魔法少女リリカルなのは『絶対零度の魔導師』
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アージェント 〜時の凍りし世界〜
第一章 《凍てつく白銀の大地》
ゼスタ事変①
第9管理世界《アージェント》首都《ゼスタ》
アージェントの首都《ゼスタ》、その中央病院のとある病室。
「なのはっ!」
戸が開くなり、中に駆け込むのはフェイトだ。その後ろからはやてがその様子に苦笑しつつも、やはり安堵の表情を浮かべて入ってくる。
「二人とも来てくれたんだね。」
病室のベットで状態を起こしていたなのはは二人を認めるとどこか申し訳なさそうに言った。
「当たり前や。でも……良かったなぁ。一時はどうなるかと思ったで?」
「そんな……大袈裟だよ。」
「大袈裟なんかじゃないよ!お医者さんも運が良かったんだろうって!」
事実、なのはの傷はあの撃墜事件の時と並ぶ程に深く、一歩間違えれば魔導師としてだけではなく、人としての人生さえ危うい程だった。
「もう全然平気だよ!自分の足で歩けるし、仕事にもすぐに……」
「駄目だよ。」
「駄目やで。」
仕事に復帰できる。そう言いかけたなのはを遮って二人が止める。
「え……なんで……?」
「まあ、なのはちゃんはすぐに無茶するからなぁ。丁度ええ機会やし、すこし休みや。」
「大丈夫だよ!無茶なんかしないって!」
「なのはの大丈夫は信じてないから。」
「フェイトちゃん、それはヒドイ!あんまりだよ!」
抗議の声を上げるなのは。しかし、フェイトの顔は真剣そのものだ。
「先生にも全治一ヶ月って言われとるんやろ?その間、仕事はナシや。」
「うう……はい。」
ここまで言われては、さしものなのはも従う他無かった。
所変わってゼスタの市街地。一組の兄妹と主従で構成された三人組が並んで歩いていた。
「氷雪、平気か?」
「うん……大丈夫……。」
「御嬢様、気分が悪くなったらすぐに言って下さいね?」
ミミに手を繋がれ、街を歩く氷雪。それを暁人は背後から見守る様についていく。
今日は氷雪の定期検診の日である。彼らが住んでいる山村《白郷》の病院では氷雪の治療が出来る設備がないのだ。
氷雪にとっては数少ない外出の機会であり、この時には暁人もミミも必ず付き添う為に非常に楽しみなイベントだった。
時期は年末。きらびやかに飾り立てられた街並みは、家に引きこもりがちな氷雪にとっては宝石箱の様に映っていた。
「………あうっ!?」
曲がり角で誰かとぶつかる氷雪。
「わっ!っとと……ごめんね?大丈夫?」
「フェイトちゃん、どないしたんや?」
ギクリとする暁人。ぶつかった相手の声に聞き覚えがあったからだ。
「いてて………大丈夫……です。」
氷雪がぶつかった相手を見上げる。金色の長い髪に赤い瞳。後ろには栗色の髪の少女もいる。
ーーーーなのはの見舞いを終えたフェイトとはやてであった。
「……っ、(何でここに!?どこからか行動を読まれた?そんな馬鹿な!?)」
暁人はここに高町なのはが入院している事を知らない。フェイトとはやても暁人がここに来る事を知らない。何の悪魔的な運命の悪戯か、両者は天文学的な確率の偶然でここで遭遇した。
「あ、保護者の方ですか?済みません私の不注意……で……?」
「ッ、この人は!?」
二人も暁人に気付き、顔色を変える。咄嗟にデバイスに手を伸ばしかける二人。だが、
「(止めとけ。街中で戦う気か?)」
暁人が念話で告げた一言に踏み留まる。
「(それにこの距離なら、俺の方が早い。)」
「(………ハッタリ、ですね。あなた今、魔力をかなり封印しているでしょう。)」
現在指名手配中の暁人。当然、魔力の固有パターンも知られており、探知されている。それを掻い潜れているのはリンカーコアにリミッターを掛け、魔力を一般人並みに制限しているからだ。
しかし、
「(生身の人間を仕留めるのに、態々魔力なんか要らない。お前達がデバイスを取り出して起動、バリアジャケットを展開するのにおよそ2秒。それだけあれば、どっちかは素手でも倒せる。)」
暁人の言葉に嘘はない。暁人程の技量があれば、二人が魔法を使う前に首を圧し折るぐらい訳はないのだ。
「……俺、ちょっとこのお姉さん達と話があるからな。二人で先、行っててくれ。」
名前は呼ばずに、氷雪をこの場から遠ざけようとする暁人。しかし、
「…お兄ちゃん、ナンパ……?」
「うん?」
「へっ?」
「えっ?」
「はあ?」
上から順に暁人、ミミ、フェイト、はやての順である。
「な、な、な、ナンパ!?」
「ちょ、落ち着きやフェイトちゃん!いくらなんでもこの状況でそれはない!……ない、よな?」
「ないから安心しろ。」
「……御主人様、 ナンパはいけませんよ。」
「ナンパ…駄目。」
「だから違うって。」
氷雪の爆弾発言により、かなり緊迫した修羅場になる筈が、どこか緩い空気が漂い始める年の暮れだった。
「……で、君は何でこんなところにおるん?」
「話すと思うか?」
