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グランドソード~巨剣使いの青年~

作者:清弥
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第1章
4節―茨の旅の決意―
  再会の天使

 あの出来事…魔族が襲ってきた出来事から数日経った日、港街はいつも以上に盛んに大きく騒いでいた。
 魔族を退けたというほぼ前代未聞の事実が港街を眠らぬ街へと変化させたのだ。
 その中でソウヤは1人、鍛冶屋へと出向いていた。

「ルグドは居るか…?」
「おう、ソウヤじゃねえか。どうしたんだ?」

 ソウヤが声をかけると、ルグドはすぐさま奥の部屋からスッと出てきて要件を聞き始める。
 ルグドの言葉にソウヤはうなずくと、アイテムストレージから折れた鋼の剣を出して前に向けた。
 それを見てルグドは苦笑いをせざるを得なかった。
 普通、鋼の剣というのは使われるのが大体ランクでいうとDの最後~Bの初めまで使われる非常に頑丈な武器なのだ。
 それが経ったの1ヶ月で壊されたのはいくらなんでも苦笑いをしなくてなんとするのか。
 それに気付いたのか気付かなかったのか、そのままソウヤは話を続ける。

「まずこれが折れたので、オーダーメイドを頼みたい」
「あの剣があるじゃねぇか。どうして使わないんだ?」

 ソウヤはそれに無言でため息をついた後、口を開けた。

「超高レベルの装備持っていたら目立つだろう…?」
「あぁ。そうだったな…で、なにをするんだ?」

 ルグドはその理由に多少の疑問を抱きながらも言葉を続ける。
 冒険者というのは大体目立ちたがり屋か、本気で世界に献上しようという人しかならない職業だ。
 しかしソウヤはそれに反してただ生きるだけにこの冒険者をしていると言っていいだろう…。
 ルグドの意見としては、ソウヤならば目立って国から引っ張りだこになっても、なぜか普通に戻ってくる…そういう感じがするのだ。
 だが、ソウヤはそれに答えずただ頑張って頑張らず…そういう境界線をずっと立っているようにルグドは思えた。

「まず、2本作ってほしい。その1本が電気を通しやすい鉱物で作った剣。もう1本はとにかく頑丈で切れやすさがデカイ大剣だな」
「ふむ…電気を通しやすい鉱物は銀だな、良いのなら魔銀鋼がある。もう1本は値段がバケモノだが賢者石ってのがある。ある程度安いものだとダマスカス銀鋼だな」
「なら、魔銀鋼とダマスカス銀鋼でよろしく頼む」

 ルグドはそれに対して「おう」というと、『金結晶』を取り出してソウヤに差し出す。

「会計は材料込で5万ほどだな」
「分かった」

 ソウヤはそれにうなずくとストレージからルグドに見えないように6万ほど『金結晶』に入れると前に出して会計を済ませる。
 ソウヤは「ありがとう」と小さくつぶやくとルグドは「そういや…」と言葉を放った。

「ソウヤよ、お前前巨大な盾を頼んだろ?」
「あぁ。そういえばな。できたのか?」
「あぁ。これだ…っと」

 ルグドはそういうと下に潜り込み「ぬぬぬ…!」と言葉を発しながら巨大な盾を取り出してきた。
 その盾はソウヤをギリギリ覆わないくらいまで大きく、そして長方形型になっており漆黒に染まっている。
 そして視線の妨げにならないように丁度目の所に小さい正方形の穴が開いていた。
 ソウヤはそれを受け取ると、あまりの重さに地面スレスレに腕を下げてしまう。

「重たいな…。これは……」

 ソウヤはそう呟きながらリストバンドを外すと、急に普通に持てるように変化した。
 そしてその盾のステータスを見てみようと顔を近づける。

-----------------------------------------------------------------------------------
獣の巨盾(固有名ザース) 質…良質 必要腕力…40
攻撃力+200 防御力+750 素早さ-40 魔法力±0
武器スキル…攻撃力+50 防御力+50
-----------------------------------------------------------------------------------

