IS~夢を追い求める者~
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最終章:夢を追い続けて
第49話「襲撃」
前書き
―――今は届かなくても、いつかきっと...。
数では学園の方が多いですけど、質が圧倒的な桜勢。
防衛とかの事もあって、意外と学園は切羽詰まってます。
=out side=
「学園に謎の飛行物体が多数接近しています!!」
「っ、すぐにバリアを固めろ!...それと、一年の専用機持ちと、更識を呼べ。」
箒たちがISと“対話”した翌日。
突然の反応に、教師の一人が叫ぶように全員に知らせる。
千冬がすぐさま指示を出す。
「ですが...!」
「...今の私たちでは、大して役に立てん。余程の自信がない限り、危険だ。」
「っ....。」
専用機を持たない教師たちは、桜たちによってISに乗れなくなっていた。
千冬もその一人だった。
「...織斑先生、この襲撃はまさか...。」
「...あいつらの仕業だ。やはり、仕掛けてきたか。」
「だったら、あの子たちが出ても“目的”は果たされそうねん。」
千冬と同じように落ち着いているアミタとキリエが冷静に分析する。
反応数はIS学園にあるISと同等以上。
その事から、例え秋十達が出ても勝てるかは分からなかった。
「早くしろ。私も生身だが、出るつもりだ。」
「は、はい!!」
急いで通信を使い、秋十達に呼びかける教師。
それを横目に、千冬も準備に向かった。
「っ.....!」
「秋兄!」
「マドカか!」
通信で呼びかけられ、襲撃を知らされた秋十達は走っていた。
今、最大戦力は自分たちしかいない今、責任感も重くのしかかっていた。
「ISを“翼”として見ている桜さん達の事だから、この反応は...。」
「IS...じゃないね。おそらく、ただのゴーレム。」
「でも、この数はやばい...!それに、ただ襲撃するのが目的ではないはずだ!」
ただ襲撃する理由が、桜たちにはない。
だからこそ、違う目的があると秋十達もわかっていた。
「では、その目的とはなんだ?」
「....ユーリの誘拐...だろう。」
同じく並走してきたラウラの問いに、秋十はそう答える。
「...根拠は?」
「桜さんがいなくなる前日、聞いたんだ。ユーリは自分の近くに居させた方が安全だと。...だから、今回の襲撃はユーリを“被害者”にさせた上で、安全を確保するためだろう。」
「なるほど...。」
「それだと、ボク達が出るのもわかってそうだよね。」
寮から外に出た所で、シャルロットがそういう。
「...それでも、出ない訳にはいかないだろう。」
「そうですわ。動けるのが私たちだけなら...。」
「やるしかない...。」
現在の状況でISに乗れる者が集まり、一斉にISを起動する。
「数は多いわ。学園に被害を出す訳にも行かないから、各方面に散らばって撃退してちょうだい。できるだけ討ち漏らしは出さないように。念のため、倒し損ねた奴を堕とせるように、セシリアちゃんは高い所に陣取って頂戴。狙撃を任せるわ。」
「...任せてください。」
楯無がセシリアに指示を出し、セシリアもそれを了解する。
「それでは、各自散開!死守するわよ!」
「「「はいっ!!」」」
飛び立ち、それぞれ散らばりながら襲ってくる方面へと向かう。
敵機は一方面だけでなく、人工島を囲うように迫ってきている。
唯一本州の方角からは来ていないが、それでも包囲されたも同然だ。
「見えた....!」
敵機も随分と迫っていたのか、すぐに肉眼で確認できるようになる。
視界に入っているのだけで10機以上。相当な数だと秋十は戦慄する。
「(まずは牽制...!誰かが乗っている訳でもないから、破壊する!)」
ライフルを展開し、大まかな狙いをつけて乱射する。
