英雄伝説~灰の軌跡~
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第17話
12月8日、同日9:00――――
~ラマール州・海都オルディス・カイエン公爵家城館~
「た、大変です、閣下、ナーシェン様!」
オルディス制圧作戦が行われる当日、領邦軍の兵士が血相を変えてカイエン公爵の息子であるナーシェン・カイエンとラマール領邦軍の総司令にして”黄金の羅刹”の異名を轟かせているオーレリア・ルグィン将軍がいる部屋に入って来た。
「―――何事だ。」
「ハッ!メンフィル軍がオルディス近郊に突然現れたとの事です!」
オーレリア将軍の問いかけに対して兵士は二人に報告し
「な、何だとぉっ!?」
「!何故オルディスまで接近を許したのだ!?オルディスに一番近いメンフィル領であるセントアークから進撃するにしても、それまでに領邦軍の空挺部隊の警備が気付いているはずだぞ!?」
兵士の報告を聞いたナーシェンが驚いている中オーレリア将軍は信じられない表情で兵士に問いかけた。
「奴等、何の前触れもなく突然オルディス近郊の街道に現れたとの事です!」
「クッ……”裏の協力者”の一部の人物達が使っていた移動手段―――”転移”の魔術、もしくは魔導具か……!状況はどうなっている!?」
「街道に現れた後は全く動きがなく、現在はオルディスの防衛部隊と睨みあっているとの事です!なお、敵軍の兵器の中には戦車らしき兵器に加えて”機甲兵”も存在している事を確認したとの事です!」
「バカな!?機甲兵は我等貴族連合軍が秘密裏に開発した新兵器だぞ!何故、敵軍に機甲兵がいるのだ!?」
「……大方ハッキングで機甲兵の情報が漏れたのでしょう。―――ナーシェン卿、私はメンフィル軍の迎撃の為に出陣しますので、一端これで失礼します!公爵閣下へのご連絡の方はナーシェン卿にお願いします!」
「わ、わかった。父上への連絡は私に任せておけ!薄汚い侵略者共に”領邦軍の英雄”としての力、とくと見せてやるといい!」
「―――御意!」
そしてオーレリア将軍はメンフィル軍の迎撃の為に自分専用の機甲兵である黄金の”シュピーゲル”に乗り込み、自身が率いる精鋭部隊と共にメンフィル軍と防衛部隊が睨みあっている郊外へと向かった。
~海都オルディス近郊~
「―――ご報告いたします。”黄金の羅刹”率いる部隊がオルディスから現れ、防衛部隊に合流したとの事です。」
「そう。ならば手筈通り、連中をオルディスから釣りだすわよ。――――機工軍団に通達!先制砲撃を開始せよ!」
「御意ッ!」
部下の報告を聞いたファーミシルスは部下にある指示をした。
「―――全軍に通達、第一戦闘準備。繰り返す――」
一方部下からの報告でファーミシルスからの指示を受け取ったメンフィル軍の機甲軍団の団長―――シェラ・エルサリス元帥は機甲軍団に指令を出した。するとシェラを含めた機甲軍団の兵士達が唸りにも似た騒動音を徐々に高め
「……攻撃開始。」
オルディスの防衛部隊目がけて砲撃をした!シェラ率いる機工軍団が放った砲撃は平原を轟かす大爆音と共に、業火と爆発が一瞬で敵兵を飲み込み、機甲兵や戦車をも跡形もなく吹き飛ばした!
「なあっ!?」
「う、うわああああああああっ!?」
「バカな!?あんな距離からの砲撃でここまで届かせるだと!?」
一方砲撃された側であるオルディスの防衛部隊はメンフィル軍の遠距離砲撃を受けた事によって多くの仲間達が死んだ事に混乱したり、驚愕していた。
「―――落ち着け!あれ程の威力の砲撃、普通に考えれば連射はできん!2度目の砲撃が撃たれる前に、一気に接近して乱戦に持ち込め!乱戦に持ち込めば敵も味方を巻き込まない為に砲撃はできないはずだ!」
「イエス・マム!」
オーレリア将軍は混乱している防衛部隊を一喝して落ち着かせた後メンフィル軍目がけて突撃した。そしてメンフィル軍との距離が半分を切ったその時、メンフィル軍の上空に合成儀式によって生み出された”戦略級”の魔物――――”歪竜”である”ペルソアティス”が現れ、口に膨大なエネルギーを溜め込んでいた!
「!?か、閣下……!敵軍の上空に”竜”が……!」
「何!?――――な。」
”ペルソアティス”に気づいた部下の報告を聞いたオーレリア将軍はメンフィル軍の上空に滞空している”ペルソアティス”を見ると絶句した。
「な、なななななな、なんだあれはっ!?」
「り、りりりりりりり、”竜”!?」
「バカな……メンフィルは竜をも従えるというのか!?クッ………後退―――いや、全速力で敵軍の陣地に前進しろ!敵軍も自分達が巻き込まれない為にあの竜の攻撃範囲外で待機しているはずだ!」
”ペルソアティス”の登場に部下達が混乱している中信じられない表情で声を上げたオーレリア将軍はすぐに立ち直って指示をし
「イ、イエス、マム!」
貴族連合軍はオーレリア将軍の指示通り機甲兵を加速させてメンフィル軍の陣地に向かって前進し始めたが、時すでに遅く、”ペルソアティス”は口から高純粋魔力が込められたエネルギーを解き放った!
