亡命編 銀河英雄伝説~新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
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第三十九話 互角
帝国暦 485年 12月20日 オーディン ラインハルト・フォン・ミューゼル
オーディンについて十日が経った。この十日の間にイゼルローン要塞攻防戦の軍功が評価され新たな人事が発表された。少将に昇進した。イゼルローン要塞攻防戦で敵の作戦を見破り、陸戦隊の迎撃に功が有ったと評価されたらしい。まあ当然ではあるが、それでもやはり昇進は嬉しい。
役職は帝国宇宙艦隊総司令部付、以前と変わらない。つまり次の出征までの臨時の席だ。一つ間違えば装甲擲弾兵の指揮官という可能性もあったはずだ、そうならなかった事にホッとしている。装甲擲弾兵を馬鹿にするつもりはないがやはり俺は艦隊を率いて宇宙で戦いたい。
「リューネブルク少将」
「ああ、ミューゼル少将か」
軍務省から出てきたところをみると新たな辞令を受けたのだろう。表情が明るい、悪い人事ではなかったようだ。昇進しても閑職に回されるということもある。特に彼は亡命者だ、不安が有っただろう。
「新たな辞令を受けたのかな」
「うむ、装甲擲弾兵第二十一師団の師団長を命じられた」
「ほう、それはそれは、……近来稀にみる名人事だ」
俺の言葉にリューネブルク少将は苦笑交じりに“からかうな”と言ったが頬は緩んでいる。俺はからかったつもりは無い、リューネブルクの陸戦隊指揮官としての能力は傑出したものだ。間違いなく近来稀にみる名人事だろう。
それに少将で師団長というのは間違いなく抜擢だ。本来なら副師団長と言ったところだ。上層部、いやこの場合はオフレッサーだろうが彼はリューネブルクを高く評価している。リューネブルクにとっても悪いことではない。オフレッサーは信頼できる男だ。彼の頬が緩んでいるのもそれが分かっているからだろう。
「卿はどうなのだ、昇進はしたが新たな役職は決まったのか」
「総司令部付だ、但し艦隊は三千隻を率いる事になった」
「良かったではないか、上層部は卿の才幹を正しく評価しているようだ」
「それでも卿には及ばない、卿は一個師団を率いるのに俺は三千隻だからな」
俺の言葉にリューネブルクが笑い声をあげた。
「率いる将兵の数は卿の方が多いのだぞ、それだけの責任を持てる男だと評価されたのだ。文句を言うな」
「そうだな、愚かな事を言った。忘れてくれれば有りがたい」
俺の言葉にリューネブルクは笑いながら肩を叩く事で答えた。多少痛かったが我慢した。昇進し評価されたにもかかわらず、それに不満のある様な言動をする、危険な事だ。リューネブルクは冗談交じりにそれを窘めてくれたのだろう。
良い男と知り合う事が出来た。何故昔はこの男を嫌ったのか、今では不思議な思いがする。俺が変わったのか、それともリューネブルクが変わったのか、或いは両方か……。良く分からない、いや分からなくても良い、今が有る、それで十分だろう。思わず苦笑が漏れた。
「どうした?」
「いや、なんでもない。それよりこれからどうするのだ。予定が有るのか?」
「オフレッサー閣下のところに行こうかと思っている。御礼と御祝いの挨拶だ。卿もどうだ?」
リューネブルクが誘ってきた。確かに今回の戦いではオフレッサーに随分と世話になっている。挨拶に行くべきだろう。それとキスリングの事を聞かねばならない。彼の処遇はどうなるのか、リューネブルクも知りたいと思っているはずだ……。
「そうだな、俺一人では行き辛いが卿が一緒なら助かる。そうしよう」
「艦隊指揮官にとっては装甲擲弾兵総監部は行き辛いか」
「まあそうだ、イゼルローン要塞では装甲擲弾兵に胡散臭そうに見られて正直腐った」
俺の言葉にリューネブルクが笑い声を上げた。気が付けば俺も笑っていた。
オフレッサーは今回のイゼルローン要塞攻防戦での功績が認められ元帥に昇進することが決まった。宮廷の一部にはオフレッサーがヴァレンシュタインを帰した事で反対する意見もあったらしい。
