英雄伝説~灰の軌跡~
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外伝~メンフィル・エレボニア戦争の和解調印式~ 第2話
~グランセル城・会議室~
「今回の戦争勃発の原因の一端を担っているのは貴族連合軍であると先程口にしたばかりだが………貴族連合軍以外にも戦争勃発―――メンフィル帝国領であるユミルが襲撃された原因はアルフィン皇女。自身が貴族連合軍に狙われている身でありながら他国の貴族であるシュバルツァー男爵を頼ったばかりか、我等メンフィル帝国政府にシュバルツァー男爵の保護を受けている事を内密にしていた貴女もその一端を担っている事は理解しているな?」
「はい………第二条はカイエン公のようにメンフィル帝国が求めるわたくし自身に対する処罰と言う事なのでしょうか……?」
「………………」
クローディア姫に続きを促されて説明を続けたシルヴァンはアルフィン皇女に問いかけ、問いかけられたアルフィン皇女が肯定している中エルナンは複雑そうな表情で黙り込んでいた。
「そうだ。最初はアルフィン皇女も処刑するかエレボニア皇家から廃嫡させるべき等というアルフィン皇女に対する厳しい意見もあがったが、アルフィン皇女はまだ10代の少女。皇族とはいえ、成人もしていない者が内戦の最中適切な判断ができるとは常識的に考えれば厳しい上アルフィン皇女は”被害者”としての面もある為、情状酌量の余地もあると判断され、アルフィン皇女に対する処罰は第二条の内容――――”政略結婚”という形で収まった。」
「そ、その……お言葉ですが皇女殿下の罪が情状酌量の余地があるとメンフィル帝国にも認めて頂いているのですから、政略結婚以外で皇女殿下が貴国に償う穏便な方法は無かったのでしょうか?」
シルヴァンの説明を聞いたダヴィル大使はアルフィン皇女を何とか守ろうと思い、シルヴァンに意見した。
「―――逆に聞かせてもらうが、戦争勃発の原因である”戦犯”に対する処罰方法として”政略結婚”でも”穏便な処罰方法ではない”とダヴィル大使は思うのか?常識的に考えれば戦争勃発の原因になった戦犯は例え皇族であろうと処刑、もしくは廃嫡が求められるぞ。」
「そ、それは………」
「――――シルヴァン皇帝陛下の仰る通りですわ。メンフィル帝国の御慈悲に心から感謝し、わたくしはわたくしが嫁ぐ方を誠心誠意支える所存です。」
シルヴァンの正論にダヴィル大使が反論できず口ごもっている中アルフィン皇女は決意の表情で答えた。
「皇女殿下……本当によろしいのですか?」
「はい。シルヴァン陛下の仰る通り、今回起こってしまった両帝国の戦争の責任の一端はわたくしも担っています。ですからわたくしもカイエン公や今回の戦争で既に討たれたアルバレア公達のように償いをしなければメンフィル帝国だけでなく、エレボニア帝国の民達も納得しませんわ。」
「皇女殿下…………」
自分の質問に対して辛そうな表情で答えたアルフィン皇女の様子をダヴィル大使は心配そうな表情で見つめ
「……その、シルヴァン陛下。アルフィン皇女殿下はどなたに嫁ぐ事になっているのでしょうか?」
ダヴィル大使同様心配そうな表情でアルフィン皇女を見守っていたクローディア姫はシルヴァンにある事を質問した。
「ユミルの領主であるテオ・シュバルツァー男爵の息子――――リィン・シュバルツァーだ。」
「………え………」
「ええっ!?ちょ、ちょっと待ってください!リィン・シュバルツァーさんと言えば確か……!」
「今回の戦争勃発の原因となったユミルの領主のご子息にして両帝国の戦争で手柄をたてた事によって、今回の和解調印式が行われる事を導いた立役者ですね………―――シルヴァン陛下、何故メンフィル帝国はアルフィン皇女殿下をリィン・シュバルツァーさんに嫁がせる事にしたのでしょうか?」
シルヴァンの答えを聞いたアルフィン皇女は呆けた表情をし、クローディア姫は驚きの声を上げ、アリシア女王は静かな表情で呟いた後シルヴァンに問いかけた。
