| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

魔弾の王と戦姫~獅子と黒竜の輪廻曲~

作者:gomachan
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第18話『亡霊の悪鬼~テナルディエの謀略』【アヴァン】

 
前書き
試験的に分割投稿してみます。
本編はまた調整次第投稿します。
短いですが、ご了承ください。 

 
夢――それは生命体が出でた瞬間、持ち合わせた最大の欲求だ。
自らの種の存続を求めて、生命は自らを維持するために行動し、繁殖し、抗争を繰り広げる。
国という大樹も一つの生命体である以上、それらの論理行動がすべて当てはまる。
『人』――『貨幣』――『土地』――『資産』――それらは全て『国』が生きていくためには欠かせない必要な栄養素だ。

ムオジネルがアニエスを襲ったのも、奴隷という名の『資産』を得て国が生命としての営みを継続させるために―――

どの国にせよ、より豊かな土地を求めて戦い、自らの後継者を守って戦い、それらは全て生命体がこの世に生まれ出でた時に刷り込まれた行動。
国によってこそ差異はあるものの、『夢』という幻想的衝動に突き動かされている点はブリューヌもジスタートも同じだ。
守るために――勝つために――
火を獲得し、鉄を溶かして槍を生み出し、やがて『銃』を作り出す時代となった今でも、フェリックス=アーロン=テナルディエはなおも求め続けていた。
もっと強く――強く――聖剣デュランダルを、竜具を超える獅子の力を――と。
それらは全て、数多の生命の種に対して勝ち残り、他者を圧倒したいがために。
鍛え上げた国力で小国を攻め滅ぼすこと。己の強さに酔うことは何よりも抗いがたいものだ。

国民国家革命軍『銀の逆星軍―シルヴリーティオ』

この地上にもはや天敵がいなくなったとしても、フェリックス=アーロン=テナルディエはさらなる高みを目指した。
それは、黒騎士を超える武勇を――
それは、戦姫を超える竜の技を――
それは、勇者の全存在を肯定する魔王の強さを求めることに、彼はずっと飢えていた。
国は大樹にして丘。しかしその案内役である『先導者(アンリミテッド)』次第では、大樹に『捻じれ』を見せて思いがけない場所へ人を着地させる。
増えすぎた人口は大地を腐らせ、万物の生滅においやろうと自覚していても、なお『夢』を追いかけることをやめない。
『魔』を降したあと長い文明創造の期間を終え、竜さえも駆逐できる今となっては『人』を脅かす天敵など無いに等しい。天敵を失った人類は、『国』を互いの敵と認識し、連綿へと続く戦火は涙と悲しみを呼び求めた。
それが……『強欲』の果てに『夢』みた『人』の末路なのだろうか?
それとも……たどり着いた『丘』の結末がこうなのか?
弱肉強食もまた、避けられない摂理のひとつであった。人は己こそ優れた種だと信じ、残すことを望む。結局、それは生命体が刷り込まれた本能であるが、花を摘み取るような感覚で生命を刈り取ることが、進化の摂理であるとは言いにくい。人はすぐさま本来の姿、あるべき姿から外れてしまう。

『人を超越した力』――――

人と機械のはざまで揺れ動く、獅子王凱のように――
人と魔物のはざまで揺れ動く、ガヌロンのように――

この両者は『人ならざるもの』との戦いにおいて、非力な者にとってはまさに救世主……『勇者』だった。
『勇者』という時代の黒船のごとき存在は、外交や戦争といったグローバル化で疲弊した『国』にとって、自分たちが救われるための『手段』だったのだ。

太古の時代においては、機界文明から人類を守るために――
当時の時代においては、魔物眷属から人類を守るために――

そして皮肉にも、凱とガヌロンの肉体は、数多の戦いの末、己が肉体に数奇な機転を強いた。

彼自身が倒し続けていたゾンダーと同質の存在……『半人半機』として。
ガヌロンもまた、食らい続けてきた故に成り果てた……『半人半魔』として。

敵を喰らい続けてきた両者は、敵と同じ存在になるという、皮肉とも矛盾ともとれる丘に辿り着いた。

しょせん、人は『喰らう』ことを捨てることはできない。
文明の進化が悪であると決めつけて、古来『人』が伝統的にしてきたように、弱肉強食という自然力学に回帰することを主張する者たちもいた。
だが、一つの紡ぐ未来のために、その道を選ぶしかないとしたら、どれほどの生命が失われてしまうのだろう?
先進の栄華な文明は、古来の伝統方法では賄いきれない。またすべての技術を棄却するというのなら――――
『敵国』に――
『竜』に――
『自然災害』に――
そして……『魔物』にどうやって抗うことができるのだろう?
弱者という礎で成り立ったそれらを、その犠牲をやむなしと切り捨てることが、果たして出来るだろうか?

――目に映るすべてを救う――それ自体が、間違っているのだろうか?

目に映る人が泣き、叫び、苦しみ、愛する伴侶が地に倒れるのを、なんとしても救いたい。それ自体が、間違っているのだろうか?
より良き文明を維持し、遺産を守り続けると願ったとしても、どれが良きもので、どれが悪しきものか、判断をつけることは難しい。
ブリューヌの維新改革――
ただ生きたいと流星に願う今の時代となっては、そのような善悪の概念など、既に失っているかもしれない。
原種大戦――――ノヴァクラッシュ――――代理契約戦争――――幾度となく戦火を広げていこうとも、結局人は刷り込まれた本能から逃れることはできない。

夢――パンドラの箱――
それは無限の希望であり、無数の絶望でさえあった。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