 それを見てソウヤは大きく驚いた。
 なにせ、あの巨剣『グラギフト』よりも重さが5ほどしかないが重たいし、しかも攻撃力も追加されているのだ、これを驚くなという方がおかしいだろう。

「…すごいな……」
「だろう?まぁ、次も楽しみにしてなよ」
「あ、あぁ」  

 ソウヤはそれになにか抜けたように答えて、ザースをアイテムストレージに収納して鍛冶屋を離れていったのだった。
 そして、少し歩いたところで、どこか行く当てがないかな…と思考回路を復活させてそんなことを考えながら歩いて行った。
 今日は休みということでルリと別行動で街を歩いていたのだ。

 そして…その久しぶりの出会いは突然に起きた。

 突然、ソウヤにしか聞こえないほどの少量の声で”あの”言葉が聞こえてきたのだ…。

「走れ雷光…『雷瞬速《ライデン・ストル》」

 その声が聞こえた瞬間、ソウヤも行動していた。
 三桁にも及ぶ鋼のピック―よく作ってもらっていた―の中の1つを抜き出して言葉を発する。

「貫け雷…『瞬速《ストル》』」

 とたんに目にも見えないほどの薄い雷がピックを纏い、他人の目に入らないようにピックを投げた。
 その次の瞬間、バスゥゥン!となにかが始める音がして数m先を中心に雷が飛び散る。

「はぁっ!!」

 その雷の中からある人影が剣を抜きこちらに向かってくる。
 それに対してソウヤはは出来るだけの速さで裏路地に飛び込みそのまま奥に走り出す。
 人影はソウヤを追うように裏路地に入っていく…そして、人気のないところに到達したソウヤは言葉を発する。

「剣となれ業火…『業火剣《サイガドル・ソーガ》』」

 とたんにソウヤの手のひらに業火の炎が現れて剣の形を取る。
 ソウヤはそれを向かってくる人影に向かい斬りつけんと『業火剣』を振り下ろす。
 ガキィィィィッ!と鉱物同士がぶつかり合う音が響き、その人影はバックステップを行って剣を鞘に戻す。
 ソウヤはその人影を見てふぅ…とため息をついてその人影に声をかける。

「人が悪いな、俺はあんまり目立ちたくないんだよ…”エレン”」
「気付かれた…か。久しぶりだな、ソウヤ、いや…『均等破壊(バランスブレイカー)』?」

 裏路地に入った光に照らされて現れたのは、かつてソウヤと友となったエレンとその姿だった。
 ソウヤは久しぶりの綺麗な声に顔が和らぎエレンのもとへ向かい、そして真剣な顔に戻す。

「…どうしてここに?」
「魔族がここに現れて、それを退けたという人の調査だ…どうせお前だろう?」
「あぁ…まぁ、な」

 ソウヤはエレンの言葉にやれやれと手を振りながらエレンを見る。
 そのソウヤの動作を見たエレンは、1つ大きなため息をついてソウヤを見据えた。
 シーン…と裏路地の辺りは沈黙に包まれて、ソウヤとエレンは互いを静かに見据えている。

「…ソウヤ、お前城には――」
「もどらないよ」
 
 しばらくの間の沈黙の後に声を出したのはエレンだった。
 城に戻るという意見に即座に反対したソウヤをエレンは見て、もう一度大きくため息をつく。
 そしてソウヤは口を静かに開けた。

「…俺があの魔族を倒したとき、俺は意識を失った。それを介抱してくれたのが1人のグルフの女の人…ルリだったんだ。そのルリが住んでいた村は突然襲われてこの子の育ての親は死んだ」
「…だから、この子に恩返しのつもりで旅に連れて行っているのか?」
「それもあるし、何よりルリを放ってはおけないしな。強引だとは分かっている」

