グランドソード~巨剣使いの青年~
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第2章
1節―旅の中で―
現状認識、そして神々の話
あれから1日経った日、ソウヤたちは呪いが解けたソウヤの月魔法を使っていつもより違った姿をしていた…レーヌを含めて。
あれから、なんやかんやあったが結局後衛は欲しいという意見になり、絶対にソウヤの力を周りにばらさないことを条件にレーヌは仲間になった。
といってもまだ正式なパーティーに入っていないので、町に入ったらギルドへ向かって済ませる予定だが。
そして、ソウヤは月魔法でいつも通りに髪の色を次は水色に変えて過ごしていた。
基本的にエルフは髪の色などが同じなのでエレンはほとんどなにもできなかったが、ルリはその特徴的な毛を隠しておくことにする。
レーヌはそこまで有名ではないが、それでも希少魔法を手に入れているので念のためにと少し外見をいじった。
装備や皮装備と鋼武器に戻しており、ソウヤに至っては普段着をそのまま着用して懐かしのジークをその背中に背負っている。
「…にしても人が異様に多い気がするのだが?」
「まぁ、『軍勢の期』の手柄を得ようと大陸中から集まったからね。仕方がないわよ」
ソウヤのボソリとつぶやいた言葉にレーヌが反応して、その疑問に答える。
この世界での船に乗るというのは案外簡単だが、それでもある程度のお金が居るしそれに魔物に襲われる危険性も存在した乗り物…という認識だ。
つまり、そこまで危険を犯したくなるほど『軍勢の期』は冒険者やら傭兵やらにとってはおいしい的なのだろう…死んでしまっては意味がないが。
冒険者も『軍勢の期』に出たことだけあったのか幾度か魔物に襲われたが心配なく撃退できていた。
「…どうしてそこまでして利益を得ようとするんだろうな……」
「私は反対になんでそこまでソウヤは欲がないんだろうなって思うけどね」
ソウヤはその言葉に「俺だってよくはあるさ…」とつぶやいて、そして甲板の上から静かに海を見つめる。
その姿は絵師がみたら「おぉ…」と感嘆することになろうであるほど、とても幻想的でどこか物寂しさを漂わせる風景だった。
ソウヤは初めのころ、飽きた日常からは抜け出せるっ…という気持ちを抱いて心がおどっていた。
それは今も変わらないが、ただこの世界でもほとんど体験しないような綱渡りのような戦いを休むことなくソウヤをこなしてきた。
そのせいでソウヤ自身に無意識に負担がかかり、心の底から休みを欲しいと感じている。
「……生きている者その全てが欲を持ってるものさ。例えば…食欲、睡眠欲、性欲。どれも自分が生きるためとはいえ欲だろ?」
「ソウヤって馬鹿なのね…。そんな考え方する人って初めてだわ」
呆れをその整った顔にレーヌは浮かばせると、風で邪魔になった髪を耳の上に掻き上げる。
ソウヤは静かに海面を見ていたが、不意に空を見つめると自室へ戻らんとその足を運ばせた。
「俺だって、そんな考え方する人は自分以外にしらないさ…」
その声は風にあおられてよく聞こえなかったが、確かにレーヌの耳には届いていた。
「ふぅ…。やっと着いたな、ここに」
「ん~っ。やっぱり船は身体が凝るな」
「船はしばらくいらないわね~」
「身体が少し怠いです…」
三者三様…いや四者四様の言葉をそれぞれに放ったソウヤたち一行は、ガルフの大陸…『ガラード』に着いていた。
ソウヤたちはなまった体を伸びをすることである程度ほぐすと、とにかく寝るところを探すためにソウヤ1人と女子団全員で別れることにする。
「じゃあ、今から鐘が12になるときに中央広場でな」
「わかった」
「わかりました」
「了解よ」
エレン、ルリ、レーヌがそれぞれに了承の言葉を言うとソウヤはうなずきそれぞれに分かれた。
次いでいうと、この世界の時間は魔法の鐘によって回っており鐘が鳴りだすのは大体時間的に6時ころで、その時に6回鐘が鳴り、それが夜の9時…21時に鐘が21回なって鐘は鳴り終わる。
その6時から21時までの間鐘が1時間ずつ鐘がなる仕組みになっている…らしい。
別れたソウヤはガヤガヤと騒ぐ人々の中を縫うようにして歩いていくと、ふと意外なことに思い出す。