「――――――!!」
「あ―――――」
「女神よ―――――」
”ペルソアティス”が放ったエネルギー波の威力はあまりにも凄まじく、兵士達の悲鳴をも掻き消して貴族連合軍を呑み込んで塵と化し
「うおおおおおおおおおっ!?この私が敵に一矢を報いる事すらできずに死ぬだと……!?こんな……こんな一方的な虐殺が”ゼムリア大陸真の覇者”の異名を轟かせている貴様らのやり方か!貴様らには戦士としての”誇り”はないのか、メンフィル帝国――――――――ッ!」
貴族連合軍同様”ペルソアティス”が放ったエネルギー波に呑みこまれたオーレリア将軍が操縦している機甲兵もオーレリア将軍の無念の咆哮と共に塵も残さず消し飛ばされた!そしてエネルギーが消えるとオーレリア将軍率いる貴族連合軍は”消滅”してオーレリア将軍達がいた場所は巨大なクレーターになっていた!
「こ、これがメンフィルの新兵器――――”歪竜”の”力”……!」
「あ、圧倒的すぎる……!」
「幾ら”竜の息吹”が強力だからと言って、あれ程の威力を出す等、ありえませんわ……!」
「言葉通り、まさに”瞬殺”だな。あんなとんでもない代物を保有しているメンフィル(おれたち)は”大陸最強”じゃなくて”大陸最凶”を名乗った方がいいんじゃねぇのか?」
一方メンフィル軍の陣地で待機し、”ペルソアティス”の攻撃の様子を見守っていたステラとリィンは信じられない表情をし、セレーネは表情を青褪めさせ、フォルデは疲れた表情で呟いた。
「―――何にしてもオルディス制圧の為の一番の障害である”黄金の羅刹”は先程の”歪竜”の攻撃で戦死しました。後はオルディスを制圧し、ナーシェン・カイエンを討ち取るだけです。」
「ステラ……その、大丈夫か?オルディスは君の故郷で、しかもナーシェン・カイエンは”元”とはいえ、君の婚約者だろう?」
そして静かな表情で呟いたステラの言葉を聞いたリィンは心配そうな表情でステラを見つめた。
「お気遣いありがとうございます。ただ、以前にもお答えしたと思いますが、実家や祖国に未練はありませんから心配は無用です。――――ですからメンフィルに亡命するまで生きてきた故郷を制圧する事に躊躇いや罪悪感は湧きませんし、できれば真の意味で過去と決別する為に私自身の手でナーシェン・カイエンを討ち取りたいと思っているくらいです。」
「ステラ……わかった。ステラにはバリアハートやパンダグリュエルで手伝ってもらった件もあるから、その恩を返す意味でもステラ自身の手でナーシェン・カイエンを討たせる為に全力でサポートする。」
「勿論わたくしもこの場にはいないエリゼお姉様の分も含めてお手伝いさせて頂きますわ。」
「ま、後輩の世話をするのが”先輩”の役目だからな。微力ながら俺も手伝わせてもらうぜ。」
ステラの決意を知ったリィン達はそれぞれステラに協力を申し出
「ありがとうございます、皆さん。……改めて思いました。メンフィルに亡命した私の判断は間違っていなかったと。メンフィルに亡命しなければ、リィンさん達と出会う事ができなかったのですから……」
「相変わらず大げさな奴だな。――――と言う訳でせいぜいステラが目的を果たせるように頑張れよ、小隊長殿♪」
「その呼び方は勘弁してくださいと何度言ったらわかるんですか、先輩………というか普通に考えたら、L小隊に先輩が加入するのでしたらL小隊の隊長の座は俺達を指導して頂いた先輩が就くべきだと思うのですが……」
微笑みを浮かべたステラの言葉に苦笑したフォルデはからかいの表情でリィンを見つめ、フォルデに見つめられたリィンは疲れた表情で溜息を吐いて指摘した。
「いやいや、俺だって自分の身は弁えているつもりだぜ?今回の戦争で生まれたメンフィルの新たな”英雄”と称えられているお前からただ、お前を指導した先輩であるからという理由だけで隊長の座を奪っちまったら俺がメンフィルの嫌われ者になるんだから、そんなのゴメンだぜ。」
「………………………」
フォルデの説明を聞いたリィンは複雑そうな表情をしたが
「それに隊長なんてめんどくさい役目に就いちまったら、休める時間が減っちまうだろう?」
「結局は可能な限り休憩時間を長くする事に行き着く訳ですか、先輩………」
親しみのある笑顔を浮かべて答えたフォルデの答えを聞くとステラ達と共に冷や汗をかいて脱力した後疲れた表情で呟いた。
「――――注目!」
するとその時空からファーミシルスの声が聞こえ、リィン達を含めたメンフィル兵達はファーミシルスに注目した。
「先程お前達もその目にしたように”黄金の羅刹”率いる貴族連合軍はメンフィルの新たな”力”の前によって為す術もなく敗れた。オルディスに残っているのは雑魚共と大した実力もないカイエン公の息子のみ!相手は雑魚ばかりなのだから、今まで行った作戦の中で一番早く終える事を目標にしなさい!――――総員、騎乗せよ!」
「イエス・コマンダー!」
ファーミシルスの叱咤激励にメンフィル兵達は大声で答えた後それぞれ騎馬に騎乗し
「―――これより”オルディス制圧作戦”を開始する!総員、突撃開始!!」
「オォォォオオォォォォォォオオオォォッッッ!!!!」
そしてオルディスに向かって突撃を開始した――――!
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