魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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第4章:日常と非日常
第107話「海水浴・後」
前書き
前回に引き続き海水浴。
=優輝side=
「ふぁー!きっもちいいー!」
「はしゃぎすぎるなよー。」
「だいじょーぶだいじょーぶ!」
暑さを吹き飛ばすように海に飛び込んではしゃぐアリシアに、一応忠告しておく。
「冷たくて気持ちいいですー。」
「そうだねー。」
リインと葵は一緒になって海の冷たさを堪能している。
海の良い所は涼も取れる事だよな。
「優輝君。」
「ん?...っと。」
「折角持ってきたみたいだし、やってみる?」
司に投げ渡されたのは、赤・青・黄と白の縞模様のシンプルなビーチボール。
椿の水着と共に見つかったものだ。
ただ、戦闘に使えるように霊力が込められていたので複製したのを持ってきている。
...ビーチボールを武器に使う事を想定してた当時の陰陽師って...。
「そうだな。偶にはこんな単純な遊びもやるべきか。」
「...私もやるわ。」
奏も混ざるようで、三人で簡単なビーチバレーを海の浅瀬でする。
...と言っても、キャッチボールのように互いに落とさないようにするだけだ。
「行くぞ。そーれ!」
「よっ...と。」
「っ....!」
若干海に足を取られながらも、三人でボールを飛ばし合う。
リインにはアリサとすずかもついているし、葵もリインだけじゃなくて椿とも一緒にはしゃぐようになったし、本当に平和だと思えるような感じだった。
「....げっ!?」
「アリサ?なんでそんな女子らしくない声を...あー。」
今思った事がフラグになったのか、振り向けば奴がいた。
...と言うか、久しぶりに見たな―――
「―――王牙...。」
「奇遇だな皆!」
最近、見てなかったのにまた絡むようになったのか...。
「何が奇遇よ!あんたまさかサーチャーを付けてたんじゃないでしょうね!?」
「ははは、そんな訳ないじゃないか。」
...平和だからって気を抜きすぎたか。王牙の接近に気づけなかったとは。
「それよりも、モブ野郎!」
「名前か別の二人称にしろ。誰を呼んだかは目線でわかるが。」
こちらに矛先が向いたので、とりあえずどうでもいいツッコミをしながら返事する。
「また椿や葵、司に付き纏ってやがるな!いい加減嫌がってる事を理解しやがれ!」
「お前がなー。」
なんというか、織崎と比べてこいつへの返答が適当になってしまう。
何を言っても無駄なのは同じだけど、言ってるだけ感が強いからかな?
「あのぉ...優輝さん。」
「リイン?」
「あの人...誰なのですか?」
そういえば、リインは会った事がなかったな。はやてが避けてただけだが。
「王牙帝。はやての同級生で...まぁ、色々厄介な奴だ。」
「厄介...ですか?」
「まぁ、つまりは...。」
こうして話している事も王牙には聞かれている。そして、その後の反応も予想できる。
「おい!リインから離れやがれ!」
「こういう奴だ。」
「....こ、怖いですぅ...。」
当然のように離れるように王牙は言ってくる。
いきなり知らない人に名前を言われ、リインは怯えてしまっているようだ。
「おい!聞いてるのかモブ野郎!リインが怯えてるだろうが!」
「怯えてるのは帝のせいだよ!」
「そうよ!いい加減にしなさい!」
「...呆れて何も言えないわ。」
アリシア、アリサが王牙の言い分に反発し、椿は完全に呆れてしまっている。
「いい加減に....。」
「ん?奏どうしたん....」
「して。」
「だばぁっ!?」
奏も苛立っていたのか、ビーチボールを力の限り王牙の顔面に叩きつける。
言葉の途中でぶつけられた王牙は奇声のように声を上げながら海へと倒れ込む。
「......。」
「うわぁ、モロに入った...。」
“ふんす”と鼻を鳴らし、奏は倒れ込んだ王牙をジト目で睨む。
司も呆れながらそんな王牙を覗き込む。
「あのぉ...さすがに溺れてしまうような...。」