―そういえば、最近1人になった事ってなかったっけ?ははは、今思えば男子1人に女子が4人…か。はたから見れば悪ければハーレムじゃないか…。
1人になったことで心に久し振りの余裕が出来たソウヤは、今の自分の状況を理解して心の中で軽く笑う。
昔の自分なら独りなのが普通だったのに、今ではなぜか周りにエレン、ルリ達が居ないと少し物寂しさを感じているソウヤだった。
―この世界に来てから生き残るのに必死だったからなぁ…。本当に今の自分の状態すらも確認できなかったんだな…。
ソウヤがそう思うのも無理はないだろう。
いきなりあの男に呼ばれて最高ランクの『瞬死の森』に飛ばされてなんとか脱出できたものの、少ししたら『軍勢の期』が起こって魔族と戦ったのだから。
ほかにも休めたのも呪いのせいでスキルが使えなくなった実質1週間ほどで、それ以外は移動や魔物を倒したりと命の架け橋をずっと渡ってきたのだ。
自分でもよくここまで生き残れたな…と感心するソウヤだった。
―なんか、小説の主人公みたいだけど…。いままでの数ヶ月が元居た世界とは違って濃密過ぎてもう何年か経ってる気がする…。我ながら臭いセリフだよなぁ。
それだけ思うと、不意に宿屋が目に留まった。
見つけた宿屋に向かって、部屋空いてると良いなぁ…と思いながらソウヤはその宿屋に向かって歩き始めたのだった…。
「この先の予定だが、しばらくは依頼もこなしながらゆっくりと旅しようと思っている」
「旅…ですか?」
決まった宿―少し高額だったが、風呂付きだった―のソウヤの部屋で4人は集まって今後の話をしていた。
そこで、ソウヤが言った言葉にルリが疑問符を頭に浮かべながらそう尋ねる。
ソウヤはそれにうなずくと、口元をすこし歪めて微かに苦笑いをすると言葉を発するために口を開けた。
「そうだ。流石に依頼ばかりの暮らしは疲れたからな…」
「そっか、ソウヤは異世界人だから冒険者の暮らしに馴れていないわけね…」
「まぁ…そうだな」
ソウヤは一発で自分の考えを読まれたことに一層苦笑いを深くするが、次の瞬間には顔を元に戻していた。
そして机の上に載っている宿の人に頼んで作ってもらった飲み物を取ると、一口飲んで喉を潤す。
飲み物を机の上に戻すとソウヤはまた話し始める。
「俺たちの暮らしていた国は比較的安全で大きな争いとかはなかったからな。しかも大体は18歳になるまでは全員学校っていう教育場に行かされているからな」
「ほぅ、18歳もその学校にいたのか。私たちの世界にも職ごとの学校があるが大体は14歳で卒業するからな」
この世界にも学校があることに少し驚いたソウヤだが、そういえばβテスト時に学校らしきものを見たっていうプレイヤーも多かったな、と思い直す。
「俺の年は17歳だからな、小、中、高と学校があったんだが、その俺は高の学校にいた。」
「へぇ…。意外とあなた若かったのね」
「…どういうことだ?」
ソウヤは意味が分からずそう言葉を返すが、レーヌはクスリと笑って「年相応ではない…ていうことよ」と曖昧な答えを返した。
その答えに意味が分からず頭を思わずひねるが、結局分からなかったので置いておくことにする。
「ま、それは置いといてだな。で旅することになるが構わないか?」
「えぇ、良いわよ」
「私はソウヤに着いて行くだけだからな」
「私は別に構いません」
了承を得たことをソウヤはうなずくと、初めてのゆっくりとした旅に内心心を躍らせていた。
…だが、そんなことはソウヤが『巨剣使い』を手にした時点で許さず、これからも忙しくなることを今だソウヤは知らない……。
それから時間的に鐘が20回なら響く…つまり20時になるまで雑談をしてからソウヤたちは各自の部屋に戻っていった。
1人になったソウヤはしん…と静まり返った暗闇の世界の中で静かに考える。
―この世界で魔王を倒せば本当にこの世界から抜け出せるのだろうか…?いや、そう思っておこう。そう思わなければ生きてられないしな…。
ソウヤはこれからの旅の事を頭の中で静かに思い浮かべる。
そしてそれが、なぜか今の自分には到底遠い光景と思えてきた。
ほかの異世界人は今はもう、各自に思い思いの生活をしているのだろう…こんな生活はソウヤたちが居た世界では到底かなわないだろうから。
