グランドソード~巨剣使いの青年~
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第1章
2節―狂炎と静炎の円舞―
人里へ
湖に飛び込んだソウヤが次の瞬間目に移りこんだのは、どこかの広場だった。
石作りの通路に、レンガや石で造られた家や小さな商店が多く並んでいる。
そこを歩く人はシルフが圧倒的に多く、チラホラと他の種族が見えるだけだった。
「誰だ、あいつ…?」
「いきなり現れたよな?」
「やだ、みっともない姿」
「衛兵に通報しようぜ」
その人々はいきなり現れたソウヤに驚き、怪奇の目で見る。
当のソウヤは内心で呆れていた。
―ワープって、町のど真ん中に転移させんなよ…。
それは驚くのは当然である。
ゲームならばまだ理解されただろうが、現実ならば怪奇の目で見られても仕方ない。
はぁっ…とソウヤは小さくため息をつくと、今の状況を少しでも変えるために周りの人に声をかけてみることにする。
「あの、すみません。ここどこですか?」
「――ッ…!」
意を決してソウヤが声を上げた瞬間、人々はそそくさと知らぬふりをし始めた。
気になるが、関係を持ちたくない…という心情が丸見えでソウヤはため息をつく。
さてどうしたもんかとソウヤが頭をポリポリとしていると、急に小さなどよめきと共に人々が2つに分かれる。
「騎士様が来てくれたぞ!」
その声をソウヤは拾い、人々が分かれた場所を見て…言葉を失う。
現れたのは5人ほどの騎士たちだった。
その中でも特に目を引いたのは、4人の騎士を引き連れ、半甲冑に身を包んでいる女騎士。
澄んだ青い髪を腰まで伸ばしており、その顔は少しキツメながらもバランス良く整えられている。
少なくともハリウッドでスターを張れるほどの圧倒的な美人騎士の登場に、ソウヤは言葉を失っていたのだ。
その女騎士の少し細長く、それでいて海のように煌めく瞳がソウヤを捉え、小さな唇が開き――
「君、立てるか?」
――甲冑に着込まれた腕をソウヤに差し伸ばす。
正直、いきなり剣を抜かれてもおかしくないと自負していたソウヤは、その対応に驚愕する。
「え、と…はい」
甲冑越しとはいえ、ハリウッドレベルの美人に触れられることの気恥ずかしさで顔を赤らめながらもソウヤはその手をとった。
次の瞬間、女性とは思えないほどの力で手を引かれ気が付けばソウヤは地面に立っていることに気が付く。
そして、立ち上がったソウヤは気付く。
人々がざわついている理由が、騎士が来たことによる喜びの声だけでないことが。
「またあの女騎士か」
「王もあのような容姿をした者を騎士にするとは、酔狂なことをなさる」
―…ん?