「司ですら呆れてる相手に優しいなリインは。まぁ、死なれると困るし引き上げるか。」
「えへへ...優しいですか...。」
ホント、この子天使だわ。戦闘で疲れてた心が癒される癒される。
とりあえず、王牙を引っ張り上げ、浜にそっと降ろす。
「よっと。」
「げほっ!?ごほっ!?」
だいぶ水を飲んで気絶していたようなので、霊力を流し込んで吐き出させる。
「まったく、世話掛けさせやがって...。」
「て、てめぇ!何しやがる!?」
「いや、一応人命救助。こっちの方が負担もなく手っ取り早いしな。」
人工呼吸も心臓マッサージも必要ないからな。
「ちっ、俺にそんなもん必要ねぇよ!」
「あーはいはい。」
僕を振り払って王牙は立ち上がる。
「第一、折角海に来たのにそれを楽しまずにお前は何やってんだよ...。」
「てめぇこそアリシア達に言い寄ってんじゃねぇよ!」
「むしろ言い寄って欲しかったり。」
「葵、黙ってなさい。」
...ああもう、呆れるなぁ...。
葵の言った事はスルーしておこう。いつもの事だし。
「お前、僕の事をモブとかいう割には気にしてるんだな。」
「てめぇが言い寄ってるからだろ!」
「自分に夢中と思い込んでるのに気にするのか...。」
もうこいつがよくわからないな。最近は自重してたと思ったんだが。
...そういや、自重してたのは僕が女体化してた時からだったな。
....まさかとは思うが...。
「そういえば、お前以前優奈に会ったらしいな?」
「は?誰の事だ?」
「僕の親戚だ。以前アリサとすずかを追いかけて翠屋に入った時に会っただろ?」
カマを掛けるというか、試して確認を取る形で以前の“嘘”を利用する。
最悪勘違いでも気を逸らす事は出来るだろう。
「優輝、それって...。」
「以前優奈が来たけど、僕が席を外してた時さ。緋雪に容姿が似ているから分かるだろ?」
...さて、どう反応するか。
「っ...!し、親戚だったのか...!」
「その様子じゃ、会ったみたいだな。」
そして、この反応。...正直王牙じゃありえない程狼狽えてるな。
「伝言だが、もうちょっと相手の言葉も聞いて、人の気持ちを決めつけないようにだと。容姿は良いんだから、自重してねだそうだ。」
「か、勝手な事言うんじゃねぇ!お前のデタラメだろう!?」
....まぁ、こいつも男って訳か。
なんというか、意外ではあるけどおかしくはないな。
「あ、そうそう。僕って声真似もできるんだけど...。」
「あ?なんだよ...。」
「もっと相手の事を考えてあげてね?帝さん?」
優奈の時の声を真似、王牙に言ってみる。
さっきから会話を聞いてる葵辺りが笑いを堪え切れなくなってるけど今は無視だ。
「っ~~!てめぇ!!」
「あっはは、姿も変えた方が良かったか?」
やっべ、王牙からかうの楽しい。単純だからかちょろいわ。
「こいつっ!」
「...王牙がここまで狼狽えるなんて、どういう事なの?」
「さぁ....?」
顔を赤くしながら掴みかかってくる王牙を、僕は躱す。
なぜそんな反応をしているかアリサとすずかは理解できていないらしい。
「あはは!いや、意外だよー!まさかそんな事になってるなんて!」
「え?え?もしかして王牙ってそうなの?」
葵は大笑いし、アリシアも気づく。
いや、まさかここで王牙をからかう事になるとは。
「(まさか、普段言い寄っている奴が“一目惚れ”するなんてな...。...真実を言うのも気が引けるし...いや、だからと言ってからかうのもどうかと思うが。)」
「あ...っと、ストップだよ。さすがに魔法はダメ。」
ふと見れば、王牙が魔法を使おうとしていたため、司が止めていた。
...んー、こう見ると王牙も根は良い奴なんだろうな。
前世からのギャップや、浮かれている事からこんな性格なんだろう。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ。」
「暑いんだからそんな暴れなくても...って僕のせいか。」
「優輝のせいね。」
椿にもそう言われる。...まぁ、王牙の事が少しわかった代償とでも捉えよう。
