二人の騎空士
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The fate episode
Epilogue
進行度 1/4
前書き
勝手に行くなって言ったろ?
「莫迦みたい。つまり、貴方はそもそも団長に殺される為に戦った、ってこと?」
目の前で呆れ顔の少女……確か、名前はカレンだったかがため息を吐く。赤髪に赤眼、服も赤まで揃えた見ようによっては奇妙な少女は、視線を自身の直ぐ隣へ向けた。そこには黄色髪の少女が寝台に突っ伏すように眠っている。
「莫迦らしい。ほんっと莫迦らしい」
カレンは隣の少女と俺とを交互に見ながら、またため息を吐いた。彼女の隣で眠っているのは年若いと言えども彼女が在籍する団の団長であり、実力も数段かけ離れているのだがそんな事はお構いないようだ。
「莫迦らしくて何も言えないから出てく! じゃあね!」
カレンは荒々しく椅子から立ち上がると、扉を開けて外へ出ていった。立ち上がる際に乱暴に扱われた椅子が、カレンが乱暴に閉じた扉と同時に倒れる。
それから数分後、扉を開けて入ってきたのは戦闘時でもないのに頭部を兜で覆った男、バザラガと銀髪長身の女性、シルヴァであった。
「グラン、目覚めたか」
バザラガが此方を認めると言葉を放つ。
「ええ。お陰様で。あれから何日経ちました?」
皮肉を込めて返せば、隣のシルヴァは面白くなさそうに眉を顰める。
「四日だ」
バザラガが返した言葉に、今度は此方がため息をこぼす番だった。そんなに眠っていたのか。
ジ・オーダ・グランデ戦の最中、俺は意識を失った。その後、気づけばこの密室に治療を受けた上で拘束され寝台に寝させられていたのだ。
先程目覚めた時、傍には目の下を隈で黒くしたジータと、無表情で俺を見下ろすカレンとが居た。カレンはジータを起こすことなく俺への事情聴取を済ませると、此方の質問には何一つ答えることなく出ていったのだ。
「まずは治療に感謝をしておきましょうか。それで、何故生かしたんです? 盛大に処刑でも行うんですか?」
密室とは言えど、この場所がジータ達が保有している騎空艇グランサイファーの内部であることは分かる。それも航行中だ。
「そのような意見もある。だが、決定はしてない」
僅かばかり緊張する。戦闘によって死ぬのはまだしも処刑となるといい気分は当然しない。もしそれが拷問の末に、となれば正直な話恐怖心もある。
「そんなに構えるな」
そう言うとバザラガは先程カレンが立ち上がる際倒した椅子を立て直し、そこに座った。シルヴァは入り口付近に陣取っている。彼女の腰には小さめの銃が佩用されていた。固定はされておらず、直ぐ様抜いて発砲できるようになっている。
「取り敢えず質問といこう」
シルヴァの装備を見ていた俺にバザラガは声をかける。
「何か」
「何故、我々に敵対した」
俺が沈黙を続ければ、バザラガは隣で眠るジータに視線を向けた。
「団長、ルリア、カタリナから一年前の出来事の顛末は聞いている。その上で、何故殺すつもりもないのに戦ったのか、と問うているのだ」
「殺すつもりは」
「あったとは言わせないぞ。ククルの銃を握った際も、その前の次元断も、団長を殺すつもりなんてなかっただろう」
シルヴァに視線を向ければ、鋭い視線を返されるだけだった。
「極めつけには、人質にする際シルヴァに殺さないから安心するように言う始末」
バザラガがそう言えば、シルヴァはばつが悪そうに視線を外した。戦闘員が人質にされたとなれば立つ瀬もないか。
「ついでにカレンが泣きながら出ていった理由もお教え願いたいな」
目を瞑って思案する。先程、カレンには全てを離してしまっていた。団員云々ではなく、ジータを本気で心配する姿に口が滑ってしまったのだが、どうせカレンの口から他に漏れるだろうしここで黙る道理もないか。
「ジータは、ずっと自分を責めていただろう」
「ああ。聞いたところ、一年前の出来事で魘される事が多々あったらしい。カレンもそれを目撃している」
傍で眠るジータを見やる。見捨てたと声高らかに言っていたがそれは自分に言い聞かせていただけだ。彼女は見捨てられるほど大人じゃない。
「ジータは心の奥底では俺が生きていると思っていた。そうして見捨ててしまったという罪の意識から、俺が彼女を強く憎んでいると思い込んだ。俺がいつかジータの元へ訪れ、罪を裁いてくれると願っていた」
「いやに断定するな」
「十年以上の長い付き合いだ。分かるさ。それとも、違うと断定する何かがあったか?」
バザラガは首を横に振った。
「いいや。お前が昏睡中に団長に話を聞いた限り、全く同じように思っていたらしい」
ため息を吐く。流石はジータだ。優しい。優しすぎる。嘗てはその優しさに惹かれ彼女の団で共に旅をしたいと願っていた。
「そしてそれは根が深い。俺が会いに来て恨んでいない、なんて一言放ったところでその傷は癒えやしない。寧ろ俺にさえも嘘を吐かれているのではないかという疑心暗鬼に陥る」
「……続けろ」