だが軍務尚書エーレンベルグ元帥、統帥本部総長シュタインホフ元帥がオフレッサーの行為を擁護した。
“オフレッサー上級大将の行動は帝国軍人の矜持を守ったものである。それを認めねば帝国軍人はこれ以後何を規範として戦うのか? 我らをただの人殺しにするつもりか?“
両元帥の擁護によりオフレッサーは帝国元帥になることが決まった。陸戦隊の指揮官が元帥になるのは帝国の歴史の中でも数えるほどしかない。宇宙空間での戦いは艦隊戦が中心となる。そんな中で地上戦を主任務とする陸戦隊の活躍の場は極めて少ない。元帥にまで登りつめたオフレッサーは稀有の存在と言える。
悪い人事ではない、素直にそう思える自分が居た。以前なら石器時代の原始人が元帥かと冷笑しただろう。良く知りもせず、一部分だけでその人物を判断しようとしていた。オフレッサーも、そしてヴァレンシュタインも……。
気が付けばペンダントを握りしめていた。キルヒアイス、俺は大丈夫だ。お前が居なくなった事はどうしようもなく寂しい。だが俺はまた一歩前に進むことが出来た。これからも進み続けるだろう、だから俺を見守ってくれ……。
装甲擲弾兵総監部の総監室を訪ねると、二十分程待たされた。どうやら俺達以外にも祝辞を述べに来た人間が居るらしい。まあ無理もない、帝国元帥と上級大将では一階級の違いしかないがその影響力には雲泥の差が有る。
年額二百五十万帝国マルクにのぼる終身年金、大逆罪以外の犯罪については刑法を以って処罰される事は無く元帥府を開設して自由に幕僚を任免する事が出来る特権を持つ……。金、名誉、地位、特権、それを利用しようと近づく人間は当然いるだろう……。
部屋に入り、挨拶をしようとするとオフレッサーが吼えるような大声を出してソファーを指差した。
「礼など要らんし、祝いの言葉も無用だ、話が有る、そこに座れ。おい、しばらくの間誰も入れるな!」
相変わらず滅茶苦茶な男だと思ったが悪い気分はしなかった。リューネブルクを見ると彼も笑っている。考えてみれば俺達に祝いの言葉を述べられて照れているオフレッサーというのは想像がつかない。この方がいかにもオフレッサーらしい。
ソファーに座るとオフレッサーが忌々しそうに話しかけてきた。
「全く面倒なことだな、元帥になると決まったら訳の分からん連中が次から次へと来る。戦場に出たこともない奴にちやほやされてもな、うんざりだ」
心底嫌そうな表情をしている。耐えられなかった、思わず笑い声が出た。オフレッサーを笑うなどキチガイ沙汰だがそれでも止まらなかった。リューネブルクも笑っている。そんな俺達をオフレッサーが忌々しそうに見ている。それがまた可笑しかった。
一頻り笑い終えた後だった。オフレッサーが俺達を見てぽつりと呟いた。
「変わったな……」
「?」
「俺は卿らが嫌いだった。生意気で常に周囲を見下すような目をしていた。そう、卿らは周囲を蔑んでいたのだ。自分だけが正しいのだ、自分はもっと上に行くべき人間なのだと言う目をしていた。鼻持ちならない嫌な奴だ、そう思っていた」
「……」
「だがヴァンフリートで変わったな。あの敗戦で卿らは変わった。まああれだけ叩き潰されれば変わるのも当たり前か……。そして今も変わりつつある……。ミュッケンベルガー元帥に感謝するのだな」
「?」
ミュッケンベルガーに感謝? 良く分からない、思わずリューネブルクを見たが彼も訝しげな表情をしている。
宇宙艦隊司令長官ミュッケンベルガー元帥は先日辞職願を皇帝に提出した。皇帝フリードリヒ四世はその場での受理はしなかった。しかし今回の戦い振りが必ずしも芳しくなかったこと、ミュッケンベルガー本人の辞意が固い事から、その辞職は止むを得ないものと周囲には受け取られている……。
変わったと言うのは何となくわかるような気もする。以前に比べれば帝国の闇を知ったし、人というものを一面で判断してはならないとも理解した。なによりリューネブルクとこうして二人で居る事が出来る、以前なら有り得ないことだ。
オフレッサーが以前は俺を嫌っていたというのも分からないでもない。彼の俺を見る目は決して好意的なものではなかった。いや、俺に好意的な視線を向けた人間が居たか……、居なかったと思う。彼だけの問題ではない。だがミュッケンベルガー?