膠着状態。現状を表すのにこれ以上的確な言葉もないだろう。この場で仕掛けるという事はすなわち市街地でいきなり魔法戦を始めるという事だ。互いにとってリスクが高過ぎる為に、思った様に動けない。
「名前は?目的はなんや?」
「……随分と聞きたがりなんだな。」
無意味と知りつつ言葉を重ねるはやてに皮肉気味に返す暁人。年中冷え込んでいるアージェントだが、今は殊更寒く感じる。
「当たり前や。こっちは友達傷つけられてんのやで?」
声を荒げたりはしないが、確かに本物の怒気を含んだはやての声。そこら辺のチンピラなら怯むか呑まれるかするかもしれないが、暁人は涼しい顔だ。
「やむを得ない事情があるなら話して下さい。……それがどんな事情なのかは想像出来ないけど、そうすればなのははきっと許してくれる。……私が許せるかは分からないけど。
フェイトの言葉にも、剣呑な気配が滲み出ている。
「事情……事情ね。別に何も特別な事はない。ありふれた事情だよ。」
暁人の冗談とも本気とも取れないその言葉は、二人の感情に油を注いだだけの様だ。一触即発、リンカーコアから僅かながら魔力が溢れる。
「……俺は管理局を信用していなければ、頼ろうとも思わない。お前達が管理局を信じてる限り、俺とお前達が交わる事はないだろうな。」
「……それは、どういう……」
暁人の台詞の意味を捉え損ね、尋ね返すフェイトだが、それに答える事なく背を向ける暁人。
「……尾行でもなんでも、好きにやればいい。」
冷然と言い放ち、一方的に会話を打ち切った暁人はそのまま歩き出した。
「「………?」」
残された二人は顔を見合わせながらも暁人の後を追った。否、追おうとした。
「えっ?」
「そんな……嘘やろ?」
一瞬前まで確かに居た筈の暁人の姿は、既に見えなくなっていた。
「……気づかれてないな?」
〈Of course.〉
暁人がそっと首から下げた相棒に話しかける。今、ハボクックが発動させている魔法《オーロラカーテン》は、範囲内の対象を視覚的、魔力的に欺瞞するものだ。オプティックハイドの範囲版とも呼べる。
「さて、さっさと合流するぞ。」
〈Aye sir.〉
《アースラ》艦長室
「そうか……。」
あの後、暁人を捜すも捉えられなかったフェイトとはやては、一先ずアースラに戻り、クロノに報告をしていた。ちなみにアースラは、先日の戦闘で中破して以来、未だ修理中だ。完了は年明けになるらしい。
「ごめんなぁクロノ君。折角のチャンスやったのに……」
「いや、いい。市街地戦を避けたのは正解だ。あんな奴と街中で戦闘したらどれだけの被害がでるか分からない。」
「でも……その後も逃がしちゃったし。」
クロノは二人を励ます様に間違ってなかったと言うが、二人ともまだ暗そうだ。話を進めた方がいいと判断したクロノは自分から切り出す。
「それより気になるのが、奴が何でゼスタに居たのか、だ。あれ程周到な奴が何の目的も無しに街中を彷徨くとは思えない。」
「目的かぁ……話すには話したけど、取り付くしまも無しって感じやったからな。」
うーん、と唸る三人。
「そういえば……《あの子》、何だったんだろう?」
「「あの子?」」
「ほら、はやて。私がぶつかっちゃった子。あの人の知り合いだったよ。」
フェイトが氷雪の事を思い出す。暁人と出会った事で頭が一杯で見逃していたが、考えてみれば関係してない筈がないのだ。
「うーん……あの子も何者なんやろな?」
「似てないけど、兄妹かな?お兄ちゃんって呼ばれてたし。」
「妹がいるのか……名前は分かるか?」
「そこまでは……あ、後使い魔も連れてたよ。」
フェイトの言葉にクロノの顔が明るくなる。今現在、アージェント在住の登録魔導師を片っ端から調べているが、未だ全体の5%にもなっていない。家族や使い魔の有無が分かれば、それだけでもかなり範囲が狭められる。
「よし、それなら……!」
クロノが艦橋に指示を出そうとした時、反対に艦橋からクロノに連絡が入る。
「エイミィ、どうした?」
『クロノ君大変!ゼスタの街中で巨大な魔力反応が暴走してる!!』
「「「!!?」」」
エイミィの報告に顔を見合わせる三人。ゼスタ市街地での大規模魔力反応。先程の取り逃がした彼が無関係だとは思えなかった。
「駐留部隊は!?」
『まだ動けてない!』
「クッ……フェイト、はやて、すぐにゼスタに向かってくれ!」
「「了解 (や)!!」
「僕も艦橋に入る。エイミィは……」
『え?駄目だよまだ!って、ちょ、なのはちゃーん!?』
通信に入るエイミィの焦った様な声。
「今度はどうした!」
『なのはちゃんが……『私が一番近いから』って言って、現場に……。」
「なっ………!?」
事態は、さらなる混乱を迎えようとしていた。
後書き
今回から次回予告の様な物を入れていこうかと。
ゼスタ市街地に突如現れた魔力反応。
一体何が?暁人は関係しているのか?
そして、現地に向かった手負いのなのはの行方は?
次回《ゼスタ事変②》
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