IS〈インフィニット・ストラトス〉駆け抜ける者
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第32話
織斑先生に先導され到着した場所、要はISの模擬戦闘による適性を測る会場なのだが、相手を連れてくるから準備して待てと言われ、俺はヴァンガードの細かいチェックをしていた。
試験だから、勝ち負けは判断に結び付きはしないが、ヴァンガードの性能に対して環境がよろしくない。
元々速度に特化したヴァンガードは、行動領域に限りのない屋外での運用を前提としている。
故に、空間が限定されると力を十全には発揮できないのだ。
『…待たせたな、我々は別室でモニターさせてもらう。お前の相手をするのは…』
何処からかアナウンスされる織斑先生の声にチェックを切り上げ、相手を確認すると、
「ホントにお兄大丈夫なの?いくらたまたまISを動かせたからって…、男の人!?お兄!相手も男の人だよ!?」
「みたいだな。俺以外にも奇跡があったな。…昔から、さ」
『お前と同じく男のIS操縦者、ゼロ・グランツ。ただし、そのままでは差がありすぎるのでその妹の『ミラ・グランツ』も同時に相手をしてもらう』
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見つめる先のゼロは以前のイケメンぶりはそのままに、柔和な雰囲気が薄く出ていた。その隣の妹さん、ミラだったか?も白騎士事件の時から順調に育ちましたといった感じの美少女だ。男女の違いはあれど、よくよく似ている。
そんな時の流れを感じながら、ゼロから声をかけられる。
「お互い、ツイてるのかツイてないのかわからないな?こんなことをやらされて」
「…言いたいことはわかる。…ふむ」
会話しながら考える。才能はあれど、専用機もないゼロでは力不足も甚だしい。一発で終わってしまいかねない。
織斑先生もそれを承知で、助っ人に妹をつけるのだから、相応に実力者と見ていいだろう。…探ってみるか。
「質問なんだが…、妹さんは何処其処の代表候補様で?」
「ああ、欧州の方のな」
「そうか…」
最高級の才能持ちと代表候補生ならば、これ以上の相手はない。全ては出せないが、今出せるヴァンガードの力、受けてもらう!
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「じゃあお兄、危なくなったらフォローするから」
「大丈夫だろ。俺は『彗星』越えを果たす男だぞ?」
…はぁ。気楽な兄に呆れが出る。昔、避難していた私達家族を助けてくれた『彗星』に憧れるのは分かるけれど、もう少し緊張感が欲しい。
そう言う私も彗星に少しでも近付きたいの一心で日々を重ねた結果、代表候補の座を手にしていた。
更に兄もISの適性があるとわかり、夢にまた一歩近付いたと揃って喜んだ矢先に、学園の先生から通達が来た。特別なISが兄の試験の相手だと。
こうして改めて相手を見ると何となくわかってくる。人機ともにトップクラス、でも速さを突き詰めた為にこういう場所だと満足に戦えない。
私が所々向こうを妨害すれば、兄ならなんとかなる、そう思ったけど…
開始のブザーと同時に驚き、私達は何度も驚くことになる。
「丹下智春は、ヴァンガードで行きます!!」
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スラスターを吹かさず、強い踏み切りでゼロの胸元に潜り込む。ISは原則浮いているのだが、俺の場合、小回りが悪いので、融通を通すためにあえて地に足をつける。遠ければスラスター、近ければステップといった具合に。
ゼロが面喰らった様な顔で下がろうとする。そうだ、それだ!
下がるゼロを追うように、だが少しだけ遅くステップ、そのまま右手の装甲を展開し、巨大なエネルギーの『爪』を出現させ、下から上に、腿から肩に振り上げる!
爪はゼロを掠めるように空を切り、ゼロの顔に一筋の汗を流させた。これでいい。
「今のはヒヤッとさせられた…お返しだ!」
ゼロが手に持った太刀で切りかかってくるが、軌道が綺麗すぎる。イナシて下さいと言わんばかりの攻撃、誘いか?
一瞬スラスターを吹かしながら後方に跳躍、一気にゼロの太刀の範囲から離脱し、読まれた悔しさに舌打ちするゼロに三度ステップ。
今度は左手の装甲を展開し、三股の爪の様な形に。そしてその爪を射出する!
「捕まえたぞ!」
ゼロ掴んだら爪は、繋がっているワイヤーに引かれ高速で戻ってくる。右手を引いて構える。退場してもらおうか!