「ヴァンフリートの敗戦後の事だ、卿ら二人を死罪にすべしという声が上がったのだ」
「!」
思わず、オフレッサーの顔を見詰めた。オフレッサーは昏い目で俺達を見ている。
「グリンメルスハウゼン艦隊は壊滅した。生き残ったのは卿らを含めほんの僅かだ。味方を見捨てて逃げたと言われても否定はできまい」
「……」
オフレッサーの声は低く重い、のしかかってくるような声だ。確かに否定できない。あの時俺とリューネブルクは何よりも生き残る事を優先した。グリンメルスハウゼン艦隊が壊滅するであろうことを確信し、その上で生き残る事を選択したのだ。
あの艦隊の司令部は俺達の指摘する危険性を全く無視した。あのような馬鹿どもに付き合って死ねるか、そんな気持ちが有ったのは事実だ。見殺しにしたと言われても否定できない。いや、あれは見殺しにしたのだ。
「卿らを処断する事で味方の士気を引き締め、二度の敗戦は許さぬと皆に知らしめる……、誰もが納得するだろう。卿がグリューネワルト伯爵夫人の弟という事は関係ない、いやこの場合はむしろ好都合だろうな。寵姫の弟であろうと特別扱いはしない、軍律の前には皆が平等であるという事だからな」
知らなかった、そんな事が話し合われているとは全然知らなかった。知らなかったのは俺だけではない、リューネブルクの顔も引き攣っている。どのレベルで話されたのか、帝国軍三長官、そしてそれに準ずる男達、そんなところか……。
「だがミュッケンベルガー元帥はそれを拒否した……」
戦場で混乱したこと、グリンメルスハウゼン艦隊を救援できなかったこと、そして艦隊決戦で勝てなかったこと……。そのいずれもが自分の罪でありあの両名の罪ではない。
軍の拠って立つ処は信賞必罰に有る。罪なき者に責めを負わせてはその信賞必罰が崩れる事になる。責めを負わせることで軍の引き締めを図るのであれば、責めを負うのは自分であり、あの両名ではない……。
「卿らはミュッケンベルガー元帥に救われたのだ。当たり前の事だと思うなよ、反乱軍の事は聞いていよう」
俺もリューネブルクも頷いた。反乱軍の総司令官ロボス元帥は己個人の野心を優先させようとしたとの嫌疑で戦闘中に総司令官職を解任された。帰国後の裁判でも解任は正しかったとされロボスは失脚している。
運が良かった、ミュッケンベルガーとロボスが逆なら俺とリューネブルクは死んでいただろう。ミュッケンベルガーの矜持と識見に救われたのだ。ミュッケンベルガーは宇宙艦隊司令長官としては不運だったかもしれない。
しかし、イゼルローンで無理をせず撤退したことといい、他者に罪を押付けなかったことといい、容易にできる事ではない。見事な進退ではないか、ロボスを非難する人間は今後も現れるだろうが、ミュッケンベルガーを非難する人間が現れることはないだろう。
「俺は明日、ミュッケンベルガー元帥の屋敷に挨拶に行く、卿らも同行しろ」
「はっ」
俺達が頷くとオフレッサーも重々しく頷いた。
「説教は終わりだ、卿らの知りたがっていることを話してやる。キスリングの事をリヒテンラーデ侯と話した」
リューネブルクが俺を見た。そして躊躇いがちに問いかけた。
「如何でしたか」
「知らぬと言っていたな」
リューネブルクを見た、彼も俺に視線を向けている。どう思う? そんな感じだ。オフレッサーは憮然としている。思い切って問いかけてみた。
「嘘をついているのでしょうか?」
俺の言葉にオフレッサーは首を横に振った。
