艦隊これくしょん~舞う旋風の如く~
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出会う風と乗り越える壁
出会う風と乗り越える壁①
前書き
横須賀鎮守府、日本の鎮守府の頂点に立つとも言われているこの鎮守府の司令室には、書類に目を通しながら難しい顔をする男とその隣に鎮座する眼鏡をかけた黒い長髪の少女がいた。
「提督、本当によろしかったのでしょうか?」
提督と呼びかけられた男は書類から目を離さずに、ため息交じりに「またか」と答える。
「以前も言ったが彼女の潜在能力は高い、その才能を潰すのはあまりにももったいない。大淀はそうは思わないかね?」
大淀、黒髪眼鏡の少女の名だろうか、彼女は提督の言っていることは理解していると前置きしたうえでさらに意見を述べる。
「確かに彼女は艤装とのシンクロ率、身体能力ともに平均を凌駕する素晴らしい逸材であることはわかっています。しかし彼女が抱える問題は・・・・・・その・・・・・・駆逐艦にとってあまりにも致命的すぎるのではないでしょうか」
「それはわかっている。だからこちらでの本格的な実戦投入の前に、実地訓練としてあの鎮守府への1年間の異動を命じたんだ。この1年で彼女が変わってくれれば、その時はここで活躍してもらう」
「変わらなかった場合は・・・・・・」
「残念だが、解体処分となるだろう。そうならないことを願っているがね」
そう答えると、提督は書類を机に置き席を立つ、その眼前には無限に広がる大海原が映っていた。
「頼んだぞ・・・・・・」
「さぁ、いい加減観念してもらおうかしら?」
どうしてこんなことになってしまったのだろう・・・・・・目の前には不敵な笑みを浮かべながら投降を迫る少女の姿、普段深海棲艦と戦っている彼女たちの姿はそれはそれは頼もしく見えるものだ。その少女が今、一人の男を脅迫しているのだ。男は全身から汗を垂れ流しながら少女をじっと見つめる。
「頼む五十鈴!待ってくれ!この通りだ!」
男の懇願に五十鈴は呆れたようにため息をつく。
「あんたの待ったは聞き飽きたわ。これ以上は無理ね」
「そんな!頼むよぉ・・・・・・俺とお前の仲じゃないか」
「それとこれとは話が別よ。さて、じゃあそろそろ・・・・・・」
「や、やめろぉ!やめてくれぇ!」
男の叫びを無視し、五十鈴は不敵な笑みを崩すことなく振り上げた右手を振り下ろす。そしてその手につかんでいたものをテーブルに叩きつける。
「これで王手ね!」
嬉々としてそう宣言する五十鈴と、その声を聴いて落胆する男、将棋盤を挟み、両者の顔に明暗がはっきりと分かれた。その様子を五十鈴の後ろで見ていたピンク髪の少女由良は、あきれた様子で口を開く。
「二人とも・・・・・・何、してるの?」
「将棋よ将棋、見て分からなかったの?」
「それは分かるけど・・・・・・なんで提督さん、泣いてるの?」
「いや、流石に200戦200敗は泣きたくもなるわよ。ていうかあんた将棋弱過ぎよ!なんで飛車角落ちの状態から負けるのよ!」
将棋盤と駒を黙々と片付けるこの男が、どうやらこの鎮守府の提督らしい。しかし、横須賀の提督と違い、服装はアロハシャツに短パン、屋内だというのにサングラスをかけ、帽子すらかぶっていない。一見するとハワイにでもやってきた観光客にしか見えないような風貌の男である。
「うっせうっせ!そう思うんならもう少しくらい手加減したらどうなんだっての!」
「飛車角落ちの時点で十分すぎるほどのハンデでしょうが!」
それと・・・・・・と、五十鈴は提督にぐいっと近づき、人差し指を提督の額に押し付ける。
「私が勝ったんだから、約束の間宮券、しっかりと渡してもらうわよ」
「提督さん、そんなもの賭けてやってたの?」
「しょうがないじゃん!なんか賭けないと五十鈴が相手してくんないんだもん」
将棋盤を片づけ終わり、渋々といった表情で間宮券を差し出す。それを受け取った五十鈴は「そういえば」と提督の方に振り返る。
「今日じゃなかったかしら?横須賀から新しい子が来るのって」
「そうだな、時間的にそろそろじゃないかな?」
「新しい子が?一体どんな子なのかな?」
「確か・・・・・・陽炎型の」
そんな話をしていると、執務室のドアが勢いよく開き、一人の少女が入ってきた。金髪の髪を後ろで束ね、まるでステップを踏むかのように執務室に入った少女は、海軍式の敬礼のポーズをとり、大声で挨拶を始めた。
「こんにちはー!陽炎型駆逐艦舞風ですー!暗い雰囲気は、苦手です!」
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