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ドリトル先生と悩める画家

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第五幕その四

「霧の風景もです」
「観てだけ」
「勉強にしています」
「天候が違えばね」
「同じ場所でも違いますから」
「そうだね、お昼と夜でもね」
「全く違うものになります」
 例え同じ場所でもです。
「ですからこうした時こそです」
「観ているんだね」
「そうしています、そして」
「スランプから」
「抜け出る様にしています」
「相変わらず前向きだね」
「スランプを抜け出る為には動けですから」 
 だからというのです。
「ですから」
「成程ね」
「それで観てです」
 そしてというのです。
「あらためて」
「絵にだね」
「します」
 確かな声で言うのでした。
「また」
「今の絵が完成したら」
「一つの絵はです」
「最後までなんだね」
「描く様にしています」
「絵は完成させる主義なんだ」
「はい」
 このこともです、太田さんは強く言いました。
「一度描いたなら完成させないといけないですね」
「うん、論文もね」
 先生はご自身のお仕事のお話から答えました、学者さんとして。
「一度書いたらね」
「完成させないと駄目ですよね」
「さもないとね」
「それは為したことにはならない」
「一度やったら最後だよ」 
 それこそというのです。
「やり遂げる」
「そういうものですね」
「君もそうした考えなんだね」
「そうです、子供の頃完成させなかった絵がありました」 
 太田さんはこのことは残念な、後悔するお顔で先生にも他の皆にもお話しました。
「クレヨンで描いていた頃ですけれど」
「幼稚園や小学校低学年の時だね」
「小学校一年でした」
 まさにその時のことだというのです。
「一度描いてそのまま一週間程ほったらかしにしてました」
「一週間だね」
「他の絵を描いていましたがその絵に気付いて」
 一週間してというのです。
「それで描きたての絵を見て凄く悪いことをしたと思いまして」
「だからなんだ」
「すぐにその絵を完成させました、ですが」
「それでもなんだ」
「悪いことをしたという気持ちは残っていまして」
「だから今も」
「一度描いた絵はです」
 それこそというのです。
「完成させる様にしています」
「そうしたことがあったんだ」
「こうお話すると大したことじゃないですね」
「いや、君にとっては大事なことだね」
「その時に絵が言っている様に聞こえまして」
 太田さんはその時のこと、自分が覚えているそのことを思い出していました。そのうえで先生にもお話するのです。 
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