「様々な理由はあるが、一番の理由はリィン・シュバルツァーが”クロイツェン州の次期統括領主”だからだ。」
「!?お、お待ちください………!クロイツェン州の現統括領主は”アルバレア公爵家”―――いえ、エレボニア帝国が統治権を所有しています!なのに、何故貴国が我が国の領土の統治権を貴国の統治権として主張するような事を口にされるのですか……!?」
シルヴァンの説明を聞いたダヴィル大使は血相を変えて反論したが
「クロイツェン州がメンフィルの領土となる事は和解条約の第三条にも書いてあるだろうが。――――エレボニアがクロイツェン州全土もメンフィルに贈与する事を。先に言っておくがこの後の交渉でクロイツェン州の贈与を撤回する事は一切考えていないぞ。」
「そ、それは………」
シルヴァンの答えを聞くと表情を青褪めさせて黙り込んだ。
「あの……リィンさんはわたくしがリィンさんに嫁ぐ件についてはご存知なのでしょうか?」
「手柄の件で表彰した際に既に説明している。――――勿論リィン・シュバルツァーの”6人の婚約者達”にもな。」
「ええっ!?ろ、”6人の婚約者達”って………リィンさんは既にそんなにも多くの女性達と婚約していたのですか!?」
アルフィン皇女の質問に答えたシルヴァンの答えを聞いて驚いたクローディア姫は信じられない表情でシルヴァンに訊ねた。
「まあな。とは言ってもその内の4人はリィン自身が契約している異種族達だが。」
「まさかリィン・シュバルツァーさんがエステルさんのように多くの異種族達と契約しているとは………と言う事はその契約している異種族の方達は全員異性―――女性なのですか?」
苦笑しながら答えたシルヴァンの答えを聞いたエルナンは信じられない表情で呟いた後シルヴァンに訊ねた。
「ああ。―――よかったな、カシウス准将?もしエステルが契約している異種族達の性別が男性ばかりだったならば、下手をすればエステルを取り合って修羅場に発展していた可能性も考えられたぞ。」
「……そうですな。陛下の仰る通り、あの娘が契約している人型の異種族達の性別が全員女性で私もヨシュアも”色々な意味”で助かりましたな。」
「ア、アハハ………」
口元に笑みを浮かべたシルヴァンの冗談を交えた問いかけにカシウスは疲れた表情で同意し、その様子をクローディア姫は苦笑しながら見守っていた。
「………シルヴァン陛下。七耀教会は一夫多妻―――多重結婚は認めておりません。よってリィン・シュバルツァー殿とアルフィン皇女殿下を含めた複数の女性達との結婚式を挙げる事はできませんが……その点についてはどうお考えなのですか?」
「フッ、どうやらカラント大司教は勘違いをしているようだな。」
カラント大司教の指摘に対してシルヴァンは不敵な笑みを浮かべて答えた。
「勘違い、ですか?それはどのような勘違いでしょうか。」
「何故一夫多妻を認めていない七耀教会にわざわざ一夫多妻の結婚式を頼むと思っていたのだ?”現在のゼムリア大陸で結婚式を取り仕切る宗教は七耀教会だけではないぞ。”」
「!まさか……アーライナ教、もしくはイーリュン教に彼らの結婚式の依頼をするおつもりなのですか……!?」
「そう言えばアーライナ教とイーリュン教は七耀教会と違い、多重結婚を認めていましたね……」
シルヴァンの指摘を聞いてある事に気づいたカラント大司教は目を見開いた後真剣な表情でシルヴァンに問いかけ、クローディア姫は静かな表情で呟いた後複雑そうな表情でカラント大司教に視線を向け
「リィン・シュバルツァーは将来クロイツェン州という広大な領土を治める統括領主になる事が内定している上今回の戦争で数々の手柄をあげたからな。メンフィル帝国としてもリィン・シュバルツァー達の結婚を最大限に祝ってやる為にリィン・シュバルツァー達の結婚式を取り仕切る司祭はペテレーネとティア姉上に務めてもらう予定だ。」
「”ゼムリア二大聖女”と称えられている御二方に取り仕切ってもらうなんて、相当名誉な結婚式になるでしょうね……」