普通なら簡単に躱されるが、数が多いため何機か被弾する。
「雑魚...とまではいかないか。でも、この程度なら...!」
敵機が一定まで近づいた瞬間、秋十は加速してグレネードを置き土産に投げる。
その爆発を煙幕としてさらに利用し、一気に三機を堕とす。
「行かせねぇよ。」
一機に肉迫し、ブレードで切り裂く。
すかさずライフルで一機の頭部を撃ち抜く。
攻撃してきた所を“風”を宿した動きで躱し、同時に反撃で切り裂く。
「...さっきまでと数が違うな。」
気が付けば、囲まれている。
教師からの連絡では全体で学園にあるIS程の数だと聞いたが、これでは“一人につき”学園にあるIS程の数になっている。
「...桜さん達がどんな想いでお前らを嗾けてきているかは知らないが、ここは通さない。意志ある“翼”を、堕とせると思うな。」
ブレードを構えなおし、秋十はそう言った。
同時に、遠くでも戦闘の音が聞こえてくる。
マドカ達も戦闘を開始したのだと、秋十は察した。
「....行くぞ。」
再び敵機との間合いを詰め、秋十は交戦を続けた。
「....あれ、マドカさん...?」
精神的疲労から眠っていたユーリが自室で目を覚ます。
そして、同室であるマドカがいない事に気づく。
「どこに...。」
一人では心細いのか、ユーリはふらふらと外へと探しに行く。
「....え....?」
寮の外に出た所で、学園から少し離れた上空で何かが光っているのに気づく。
「何が...起こっているんですか...?」
明らかに戦闘を行っている。しかも、多対一なのが見て取れた。
急いでユーリは学園の教師を探しに行った。
「....?今のは....。」
ふと、廊下を曲がると、突き当りのT字の通路を誰かが通るのが見える。
見覚えのある紫のような髪色に、ユーリは駆けだす。
「っ....!」
「えっ!?」
突き当りまで辿り着く瞬間、目の前を千冬が走り抜けていく。
突然の事だったため、ユーリは驚いて足を止めてしまう。
「ユーリ!」
「あ、アミタ先生...。」
「なぜここに!?貴女は今、自室で待機してるはずでは...。」
ユーリに気づかずに千冬が去った後に、アミタとキリエが来る。
どうやら、千冬に追従するように走ってきていたらしい。
「マドカさんがいなくて、外に出てみたら戦闘が起こっていたので...。」
「なんで間が悪い...。」
「あの、一体何が...。」
何が起きているのかと、ユーリはアミタに尋ねる。
「...襲撃よ。」
「えっ?」
「キリエの言う通り、襲撃です。ISではない、大量のゴーレムが学園を包囲するように襲ってきています。現状はISに乗れる皆さんで応戦。こちらからもサポートするつもりでしたが...。」
そこで、アミタは言い淀む。まるで、言っていいのか躊躇うように。
「先程の...織斑先生ですよね?まさか、追いかけていたのは...。」
「...ゴーレム部隊は陽動。桜さんはその隙を利用して潜入し、エグザミアを奪って逃走しました。奪った所で見つけ、今は千冬さんが...。」
「っ....!」
そこまで聞いて、ユーリも駆け出す。
“桜さんが来ている”。この事実が、ユーリを居てもたってもいられなくした。
「待ってくださいユーリ!」
「っ、追うわよお姉ちゃん!」
「分かってます!」
慌ててアミタとキリエも追いかけた。
「待て、桜!!」
一方、桜を追い続ける千冬は桜に止まるように呼び掛けていた。
尤も、それで止まるような奴ではないと、千冬は確信していたが。
「(エグザミアを盗む...その事から考えられるに、この後桜がするのは...!)」
そこまで千冬は思考し、装備していたIS用の投擲ナイフを放つ。
ゴーレムと戦うために装備していたソレは、真っすぐ桜へ飛んでいき...。
ギィイン!