 それだけ言うと、ソウヤはスゥッと目を細めてなにか遠い目をする。
 そのソウヤをエレンは見ると、はぁっ…と何度目かのため息をついてソウヤに言葉を告げた。

「国からの私に向けての命令だ。”ソウヤが返ってこない場合、その護衛をしろ”とね」
「なっ!?おい、国の防衛は超手薄になるじゃないか」

 「それに関しては大丈夫だ」とエレンはニヤリと顔を歪めてそう告げる。
 それを聞いてソウヤは頭を抱えたくなる衝動が表れてその場でうずくまり唸ってしまう。
 しばらくの間そうしていて、そしてソウヤは小さくため息を1つ着くと再び立ち上がりエレンを見据える。

「…ライトか?」
「あぁ。あいつは二つ名は持ってはいないがそれとほぼ同等の知恵と魔力を持っている」
「分かったよ…。で、どうして俺だと気付いたんだ?」

 ソウヤは話に区切りをつけてから、前々から思っていたことをエレンに向けて静かに告げる。
 エレンは「勘…かな?」とうやむやな言葉を口から放つが、それはソウヤを怒らす…まさに火に油を入れるようなものだった。

「アホかエレン!?それで間違ってたら、どうする気だったんだよ!!」
「…謝罪かな?」
「アホ!!能力(スキル)は途中で止めることは出来んだろうがッ!」

 それに対してエレンは「あはは…」と乾いているが、それでも美しく感じられるような笑みを浮かべる。
 しかし、ソウヤはエレンの超絶的な美人の笑みなどはもう見慣れてしまったので、慌てることもなくエレンの頭を非常に弱くはたく。
 だが、ソウヤはそれだけでも普通の冒険者ならば吹っ飛ばされる力をその平手は帯びていた。
 それに気が付いたのかエレンは手に力を入れて受け止め、ソウヤに注意する。

「おい、ソウヤ。力が…ック…強いぞ…!」
「は?これでも非常に弱くしたつもりなんだが…」

 ソウヤはそれを疑問に持ちながら手を放して「すまん」と謝罪する。

 ―これでも非常に弱くしたつもり…というより前までエレンに向けていた力と同等の割合でしか力を込めてはいないんだが…。あ…そうか。

「俺、戦士だからか」

 ソウヤはそう思い直して、ふと今まで使っていなかった『月文字騎士(ルーンナイト)』というのをやってみようと思ったのだ。
 そうしてソウヤはステータスを呼び出してメインスキルを変えようと指を出したところでエレンに言葉を掛けられた。

「ん…?お前まだ戦士だったのか。お前今どれくらいだ熟練度」
「えっと…達神級だな」
「やはりお前はすごいな…。というよりなぜランクアップしないのだ?」

 それを聞かれたソウヤは苦笑いを浮かべる。
 ソウヤ自体、メインスキルの熟練度が達人級となった時点でランクアップできるのはもともと知っていた。
 しかし、ソウヤはまだ17歳で本当のランクアップできる年というのが早くて30代…遅くて一生以上かかることもある。
 いきなりランクアップなどしたらこれ以上にパワーアップしてもう手に負えなくなるのだ。
 そうまとめていたソウヤは苦い顔をしながら言葉を告げる。

「やっぱり目立ちたくないんだよね…」
「なるほどな」

 エレンがソウヤの理由に納得すると、ソウヤはため息をついてメインスキルを『月文字騎士』を装着する。
 その瞬間、ソウヤは自分の身体がひどく重たくのしかかるように感じた。
 それもそうだ、もともと達神級になったおかげで通常の3倍ほどアップしていたのだから、ひどく重たく感じられるのも仕方がない。

「グッ…身体が重たい。ずっと戦士付けっぱなしだったしなぁ…」
「お前は何を職にしたんだ?」
「ええと…多分特殊能りょ…じゃなくて特殊職(エキストラジョブ)で、名前が『月文字騎士』」

 それを聞いたエレンは顔を驚き半分、呆れ半分の表情に歪めさせて「ははは…」と乾いた声を出す。
 基本、特殊能力は1000人に1人いるかどうかの確率で、大体は1つしか習得できないものが多い。
 しかし、ソウヤはもう特殊能力なぞ数えるだけで恐れ多いほど大量に持っているので、エレンが乾いた声を出すのは仕方がなかった。
 すると、ソウヤはいきなり真剣な表情へ変化させると乾いた声を出していたエレンも真剣な表情へと変化させる。