ソウヤはそう思うと、自分は思い思いどころか細いロープの上を綱渡りしているという、つらい生活を嘆きたくなった。
―…小説とかだったら主人公がチートで、思い思いに過ごすんだろうなぁ……。こんな切羽詰まったような生活は送らずに。…でも、これが本当のファンタジーの世界なのかもしれないしな。
確かにソウヤもその仲間もチートではあるが、ほかの創作物とは全然違いギリギリの状態で生き残っている。
しかし、あくまで創作物は創作物であり現実は無情であるのだ、そんな思い思いの生活を送れる方がおかしいのだ…だからこそのチートなのかもしれないが。
「まず、魔族がいくらなんでも強すぎだろうが…。オンラインゲームを元にしているとはいえ……な」
ソウヤははぁ…と溜息をつくと布団に深く潜り込む。
そして、いつになったらこの生活から抜け出せるものかと考えながら無音の中でソウヤはそのまま闇に意識を飲まれた。
「…ははは、本当に切羽詰まった生活してるよねぇソウヤ君は」
男はディスプレイに泥のように眠っているソウヤが映っているのを見ながら、不気味な笑みをこぼした。
現実でいうと、ソウヤ以外の異世界人は”死んだ者”以外はハーレム、または逆ハーレムを作ったり、逆にぼっちとして独りで生きていたりしている。
そんななかでソウヤだけが精神的に苦しいような生活をしているといって良いほどだった。
男はディスプレイを見続けていると、不意に後ろに美しい女性が現れる。
その女性は妖しげな雰囲気を漂わせており、男が見ればすぐさま襲い掛かるようなエルフ顔負けの美しい身体と顔をしていた。
その女性の艶やかな白銀の髪がさらりと揺れて薄い水色の瞳が男をとらえる。
「あの子、放置していて大丈夫なの?そう「ヴェルザンディ、僕の名前はウィレクスラだよ」悪かったわ、ウィレクスラ様」
女性…ヴェルザンディは男の名前を言葉を改めて言うと、男…ウィレクスラは嬉しそうにうなずく。
ウィルクスラはヴェルザンディの言葉に笑顔でうなずくと、深い藍色の目でヴェルザンディを見つめる。
「僕の力を持ってすればソウヤ君の力なんて少年ぐらいさ」
「赤子ではないのね?」
「彼は僕を殺す手段はないけど彼を殺すのは赤子よりかは少し辛いからね」
「確かに…私たち”神”を殺すのは『神具』である『神々の剣』か『虚無の剣』でないとね」
その言葉にウィレクスラはうなずいてニヤリと笑う。
「みんなはこの力を希少能力だと言ってるけど、それは本来の力の1割しかだせないからなんだよね」
「確か、5割の力を出せば『究極能力』の能力になるのでしょう?」
「うん、そうだよ。本当の力を出せばやっと晴れて『神級能力』へと到達できるわけだね。まず人は耐えられないけど」
『究極能力』…それは童話の物語で姫を救うために竜を倒す騎士が持っていたとされている能力の分類で、ほかにも『賢之者』と言われる魔法を生み出した人も持っていたとされる。
その力はとてつもなく、現代ではもう存在しないと言われておりまさに究極の能力なのだ。
『神級能力』というのは神々しか知られていない能力で、希少能力の最高潮である『神々の剣』と『虚無の剣』もその本来の力は神級らしい。
『神級能力』は神でさえも殺すほどの力を有しており、だからこそ人は扱えないと神はそう思っている。
ヴェルザンディはディスプレイに映るソウヤを見てウィレクスラに尋ねた。
「でも…あの彼の能力……『巨剣使い』だっけ?も『神々の剣』なみの能力を備えてないかしら?大丈夫なの?上位互換になって『神級能力』にでもなったら」
「大丈夫だよ。もともと設定して上位互換になっても『究極能力』までに抑えておいたし」
「そう…。なら良いけど」
ヴェルザンディはウィレクスラをじっと見つめると、そのままその空間から姿を消した。
そして自分の領域に戻ったヴェルザンディは、ソウヤの運命を変動させるべく動き出す…。
『巨剣使い』を得て切羽詰まった生活をしているソウヤの運命は、ヴェルザンディという名の”運命の神”のその手で変動していくのであった…。
そのことはまだ、ソウヤは知らない………。
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