この異世界の常識の一切も知らないソウヤは、その周りの発現に頭を傾けた。
どうして陰口を叩かれるのか…と。
そして、すぐにその原因をソウヤは掴んだ。
―“色”が違うのか、この人だけ。
周りにいるシルフの人々は全員黄緑色の髪と瞳をしているが、女騎士だけ“青い”。
虐げられる理由がわかったソウヤは、げんなりとする。
―えぇ…それだけで差別すんのかぁ。
ソウヤはため息をつくと、自身の身体を持ち上げてくれた女騎士に向けて笑顔を見せた。
「ありがとうございます、騎士様」
「あ、あぁ。気にするな」
少し困惑した表情を見せた女騎士だったが、すぐに顔を少し和らげ言葉を返してくれる。
それを見たソウヤは、内心で安堵した。
―やっぱり、いい人じゃないか。
「すみません。ここがどことか、説明してもらって良いですか?」
「あぁ、構わない。が、それは道中でだ」
そういうと、女騎士は背中にあるマントを翻し騎士たちに向けてうなずく。
すると騎士たちは完璧な動きでソウヤの四方を囲んだ。
「まず、我らの王に会ってもらいたいが、大丈夫だろうか」
「…はい。大丈夫です」
女騎士は「そうか」と頷くと、人々の道を歩き出す。
まるで、周りから差別されるのが当然かのように。
それが耐えきれなくて、思わずソウヤは叫ぶ。
「あの!」
「ん?なんだ」
「名前、教えてください!」
その言葉を聞いた周りの人々は絶句し、女騎士も一瞬驚愕したような表情を見せ――
「私はエレン。エレンという」
――とても見惚れる笑顔をソウヤに見せた。
現在、ソウヤは女騎士…もといエレンに連れられながら説明を受けていた。
「…つまり、ここはエレースの首都ってことですか?」
「あぁ、ソウヤ殿は大体察していたようだったがな」
この世界のもとになったと思われる“FTW”の世界では、主に種族と同じだけ…つまり6つの大陸があり、そこに各種族の首都が存在していた。
エレースとは6つの大陸の中での、シルフの大陸のことである。
「えと、その…聞きにくいんですけど、エレンさんも――」
「――シルフだ」
言葉を遮るように、エレンはソウヤの言いかけた言葉を続けた。
思わず息が詰まってしまうソウヤ。
「シルフなのに、青い髪と目…おかしな話だろう?」
「いえ、俺は…気になりませんよ」
それはソウヤの本心からの言葉だった。
エレンはそれを聞くと、しばらく黙り…ソウヤに問う。
「ソウヤ殿は、“異世界人”か?」
“異世界人”と、そう聞いた瞬間ソウヤは凄まじい違和感に囚われた。
ソウヤ側からしてみたら、この世界こそ“異なる”ものであったからである。
―でも、そうか…。異世界人の人からしてみれば俺らのほうが異端か…。
内心でそう判断すると、ソウヤは頷いた。
「はい、そうですよ。エレンさんは?」
「こちら側だ」
まぁ、ソウヤもエレンが自身のことを“異世界人”と呼んだので、大体察せることであったが。
話すことがなくなったソウヤは不意にエレンやほかの騎士の背中にある羽を視界に入れる。
他の種族よりも2回りは大きい羽。
それを見たソウヤはとあることを思い出し、世界の情勢をある程度しっているであろうエレンに聞くことにした。
「シルフの“異世界人”は、あんまりいなかったんですよね?」
「ん?あぁ…確かにそうだな、ほかの種族に比べて“異世界人”の数はかなり少ないと報告であった」
やっぱり…と、ソウヤは思う。
風魔法が得意と言われている“風の妖精”は、αテストではかなりの不評を浴びていた。
「魔法がエルフに比べて弱い」、「詠唱時間が長すぎ」、「撃たれ弱い」等々の理由があったからである。
だが、“完全成長制”を確立できた人がこんなところで凹凸をつけるはずがないと、ソウヤは思っていた。
だから、ソウヤは一番の違和感である“羽”についてエレンに問う。
「シルフってほかの種族と違って羽が大きいですよね?何か理由が…?」
「あぁ、そういえば“異世界人”は元々全く違う種族だったらしいからな、知らないのも仕方がない」
エレンはそう呟き勝手に納得すると、自身の大きな羽を指す。
