転生してもいいんじゃないかな
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転生できないの?
前書き
本作品はシステムを見るための練習投稿です。
気に入って頂けたら幸いです。
俺、松岡正太郎は昨日15歳の誕生日を迎えたところだ。
心残りは色々あるが、どうやら死んだらしい。
らしいっていうのは自覚がないだけで幽霊やってるから。
確か突然目眩がして自転車から転げ落ちたところまでは覚えてる。
背中に自分の体が転がってて、死んだのかなって思ったら空が浮いた。
で、気がついたら雲の上? みたいなところに居て――、
【第8位 天界――○×▽□】
看板みたいなのが立っててちょっと受ける。
まるでエレベーターみたいにどんどん高く昇っていったらこんなところまで来たわけで。
第8位ってその下はどうなってんのやら。
『ようこそ、迷える日本人の魂』
うん、向かいから声がする。
300メートル先くらいかな? 小さな人影が見えるけど顔はわからない。
女性みたいだ。
「あの、俺死んじゃったみたいなんですけど」
『はい、存じております』
なんだ? 個人面談? たぶん女神様か何かなんだろうか。
それにしても遠いな!
「それで俺はこれから何をすれば?」
『ご自由に。第8位界まで来られる方には無限の猶予と条件付きの転生が認められていますから』
「下の階は何があるんですか?」
『審判です。悪しき行いをした者は悪しき行いをされる側に回り、許しを請います。たくさんの人々を殺めた者は例え直接的でなくともその者を無限の牢獄へと導く審判です』
「地獄じゃないっすか……」
『違います。この世界は魂の内側。見えている世界は1人1人異なります。苦しい世界が地獄なのではなく、苦しみは内から行われるためあなたの知る地獄が他人に訪れる地獄ではありません。ただ……』
叫び声が雲の穴から聞こえてくる。
身の毛もよだつような絶叫だった。
『このように人々は叫び、己の許しに恐怖しています。内なる世界の安寧を忘れて重い世界に行くと人はこのように許しに対して恐怖する者となります』
意味がわからん。で?
「俺はここで何するんですか?」
『それを決めるのはあなた自身です。過去を振り返りあなたに足りない経験をここから選び取ることが出来ます』
「俺、死ぬ前は凄い不細工で彼女もできなくて、勉強も出来なかったんだよ。その辺変えたいんだけど」
『許しを行えない魂は再び苦難を学びます。許しこそが苦難からの解放であると気がつくまで永遠に』
……?
「変えて転生できますか?」
『何をですか?』
「もっと勉強が出来て彼女が出来るくらいのイケメン」
『顔が良ければ彼女が出来ると?』
「え、まあ……」
普通そうだろう。
『1つ決定的なことがありますので、お教えします――魂はより多くの経験を得るために特殊な形を持つことがあります』
それが不細工。
『すなわち、その造形はあなたが既に選んだものなのです』
「ええ、それじゃあ……俺は不細工のままってこと?」
『変更はできません。それを変更するときはあなたがその形で得られるであろう経験を得たときです』
なるほど、だから世の中には同じ顔の人間が3人いると謂われるのか。
「つまりまだその経験は得ていないと?」
『はい、その経験を得たときあなたは第9位界へ昇ります。地球という星での学びも終わります』
なんだか壮大な話だなあ。
「じゃあ美少女がいいです」
『あの、話を聞いていましたか……?』
「イケメンが駄目なら美少女でいいですよ、マジでモテなかったんで。女の子になれば少しは気が紛れそうですし」
『最近の美女野郎にも困りものですね……これでは精神的な性別が存在しない過酷が訪れてしまいます』
「出来るんですか?」
『出来ますよ、あなたが決めたのは男の容姿ですし、男の経験を得るという目的だけですから。ですが、それは認められません』
は?