「あー、とりあえず、休憩がてら海の家に行くか?王牙もかき氷を奢ってやるから一度落ち着け...な?暴れすぎると熱中症になるから。」
「だ、誰のせいで...!」
「...悪い、まさかあそこまでおもs...動揺するなんてな。」
「今“面白い”って言おうとしなかった?」
「何の事やらー。」
さっきの王牙の様子を見てか、椿たちも王牙に対しての嫌悪感が和らいだようだ。
...正直、王牙ってこのままにしておくのは惜しいんだよな。性格はともかく。
「じゃあ、あたしが財布取ってくるから先に行っててねー。」
「ああ、頼む。」
葵に財布を任せ、僕らは一足先に海の家に行く。
僕らは歩いていて、葵は走って行ったから着く頃には合流するだろう。
「くそっ、屈辱だ...。司達にこんな姿を見せるとは...。」
「正直お前が誰かに惚れているという事実の方が皆には大きいぞ。意外だし。」
もう突っかかる気力もないのか、王牙が弱々しくなっている。
...と、着いたか。
「お待たせー。」
「よし、じゃあ買うか。」
そして葵と合流。僕らはそれぞれ好きなシロップを選んでかき氷を買った。
「ちょっと王牙、いいか?」
「...なんだよ。」
いつもなら勢いよく反発してくるのに、それがない。
凄い違和感だが、まぁいいや。
「悪いけどちょっと席を外す。男同士で話したい事があってな。」
「そうなの?優輝君なら大丈夫だとは思うけど...。」
嫌悪感は和らいでも、不信感は残っているらしく、司が心配そうにしてくる。
まぁ、王牙もこんな様子だし大丈夫だろ。
「...で、話ってなんだよ。」
「話っていうか、提案だな。」
不貞腐れるような顔で王牙は僕に聞いてくる。
「提案?」
「なんてことはない、魔法とかを僕と一緒に鍛えないかって事だ。」
「はっ、俺にそんなの必要ねぇよ。」
...まぁ、こう言い返してくるよな。自身の力に過信している証拠だ。
「“うさぎとかめ”って話を知ってるよな?」
「あ?それがどうしたってんだよ。」
「例え才能などが優れていても、努力を怠れば追い抜かれるって訳だ。」
現に、僕がそうだ。
僕は実際、王牙に魔力や才能で劣っている。
前々世からの経験というのもあるが、それを努力で完全に追い抜いている。
「....俺が追い抜かれるって言いたいのか?」
「少なくとも痛い目を見るな。...と言うか、今まで何度も撃墜されただろ?」
「あれは油断しただけだ!」
やっぱり頑なに自分の努力不足を認めないな...。
ま、ついさっき説得できるネタを手に入れたんだけどな。
「つまり、努力を怠っても大丈夫だとお前は言いたいのか?」
「当たり前だ!俺はオリ主だからな!」
理由になってないっての。オリ主...“オリジナル主人公”だからって最強って訳でもないだろうに...。しかも大抵努力してるし。
「はぁ...あ、そうそう。優奈が言ってたんだけどさ、いくら才能とかがあっても努力をしない人は大嫌いなんだって。必要なくても己を磨き続ける人が好みらしいぞ。」
「なっ....!?」
ここで王牙を揺さぶるネタを投下。
一応嘘は言ってない。才能があってもグーたらしているのは嫌だし、必要なくても努力をし続ける人は好感が持てるからな。
「そ、そんな...。う、嘘言うんじゃねぇ!」
「いや、ホントだぞ?と言うか、才能に胡坐掻いて努力しない奴を誰が好きになるんだ?」
「うぐ....。」
お、効いてる効いてる。
騙している感が凄いが、こうまでしないとこいつは強くなれないからな。
「そこで僕と一緒に鍛えないかって聞いてるんだ。」
「だ、だが、お前と一緒になんか....。」
「聞き入れてくれるなら、お前の努力に見合った褒美...優奈について色々教えるが?」
「乗った!!.....はっ!?」
手の平を反すように聞き入れる王牙。しかし、数瞬して顔を真っ赤にする。
「ち、違...!今のはだな...!」
「いやー、散々皆に迷惑かけてるお前も、一人の男子なんだなって感じだな。別に恥じる必要はないぞ?恋ってそう言うものだと僕は思ってるからな。」
「....くそっ!」
しかし、その代償として僕は何か失った気がする。
優奈についてって...人格自体は存在するし、何とかできるか?