「なに...?」
虚空に弾かれた。
いや、正しくは、見えない“何か”に阻まれた。
「...後は頼むぜ。」
微かにそう桜が言ったのを聞いた瞬間、千冬は立ち止まる。
そして、ナイフを阻んだ存在が現れた。
「なっ....!?」
「....久しぶりだね。千冬。」
「元気にしてたかしら?」
千冬とは違い、対人用の装備をした四季と春華が現れる。
思いもよらない相手の登場に、さしもの千冬も動揺を隠せない。
「っ......。」
“どうしてここに”や“なぜ今更現れた”などと、様々な言葉が出そうになる。
だが、ギリギリで千冬はそれを抑え込み、ブレードを構える。
「...邪魔をするなら、押し通るまで...!」
「ははは...!親子の感動の再会の前に、喧嘩としゃれこむか!」
互いに武器を振りかざし、ぶつかり合った。
「これで...終わり!」
近くにいるゴーレムを全て落とし、秋十は一息つく。
「...比較的ここは少なかったか。」
レーダーを見ると、未だに他の皆は戦闘していた。
偶然、秋十の所だけ少なかったのだろう。
【秋十さん!】
「っ、アミタ先生!?」
そこで、通信がアミタから入る。
【桜さんを発見しました!しかし、このままだと逃げられます!】
「分かりました!至急そちらへ向かいます!」
短く纏められた言葉で、秋十は鋭く察し、すぐに学園の方へと戻っていく。
「【セシリア!他の皆は頼む!】」
【秋十さん!?何を...。】
「【桜さんを捕まえる!ゴーレムには構ってられない!】」
【....!わかりましたわ。】
セシリアに一応連絡を入れてから、秋十は反応を探る。
ISの機能であれば、ISだけでなく生身の人間も探知できる。
それを利用し、桜を探し当てた。
「....来たか。」
「来るのは予想してた...いや、この状況に誘導するつもりでしたね。」
場所は第一アリーナ。
そこで、桜は秋十を待ち構えるように立っていた。
「ここへ来た目的は分かっています。...ですが。」
「止める気...だろう?わかっているさ。ここで俺にユーリちゃんを頼んで喜んで引き渡すような真似をしたら、容赦なく叩き切っていたさ。」
学園の生徒として、数少ない抑止力として、秋十は桜を止めるつもりだった。
例え桜に預ける方が安全だとしても、そうしようと決意していた。
「....止めます。絶対に。」
「...やれるか?お前に。」
余計な言葉など不要。そう言わんばかりに、一気に間合いを詰める。
桜がISを展開すると同時に、秋十は“風”と“水”を宿し斬りかかる。
ギィイイン!!
「甘いぞ?」
「くっ....!」
しかし、それは同じように属性を宿した一太刀で防がれる。
「その身に“土”を宿す...!」
「それも甘い。」
「まだっ...!」
さらに“土”、“火”を宿し、斬りかかる。
だが....。
「...忘れたか?それらは俺が教えたものだ。今までの模擬戦、試合においては手加減をしていたが、本気を出せば...。」
「っ....!?」
―――“羅刹”
―――“九重の羅刹”
咄嗟に、秋十は自身が最も上手く扱える技を放つ。
しかし、それに桜は上位互換の技で正面から打ち破ってきた。
「がぁあああっ!?」
「...この通りだ。」
なすすべなく、秋十は吹き飛ばされる。
立っている次元が違う。...まさにそんな感覚を、秋十は味わった。
「ぐ、ぅ...!ま、だ....!」
「...だろうな。秋十君は、そういう人間だ。」
だが、それでも諦められない。
そんな想いで、秋十は立ち上がる。
「(SEは残っている。“水”の攻撃だから体にもダメージが入ったが、この程度...!)」
「だが、既存の力だけでは、俺には勝てんぞ?」
「っ.....。」
勝てない。それは秋十も理解していた。
止める理由も“学園の生徒”という、桜を止めるにはあまりにも薄い理由だ。
「それとな....。」
―――ギィイイン!