『男でなければ得られないことをあなたは経験しなくてはならないのです。女になると経験の受け取り方が変わってしまうので』
「意味わかんないから早く美少女にしてください」
『魂の女体化が始まっているので手遅れになる前に仮の――』
視界が暗転した。
□□□
後頭部にずきんと痛みが走り俺は目を見開く。
「大丈夫? グレン」
見知らぬ女の子……青い空。高い木。
腕も脚も無かったはずなのに今の俺には見慣れない手足が着いている。
「お、おお?」
自分の手足に驚いていると女の子は綺麗な腕を伸ばして俺を支えてくれた。
「木から落ちたときはびっくりしたんだよ? どこか痛くない? 怪我は?」
よく見るとなかなか綺麗な子だ。
淡いブロンズの髪に栗色の瞳。
ちょっと気の弱そうな顔つきだけど、充分ストライクゾーンだ。
「いや、全然大丈夫」
「全然大丈夫? 変な言葉」
さらさらと流れるような声のトーン。年の割には凄く落ち着いた声色だ。
そして薄い肩には余るワンピースは時折俺の視界に少女の胸が……小っさ。
「なに?」
「ん、いや……こ、そうだ、ここどこ?」
「何言ってるの? ワングおじさんの農園だよ、本当に痛いところ無い? 無理してるよね?」
少女の名前も知らないし、ワングおじさんってなんだ? 農園……確かに樹木は沢山生えている。
でもこれ……高さ何十メートルあるわけ……?
見上げてからまた頭がずきんと痛む。
「今日は私が2人分働くから、そこで休んでて」
木の根元に座らされると少女が離れていく。
よく見たら裸足じゃん……。
「おお……」
最年少ロッククライマーもかくやの動きだ。
壁のような木の幹をすいすいと上っていく。
そいで何かメロンみたいなものをぼとぼとと落としてきた。
いや、ボーリングか? ずしんと地面に半球体をめり込ませるそれは当たれば即死を思わせる。
第一固すぎるだろう。
最後に少女がするすると降りてきて俺のところに戻ってきた。
「帰ろう」
帰るんだ。
ボーリング木の実を籠に入れるけど、思ったより重くない。
まあ、そんなボーリングみたいに重かったら籠が壊れるよね。
見たところこの籠、植物で編まれてるし。
「持てる? 大丈夫?」
「うん、全然大丈夫」
あ、ちょっと笑った。
「グレン、ちょっと変わったね。いつも嫌がってたのに」
「あー……」
そうか、俺は今松岡正太郎ですらないのか。
「私も半分持つね」
よろよろと籠を背負って歩き出す少女。
いいのかな、何か重そうだけど。
下手に喋ると俺に記憶がないことがバレそうだし始終無言で歩く。
ただ少女の背中を追うだけだ。
かれこれ1時間は歩いたかもしれない。
そう思っていると何やら人間の丸太みたいな脚が見えた。
『おおー、帰ったか!』
2m、3m、いやそれ以上あるか!?
直立したそいつは木の半分くらいの背丈があった。
人間、同じ人間かこれ?
「ワングおじさん、今日はグレンが木から落ちた」
『おお、そいつは大変だ。どれ、見せて見ろ』
ぐいっと顔が近づくと俺の体くらい大きい。
うへえ、キモい。
「どう?」
『ううん、よくわかんねえが前のグレンとは少し印象が違うな。お前と2人仲良く歩いてるところなんて初めて見たしな』
「グレンは私が嫌いだから……」
え、そうなの?
横目で盗み見られるが何か悪いことしたみたいで居心地悪い。
『まるでグレンじゃねえ見てえだ! まあ、細けえことはどうでもいいか! お前らもう帰れ。グレンはともかくシモが働けないのは困るしな』
帰る? まだ帰るのか?
「いこ、グレン」
□□□
何処に行くんだろう。
手を引かれてはいるが、正直そろそろバレると思う。
自分から言った方がいいだろう。
さっきから周りを見てるけど地球ですらない雰囲気だし。
「あの、さ……俺、頭を打ってから何にも思い出せないんだよね」
言った。言ってやったぞ!