「だから本気で殺し合いを演じる必要があった。そうしてその上で、先言った罪の意識に裁かれるのではなく、団長として俺を殺害しこの問題を彼女の中で正当化させ終わらせる必要があった」
「だから全団員と戦ったのか」
バザラガの問いに、俺は「それだけじゃない」と返した。視線をバザラガとシルヴァ交互に移す。
「確かに、団員を負傷させる事によって団長として俺を殺害させるように働かせかける部分もあった。しかしながらただ単純に、ジータが率いる団を見てみたかったんだ」
「どういう事だ?」
シルヴァが此方に問いかける。
「俺にとって、ジータは大切な仲間だった。ジータの団員達がどんなやつか見極めたかったんだよ。これは、まあシルヴァが人質に取れたこともあって咄嗟に思いついたんだが上手くいったよ」
「軽々しく言う。あれで何人の負傷者が出たと思っている。いや、単純な怪我人じゃない。精神的に治療が必要になった人間もいるんだぞ」
「それについては申し訳なく思っている。一年であれ程の強者どもが集まるとは思っていなかった。此方も文字通り死ぬ気で戦わなければ本命のジータとは戦えなくなってしまうから、死に物狂いでやらせてもらった」
星晶獣を使ってまで戦ったのだ。あれを女子供が見ていたならば精神に異常をきたしてもおかしくはない。
「……ジータと戦った後は」
「ジータが俺を殺せるかは正直賭けだった。まあ結局のところ、ジータは俺を殺せなかった。けど俺が生き残ったところでどうなる。団員たちは俺を血祭りに上げるだろうし、ジータがそれを止めるような事態になればジータの団長としての資質が疑われる。だから自然、自殺という方法しかなかった。その後のジ・オーダ・グランデは完全に想定外だ。まさかあんな化物がおいでになるとは思っていなかったよ……そうだ、あの後はどうなったんだ? まさかお前らが追い払った、てわけじゃないだろう?」
バザラガは入り口付近のシルヴァに視線を向ける。シルヴァは無言で頷き、扉を開けた。入ってきたその人物の姿を認めた瞬間、俺は拘束具を引きちぎろうとする。
「落ち着け。今争うつもりはない」
入ってきた人物はジ・オーダ・グランデと名乗っていた少女だ。あの時のような鎧や髪型ではないので一見しては分からないが、内に秘めた力は人のそれではない。
「……無礼を働きました、申し訳ありません。それで、これはどういったおつもりで」
「今更礼を尽くさなくても良い。それより、話は聞かせてもらった」
息が詰まる。この場でしくじれば、この少女の力によって全員があの世行きだろう。
「確かにお前達は秩序を崩しうる可能性を持つ。特にグラン、お前とそこに眠るジータとやらは看過することは到底できない。……しかしながら、私はあの場で互いに信頼し背中を預けるお前たちを見て、私は自身のあり方に疑問を持ったのだ。だからお前が倒れたときに剣を収めた」
少女の力強い目線に目を逸しそうになる。しかしそれを耐えながら見つめ返す。
「俺達を見逃すなら、それ以上は望みません」
「言わなかったか? 看過は到底出来んと」
心臓が止まるようだった。背中を冷や汗が伝う。
「故に、暫くお前達の元にいる」
「……はい?」
理解が及ばない。これほどの強大な存在が、俺達の近くに暫くいるというのはどういうことだ。
「此度の事で痛感した。事象を見て裁くだけでは秩序は守られない。かと言って、ジ・オーダ・グランデそのものが人として裁くのでは秩序がなんたるかを忘れよう。故に、ジ・オーダ・グランデの内、お前達と姿形の似る私に人間の常識等を教えて貰いたいのだ。お前たちの監視のついでにな」
「断れば?」
「ジ・オーダ・グランデが空の秩序の名の元に港を荒らした男女を裁こう」
天井を仰ぎ見、暫し逡巡。バザラガとシルヴァに視線を移す。二人して「頼んだ」という視線を向けてくる。
「承った、と言いたいところだが俺の生死はこの団に委ねられている。今日中に死ぬこともあるだろ――」
視界の隅で、ジータが此方を向く。とうとう起きたようだ。
起きて直ぐに俺を見つけたジータは、泣きそうな笑顔を浮かべながら飛びついて抱きしめてくる。まるで、一年ぶりにあった親友同士がそうするように。
抱きしめられたまま三人に視線を向ければ、二人は呆れたような表情を浮かべ、一人は本当に微かに、微笑みを浮かべているような気がした。
後書き
Q,どっかで見たことがあるような?
A,ジータがグランに飛びつくシーンは映画「ブレイブストーリー」のラストシーンですね。前書きもラストシーンのミツルの台詞です。ジータに取ってグランは「サイレントヒル」の三角頭と同じ裁いてくれる存在です。グラン自身は自分を犠牲にしてもいいくらいジータのことを大切に思ってましたが。
Q,何で「俺」?
A,ジータと再開し、また目標であった「殺される、もしくはジータが自分が恨んでないとわかってもらう」事を成し遂げたので以前の口調に戻ったのでしょう。
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