「なっ....!?」
「今の俺は常に全力だ。慢心は残っているだろうが...全員で来ても勝てんぞ?」
セシリアの狙撃を桜は難なく弾く。
秋十も意識してなかった不意打ち。それを桜は見てから対処した。
「そろそろゴーレムがやられた所だな。」
「......。」
「さっき言った通り、それでも勝てんがな。」
秋十は黙ったままレーダーを確認する。
敵機は全て沈黙。マドカ達の反応が近付いているのが理解できた。
「尤も、ユーリちゃんと千冬がいれば結果は分からなかったがな。」
「そうだ...!千冬姉は....!?」
ユーリはともかく、千冬はじっとしているはずがないと秋十は分かっていた。
だからこそ、この場に来ていない事を訝しむ。
「千冬とて生身だ。俺が相手するまでもない。」
「っ.....。」
“俺が”と言う所から、他にも誰か来ているのだと秋十は察する。
ゴーレムの反応がない事から、生身の人間だという事もわかっていた。
「....さて、どうやって俺を止める?」
不敵に笑う桜。
そんな天災を相手に、秋十は再び立ち向かった。
ギィイイン!!
「ぐっ....!」
“ズザァッ”と、床を滑るように後退する千冬。
その視線の先には、ブレードを構えた四季と、銃を手にした春華。
「(一対一では有利でも、二人相手では押し切れない...!)」
確かに千冬の身体能力、運動神経はトップクラスではある。
しかし、四季と春華のコンビネーションの前に、十全に発揮できていなかった。
「どうした?その程度ではないだろう。」
「っ...!」
四季の言葉に、再び千冬は斬りかかる。
最初こそ殺してしまわないように加減はしていたが、それももうない。
最低限、ブレードの刃の方で斬ってしまわないようにするだけだ。
春華の放つ非殺傷に改造された弾丸を躱しつつ、千冬は四季に肉薄する。
「はぁっ!!」
「っ!はっ!」
「足元ご注意よー?」
「くっ...!」
鍔迫り合い、そこへ春華の弾丸が撃ち込まれる。
それをすぐに躱し、千冬は間合いを取る。
...千冬は徐々に、動きが荒くなっていた。
それは両親である二人が現れた事による動揺か、桜に逃げられる事からか。
少なくとも、千冬に余裕は一切なくなっていた。
「ちっ....!」
「そらよっ!」
「っ....!」
銃弾を躱した所へ四季の斬撃が迫り、千冬はさらに後退させられる。
「くっ....!」
このままでは桜に逃げられる。
そう思った千冬の所へ....。
「....織斑先生....?」
...ユーリがやってきた。
「なっ!?エーベルヴァイン!?」
「おっと、余所見していいのかい?」
「しまっ...!?」
ユーリがやってきた事で、千冬は僅かな隙を晒してしまう。
春華の銃弾で退路を断たれ、四季の一閃によって吹き飛ばされてしまう。
「がはっ!?」
「四季さん?春華さん?どうして、ここに....?」
「っ....!?」
壁に叩きつけられた千冬は、自分の両親とユーリが知り合いな事に驚く。
「今回の事件の一端を担ってるからねー。」
「つまり、襲撃者の一人って訳。」
「....そうですか...。」
二人の言葉にユーリは然程驚かなかった。
襲撃されていて、千冬が戦闘している時点で、“そっち側”なのは分かっていたからだ。
「....桜さんはどこですか?」
「待てエーベルヴァイン!あいつの狙いはお前だ...!行くな!」
続いて尋ねた内容に、千冬は止めようとする。
「この先を真っすぐよ。」
「...ありがとうございます。」
「エーベルヴァイン!」
そんな制止を無視し、ユーリは桜の下へ向かおうとする。
ふと、ユーリは振り返り、憂いを帯びた顔で言った。
「...すみません、織斑先生。...耐えられないんです。もう....。」
「っ......。」
桜の失踪。周囲からの敵意の視線。
...それらは、ユーリの心を容赦なく蝕んでいた。
故に、もう学園にいるのが耐えられなくなっていたのだ。
「...私を案じてくれてありがとうございます。...さようならです。」
「....くそっ....!」
もはや、千冬にユーリを止める事は出来なかった。
教師としての不甲斐なさ、ユーリにとっての最善が桜に連れていかれる事という事実。
その二つが、千冬を黙らせていた。
「.......。」
「...さぁ千冬、お前はどうする?」
走り去っていくユーリを、千冬は黙って見送る。そんな千冬に、四季は尋ねる。
戦意は、ほとんど失ってしまったようなものだ。
「......エーベルヴァインを、頼む。」
「...そうか。」
一言、そういって千冬は再び構える。
「...私には、教師は向いてなかった。だから、ブリュンヒルデとしてでも、IS学園の教師としてでもない。一人の“織斑千冬”として、ここを押し通る!」
「っ!」
ギィイイン!!