「シルフはほかの種族よりも羽が大きく、また風を扱うのが得意な人種でな。それにより“空を飛ぶこと”が出来るんだ」
「……えっ」
他の種族を超える圧倒的なアドバンテージに、ソウヤは絶句する。
“空を飛べる”ということは空中で敵を相手にできるということで、それは遠距離から攻撃してしまえば確実に勝てるということだ。
だが、それを言ったエレンは「だが」と続ける。
「飛ぶのは常にMPを持っていかれるし、他の種族も風魔法をある程度習得したら出来るようになるからな、あまり凄いというわけでもないさ…と、着いたな」
エレンの言葉で、すっかり周りのことを放っていたソウヤは自分が黄金で飾られた巨大な扉の前にいることに気が付いた。
3m以上はある巨大な扉にソウヤが驚いていると、エレンが扉の前で警護していた兵士たちに声をかける。
「エレース近衛騎士団団長のエレン。只今帰還した、扉を開けよ」
「「はっ!」」
見る限りかなり重そうな扉が兵士二人掛かりで開かれる。
その扉の先には、見るだけで目が痛くなるほどの黄金で装飾された巨大な部屋が存在していた。
「ソウヤ殿、着いてきてくれ」
「は、はい!」
エレンはソウヤにそういうと、顔をまっすぐ向けたまま完璧な歩き方で部屋に入っていく。
慌ててそれに着いてくと、中には多くの人がいるのをソウヤは感じた。
―貴族、騎士…それにあれは……。
部屋の最奥の中心で座る人影。
頭に黄金と宝石で彩られた王冠を被り、圧倒的な巨躯を赤いマントで覆い隠している男性がそこに鎮座していた。
―あの人、強い…。
幾度となく強者と戦い続けてきたソウヤは、その男性が他を圧倒する強さを持つことを一目で感じる。
騎士団長であるエレンと同等かそれ以上の強さを誇っているであろうと、ソウヤの本能が叫んでいた。
「エレース近衛騎士団団長エレン、只今帰還してございます、王」
「――――」
エレンが礼儀正しく王に挨拶を交わすが、当の王はそれに無言でうなずくとすぐさま視線をソウヤに向ける。
その瞬間感じる圧倒的な圧力に、ソウヤは身を硬直させた。
―この人…人の警戒心を煽るのが上手いッ…。
その向けられる圧力はあまり大したことではないが、相手が最も気を抜いた瞬間を狙って圧力をかけたのである。
実力はこちらが上でも、経験があちらが圧倒的に上なことを今更ながらソウヤは思い知った。
「エレンよ、そ奴が“瞬死の森”を終わらせた者と報告したのは、あながち間違いではないようじゃな」
王はそういうと、ソウヤに向ける圧力を弱める。
それを聞いたエレンは王に頭を下げ、「はっ、ありがたく思います」と言った。
―…なるほど。
話を聞いた限りの情報で、現在どんな状況か大体ソウヤは納得する。
―“瞬死の森”は今まで一度も攻略できなかったダンジョンだったんだ。で、あの場所に俺が転移したことでそこを攻略したと思われたから、真偽を確かめようと…。
ソウヤはステータスの称号に“瞬死の森の主を倒したもの”とあったので、確かにソウヤは“瞬死の森”を踏破したことになる。
王はもう一度ソウヤを見ると、目を細め次々に問う。
「おぬしは…“異世界人”かの?」
「…はい、そうです」
「名はなんという?」
「ソウヤと」
王の質問に簡潔にこたえていくソウヤ。
しかし、名前を聞いた途端動き出した人影があった。
「王、発言を」
「ライトか。うむ、よかろう」
そう言って前に出るのは、魔法使い風の恰好をした男性。
身長はソウヤと同じぐらいで、その顔はフードで大半が隠れていながらも優しげで整った顔なのがわかる。
「えっと、君の名はソウヤ…それであっているね?」
「はい、そうです」
「じゃあ君の本名は――」
男性は唇を少し嬉しげに歪めると、懐から紙とペンを取り出し――
「――ムラトソウヤ…だよね?」
――“斑斗蒼也”と書いた紙をソウヤに見せつけた。
「……は?」
「この声を聞いても思い出せないかい?蒼也」
男性はそう言うと、頭にかぶったフードを剥ぎ取り満面の笑みを浮かべて見せる。
その顔を見てソウヤはため息をついた。