「...で?どうするんだ?」
「....わーったよ!一緒に鍛えるっての!」
「それは良かった。」
正直、王牙は“素材”がいい。それこそ、磨かなければ本当にもったいない程だ。
だから、僕はこんな提案をした訳だ。
「くそ...今日は厄日だ...。」
「皆をつけなければこうはならなかったのにな。」
「うぐ....。」
“恋”の効果って凄いな。あの王牙が全然言い返さなくなるとか。
「じゃあ、戻るぞ。」
「分かってる。」
話も終わった事なので、皆の所へと戻る。
「あれ?それって...。」
「あ、優輝、戻ってきたわね。」
戻ってみると、アリシア達がスイカを抱えていた。
士郎さんや父さんとかもいるけど...。
「...スイカ割りか?」
「せいかーい!士郎さんが買ってくれたんだ!」
というか、スイカ割りしていいのか。
シートとか用意してるみたいだけどさ。
「父さん、母さんは?」
「ん?優香なら、あっちで女性同士、話に花を咲かせてるぞ。」
「あ、ホントだ。」
少し離れた場所で、母さんは司や奏の母親、桃子さんと談笑していた。
そういえば、織崎とかは誰が...。
「なのは達の方はプレシアさんとかが見に行ってるよ。」
「...顔に出てました?」
「いや、少し気にするだろうと思ってね。」
表情に出てた訳ではないが、士郎さんには予想されてたみたいだ。
...やっぱり、少し気が抜けてるかな。こんな所までそんな駆け引きはいらないけど。
「しかし、スイカ割りって普通に目隠しをしてするアレですよね?」
「そうだけど...むしろそれ以外にあるかい?」
「いえ、そういう訳ではなく...。」
普通にするとして、少し参加する面子を見渡す。
恭也さんはいないけど、美由希さんや士郎さん....。
「...正直、目隠しが意味ない人が何人か...。」
「あぁ、それの事かい。そういう人は最後の方に回すよ。もしくは、パフォーマンスとしてちょっとした技を見せるとか。」
「あ、やっぱりそういう方面なんですね。」
まぁ、妥当な対処だな。五感の類を鈍らせる術を使ってもいいが。
「....それにしても、王牙がいる事は驚かないんですか?」
「いや、もう驚いたさ。さっき説明されたからね。」
見ると、司や椿が頷いた。どうやら、二人を中心に説明しておいたらしい。
「折角来たんだから、王牙も楽しんで行けよ。余計な事をせずにな。」
「余計な事なんてしねぇよ。」
主に言い寄ったり絡んだりする事を言ったが...そういえば、自覚ないんだったな。
大人しくなっている今でも、あの踏み台みたいな行動は悪いと思っていないらしい。
「じゃあ、いっくよー!」
トップバッターはアリシアのようだ。
既に目隠しをして、気合十分に棒を構えている。
「ふっふっふー、去年のようには行かないんだから!」
「...去年、何があったんだ?」
「あらぬ方向に誘導されて自信満々に振り下ろしてたわ。」
アリサが答えてくれたが、恥ずかしいな。それ。
そりゃあ、リベンジしたくなるわな。
「ふぅ...やっぱり暑いわね。」
「椿。それに葵も。」
両隣に椿と葵が座る。
海水と汗が滴って艶っぽく見える....って何考えてるんだ僕。
「そういえば、椿と葵は夏は好きなのか?」
「どうしたのよ。藪から棒に。」
「いや、ふと気になって。」
本当にただ少し気になっただけだ。ちなみに、僕は普通だったりする。
暑いのは嫌だが、こうして海やプールなど楽しめる事もあるしな。
