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提督はBarにいる。

作者:ごません
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香味塩でツウな飲み方を・その2

 さて、天ぷらに合う塩だが岩塩を自宅にストックしている人ならそれを使うといいだろう。ただ、ソルトミルによっては粗挽きである為、天ぷらに限らず揚げ物全般への付きが悪い。出来る事ならすり鉢やフードプロセッサーを使って粒を細かくすると良いだろう。『岩塩なんてオシャレなもんウチにはねぇよ!』って奴も安心してほしい。知り合いの小料理屋の親父さんに、天ぷらに合う塩の作り方を教えてもらっている。

 その店も天ぷらが美味いと有名で、変わっているのは天つゆが無いのだ。勿論、天丼や天重は提供しているのでタレはあるのだが、天つゆはない。代わりに旨味の強い塩と数種類の香味塩を出してきて、揚げ立ての天ぷらに付けて食わせてくれる。その塩があんまり美味いんで、俺はてっきり高級な岩塩を使っているもんだと思っていた。それである時、俺は尋ねてみた。この天ぷら用の塩はどこの岩塩を使ってるんだ?もしよければウチでも使いたいから教えて欲しい、と。するとそこの親父は照れたような笑いを浮かべ、

『ウチみたいな小さな店で岩塩なんて使ってたら、採算取れなくて商売あがったりですよ。その塩はウチで配合してるんです』

 と言われた。ならそのレシピを教えてくれ、と言ったらあっさりと教えてくれた。それは通称『素塩(もとしお)』と呼ばれていて何も特別な材料は使っておらず、一般家庭でも簡単に作れる代物だから、と。そのヒントはなんと、『アジシオ』にあったんだ。

 読者諸君、近くに『アジシオ』の瓶はあるだろうか?あるなら手に取って、原材料の部分を眺めて欲しい。海水とグルタミン酸ナトリウムと書かれているハズだ。つまりアジシオは、海水塩と製造元であるメーカーの名前にもなっている旨味調味料の〇の素を配合して作られている。ここまで書いたら読者の皆も察しが付いたのではないだろうか?そう、素塩とは粗塩と味の〇をすり鉢やフードプロセッサーで細かくしつつ混ぜ合わせた物だったのだ。『ならアジシオ使えばいいじゃん』と思う奴もいるかも知れんが、アジシオは天ぷらだけでなく色々な物にも合うように配合してあるので、天ぷらに付けるには向かない。なのでその店でも独自に配合比率を研究して、今の素塩を編み出したらしい。今回は特別に、そのレシピを公開しようと思う。

《香味塩のベース・素塩!》※数値は分量ではなく比率です


・塩……10

・味の素……1

 作り方はとっても簡単。塩10に対して味の素1を加えて混ぜ、すり鉢やフードプロセッサーですり潰すだけ。粒の細かさの目安は粉砂糖位。指で触ってほとんどざらつきが無い位が理想形だ。使う塩は粗塩でも伯方〇塩でも、塩なら何でもいい。ただし、岩塩や湖塩、ちょっとお高い海水塩はNGだ。それらは既にミネラルを多く含んでおり、余計な物を加えると変な味になってしまう。あくまでも『安い塩を美味しくするテクニック』だと思ってくれ。タッパーなんかに入れて密封して冷蔵庫に入れておけば、2ヶ月位は味が保つから纏めて作り置きしておくのもいいかもな。天ぷらは勿論、焼き魚の下味とか鶏肉を焼いてそこに振るとか、豚カツにちょいと付けて食べるとか……使い道は色々だ。そして、そこに色々な風味や香りを付ける為に一手間加えたのが香味塩だ。お次はその香味塩の作り方と、俺が個人的にオススメする天ぷらを書き出していこうと思う。




《香味塩の定番!抹茶塩》

・塩……10

・味の素……1

・抹茶……1

 割と定番だよな、抹茶塩。作り方としては塩と味の素を混ぜてすり鉢やフードプロセッサーを使って細かく砕く。そこに抹茶を加えて合わせれば完成だ。比率としては塩10に対して味の素と抹茶が1。オススメとしては抹茶の香りを楽しみながら食うのが抹茶塩の醍醐味だからな、香りの弱い野菜天……ナスやカボチャ、舞茸やしめじ等の茸やタラの芽なんかの山菜類、後は春菊なんかもいいな。

「ってなワケでナスとしめじ、春菊の天ぷらに、抹茶塩だ」

「う~ん!やっぱり天ぷらは揚げ立てが最高よね、香取姉!」

「そうね、サクサクの衣にお抹茶の香りがして……美味しいですね」

 春菊の天ぷらに抹茶塩をちょいとつけてかじり、2~3度咀嚼してから生酒をキューっと煽る。ゴクリと飲み込んだらほうっ、と満足げに息を吐き出す。その頬は酒が効いてきたのか赤く上気して何とも言えない色気を漂わせている。

「美味いか?あんまり飲み過ぎるなよ、まだまだ天ぷらは出てくるからな」

 さて、お次は少し酸味の効いた香味塩をご紹介。


《梅の香る!梅肉塩》

・塩……10

・味の素……1

・梅肉……1

 抹茶塩よりはちと手間がかかるが、これまた天ぷらに合うんだよ梅肉塩って奴が。塩10に対して味の素と梅肉を1ずつ鍋に入れ、弱火で焦がさないように水分を十分に飛ばす。水気が飛んだらすり鉢やフードプロセッサーで細かく砕いたら出来上がり。梅肉の酸味が効いてるからな、魚介……特に鱚や穴子、蓮根や長芋のように梅の酸味が活きてくる天ぷらに合うだろう。

