気付いたレーヌは、その顔を絶望に染める。
 そしてその巨大な存在は大きくその口を開けると――

「――ッガアアアアアアァァァァ!!!!」

 大きく咆哮をした。
 その巨大な存在に、レーヌは自分自身が恐怖にむしばれるのを理解しながら呆然とつぶやいた。

「………上級……魔族…?」

 巨大な存在…否、犬のような姿をした上級魔族は咆哮し終えたあと、エレンとレーヌを見ると残虐な笑みを浮かべ、言葉を発した。

「オマエラ…強ソウダナ。喰イタイ…ナ」

 ソウヤもいない、人数も2人だけ…。
 そんな絶望的な状況な中、エレンとレーヌの今まで体験したことのない壮絶な戦いが幕を切る。

 ――そしてそれはルリとナミルにも同じことが起こっていた。

「…よりによって、こんな時になんで上級魔族が…っ!」

 ナミルはその顔を醜悪に染めながら悪態を付くと、その大剣を大きく振るい周りの魔物を絶命させる。
 ルリもさすがにあのまま前に出ているのは危ないと思ったのかナミルの元へ戻っていた。

「…どうする?ルリ、退くか?」
「ナミルさん。ソウヤさんはこんな強大な敵にも一人で戦い、勝ってきました。私たちはソウヤさんに比べたらとても弱いです…。ですが、二人掛かりで上級魔族でも倒せないと――ソウヤさんの足手まといになります」
「……はは、確かにそうだな」

 ルリのそのありえない…だがその正論にナミルは思わず乾いた笑みを浮かべる。
 そして――その乾いた笑みを一瞬でこれ以上ないくらいの真剣な表情に変えると…小さく呟いた。

「…ぶっ倒す。相手が上級だろうが、将軍だろうが。ソウヤの足手まといにはなりたくねぇ」
「私も手伝います。必ず倒して、ソウヤさんを驚かしてしまいましょう」
「はは、いいねぇ。じゃあ…行きますか」

 そうして気合いを入れなおす二人。
 その二人を待っていたかのように静かにしていた上級魔族は…空に向かい大きく咆哮した。
 そして、身体全体を固そうな鱗を纏った上級魔族はニタリと笑うと、二人に静かな声で言い放つ。

「オマエラ…喰ウ。大人シク、喰ワレロ」
「そうそう、喰われなんかやれるかよ」
「私たちを舐めないでほしいですね…っ!」

 エレンとレーヌが戦闘を開始したと同時に、ルリとナミルも戦闘を始めた。
 そして…ソウヤも。
 今までにない、最大規模の戦いが…妖精5人VS|将軍魔族(ロード・ローゼ)1体と上級魔族2体の戦いが今…幕を切った。 
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