真田十勇士
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巻ノ八十八 村上武吉その六
「この屋敷に来られても」
「水術はですか」
「教られませぬ」
こう話すのだった。
「残念ですが」
「左様ですか」
「しかしそれでもですな」
「はい」
是非にという声でだ、幸村はその男に答えた。
「お会いしたいです」
「左様ですか、では」
男は幸村の強い言葉を受けて述べた。
「暫しお待ちを」
「はい、それでは」
「殿にお伺いしてきます」
「ではお待ちしています」
「それでは」
こうしてだ、男は一旦屋敷の中に戻った。そしてだった。
二人に戻ったところでだ、海野は幸村に対して言った。
「では殿」
「うむ、若しかするとな」
「村上殿にお会い出来ても」
「それでもな」
それが出来てもというのだ。
「あくまで若しやだが」
「水術については」
「そうやもな。しかしな」
「それでもですな」
「諦めぬことじゃ」
こう海野に言うのだった。
「決してな」
「それが肝心ですな」
「諦めてはじゃ」
そうしてしまうと。
「それで終わりじゃ」
「その時点で」
「そうじゃ、だからな」
「最後の最後までですな」
「諦めぬ」
「それが肝心ですな」
「村上殿にお会い出来るまでな」
それこそというのだ。
「ここで待ち」
「お会い出来れば」
「何としてもじゃ」
「頼み込み」
「そしてじゃ」
そのうえでというのだ。
「お会いするぞ」
「わかり申した、では」
「それまではな」
「ここで、ですな」
「留まるぞ」
「萩藩にですな」
「そうして何としてもじゃ」
村上の水術、それをというのだ。
「教えて頂くぞ」
「それでは」
海野も頷く、そうした話をしていると。
男が戻ってきてだ、二人に言ってきた。
「会われるとです」
「言っておられますか」
「はい」
そうだというのだ。
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