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真田十勇士

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巻ノ八十八 村上武吉その十

「果てがあるのか」
「それはじゃあ」
「果てのないものかも知れませぬ」
 武士の道、それはというのだ。
「ですから」
「果て、極みを見られずともか」
「よいと思います」
「そうなのじゃな」
「左様です」
「わかった、ではその武士の道を歩む為にも」
「それがし六郎と共に三田尻に向かいます」
 こう言うのだった、そして実際にだった。
 三人は萩から三田尻までだ、荒海を越えてだった。 
 そのうえで辿り着いた、村上は丘に上がってだった。自分のすぐ後ろに上がってきた幸村と海野に言った。
「かなり泳いだが疲れておらぬな」
「これ位なら」
 海野が答えた。
「まだ平気です」
「それだけ鍛えておるからか」
「そのつもりです」
「成程な」
「それでなのですが」
 ここでさらにだった、海野は村上に言った。
「早速」
「修行をか」
「お願い出来ますか」
「わかった」
 すぐにだ、村上は海野に笑って述べた。
「はじめよう、しかしな」
「しかしとは」
「その前に飯じゃ」
 それをというのだ。
「それを食おうぞ」
「飯ですか」
「腹が減っては戦も修行も出来ん」
 だからだというのだ。
「それでじゃ」
「飯をですか」
「食おうぞ」
「それでは海から魚を」
「うむ、獲ってな」
 そうしてとだ、村上は海野の言葉に答えた。
「食おうぞ」
「それでは」
「ではそれがしも」
 幸村も応えて言う。
「魚を獲りましょうぞ」
「貴殿もか」
「はい、そうします」
「家臣に任せてはおかぬか」
「修行なら見ますが動くべき時は」
「動くか」
「そうした性分なので」
 人に言うだけで自分は何もしない、幸村はそうしたことが出来る者ではない。このことは若い頃からのことである。
「ですから」
「飯もか」
「はい、獲ります」
 自分でというのだ。 
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