「…お前だったのか、赤崎頼妬」
「あぁ、久しぶりだね。斑斗蒼也」
蒼也が中学生の頃、同級生でかなりチヤホヤされていた存在がいた。
それが、赤崎頼妬。
頼妬は蒼也よりもどんな場面でも優れていた。
頭だけだった蒼也と違い、頭脳明晰、運動神経抜群に努力家であったのである。
更にイケメンで性格もかなり良好と来たものだから蒼也と比べ物にならず、だが頭脳だけは並んでいたため良く陰口の種だったことを蒼也は覚えている。
そんなことがあってか、蒼也は頼妬のことを心のどこかで敵視していた。
“なぜ、ここまで違うのか”と。
そんな奴が、ソウヤの目の前にいた。
「頼妬…いや、ここではライトか。…なんでここにいる?」
「やだなぁ蒼…いや、ソウヤ。僕がゲーマーなのは皆、知ってたじゃないか。有名になってたゲームを買うのは当然だろう?」
嘘だ、とソウヤはすぐに思った。
―確かに頼妬はゲーマーだった。だけど、確実にゲームよりも現実を優先する奴でもあったのは、何よりも俺が知っている。
「懐かしの再会、というのもここらで一旦止めにしたらどうじゃ?ライトとソウヤよ」
そんなギスギスしたライトとソウヤの邂逅は、王のその一言で終了となる。
ライトが頭を下げ、元の居場所に戻ると王は仕切り直すように一つ咳をした。
「さて、お主が異世界人であることはライトとの話を見て大体察した。それを踏まえて、確認しようかの」
王はその巨躯の手で顎の長い白鬚を擦ると、目を細める。
「おぬしは、“瞬死の森”を踏破したのじゃな?」
「はい」
間をおかずに、ソウヤはその問いに即答する。
それを聞いた王は顔を安堵したかのように緩めた。
「なら良い。あそこは最近魔力を貯め込み過ぎての、魔物が溢れださないか不安だったのじゃよ」
元の世界で、このゲームの公式サイトの説明欄にそこら辺の説明もしてあったのをソウヤは思い出す。
―確か、魔物は貯め込み過ぎた空間にある魔力が原因で産み落とされ、魔力が多く存在するのは森や山などの地表に特徴のある場所。
そして、あまりに増えすぎた魔物はその居場所を離れ平原などで住まうようになり、最終的に街や城を襲う。
だが一度その森や山地に住まう主を倒すことでその場所の魔力がある程度減少し、しばらくの間安定するようになるのだ。
ステータス的に考えて、どう考えても“瞬死の森”の魔物はちょっとやそっとの強さでは勝てないことを重々ソウヤは把握していた。
だからこそ、“瞬死の森”の主であった巨大ザルを倒せたのは結果論だが良かったといえる。
―倒せて良かった…。
そう安堵するソウヤに、王は小さく笑い大きな手のひらを叩いて、音を出した。
「ある意味、この大陸の危機をたった一人で救ってくれたソウヤ殿に感謝の意として、しばらくの間食客として呼びたい。皆の者、よろしいかの!」
その王の言葉に異を発する者は誰もいない。
誰もが「仕方ないなぁ」と、呆れながらも笑顔でソウヤを拍手で向かい入れる。
「ソウヤ殿も、それでどうか?」
「…えぇ、お願いします」
この国の優しさに触れたソウヤは、そう言って微笑んだ。
その日、ソウヤは“異世界人”でさえ攻略のできなかった”瞬死の森”を踏破した者として、“二つ名”を得る。
『均等破壊』。
それが世界に18人しかいなかった二つ名持ちの、新たな二つ名だった。
なお、これを聞いてソウヤが頬を痙攣させライトが肩で笑っていたのは別の話。
後書き
―『均等破壊』― 二つ名
その名の通り、力が規格外過ぎて世界の均等を破壊してしまうものに授けられる二つ名。
能力…全ステータス×3
―瞬速雷― 二つ名
特殊能力『雷魔法』を扱えるものに与えられる二つ名。
能力…雷魔法威力×3
―『瞬雷槍』『結晶弾丸』、『守雷攻』、『雷瞬速』、『地獄炎剣』など―
こういう漢字の付いた魔法(技)は2つ以上魔法(技)を重ねたものか、希少魔法《ユニークスキル》ということを表している。
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