「そうね.....。」
「あたしはちょっと苦手かなー。これでも吸血鬼だから日差しが辛くてー。」
少し考え込む椿に、あっさりと答える葵。
まぁ、葵は妥当だな。...久しぶりに吸血鬼らしい事を聞いた気がする。
「私は好きな方ね。でも、暑いのは苦手よ。特に葵がべたべた触ってくる時は。」
「へぇ...理由を聞いても?」
葵とは対称的に、椿は好きらしい。あ、葵が触ってくる事に関してはスルーで。
「夏は雨が降りやすいでしょう?花にとって、恵みになるからそういうのが好きなのよ。草花が喜ぶ季節だから、私も好きなの。」
「なるほどね...。優しい椿らしいな。」
「なっ....!?」
僕の一言で顔を赤くする椿。
「べ、別に普通よ普通!」
「普通って言える所が優しいと思うんだけどなぁ。」
「っ~~~!」
草花にそういう気配り?ができるのは本当に優しい人だからこそだと思っている。
だからそれを伝えただけだけど....椿には恥ずかしい事だったか。
「えっとー....私のスイカ割り、見てた?」
「あっ....。」
ふと見れば、スイカが見事に割られていて、アリシアがすぐ傍に立っていた。
「もー!人がスイカ割りしてる時にイチャイチャしてー!」
「いちゃ...っ!?」
「...あー、悪い...。」
アリシアの言葉に素直に謝る僕。
それはそうと、椿の恥ずかしさが臨界点を超えそうだ。
「....むぅ...。」
「.......。」
「....あー....。」
そして、司と奏の視線も痛い...。
「...って、一発目で割っちまったのか。」
「それは大丈夫だよ。人数分って事で複数あるから。」
「そうなのか。」
見れば、割ったスイカが回収され、次のが用意されていた。
...まだまだ楽しめそうだな。
「すぅ....すぅ....。」
「すっかり疲れちゃったみたいだね。」
「そうだな。」
しばらくして、帰りの車の中で眠るリインを見て、司がそういう。
スイカ割りを楽しんだ後、皆でスイカを食べ、ビーチバレーなども楽しんだ。
途中で織崎たちも混ざってきて、王牙がいた事で一悶着あったりもしたな。
僕としては、ビーチバレーが激しすぎて他の客に注目された事が印象的だが。
...とまぁ、皆が皆満喫して、リインもその一人だったようでこうして眠ってる訳だ。
ちなみに、王牙も同じ車に乗っている。
「...ねぇ、優輝君。また、来たい?」
「海にか?...そうだな、今日みたいに満喫できるのなら...来たいな。」
司に聞かれ、素直に僕は答える。
去年まではそういう余裕がなかったからこそ、また来たいと思えた。
「そっか...。あ、あのね、だったら前世の時みたいに二人で...。」
「んー、それはさすがに高校生ぐらいまでお預けかな...。」
「あ、そ、そうだよね...。」
残念そうにする司。まぁ、遠出は高校生までおすすめできないからな。
「でも、近場のプールとかならいいぞ?」
「ホント!?じゃあ今度暇があったら...。」
「........。」
「あ......。」
身を乗り出してきた司だが、奏からの視線で顔を赤くして座りなおす。
「どうした?」
「な、なんでもないよ。い、今のは忘れて....。」
何でもないように取り繕う司だが、正直どういった想いで言ったのか想像できる。
...一応、司のためにも敢えて突っ込まないけど...。
「...と言うか、王牙大人しいな....って。」
