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魔法少女リリカルなのは ~黒衣の魔導剣士~ 外伝

作者:月神
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黒衣を狙いし紅の剣製 00

 
前書き
 この作品は自分が書いている魔法少女リリカルなのは ~黒衣の魔導剣士~の外伝になっています。
 時間軸としてはsts編~Vivid編の間のものになります。 

 
 私は秀才だ。 
 家の中では最も頭脳明晰である。両親や先祖と比べても私ほどの者はそうはいないだろう。その証拠に私は昔から科学者として活躍してきた。

 だが……私は断じて天才ではない。

 周囲は私のことを天才だと言うだろう。
 だがそんなものはその者達が私よりも能力が劣っているからに過ぎない。真に天才と呼べる者は、周囲が比べることすらしないほどの高みに存在するのだから。

 そんな天才を私はふたり知っている。

 そのひとりは故人だ。
 この人物は私の親戚に当たり、自分の興味があること以外はダメな典型的な科学者のような男だった。あらゆるジャンルで比べれば私の方が勝っている。
 だが幼い頃からあの男が興味を持ったことで勝てたことは一度としてない。
 大人になってもそれは変わらなかった。どうしてもその男に勝ちたかった私は、デバイスマイスターの道に進んだ。あの男よりも優れた物を作り、勝利を味わうために。
 だが……開発に関わるようになってからも注目を浴びるのはあの男ばかり。
 あの男に……あいつに私は勝てなかった。私がどんなに優れたものを作ろうともあいつがその上を作り上げる。周囲から評価をもらったとしてもそんなものは一時的なものであり、結局はあいつが全てを持って行った。
 あいつはまさしく天才だ。
 あいつが居たからこそデバイスの性能は格段に良くなり、それに伴って故障などによる事故も減って結果的に魔導士の負傷率も下がった。
 今の時代、数多くのデバイスが作られている。その根幹を作ったのはあの男だ。

 しかし……もうあいつはいない。

 亡くなったのは確か今から20年ほど前になる。
 私の記憶が間違いでなければ、あいつが亡くなった時にあいつの妻も亡くなった。残された子供はあいつの妹が引き取ったと聞いている。

『なあグリード、君はデバイスに何を求める?』

 一度あの男にそう問われたことがある。それに対する私の答えはこうだ。

『何をだと? そんなもの決まっている。デバイスに必要なのは情報処理や耐久性といった使い手を支える性能だ。それはストレージやインテリジェント、アームドに置いても変わらん』

 デバイスが優れているならば魔導士はより真価を発揮できる。それは私だけでなく多くのデバイスマイスターが考えている正論だ。
 だがあいつは違った。
 最初こそより良い性能を持ったデバイスを作ろうとしていたが、徐々に情報処理や耐久性ではなく《人間らしさ》を求めるようになった。
 確かにデバイスに搭載されるAIの知能レベルが上がればマスターとの意思疎通もしやすくなるだろう。
 しかし、知能レベルが上がれば上がるほどマスターとは異なる考えを持つようにもなる。マスターに対して従順な性格なら問題ない。だが反発する性格だった場合、マスターに危険を及ぼす可能性が出てくる。
 それがデバイスマイスターならば誰もが考えうることだ。私よりも優れている頭脳を持っていたあの男が分かっていないはずがない。そう理解できていても指摘せずにはいられなかった。

『何を言っているんだ貴様は! 確かに多少なりとも人間性は必要だ。インテリジェントデバイスは持ち主に合わせて最適化されるべきものだからな。しかし、必要以上の人間性などいらん。デバイスは魔導士の武器であり、犯罪者を取り締まっていく上で欠かせないものだ』
『それは……まあそうなんだろうけど。でも』
『でも、ではない! もしも必要以上に人間らしいデバイスを作り、それが原因で使用者に反発でもしてみろ。危険に晒されるのは使用者なんだぞ!』

 最もらしいことを口にしたが、このときの私の本心は別にある。
 私よりも優れた頭脳を持ちながらそれを正しい道で発揮しようとしない天才へ嫉妬があったのだ。
 いや、今にして思えば憧れていたのかもしれない。この男ならばきっと後世にも名を遺す発明が出来る。自分が技術力で敵わなくてもこの男と張り合い、それで己の名が広まらなかったとしてもそれは本望だと。
 だからこそ私は声を荒げたのだ。
 だが……やはりあの男は天才だった。私を含め多くのデバイスマイスターは目先のことしか考えていないことを痛感させてきたのだから。

『確かにその可能性はあるよ。でも……魔導士が任務中に負傷するなんて話はよくあるし、もしかするとそれが原因で魔導士として仕事ができなくなるかもしれない。そうなった時、家族が居ればいいけど居ない人はどうやって生活するんだい?』
『それは……』
『それに退職していく魔導士は毎年のように居るんだ。もしもデバイスが人間らしくなって……人間と同じように活動ができるようになったのなら救われる魔導士も多いはずだよ。グリード、オレはね……』

 恐れなんてない。
 ただ自分が思ったことを思ったままに為す。
 そう意思が感じ取れる昔と何ひとつ変わらない輝いた瞳であいつは言うのだ。

『デバイスを兵器として扱いたくないんだよ。人工とはいえ知能を有しているんだ。ならデバイスは家族のような存在になれると思う。だからオレは少しでもデバイスが人間らしくなるように研究していくよ。まず最初は……人型のフレームでも作ってみようかな』

 馬鹿げている。そんなことをして何になるというのだ。たとえその研究が上手くいったところでデバイスに革命的進歩は訪れない。
 人間らしいデバイス……それに人型フレームだと。
 人型のデバイスが出来たところで何になる。負傷して魔導士でいられなくなった者などタダの役立たずではないか。退職した魔導士も同じように役立たずだ。
 にも関わらず……そういう人間のために研究をするだと?
 私よりも優れた頭脳を持ちながらくだらないことのためにそれを使う。

 ふざけるな!

