| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

ソードアート・オンライン 〜槍剣使いの能力共有〜《修正版》

作者:カエサル
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

SAO編ーアインクラッドー
  05.圏内事件

 

 二〇二四年三月六日 第五十六層・パニ

 次の層の攻略を行うため、攻略組のメンバーたちはある洞窟の中で会議を行っている。

「フィールドボスを村の中に誘い込みます!」

 今回の作戦の指揮をとる少女がとんでもないことを口にする。攻略組のプレーヤーもざわつく。

「ちょ、ちょっと待ってくれ! そんなことしたら村の人が」

 漆黒のコートを身にまとう少年が反論する。

「それが狙いです。ボスがNPCを殺してる間にボスを攻撃、殲滅します」

「NPCは岩や木のオブジェクトとは違う。彼らは……」

 キリトが言葉を遮って指揮をとる少女が、

「生きている……とでも」

 彼女は平然とそんなことを口にした。
 昔の彼女ではありえないような言葉にシュウは何も言うことができなかった。

「あれは単なるオブジェクトです。例え殺されようとまたリポップするのだから」

「俺はその考えには従えない」

「俺もキリトの意見に賛成だ。……最近のあんたはやりすぎだ」

 シュウとキリトが反論する。
 しかし、そんな言葉など彼女の心には微塵も届いていないように、

「今回の作戦は私、《血盟騎士団》副団長のアスナが指揮をとることになっています。私の言う事には従ってもらいます」

 彼女はSAOの最強ギルド《血盟騎士団》副団長。《閃光》の名を持つアスナ。
 第一層の攻略時、一緒に戦ったパーティーメンバーの一人だった少女だ。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 作戦会議が終わるとともにシュウたちはすぐさまその場から立ち去った。

「よう、またモメたな」

 後ろから低い男の声。振り返るとそこには、ガタイのいいこげ茶の肌色をした男だ。

「エギルか」

「お前らと副団長さんはどうしていつもああなんだ」

「きっと気が合わないんだろうな」

「あいつの攻略は少し荒っぽいからな。特に最近はな」

 キリトは第一層の攻略終了時、アスナに、君は強くなる。ギルドに誘われたら断るな、と言ったらしい。

「ああは言ったけどまさかトップギルドで攻略の鬼になるとはな」


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 二〇二四年四月十一日 第五十九層・ダナタ

「はぁ〜、眠ぃな」

 大きなあくびをする。ゲームの中だというのにあくびや眠気などといった生理現象まで起きるとは本当に現実なのじゃないかと疑いたくなってくるな。
 次のダンジョンへと向かおうか適当に暇を潰すか考えながら歩いていると崩れた瓦礫の上にキリトが退屈そうにあぐらをかいていた。

「よっ! キリト」

「シュウ、こんなところでなにしてるんだ? 迷宮区に潜ったんじゃ」

「こんないい天気で迷宮区に潜るなんてもったいねぇよ。それよりお前は?」

 キリトが顔を向けずに指で後方を指す。そこには、木の下で熟睡しておる血盟騎士団副団長殿がいた。

「なんで、こんなところで寝てんだよ」

 その経緯を聞くにキリトが昼寝をしていたらアスナが現れてちょっとした説教をされた。その後にキリトが目を覚ますと隣で熟睡している副団長様がいたというわけらしい。
 なんだそりゃ……。

「全く、これがあの攻略の鬼とは思えないな」

 熟睡状態のアスナは、やはり綺麗で美しい。普通に攻略の鬼じゃなければもっと人気がでる気がするんだけどな。とはいっても攻略の鬼と知らないプレイヤーたちにはかなり人気らしい。

「なぁ、キリト……久しぶりに試さないか」

「やる気か……。まだ、起きそうにもないしやるか」

 メインメニューを開き、デュエル、《初撃決着モード》をキリトに申し込む。

「それじゃあ、始めるぞ」

「行くぞ!!」


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「「はぁ……はぁ……」」

 シュウとキリトはアスナが起きるまで何度となくデュエルを行い続けた。それは日が落ちるまで続いた。

「くしゅん」

 可愛らしいクシャミが聞こえたと思うと今まで寝ていたアスナが動く。どうやら起きたようだ。アスナは辺りを一旦見渡したあと、こちらを見つける。

「えっ、なっ! な!」

「おはよう、よく眠れた」

「遅いお目覚めだったね」

 アスナが急に立ち上がり、細剣に手をかける。
 シュウたちは、デュエルを中断し、崩れた石の壁に隠れる。アスナは細剣を抜こうとするが、それを押し殺すように震えている。

「……ご飯一回」

「「はあ?」」

「ご飯、なんでもいくらでも一回おごる。それでチャラ。どう?」


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 第五十七層・マーテン

 とあるレストランにアスナに連れられてシュウたちは訪れた。すると店に入るや否や店内中のプレイヤーたちの視線が三人へと向けられる。
 ──血盟騎士団のアスナじゃないか?
 ──あれが《閃光》の。
 ──あの二人の黒い奴って。
 というような声がいたるところからする。

