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黒きローブの勇者

作者:りったん
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昔の思い出

 
前書き
よろしくお願いします。 

 
うるさい目覚まし時計の音がしない。
なんだかいつも聴いていたあの音が懐かしく思えた。
その瞬間、俺の日常は非日常に変わる。
日常は日常でないと思った瞬間から非日常に変わるのだ。
俺は今日から、非日常を生きる。
俺の隣には白いローブを纏った少女がまだ寝息を立ていた。
昨日は暗がりもあって気がつかなかったが、かなりの美少女である。
白く輝く長い髪に、整った顔だち、まるで人形のようにすらっと長く細い足、透き通るような白い肌。
しばらく見とれていると、シエスタの眼から一滴の涙がこぼれ落ちた。
そして。

「おか、あ、さま......」

その寝言を聞いて、俺は思った。

この子もまだ子供なんだな。

俺はシエスタに制服の上着を被せてやり、家から出る。
暇だった俺はその辺を散歩することにした。
しかし、武器も戦闘技術も力もない俺は、あまり遠くへは行かないようにした。
俺1人でいるところでモンスターに遭遇した時に、厄介なことになるからだ。
少し歩いたところで、俺はある生き物を見つけた。
それは俺のいた世界でいう、ウサギだった。
まだこちらに気がついていないようだ。
俺は少し考えて、これも生きるためだと思い、意を決してウサギを仕留めることにした。
先ほど家を出る時に持って来たシエスタの投げナイフを構える。
狙いを定め、息を殺し、少しずつ近づく。
そして、力を込めて放つ。

「おらっ!」

投げナイフはぎこちなく飛んで行ったが、確かにパワーはあり、ウサギの体に深くつき刺さった。
動かなくなったウサギを抱えて、シエスタの眠る家へと帰還。
シエスタはまだ眠っているようだ。
小さい頃から料理だけは得意だった俺は、台所にあった大きな包丁を使い、慣れた手つきでウサギを裁く。
そして、オークが使っていたのであろう鍋を使い、木箱の中に入っていたこの世界の野菜と一緒に煮込む。
味付けは、塩。
さっき舐めてみて、この黒い砂は塩であることがわかった。
15分ほど煮込んだところで、いい匂いがして来た。
さらに15分煮込んで、仕上げに先ほどウサギを狩ったあたりになっていた木の実を、香りづけとして入れる。
もちろんこれも毒味済みだ。
俺はまだ起きないシエスタを起こしに行くことにした。

「朝だ、おきろー」

と言って、肩をぽんぽんと叩く。
すると、シエスタは眼をパチパチさせて、今の状況を察するのだった。

「いい匂いがする」

「朝ごはんを作ったんだが、食べるか?味の保証はできないけど」

「いただく」

シエスタは外の川で顔を洗った後、俺と一緒に朝食をとった。

家族以外とこうして食事をするのは何年ぶりだろう。

そんなことを思い、朝食を終えた。
そして、俺たちは王都へと出発するのだった。
シエスタの母親を殺したというオークの死体はオークの家とともに燃やして。
すっきりとしたような顔をしているシエスタだが、何処か寂しげな表情も見せていた。
しばらく道なりに歩いていくと、とある町が見えてきた。
見た感じは小規模な村といった感じだが、建物が中世ヨーロッパ風で、村というよりも町に見えた。