先ほどまでよりも段違いの衝撃が四季を襲う。
防いだものの、その威力に四季は後退する。
「....へぇ...。」
「さすがね。」
「......。」
さっきまでとは違う。そう四季と春華は感じ取り、構えなおす。
それに対し、千冬はブレードを腰に構え、居合の体勢を取る。
「くっ....!」
「......!」
瞬間、千冬は廊下を縦横無尽に駆けながら、四季へと間合いを詰める。
牽制するために春華が銃弾を撃つが、そのスピードを捉えきれない。
「速い....!」
「―――心に、“水”を宿す。」
迎撃しようとする四季の斬撃を、千冬は円を描くように躱す。
「ふっ!」
「がっ....!?」
「四季!」
「遅い。」
「しまっ....!?」
四季に峰打ちを一閃。動揺を見せた春華にもすぐさま肉薄、同じように一閃を決めた。
「...責任感やその類のものは一時捨て置く。...あいつを止めるだけだ。」
「はは...そうこなくちゃな...!」
「それぐらいの覚悟をしてくれなくちゃ困るわ。私たちの娘なんだから!」
ダメージを受けたものの、すぐに二人は構えなおす。
「基礎能力で負けるなら...。」
「手数と技術で補えってね!」
四季はブレードをもう一振り、春華は銃剣二丁に武器を切り替える。
それを見て、千冬もまだ突破できないと悟る。
「はぁっ!!」
「ぜぁっ!」
再び千冬と四季がぶつかり合う。
...親子の戦いは、まだまだ続くようだ。
ギィイイン!!
「ぐっ....!」
「はぁっ!」
「甘い!」
秋十が吹き飛ばされ、フォローするようにマドカが斬りかかる。
しかし、それすらもあっさりと桜は対処する。
「くっ...!」
「喰らいなさい!」
箒、鈴による挟撃。さらに衝撃砲とシャルロットの射撃による追撃。
連携によるその攻撃は、回避され、防がれ、そして反撃で吹き飛ばされた。
「行って....!」
「一斉射撃ですわ!」
「容赦はせん!」
そこへ、簪の山嵐、セシリアのビットと狙撃、ラウラの射撃が迫る。
「一人に対して容赦ねぇなおい。」
だが、ミサイルは回避され、射撃は相殺もしくは切り払われる。
攻撃が全て対処されてしまう。まさに悪夢のような状態だった。
「今よ!」
ドォオオオン!!
そして、範囲内であれば回避も防御も困難な楯無のクリア・パッションは...。
「...冗談じゃないわね。」
「空気を切り裂いて、安全圏を作った...!?」
“水”と“風”を宿した刃によって切り裂かれ、凌がれた。
「発動してからの対処が早いわね。」
「今のはひやっとしたぞ?」
「よく言うわ。あっさりと対処してた癖に。」
圧倒的。その言葉が楯無の頭に浮かぶ。
正面からの攻撃も、連携も、全てが対処される。
最も身近で動きを見てきた秋十とマドカでさえ攻撃を通せなかったのだ。
「次の手!秋兄!」
「ああ!」
すぐさま次の手を実行する。
秋十を筆頭に、攻撃を当てようとせずに足止めに専念する。
「はぁぁあっ!」
「せぁっ!」
「...ふっ!」
ギギギィイイン!!