「分からんな、俺の頭ではそこまでは分からん……、食えぬ老人だからな。それによくよく考えれば他に候補者が居ないわけでもない」
「候補者ですか……、カストロプ公?」
俺が問いかけるとオフレッサーが苦笑した。どうやら外れたらしい、しかし他に誰が……。リューネブルクも訝しげな表情をしている。つまり俺と同レベルだ。
「例えば、ブラウンシュバイク公だな」
「!」
さらりとした言い方だった。確かにブラウンシュバイク公は贄の秘密を知っている。しかし、彼はキスリングの依頼を受けてリヒテンラーデ侯と折衝したはずだ。それなのにキスリングを殺す?
俺達が驚いているのが可笑しかったのかもしれない、オフレッサーが表情に人の悪い笑みを浮かべた。悪人面のオフレッサーがその笑みを浮かべると今にも人を殺しそうに見える。正直、勘弁してほしかった。
「公の娘は次の皇帝候補者の一人だ。贄の秘密が表に漏れればどうなる。一つ間違えば革命騒ぎになりかねん。公にとっては秘密を知る人間など皆殺しにしたかろうな」
「……」
笑いを含んだ声だが物騒な内容だ。つまり、キスリングだけではない、俺もリューネブルクもオフレッサーも危険だという事か。今更ながらキスリングの言った聞けば後悔すると言う言葉の意味が理解できた。あれは命の危険も含んでいたのだ。
俺達の沈黙をどう受け取ったのか、オフレッサーが楽しそうに言葉を続けた。
「候補者はもう一人いるぞ」
もう一人? 一体誰が? 秘密を知ったのは他にはフェルナーだけのはずだ。その彼が親友のキスリングを殺す?
「どうやらその様子では分かっておらんな、リッテンハイム侯だ」
「しかしリッテンハイム侯は秘密を知らぬ……」
リューネブルクが抗議したが最後まで言えず途中で止まった。オフレッサーはもう笑みを浮かべてはいない、厳しい表情で俺達を見ている。
「少しは脳味噌を使え、卿らの脳味噌は戦争以外には使えんのか」
「……申し訳ありません」
思わずリューネブルクと共に頭を下げていた。
しかしリッテンハイム侯? 彼とブラウンシュバイク公は次期皇帝の座を巡ってライバル関係に有る。秘密を共有するとは思えない。そしてリヒテンラーデ侯は秘密の共有者を増やしたいとは思っていないはずだ……。
オフレッサーが唸るような口調で話し始めた。呆れているのかもしれない。
「カストロプ公は大貴族だ、そして財務尚書でもある。彼を排除するとなれば事前に根回しが要るだろうが」
「……」
「いざ潰すという時になってリッテンハイム侯が反対したらどうなる? その時点で贄の秘密を話すのか? 侯はへそを曲げるぞ、何故前もって教えなかったとな。それに後任の財務尚書の事もある。おそらくは既にリヒテンラーデ侯、ブラウンシュバイク公、リッテンハイム侯の三者で話し合いがもたれたはずだ、その中で全ての秘密が共有され、そして後任の財務尚書も決まった……」
リッテンハイム侯も娘が次の皇帝候補者の一人だ。贄の秘密など表に漏れて欲しくは有るまい。つまりキスリングを殺す動機が有るという事か……。そして今では俺達を殺す動機を持つという事だ……。気が付けば俺は帝国の闇に首までどっぷりと漬かっていたらしい……。
「ミューゼル、リューネブルク」
「はっ」
思考の海に沈んでいた俺をオフレッサーの声が引き上げた。
「俺は元帥府を開く、卿らは俺の元帥府に加われ」
「はっ」
リューネブルクは躊躇う事無く答えたが俺は正直即答できなかった。オフレッサーの幕僚になるという事は陸戦隊指揮官になるという事だろう。それは俺の望むところではない。