 才ある者はそれを使う義務がある。それを放棄するとは貴様はろくでなしだ。
 そのように心の中で罵った。そうしなければ目の前の天才に心が砕かれそうだったからだ。
 その日を境に私はあの男と顔を合わせなかった。あの男が亡くなった際も葬式には顔を出さなかった。あいつの顔はたとえ写真でも二度と見たくなかったからだ。
 いや……ここでだけ本当の胸の内を語ろう。
 あいつが死んで私は嬉しかった。これで私以上の頭脳を持つ者はいない。ならば私の時代が訪れる。今まで私が輝く日はなかったが、これからは私の時代が訪れるのだと。
 だが……!
 そう思ったのもつかの間、あの女が……あの男の妹が私の前に現れたのだ。
 兄以上にズボラで研究以外のことに興味のない女。けれど頭脳は兄よりも劣っている。それが私の抱いている印象だった。

 だが……だがだがだがだがだがだがだが!

 結果的にはどうだ。
 兄の研究していた人型デバイスの研究を引き継ぎながら他の分野でも結果を残していく。いくつもの論文や技術を世間へ発表し、兄よりも遥かに他を避け付けない勢いで天才の称号を手にした。
 しかも……兄の方はまだ私のことを認識していたというのにあの女は私に対して何の興味も抱いていない。興味があるのは研究のみ。
 他に興味が抱いていたことがあるとするならば、それは兄達が残した幼い子供の事だけ。
 あの女こそ真の天才。他人などに興味はなく自分が思うがままに進み続ける。それで結果を残し続ける者を天才と呼ばずに何と言う!

 あぁそうさ……私はどう足掻いても天才にはなれない。

 どれだけ努力しようと秀才としか呼ばれない。
 あの兄妹……ナイトルナの血筋には勝てないのだ。それが我がナハトモーント家の宿命。血筋で全て決まるとは思っていないが、少なくとも技術者としては勝ち目がない。
 そう心の底から理解させられた私は、それからこれといった目的もなくただ生きていくだけの日々を送っていた。あの日……テレビに映るナイトルナ家の息子を見るまでは。
 最初こそ誰だか分からなかったが、あの男に似ている気がした。あの男の連れの要素もあったものの気になった私は徹底的にその男を調べ上げた。
 そしたらどうだ。思った通りあの男の息子ではないか。
 技術者として大成功を収めているナイトルナ家が魔導士としても成功を収める?

 ふざけるな……ふざけるなふざけるなふざけるな!

 天は二物を与えないものだろう。
 それがどうしてナイトルナ家だけ。私はこれまで血の涙を流すほどの努力をし、それでもナイトルナ家には敵わなかったというのに。
 ナイトルナ家は私に恨みでもあるのか。私に再び絶望を味合わせようというのか。

 許さない
 許さない許さない許さない
 許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない……
 許してなるものか!

 不公平、不公平すぎるだろう。なぜ私はここまで苦しまなければならない。どうしてあの家に負け続けなければならないのだ。
 そもそもどうしてナイトルナ家の小僧には魔導士としての資質がある。
 あの家は技術者としては優秀な血筋だが魔導士としては二流どころか三流も良い家系なのだぞ。だからこそ同じ血が多少なりとも流れている我が家からも優秀な魔導士は生まれていないのだ。
 それがどうしてあの家だけ……私から全ての栄光を奪って行ったあの男の息子だけ魔導士として活躍できる。しかもあの時あいつが言っていたことが正しかったかのように人型のデバイスと共に。
 叔母のコネか? それとも金か?
 あぁそうだろう。そういう汚い手段を使って相応の立場を手に入れたのだろうさ。あの叔母が面倒を見ているのだ。さぞあの人型デバイスも素晴らしい性能を持っているのだろう。
 そうだ……そうに違いない。
 ならば騙されている世間に気づかせなければ。
 ナイトルナ家の息子は魔導士として優秀なわけではない。父や叔母が関わったデバイスが優秀なだけなのだと。
 だがどうする。
 私には魔導士としての資質はない。デバイスの優劣ならば様々なデータを取れば証明される。だが魔導士としての能力を問うとなると……

「……そうか」

 簡単な話じゃないか。
 私はデバイスマイスターだ。だがその腕はあの叔母に劣る。ならばそれを逆手に取ればいい。
 私が作ったデバイスであの小僧を倒す。そうすれば魔導士としての無能さは証明されるだろう。それに……

「模擬戦という形であるならば……不幸な出来事が起きてしまう可能性はあるのだからな!」

 私がこれから起こそうとしているのは正義の執行。騙されている民衆の目を覚ますための行いだ。

「フフフ……フフフフフ……フハハハハハハハハハハッ!」

 待っていろナイトルナ家の息子よ。
 私が貴様に正義の鉄槌を下してやろう。自身が大切にしていたものが傷つき崩壊していく様を楽しみに待っているがいい。

「まあ……私は悪魔ではない。だから最後は……きちんと楽にしてあげよう」

 そうと決まればさっそく行動しなければ。
 やることが決まった以上、時間を無駄にするのは愚の骨頂。時間というものは有限なのだから大切に使わなければ。

「まずは……魔導士を調達しなければな」

 しかし、ただの魔導士ではデバイスの能力差で負けてしまうかもしれない。
 それに私に反抗的な態度を取るような者はダメだ。そのような者に私のデバイスを扱う資格はない。いや、私の正義に加担していいわけがない。ならば

「……フフフ。まさに打ってつけな技術があるじゃないか。人形を作り出すのに素晴らしい技術がな」


 
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