「そら、お次は穴子と蓮根の天ぷらに梅肉塩だ」

「穴子って天つゆが一番美味しいと思ってましたけど……」

「梅の酸味でサッパリして、これはこれでアリですね!」

 この梅肉塩、茹でた鶏肉だとか白身魚の刺し身にちょいと付けたりしても美味いぞ。


《ピリリと引き締まる!山椒塩》

・塩……12

・味の素……1

・粉山椒……1

 梅の酸味の次は、ピリリと辛い山椒の刺激を加えた山椒塩だ。気を付けないといけないのは、配合の比率。塩12に対して味の素と粉山椒が1ずつ。他の香味塩のレシピよりも塩が多めになっている。塩を多くしておかないと、山椒の辛味に塩が負けてしまうためだ。作り方は塩と味の素を先に砕いておき、粗方砕けたら粉山椒を加えて更に砕く。こうする事でキメの細かい山椒塩が出来る。オススメは穴子にイカ、チクワに筍なんかもいいねぇ。

「お次は筍とイカ天。山椒塩でな」

「筍がサクサクしてる。そこに山椒がピリッと利いてて美味しい!」

「お酒も進むわねぇ……♪」

 香取も揚げ立ての天ぷらで酒が進むのか、グイグイと飲んでいる。酔い潰れなければいいが……。あ、山椒塩だがこれからの時期は鰻の白焼きにかけて食っても美味いぞ。



《万能調味料!?カレー塩》

・塩……10

・味の素……1

・カレー粉……1

 天ぷら以外にもフライやカツ、それ以外の料理にも使えるってのがカレー塩だ。作り方は塩と味の素、カレー粉を一緒にすり鉢やフードプロセッサーで細かくする。後からカレー粉を入れてもいいんだが、一緒に細かくする事でカレースパイスの香りが際立つぞ。合う天ぷらは……カレーの具材になりそうな天ぷら全般。特に白身魚や鶏天、芋類の天ぷら。変わり種だとチーズの天ぷらなんかも相性がいいな。天ぷらじゃねぇがソースの代わりにフライにかけたり、豚カツやチキンカツにかけたり、ポテトサラダの隠し味に使ったり……幅広く使える。

「てなワケでお次はジャガイモの天ぷらとチーズの天ぷら、それにネギの豚巻き天ぷらだ。コイツにはカレー塩だな」

「チーズの天ぷらってどうやるんです?」

「あ?ベビーチーズとかのプロセスチーズに厚く衣を付けて、サッと揚げるんだ。衣にさえ火が通ればいいからな」

「成る程~……おいしっ!ジャガイモの天ぷらって美味しいんですね!」

「まぁな、衣の付いたフライドポテトみたいなモンだ」

「ならカレー味が合わないハズが無いですね」

《意外過ぎ!?ココア塩》

・塩……10

・味の素……1

・ココアパウダー……1

 〆はビックリ、ココア塩だ。ココアといってもミルクココアの素ではなく、ココアパウダーを使うように。塩と味の素をあらかじめ砕いておき、後からココアパウダーを加える。塩10に対してココアパウダーを1としてあるが、風味を強くしたい場合はココアパウダーを増やしてもOKだ。何と言ってもこいつは肉を使った揚げ物に抜群だ。ココアの仄かな苦味が肉の味を引き立ててくれるからな。ビフカツや豚カツ、チキンカツ……薄味に仕立てた唐揚げなんかにも合うぞ。

「さて、最後は鶏天……こいつには騙されたと思って、ココア塩を試してみな」

「えぇ……?ココアですか?」

 2人共手が伸びない……が、女は度胸とばかりに香取が一口。

「……あれ?全然不味く無いですね」

「むしろ美味しい?」

「だから言ったろ?美味いって」





「うぅ~……飲み過ぎてしまいました」

「大丈夫か?香取」

 帰り際、どうにか立ち上がった香取だが足元が覚束ない。フラフラとしているその様子に不安を覚えた俺はカウンターを出て傍に駆け寄る。

「あっ!」

「おっと」

 躓いた香取が俺に寄り掛かるように倒れ込んで来る。吐息からは強い酒の匂い。こりゃダメだな。

「す、すみません提督!すぐにどきますから……」

「いや、そのまま寄り掛かってろ。よ……っと」

 俺は香取の脇の下と膝裏に手早く腕を差し込み、ひょいと抱え上げる。いわゆるお姫様だっこって奴だな。

「あんまり動くなよ?」

「は、はいぃ……」

 更に赤くなった香取が、俺にギュッと抱き付いてくる。そんな様子を見て、頬を膨らませている鹿島。

「香取姉ったら、そんなに酔ってないクセに」

「何か言ったか?鹿島」

「いえ!何でも無いです」

 俺はそのまま香取の部屋までお姫様だっこのまま送り届けてやった。後日、あの程度の酒量で香取は酔うタマではないと知らされた。その事を香取に問い質すと、

『女は強かなんですよ?うふふ……』

 と眼鏡の奥の瞳を輝かせてはぐらかされてしまった。どうやら鹿島だけでなく香取も油断ならない女のようだ。 
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