「安心しろ、ミューゼル。卿に装甲擲弾兵を指揮しろとは言わん。これまで通り艦隊を指揮できるように交渉してやる。卿の後ろには俺が居るとはっきりさせた方がいい、そういう意味だ。孤立はもはや許されんと思え」
「はっ」
確かにそうだ、ブラウンシュバイク公、リッテンハイム侯、そしてリヒテンラーデ侯、その誰もが俺を殺そうとしてもおかしくない。そしてオフレッサーは陸戦隊の頂点にある。彼を敵に回すにはそれなりの覚悟が要る。場合によってはこのオーディンで地上戦を起こす覚悟が必要だろう。後ろ盾には最高の人物と言って良い、だが……。
「閣下、一つ教えていただきたいことが有ります」
「何だ?」
「何故、小官にそこまで御配慮下さるのか、教えていただけますか」
俺の言葉にオフレッサーはしばらくの間沈黙した。そして低い声で問いかけてきた。
「卿、先日の反乱軍の作戦、ミサイル艇を使っての攻撃をどう思った?」
おかしな展開だ。俺の質問に質問で返した。オフレッサーらしくない。
「狙いは悪くないと思いました。帝国軍が並行追撃作戦を恐れれば、どうしても注意は正面の艦隊に向きます」
俺の答えにオフレッサーは無言で頷いた。そしてソファーから立ち上がると総監室のスクリーンを操作しイゼルローン要塞を映した。
「卿がもし三千隻の艦隊の指揮官だとしてあそこにいた場合、どうする?」
妙なことを言う男だ。表情から判断すると俺をからかっているわけではない様だ。となると試しているのか……。だが何のために試す? 分からないが答える必要は有るだろう、俺はスクリーンに近づいた。俺につられるようにリューネブルクもスクリーンに近づく。
「小官ならこの位置に艦隊を置きます。ミサイル艇を側面から攻撃、防御力の弱いミサイル艇を撃破、その勢いのまま天底方面に移動、要塞主砲(トール・ハンマー)の射程範囲外に展開した反乱軍を攻撃する……」
「互角か……」
オフレッサーが呟いた。互角? 一体何を言っている? リューネブルクを見た、彼も訝しげな表情をしている。
「ミューゼル、反乱軍のミサイル艇による攻撃だが、それはヴァレンシュタインが考えたものではない。反乱軍のある参謀が考えたものだ。ヴァレンシュタインはその作戦案を見たとき、即座に三千隻で潰せると言ったそうだ」
「!」
オフレッサーが、リューネブルクが俺を見ていた。だが俺は何もできなかった、話すことも頷くことも。そしてオフレッサーが言葉を続けた。
「情報部がフェザーン経由で入手した情報だ。統帥本部の参謀は三千隻で何故その作戦が潰せるのかが当初分からなかった。分かった時には感嘆したそうだ、見事だとな。俺も卿に同じ言葉を贈ろう、見事だ、この宇宙で二人だけが同じ事を考えた」
オフレッサーが俺を褒めている。しかし俺は喜ぶことなどできない。無意識にロケットペンダントを握っていた。
「そしてヴァレンシュタインはこう言ったそうだ。帝国にはラインハルト・フォン・ミューゼルが居る。彼なら必ずこれに気付くと……」
「!」
背筋に悪寒が走った。真綿で喉を絞められるような恐怖感だ。オフレッサーの言った互角と言う言葉の意味がようやく分かった。だが本当に互角か? 負けられないという思いと勝てるのかという疑問が何度も胸に湧きあがった……。
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