グランドソード~巨剣使いの青年~
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第1章
2節―狂炎と静炎の円舞―
殲滅戦の果てに
「じゃあ、行ってくるよ」
あの会議から次の日の朝、首都の門前にソウヤ達は集まっていた。
「防具はそれで良かったのか?もっと適したものがあっただろう?」
心配そうに目尻を下げているライトが、馬の乗り心地を確認していたソウヤに尋ねる。
現在のソウヤは、軽く魔法に対する耐性も強いだけの服を着込んでいるだけだった。
その色も赤いシャツに黒い上着という、なんとも目立つ姿であり戦闘にあまり役に立たないことは確かである。
それを聞いて、ソウヤは苦笑いを浮かべた。
「心配ないさ。逆に鎧なんて着込むと動きづらくなるし、これくらいが丁度いい」
「お前は…いや、いい。何を言っても無駄そうだ」
エレンが声を張り上げようとして、唐突に諦めたように静かになる。
ただ、ソウヤに向けて右こぶしを突き出した。
「…生きて帰ってこい、ソウヤ」
「あぁ、任せろ。なんたって――」
突き出された拳に、ソウヤは自身の右手で突き合わせると屈託のない笑顔を見せる。
「――俺は、『均等破壊』なんだからな」
そんな冗談を言い、拙い操縦でソウヤは戦地に向かったのだった。
「らぁっ!」
広く薄暗い森の中、静かだったそこで唐突に爆風が巻き上がる。
それを起こしたのは他でもないソウヤ自身だった。
巨剣を振り上げ、向かってくる敵を薙ぎ払ったのである。
―これで、あと何体だ…!?
『軍勢の期』と思われる大量の魔物の集団を見つけたソウヤが、馬を首都へ走らせ巨剣片手に暴れだしたのが、約5分前のことだ。
最初は意気揚々と襲いかかってきた魔物も、さすがにソウヤの強さが身に染みてわかってきたのか、今ではまばらでしか襲いかかってこない。
―後は、ある程度の集団で…か。
「キェエエエエッ!」
頭上から甲高い声が響いたと思ったら、頭上には巨大なプテラノドンらしき魔物が数匹まとめて襲い掛かってくる。
それに合わせて、地上でソウヤを囲んでいた魔物も一斉に飛びかかった。
「めんどくさい――」
それに対して、ソウヤは自身を中心に巨剣を円状に振り回すことで周りの魔物を一掃し、すぐさま巨剣を手放すと上を向く。
凄まじい速度で、もう目と鼻の先にいるプテラノドン数匹に対しソウヤは、
「――んだよ!」
圧倒的な筋力に“肉体強化”を使い蹴り上げ、一気に吹き飛ばした。
中々見せない強者の隙に、これでもかと魔物は食らいつこうと飛びかかる。
それを見たソウヤは内心舌打ちをしながら地面に手を当て叫んだ。
「ファイ・グラディア!」
ソウヤを中心とした大爆発が発生し、特攻してくる魔物を吹き飛ばす。
魔物の攻撃が止んだ瞬間にソウヤは地面に落ちているグラギフトを回収し、肩に担いだ。
―敵、かなり多い…。大体これで4000は削れたと思うんだけど…。
しかしそれでもまだ6000はいる。
その現実にソウヤは表情を苦しくせずにはいられない。
よくアニメや漫画では主人公や師匠が大量の敵と対峙し圧倒的な無双を行うが、それはあくまでも創作物の中での話だ。
ソウヤも大分無双はしているが、状況は一向に良くならず逆に悪くなる一方である。
あくまでも、現実の戦いの基本は“質より量”なのだ。
―このままだと、消耗しきってやられる…よな。
だがソウヤは正直あと6000の魔物の集団を蹴散らせる自信がある。
それでも“殺られる”と判断しているのは、この大量の雑魚戦の後に――
「――ッ!!」
ソウヤはスキルの“危険察知”の警報が鳴りまくった瞬間に、その場から大げさすぎるほどに飛び上がり距離を取った。
次の瞬間、巻き起こるのは灼熱の業火の嵐。
敵味方関係なく全て、骨の髄まで焼き尽くす炎で周りが焼き尽くされる。
「あら、珍しいわね。死角からの攻撃で完全に避けられるなんて」
「でやがった、な…!」
――この大量の雑魚戦の後に、ボスが現れるからだった。
妖艶な服装を身に纏った“身長7m以上”の悪魔の翼を生やした女性は嗤う。
その両手に、溶岩をも超える業火を宿しながら。
「シュリード…!」
「あら、私の名前を知ってるの?なら、早いわね」
妖艶な美女はそう言ってクツクツと嗤うとその巨大な胸を強調するように、腕を組むと――
「私は、上級魔族の一人。『業火の妖女』のシュリード。よろしくね、非凡な妖精さん?」
――空からさも当然化のように業火を生み出し、次々にソウヤへ発射する。
それを見たソウヤは、手に持つ巨剣でその業火の嵐を吹き飛ばすと同時にシュリードの元へ吹き飛んだ。
飛び出した次の瞬間には、先ほどまでソウヤがいた場所は10個もの業火で焼き尽くされガラス状になっている。
―流石フルレイドでもほぼ壊滅状態にまで陥れられた、αテストのボス…!