シルヴァンの説明を聞いたエルナンは複雑そうな表情でカラント大司教に視線を向けて呟いた。
「―――つまりリィン・シュバルツァー達の結婚の件で”一夫多妻を認めていない七耀教会は最初からお呼びでない”という事を理解しただろう、カラント大司教?」
「…………ッ……………!」
「え、えっと……リィンさんの6人の婚約者の内4人はリィンさんが契約している異種族の方達との事ですが、残りのお2人はどのような立場の方なのでしょうか?」
不敵な笑みを浮かべたシルヴァンの指摘を聞いて唇を噛みしめて厳しい表情でシルヴァンを睨んでいるカラント大司教の様子を見たクローディア姫は場の空気を変える為にシルヴァンに質問した。
「一人はルクセンベール卿の妹君であるセレーネ・アルフヘイム・ルクセンベール嬢です。」
「え………セレーネちゃんがリィンさんの……!?」
「クローディアはそのセレーネ嬢という方の事を知っているのですか?」
セシリアの答えを聞いて驚いている様子のクローディア姫が気になったアリシア女王はクローディア姫に問いかけた。
「は、はい……彼女はリィンさんと同じ”特務支援課”の一員でしたから、”西ゼムリア通商会議”で彼女とも会う機会がありましたので……ただ、私の記憶では彼女はティータちゃんやレンちゃんくらいの幼い少女でしたが……」
「そのセレーネ嬢だが、リィンと共に”特務支援課”での派遣任務を終え我が国に帰還した際ミントやツーヤのように”成長”し、”成竜”と化している。」
「ええっ!?と言う事はセレーネちゃんもミントちゃん達のように大人の姿へと成長したのですか……」
(”ミント達と同じ”……と言う事はそのセレーネ嬢とやらもミント達と同じ”パートナードラゴン”なのでしょうね………)
(それにあのツーヤちゃんの妹と言う事は絶対可愛いに決まっていますよね!う~ん、どんな娘なのか、気になるな~♪)
シルヴァンの説明を聞いたクローディア姫は驚いた後呆けた表情で呟き、シェラザードはある推測をし、アネラスはまだ見ぬセレーネの姿を想像して目を輝かせていた。
「―――話を続ける。残り一人のリィン・シュバルツァーの婚約者はシュバルツァー男爵夫妻の娘にしてリィン・シュバルツァーの妹であり、我が娘リフィアの専属侍女長を務めているエリゼ・シュバルツァーだ。」
「ええっ!?エ、エリゼさんまでリィンさんの婚約者なのですか!?」
「なっ!?シルヴァン陛下!多重結婚に加えて近親婚までする等、幾ら結婚式を七耀教会に頼らないとはいえ、あまりにも暴挙ではございませんか!?」
シルヴァンの説明を聞いたアルフィン皇女が驚いている中信じられない表情をしたカラント大司教はシルヴァンに意見をした。
「お二人は血は繋がっていない兄妹ですから、近親婚にはならない為、何の問題もありませんわよ。」
「え………そ、そうなのですか?」
セシリアの指摘を聞いたクローディア姫は目を丸くしてシルヴァンに訊ねた。
「ああ。元々シュバルツァー男爵夫妻の子供はエリゼだけだったが、ある日シュバルツァー男爵が雪山に捨てられていたリィンを拾い、養子にしたとの事だ。その件を考えるとリィンが両親の為に今回の戦争を和解へと導く事を決めた理由の一つは、”捨て子”だった自分を大切に育ててくれたシュバルツァー男爵夫妻への恩返しの意味もあるだろうな。」
「それは…………」
「………………」
シルヴァンの説明を聞いたクローディア姫は複雑そうな表情をし、アリシア女王は目を伏せて黙り込んでいた。
「それとカラント大司教。先程近親婚について”暴挙”と口にしたが、我が妻の一人であるカミーリは腹違いの私の妹だ。まさかとは思うが、七耀教会はメンフィル皇帝である私の夫婦関係まで否定するつもりか?もしそのつもりであるのならば、ゼムリア大陸に存在しているメンフィル帝国領にある七耀教会の支部の撤退命令も考える。」