「わかってる。グレンは私にそんなに優しくないから、だから心配」
「心配してくれるのか」
グレンとこのシモという子の関係はどういうものなんだろう。
もしかして、シモって子はグレンのことが好きだったのかな。
「着いた。ここで待ってて」
家……マジかよこれ。
丸太を横に倒してそのまま中をくり抜いて作ったらこんな家が出来るだろう。
けどこれ……木の大きさ半端ねえ。
横にも似たような家が木の長さ分だけ連なってるし。
どんどんと中からけたたましい音が聞こえる。
「グレン! 大丈夫だったかい!?」
「ああ、シモに任せておくんじゃ無かったよ。もっと他にも優秀なジオンがいたはず」
両親らしき人たちに抱きしめられるが他人という気しかしない。当たり前か。
遅れてシモが出てくると衣服は乱れて打たれた後があった。
「ちょっ、大丈夫?」
虐待じゃんか。
「大丈夫……」
「シモに酷いことしないでください」
「何言ってるんだグレン……そうか、頭を打って記憶が……」
母親は目元を抑えている。
なんだこの両親。
「グレン、そこのシモはジオン族と云ってな、我々の世界に唐突にやってきた人間で奴隷なんだ」
「奴隷……」
「何か思い出したか?」
奴隷なんてあるのかこの世界は。
「何も。それより、シモはこれ以上傷つけないで欲しいです」
「何を他人行儀な……シモはお前の監督責任を怠ったんだ、廃棄する。もっと優秀な奴隷を買ってくるから待ってなさい」
母親とアイコンタクトした父親はその脚でどこかへ行ってしまった。
「さ、グレン。家に入りなさい、お腹が空いたでしょう」
この体からするにグレンとシモと俺は同い年くらいか。
リアルの俺ならこんなことはしないけどシモの手を取ってみる。
柔らかい女の子の手を引くとシモは抵抗した。
「どうした?」
「私は廃棄された。もう私の家じゃ無い」
シモは肩で息をしながら震える声で必死に感情を抑え込んでいるようだった。
本当は泣きたいんだろう。俺だって突然廃棄とかそんな理不尽を受けたら泣く。
「そんなのいいから早くお入りなさい」
「よくない! ――ほら、行くぞ」
こんなのただの親子喧嘩だと思えばいい。
振り払われた俺の手はシモに明確に拒否されていた。
「グレン、不細工だし。せいせいした」
「え゛」
目が点とはこのことだ。
まだ顔を見ていないが、俺は不細工らしい。
マジか、あの女神……。
「分かった、じゃあ好きにすればいい。けど、俺はお前を廃棄してないからな」
これで俺がシモを捨てたことにはならないはずだ。
俺が嫌いで何処か行くならそれはそれでいいしな……。
家に戻ると窓の外にシモはまだ立っていた。
可哀想に帰る場所なんかどこにもないに違いない。
「さあ、グレン。あなたの好きなハコ肉のステーキよ」
箱肉? 正四面体ステーキってこと?
出てきたのは緑色のステーキだった。
なにこの細胞核を取り出したようなステーキ。
「い、いただきます……」
「……」
母親に変なため息を吐かれたが、ステーキを木のナイフで切り分けて食べて驚く。
なんだか濃厚な野菜のうまみがじわっと口一杯に広がる。
「おいしい」
「あら、やっぱり好みは変わってないのね!」
いや、今好きになっただけだよ多分。
あっという間に平らげてよくわからないジュースを飲んでいるとふとシモが気になった。
「あの子が気になるの?」
「え、うん」
こういうところは違っていても母親か。
「グレンはそういう心の優しい子じゃなかったと思ったけれど、これもシモのおかげなのかしらね」
なんという親の評価だ。
心の優しくない子扱いか。
「いいわ、面倒見てあげなさい」
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