眼前まで来たゼロから爪を外し、エネルギーを纏ったアッパーで打ち上げる。
高く浮かんだゼロに楽々追い付き、腹部に膝を当て、スラスターを真下に全力で吹かす。終わりだ…!?
降下する直前、ここしかないというタイミングで俺目掛けて弾丸が飛んできた。やむを得ずゼロから離れ、弾丸をやり過ごすが、その合間に、ゼロはミラに救出されていた。状況からして、狙撃されたらしい。
ミラのISは、薄い青の装甲の、射撃戦型のようだ。
ミラにゼロを叩くチャンスを潰されたのは痛いし、これからはミラも積極的になるだろう。
アドバンテージの為に見せたくはなかったが…、使うしかないようだ。
「ヴァンガードの武器を『呼び出し(コール)』する!」
俺が右手を天に掲げると、展開時特有の高周波と光の粒子が発生する。
さあ、戦いはここからだ!
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「…驚いたな」
「織斑先生!」
「ええ、恐らくは初でしょう。確かに、聞くより見るのが分かりやすい」
別室でモニターしていた千冬達はその光景に驚きを隠せない。
それもそのはず、智春の武器は、
「『銀色の鳥』…自律兵器の開発は往々にして進んではいるが…」
「ここまであからさまなのは前代未聞です…」
モニターの向こうでは、智春が両腕の装甲を『鳥』に戻し、入れ替わりで射出された装甲と換装していた。
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「お兄、コレを!足も手も止めないでよ!」
「わかってる!」
ミラから貸し出されたマシンガンを手に、ゼロとミラに左右から弾幕を張られる。が、こちらも一人ではない。
「甘く見るな!」
換装した装甲からエネルギーの刃を出現させ、弾き落とす。そして、二人の連携を俺の武器、銀色の鳥『バーディー』が阻害する。
福音を素体に再生した時に考案、構築してもらった『福音』が動かす自律兵器。俺の装備はバーディーから射出される装甲をその時場合に応じて換えるのだが、バーディーもその装備は使えるのだ。
俺が戻した爪を展開し、バーディーがゼロを攻める。援護しようとするミラを俺が追い払う。
バーディーが体当たりでゼロをミラの方にまとめ、俺はまた換装し、両腕を二人に向かってつき出す。その腕は、銃口を展開していた。
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「…コレがヴァンガードの能力の一辺です。もういいでしょう?」
展開した銃口からしたこまエネルギーの弾丸を叩き込み、土煙が巻き上がる会場で、織斑先生達に通信を入れる。ある程度は力量も示したし、続けるのは無駄と主張しようとしていると、
「ゆ…油断、大敵ってな、丹下…、智春!」
「動いても動かなくてももう意味ないよ、対応より仕止めるコッチが速いから」
背に太刀を突きつけるゼロと、その後ろでライフルを構えるミラ。…詰みか。
「あの弾幕で動けたとは。随分根性があるようで」
「生憎、諦めは捨てちまってな」
「お兄、得意気にしないで。この人ワザとだから」
ドヤ顔のゼロをたしなめるミラ。流石に白々しかったか。
「あのままだとこの人に打つ手なしでさっきの先生達にいい顔されないだろうって、手を抜かれたんだよお兄?」
「あー、まー…、その、なぁ…」
腰に手を当て、兄を怒るミラとしどろもどろのゼロ。ま、大体は察するが…
「お互い様でしょ。その人、やる気あるフリしてたんだから」
「うげっ!?」
「お兄が?どういう…、えっと?」
「お好きにどうぞ妹さん。前提としてこの人、学園が放置するわけないって知ってるのよ。んで、相手も男。どう転んでも不都合はない、だから三味線引いてたんだよ」
入学は確定しているから、後は適当でも構わない、勝てたら自分は凄いとアピールになるし、負けても相手が悪すぎたと言い張れる。最悪、織斑千冬が見誤ったとも言いそうだが。
ミラがゼロをみる。とっても綺麗な笑顔で。ゼロがそっぽを向く。顔色悪く、汗が溢れている。
「おーにーいー?」
「…てへぺろ?」
「…向こうで頭冷やそうか」
見る人が見ればときめきそうなゼロの行動も、今は火に油を注ぐ結果にしかならなかったようで、彼は首根っこを捕まれてこの場から去ってしまった。…合掌。
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