「…俺は、明後日かそこらでこの大陸から()つ」
「どこの大陸へ向かうつもりだ…?」
「水の妖精…ウォルフの大陸…『シルス』へ向かう」

 エレンはその子飛べに対して「お前の護衛を任されているのだから付いて行くよ」とヤレヤレのポーズをしてそういう。
 ソウヤはそれにうなずくと、いきなり『月文字(ルーン)魔法』を書き始める。
 エレンの目の前に1つのきれいな円を書くと、中によくファンタジー系にありそうな魔法陣を描き始めた。
 その内容はソウヤにしかわからず、それには『我の願いをかなえよ さすれば汝に対価を授けよう 我の願い すなわち疑似』というものだ。
 そしてその月文字を円の中に書き終わると、真ん中に正三角形を2つ合わせたような図形を1つ描く。
 するとその魔法陣は赤く光り始めてエレンを包み込み始める。

「な…!」
「ジッとしてろ」

 驚くエレンに注意するソウヤ。
 そして、エレンは魔法陣に完全に包み込まれ、眩しい赤色が発行する。
 次の瞬間、そこには黄緑色のロングという髪をしたエレンがそこに立っていた。
 初めて会ったとき、エレンはひどく軽蔑させられておりその理由が分からなかったソウヤだったが、それは髪の毛の色のせいだったのだ。
 シルフはその髪の色の全ては黄緑色と定められていたのだが、エレンは昔の遺伝子なのかは不明だが黄緑色とはまた違う髪を持って生まれてきてしまった。
 そのせいで見るも美しい美貌も、聞き惚れるほどの美しい声も他人から見れば気持ち悪いものでしかなかったのだ。
 そして…それは1人の青年、ソウヤによって打ち消された。

「エレン、髪を触って色を確かめてみろ」
「ん…?あぁ」

 ソウヤがエレンにそう告げると、なにか嫌そうな顔をして自分の真横にある髪の毛を少し取ってジッと見つめる。
 数秒の間の沈黙…ソウヤはまさか失敗…?と焦ってしまうが、次の瞬間…。

「うぅ…うぅ……」

 エレンの方から聞こえる小さな…静かな泣き声によってソウヤの考えは見事に打ち砕かれた。
 エレンは泣いていた…あまりの嬉しさと感謝の気持ちに…。
 綺麗な笑みを浮かべながら泣くエレンの姿は…本人では失礼かもしれないがとても幻想的で…綺麗だった。
 その幻想的さはまるで天使を描いたようなもので、ソウヤ自身も見慣れたはずの笑顔に見惚れてしまう。
 そしてその時、ソウヤの目の前に小さな画面が現れてその文字をソウヤにさらした…その言葉は――

 ――エレンの二つ名に『美天使(ユナ・セルンス)』を追加しますか?――
 ――『美天使』の効果…魔法に光属性を付加が可能――

 というものだった。
 ソウヤはいきなり現れた画面に焦りを覚えるが、迷わずYESを選ぶ…すると、新たな画面が現れる。

 ――エレンの二つ名『瞬速雷(ランナボルト)』と『美天使』を合体させて――
 ――『雷電天使《ボルテット・セルンス》』に変化させてエレンに通知しますか?――
 ――『雷電天使』の効果…光雷魔法→光電魔法に変化 『光電使い』の職を獲得――

 それも迷わずソウヤはYESを押す。
 すると、いきなりエレンの泣き声が止み、段々と驚愕へ変化させていき…そしてソウヤを見た。
 ソウヤは黙ってそれにうなずくことで肯定する。
 エレンはそれを見てなにかを押す…そして、エレンは軽蔑の騎士ではなく美貌の天使に生まれ変わったのだった…。



 そして、ソウヤとエレン、ルリは2日後に『港街ポールト』を船に乗って後にした。 
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