歌集「春雪花」
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
326
過ぎゆくは
老いしわが身の
思い出の
花ぞ散りなむ
夏来たりける
ただ時は過ぎ行く…それを遮る術などない…。
人は刻一刻と老いてゆくもの…それは私とて同じなのだ…。
時は思い出となり…誰も居なくなった家に静かに積もる埃のように…胸の奥底へと積もってゆく…。
ふと見れば…春の花は散り去り、その葉を深い緑へと染めている…。
あぁ…また、夏が来るのだな…。
彼に会うことのない夏が…また…。
返らざる
恋そ思いて
小夜更けて
独りかたぶく
月を見しかな
想っても想われることのない恋…。
溜め息をついて見上げれば、星空に淡い月…。
彼は…たまには私のことを思い出してくれるだろうか…?
山並みのないこの土地…彼との接点の切れた土地…。
為す術のない私は一人…ゆっくりと傾いてゆく月を…ただ、静かに眺める…。
ページ上へ戻る