「ここからはリザードドラゴンでいくからレンタルしてくるね、時間がかかるかもしれないから店とか見て回っててー」

そう言ってシエスタはどこかへ行ってしまった。
仕方なく俺はこの町の観光をすることにした。
まず、近くにあった食べ物屋へと歩みを進めた。

「いらっしゃーい、何にしやすか?」

気さくに出迎えたのは赤い髪をした中年くらいのおっさんだった。

「えっと、これ下さい」

俺が指差したのは、何かの肉とレタスのような葉と紫色をした野菜が挟んである、いわばサンドウィッチのようなものだ。

そういえば金持ってなかったな。
どうしよう。


そう言って制服のポケットを漁っていると、家の鍵が出てきた。

「これで、ダメですかね?」

店のおっちゃんは俺が手渡した鍵を不思議そうに眺めていた。

「こんなもん見るのは初めてだ、いいのか?」

「別にいい、それと、その食べ物と交換だ」

「まあ、あんたがいいならいいんだ。おまけだ、持ってけ」

おっちゃんはそう言って、サンドウィッチらしき食べ物を2つくれた。

町の真ん中にあるベンチに腰掛け、サンドウィッチを食っていると、なぜか通りすがる人が俺をジロジロと見る。
多分ここの人たちにとって、俺のきている制服はとても珍しいものなのだろう。
サンドウィッチを食べ終えて、さて観光の続きをしようとした時、シエスタの声がした。

「リザードドラゴン、レンタルしてきたからいきましょう」

「あ、ああ、でもよく俺がいる場所がわかったな」

「千里眼使ったからね」

「千里眼?」

「魔法だよ、まあ下級魔法だけどね」

「魔法が使えるのか!?」

「何をそんなに驚いているの?誰でも使えるじゃない」

そうか、この世界では魔法を使えることが日常になっているのか。

「実は俺、魔法使えないんだ」

「そうなの?教えてあげようか?」

「俺でもつかのか?」

「まあ、素質で色々強さとか変わるけど、下級魔法は誰でも使えるはずよ」

「おお!じゃあ、教えてくれ!」

「待って待って、それは王都についてからにしましょう。多分今日1日でつくと思うから」

「わかった、約束だぞ!」

「はいはい」

俺たちはリザードドラゴンという、移動手段として重宝されている生物の元へと向かった。
リザードドラゴンはトカゲに羽が生えたような見た目で、人の10倍ほどの大きさである。

「おわっ!」

「ちょっと、気をつけてよ落っこちちゃうじない」

「ご、ごめん、初めて乗ったからちょっと驚いただけだ」

俺たちがリザードドラゴンにまたがると、レンタル屋のおっちゃんが、リザードドラゴンの綱を引き、小屋の外へと誘導した。

「それでは落っこちないようお気をつけ下さい」

その言葉を合図としてリザードドラゴンが地を思いっきり蹴って、羽を広げた。

バサッバサッ

大きな羽音を立ててリザードドラゴンが飛び立つ。

「うおお!これは凄いな!」

ものの数分で俺たちがいた町は遠く見えなくなった。
リザードドラゴンの背中には俺と、シエスタと、リザードドラゴンを操縦する男の人が乗っていた。

「なあ、シエスタ」

「何?」

「実はな、俺も妹を亡くしたんだ」

「そうだったんだ......」

「昔のことだ、気にしないでくれ。でも、家族を亡くす痛みは俺もわかっているつもりだ、だから元気出せ」

そう、俺は去年、妹を亡くしている。
妹は学校の帰り道、通り魔に襲われて死んだ。
いつも一緒に帰っていたのに、その日だけは友達のとの約束で妹とは帰らなかった。
あの時一緒に帰っいればこんなことにはならなかった。
あの日、一緒に連れてくればこんなことには。
そんな事も、妹が死んでしまった今になってはどうしようもない事だ。
俺はその通り魔を恨んだ。
殺してやりたいと思った。
しかも、その通り魔は中学生で1年ほど少年位に入っただけで、いつものように過ごしている。
なんなんだこの理不尽な世界は。
両親ともに、妹が死んだショックはとても大きく、仕事に熱中するようになった。
あいつさえいなければ、あの中学生さえいなければ。
そしてある日、俺は妹の机の中からある手紙を見つけた。

『お兄ちゃん誕生日おめでとう』

手紙にはそう書かれていて、間に四つ葉のクローバーのしおりが挟み込まれていた。
その日から俺は、誰も信用しないようにするようになった。
周りは敵、それだけを思って過ごした。
その思いは今も変わらない、いや、変えない。
人なんて、信用なんかできない。
俺が信用するのは家族と、そして、今はない妹だけだ。

「うん、君もね」

それから俺たちは王都ヴァルカンに着くまで一言も話さなかった。
 
 

 
後書き
ありがとうございました。 
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