秋十と箒によるブレードの連撃。しかし、“水”を宿した斬撃に弾かれる。
すぐさまフォローに鈴と簪が各々の武器を構えて肉迫する。
...が、それも即座に反撃されてしまう。
「セシリア!ラウラ!シャル!」
「分かってますわ!」
「狙い撃つ...!」
「当たって!」
秋十の呼びかけに三人が一斉に包囲射撃を行う。
さらに、ラウラのAICによって拘束も試みる。
「捉えきれなければ意味がないぞ?」
「ちっ....!」
「っ!!」
だが、それは“水”と“風”を宿した動きに躱される。
楯無が接近してせめてもの足止めを試みるも、それも躱されてしまう。
「.....行くぞ。“夢追”。」
すると、満を持して秋十が突貫する。
単一仕様を用いた鋭い斬撃は、さしもの桜も回避せずに受け止める。
「速い上に重い...な!」
「これぐらいしないと、追いつけませんからね...!」
ようやくまともな拮抗に入ったと、秋十は思う。
だが同時に、それも長続きしないと確信していた。
「早く...鋭く!!」
「っ....!」
―――“四重之閃”
だからこそ、最大の技を放った。次に繋げるために。
―――“二重之閃”
ギャギィイイン!!
「なっ....!?」
「悪いね...二重なら俺もできるんだ。」
四重に見える程の高速の斬撃。それを桜は二つの斬撃で相殺した。
二重に二回ブレードがぶつかり合う音が響き渡り、秋十は後ずさる。
「......っ。」
「....ん?」
だが、そこで秋十はにやりと笑う。
...その視線の先には、マドカがいた。
「“エクス...カリバァアアアア”!!」
「なに....っ!?」
マドカの単一仕様による極光が迫る。
その事に桜は驚く。ただ放たれたのではなく、予定通りに運ばれたのだと理解して。
同時に感心もした。秋十との攻防の隙にAICの足止めも上乗せた見事な連携だと。
....だが、それは、桜にとって...。
「....単一仕様、展開。」
「っ.....!?」
それでも、“想定内”に過ぎなかった。
「想起、“エクスカリバー”!!」
瞬時にマドカの単一仕様を再現し、AICをエネルギーの放出で弾き、極光が放たれた。
溜めていたマドカと比べ、瞬時に放った極光。
普通に考えれば、マドカの方が強いと思えるが...。
「....相殺...された....。」
「いやはや、ホント、感心するよ。...だが、まだ足りない。」
「っ....。」
万策尽きた...とも言えるだろう。
やれることの限りを尽くし、それでも届かなかった。
秋十達のSEはほとんどが半分を切り、それに対して桜はまだまだ余っている。
エクスカリバーを使用したとはいえ、まだ余裕なのだ。
「(...まだだ。桜さんは既存の技では勝てないと言った。...なら、今この場で俺達で新たな技、新たな戦法を生み出す...!まだ、終ってない...!)」
「....へぇ。」
まだ諦めないと、その意志を瞳に宿すのを見て、桜は嗤う。
「....残念、時間切れだ。」
「えっ....。」
そこで、桜はアリーナの入り口に目を向け、そういった。
つられて秋十達もそちらを見、驚愕に目を見開く。
そこには...。
「......桜さん...。」
「ユーリ....!?」
本来ここにはいないはずの、いてはいけないはずのユーリの姿があった。
後書き
全て桜の掌の上。そんな感じの回です。
全部計画通りな上、秋十達の成長も想定内と言う規格外っぷり。
いっそ清々しいまでの強さです。
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