『軍勢の期』には、3ヶ月に1回…つまり3回に1回『軍勢の期』にプラスしてボスが追加される。
ボスを倒せば問答無用に『軍勢の期』が終了する代わりに、そのボスがすさまじく強い。
αテスターの話によると、ギリギリ3人の時に倒せたらしいから、凄まじさがよくわかる。
「らぁっ…!」
ソウヤは巨剣のリーチギリギリで振り上げると、全力の一振りをシュリードへ振るう。
それを見たシュリードはそれに驚き――
「凄いけれど、甘いわね」
――唐突にソウヤは何かに吹き飛ばされた。
「がっ」
地面を何度も削りながら失速するソウヤに、さらに追加で業火がこれでもかと襲い掛かる。
―避けられ…ねぇ!
咄嗟にソウヤは巨剣を盾とすると、業火に直撃した。
連続で爆発が起こり、周り一帯が焼け野原となって周りにいた魔物が一瞬にして全滅する。
「ぐ…うぅ……!」
それでも、ソウヤはまだ生きていた。
「あら、耐えきったの。貴方、本当に妖精?」
「あいにく、そこらの妖精とは違うんだよ…!」
身体がボロボロになりながらも、ソウヤは何とか立ち上がると自身に回復をかける。
微弱ながらHPが回復すると巨剣を両手で構えた。
―ここまでやるのか、シュリードは…!
ソウヤが突撃することも見越して、あの業火の球をもう一つ残していたのだろう。
こんなことをしでかす相手でも『軍勢の期』最弱のボスなのだから笑えない。
ソウヤは巨剣を後ろに構えると、突撃する構えを見せる。
―普通にやっても勝ち目がない。なら、一発勝負を決めるしかない…!
「あら、一発勝負でも決める気かしら?ふふ、いいわ乗ってあげる!」
シュリードは、ソウヤの構え1つで全てを察すると両手に今までには無いほどの魔力を集めていく。
そして生み出されたのは片方に巨大な竜巻、もう片方にこの世の地獄にも思える圧倒的な熱量を持つ業火。
単体でも圧倒的な火力があるであろうそれを、シュリードは“くっつけて”みせた。
妖艶に嗤う美女は、その魔法の完成を高らかに叫ぶ。
「燃え盛りなさい業火!『極熱業火』!」
あまりにも圧倒的な熱量の竜巻に、ソウヤは挫けそうになる。
だが、止まることは許されない。
――あの場所を、護るために。
「斬り燃えろ地獄炎!『地獄炎剣』!!」
ソウヤが生み出したのは、地獄の炎。
燃えぬものはなく、決して消えもしない。
ただ、永久に全てを焼き尽くす炎の剣。
「…走れ電光、『雷瞬速』!」
次に纏うは電光。
圧倒的な速度を持つ電撃の如く、ソウヤはシュリード目掛けて飛び出す。
「燃え咲け!」
「燃え斬れ!」
目の前にあるは極熱の業火。
その手にあるは地獄の炎剣。
種類は違えど、それは両者にとって最強の炎。
巨大なエネルギー同士が今、ぶつかる。
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