「加えてカミーリ様と陛下の夫婦関係を否定するという事は御二方のご息女であり、次代のメンフィル皇帝であられるリフィア皇女殿下の存在をも否定する事になります。もしそのような事がメンフィルの民達に知られれば、最悪”メンフィル帝国と七耀教会との戦争”もありえるでしょうね。」
「そ、それは…………い、いえ、七耀教会はそのような恐れ多い事は一切考えておりません。何も考えずに近親婚を”暴挙”と口にしてしまい、誠に申し訳ございませんでした。どうか、お怒りをお鎮め下さい。」
不愉快そうな表情をしているシルヴァンと厳しい表情をしているセシリアに視線を向けられたカラント大司教は表情を青褪めさせて謝罪した。
「……フン、わかればいい。話をエリゼ達の件に戻すが、エリゼが妻としての序列一位である”正妻”に、セレーネ嬢が序列二位と既に婚約者達の序列も決まっている。よって、アルフィン皇女の妻としての序列は最下位である七位になる。」
「何ですと!?シルヴァン陛下、何故リィン殿に嫁ぐ皇女殿下の序列が最下位なのですか!?殿下はエレボニア帝国唯一の姫君にして”帝位継承権”もお持ちになられているのに、何故皇女殿下を差し置いて男爵令嬢が正妻に……」
シルヴァンの話を聞いて驚いて声を上げたダヴィル大使はシルヴァンに反論をし
「正確に言えばエリゼは男爵令嬢ではなく男爵―――いや、女性の男爵だから女男爵になる事が内定している。」
「え………ど、どういう事でしょうか?シュバルツァー家の跡継ぎはリィンさんである事をメンフィル帝国も認めていると事ですのに、何故エリゼさんが”シュバルツァー男爵”に……?」
シルヴァンの答えを聞いたクローディア姫は困惑の表情で訊ねた。
「エリゼ・シュバルツァーはリィン・シュバルツァー同様今回の戦争で手柄をあげたので、褒美として彼女自身に”男爵”――――爵位を授けました。よって、エリゼ―――いえ、エリゼ卿は”シュバルツァー公爵家”の”分家の当主”ですから”本家”である”シュバルツァー公爵家”の跡継ぎはリィン・シュバルツァーという事になっています。」
「なお、セレーネ嬢もエリゼと共に手柄をあげた為、褒美として彼女にも爵位を授ける事になり、セレーネ嬢は”ルクセンベール伯爵家”の分家として”アルフヘイム子爵家の当主”になる事が内定している。」
「セレーネちゃんまで、ツーヤちゃんやミントちゃんのように貴族の当主に…………」
セシリアに続くように答えたシルヴァンの説明を聞いたクローディア姫は驚きの表情で呟いた。
「御二方がやんごとなき身分を授かる事は理解しました。し、しかしてそれでも皇女殿下の血筋の方が上なのでは……?」
一方ダヴィル大使は反論を続けたが
「――――下らん。メンフィルは”実力主義”。エレボニアの愚かな”血統主義”と違い、メンフィルは”出自がどのような者”であろうと、その者が示した信用や実力を正当に評価している。我が娘にして次代のメンフィル皇帝であるリフィアの専属侍女長を務めている事によって私を含めたメンフィルの皇族、貴族達から信頼されているエリゼが将来クロイツェン州の統括領主となるリィンの正妻に認められて当然だ。」
シルヴァンはダヴィル大使の反論を切り捨てた。
「……シルヴァン陛下、血統主義を”愚か”と評するのはさすがに言葉が過ぎると思われるのですが。」
その時アリシア女王はシルヴァンに指摘したが
「”血統主義”を保ちたいが為に”尊き血”を重要視している貴族連合軍が内戦を引き起こし、挙句の果てには他国である我等メンフィルをも巻き込んだのだから”血統主義”を”愚か”と評して何が悪い?」
「それは…………」
「………………」
シルヴァンの正論に反論できず黙り込み、クローディア姫は複雑そうな表情で黙り込んでいた。
「そもそも血筋の面でもアルフィン皇女にエリゼを含めたリィンの婚約者達に勝ち目は一つもないがな。」
「それはどういう事でしょうか……?」
そしてシルヴァンの口から語られた話が気になったダヴィル大使はシルヴァンに問いかけた。
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