「....寝てるね。しかも凄い体勢で。」
ああいう会話をしていたらさすがに何か言ってくると思ったが、寝ていた。
王牙も遊び疲れていたのだろう。
「夏休みも後少しって感じだな。」
「夏休みが終わると残暑の中色々忙しくなりそうだよね。」
「確かにな。」
海水浴の余韻に浸りつつ、夏休み明けの事を話す。
夏休みが明けると、運動会がすぐ傍に迫ってくるからな。
「聡の奴、ちゃんと宿題やってるのか?またせがんできそうなんだが...。」
「優輝君、甘やかしすぎたんじゃない?」
「...かもしれんな。」
去年司に言われた事なのに、結局手助けをしすぎたみたいだな。
「まぁ、あいつには玲菜がいるし、大丈夫だろ。」
「そうだね。」
断られたとしてもそれはそれで自業自得だしな。
「...ふふ...。」
「どうした?突然笑って。」
何かを思い出したように、司は微笑む。
「ちょっと前世の時を思い出してね。ほら、同じような事、あったでしょ?」
「あー、そういえばそうだな。」
思い返すのは前世の高校での友人の一人。
聡と同じように宿題をやってこない事があり、よく僕や司に頼ってきていた。
まぁ、クラスに一人はいるような奴だ。よくある事だろう。
「....ん?」
「奏ちゃんも、寝ちゃったね。」
どうやら奏も疲れていたらしく、僕に寄りかかるように寝てしまった。
「なんというか、二人共親みたいだね。」
「優輝も司も“施す”側だったから、そう見えるのよ。」
僕らとしては普通に会話していたつもりだが、椿と葵にそう言われる。
...まぁ、僕は前々世の経験もあるし、司はずっと優しさを振りまいてたからな。
「親って....っ...!」
「何想像してるのよ...。」
「あっ、いやっ、なんでもないよ!?」
何かを想像したらしく、司は顔を赤くする。
...最近、司は何かしら顔を赤くして恥ずかしがってるよなぁ。
「なんというか...大人びてるわね。」
「それだけ子供の成長は早いって事さ。」
そんな僕らを見て、母さんと父さんはそういう。
「うーん、親らしい事があまりできてないのよねー。」
「仕方ないさ。優輝は前世の事もあって精神年齢は高い。親としてできる事は、だいぶ限られてしまってるからね。」
それだけじゃない。二人は普段はミッドにいる。
その分だけ家族としての付き合いも薄くなってしまうからな。
「でも、僕は父さんと母さんには感謝してるよ。...いるだけでも、ありがたみがあるんだからね。」
「.....そうか。」
「それは、嬉しい事ね。」
それに、家族としての付き合いもちゃんとある。
ミッドから帰ってきた時は、いつもそうだ。
...この後は、皆で談笑しながら、それぞれ家へと帰宅した。
平和な時間が続くって、やっぱりいいものだよな。
「....私、完全に蚊帳の外ね。運転してるのだから仕方ないのだけれど。」
後書き
疎外感に苛まれつつ皆を送り届けたプレシアさんでした。
う、運転手だからしょうがないよね!
踏み台転生者って大抵主人公のように転生や特典で強くなれるから調子に乗って踏み台になっているようなイメージなんですよね...。
そんな踏み台が一目惚れしてしまい、さらにそれをネタにからかわれれば、踏み台らしい言動はしばらくできなくなる...そんな感じで王牙は大人しくなってます。
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