「あの、なんていうか」

 アスナは小さな声で話し出す。

「今日はありがとう。……ガードしてくれて」

 突然の感謝の言葉にシュウとキリトは戸惑う。

「あぁ、いや」

「まぁ、俺たちはデュエルしてたけどな」

「街の中は安全な圏内だから誰かに攻撃されたりPKされることはないけど……眠っている間だけは別だし」

「あぁ、デュエルを悪用した睡眠PK。普通デュエルは腕試しに行われるものだけど、その最中は圏内でもHPがなくなって、ダメージを受けることになるから」

「眠っている相手にデュエルを申し込んで相手の指を勝手に動かしてOKボタンクリック。そのまま一方的に攻撃を。……なんて事件が実際起きたし。……だからその……ありがと」

「ま、まぁそのどういたしまして」

「いえいえ」

 話すことがなくなった。そもそも前回の攻略会議であれだけ気が合わないとわかっているのに話など合うわけもない。
 だが、この沈黙はすぐに破られた。破ったのはシュウでもキリトでもアスナでもなかった。

「きゃぁぁぁぁぁ!!」

 女性の叫び声だ。
 シュウたちはすぐさまレストランから飛び出し、叫び声の聞こえた広場へと向かう。すると、そこには協会の最上階からロープに吊るされた甲冑の男。その身体には短槍が突き刺さっている。

「早く抜け!!」

 キリトが叫ぶも、甲冑の男は苦しみだす。どうやら痛みで抜けないようだ。

「君は下で受け止めて!」

 アスナが建物の中へと入っていく。

「わかった!」

 キリトが甲冑の男の真下まで移動。

「待ってろ!!」

 甲冑の男はさらに苦しみ出す。

「クッソ……間に合え!!」

 シュウは少し距離をとり、甲冑の男が吊るされる建物の壁に向け走る。

 体術《壁走り(ウォールラン)
 垂直に聳え立つ壁を走り、甲冑の男へと手を伸ばす。
 だが、その時にはもう遅かった。
 甲冑の男は呻き声をあげながら、俺の目の前で光の欠片となり消滅する。
 また間に合わなかった。

「みんな! デュエルの【Winner】表示を探せ!!」

 シュウはそのままの勢いで着地して上からデュエルの【Winner】表示を探す。しかし集まった野次馬の中には見当たらない。
 少し遅れてアスナもたどり着く。

「この中にはいねぇぞ!」

 だとするとデュエル終了と同時に転移結晶かなんかで逃げたってことか。少なくともシュウはその現場を目撃していない。

「なぁ、俺たちが来た時に転移結晶を使ったようなエフェクトって確認できたか?」

 アスナに問いかけるが、少し考え込んだ後に首を横に振った。
 キリトも走って上がって来たのか肩で息をしている。
 吊るされるのに使用されてロープを調べてみるもごく普通のアイテムだった。そうなると短剣の方が怪しくなって来る。

「どういうことだ。これは」

「普通に考えればデュエルの相手が被害者の胸に槍を突き刺して、ロープを首に引っ掛けて窓から突き落とした。ってことになるのかしら」

「でも、【Winner】表示はどこにも出なかった」

「ありえないわ。圏内でダメージを与えるなんて、デュエル以外の方法は」

 存在しないはずだ。……そうはず(・・)だ。
 もし仮にそんなことが行える方法があるのならこのゲームに安全なところなど存在しなくなってしまう。

「どちらにせよ、このまま放置はできないわ」

「そうだな」

「もし圏内PK技を誰かが発見したのだとしたら外だけでなく、街の中にいても危険ってことになってしまうわ」

「それは最悪の事態だ」

「しばらく前線を離れることになるけど仕方ないか」

 するとアスナが二人の方へと近づいてくる。

「なら、解決までちゃんと協力してもらうわよ。言っとくけど昼寝の時間はありませんから」

 アスナがこちらに手を伸ばす。
 協力しろという握手なのだろうな。
 キリトはその手を握り返す。

「してたのはそっちの方だろ」

 するとアスナの頬は紅潮し、それと同時にキリトの小さな悲鳴が部屋に響く。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「すまない! さっきの一件を最初から見ていた人。いたら話を聞かせてほしい!」

 野次馬がざわめく中、青髪のロングの女性が前に出てくる。

「ゴメンね。怖い思いをしたばっかりなのに。あなたお名前は?」

「あ、あの私、ヨルコって言います」

 その声には聞き覚えがあった。

「もしかして、最初の悲鳴も君?」

「は、はい、私さっきの殺された人と一緒にご飯食べに来てたんです。あの人名前はカインズって言って、昔同じギルドにいたことがあって、でも広場ではぐれちゃって。周りを見渡したら、協会の窓に彼が」

 声を振り絞って必死になってヨルコは言葉を吐いていく。知人が死ぬところをしかもあんな無残な殺され方をするところを目の当たりにしたのだ。平然としていられるわけがない。
 アスナが彼女を落ち着かせようと背中をさする。

「その時、誰かを見なかった?」

「一瞬でしたが、カインズの後ろに人影が立っていた気がします」

「その人影に見覚えはあった?」

 ヨルコは首を横に振る。

「その嫌な話を聞くようだけど、心当たりはあるか。カインズさんが誰かに狙われる理由に」

 ヨルコは少し考えるがやはり首を横に振る。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「すみません、こんな場所まで送ってもらっちゃて」

 ヨルコを家まで送り届けた後にこの圏内殺人について考えをまとめるようにキリトが口にする。

「あの(スピア)の出どころがわかればそれから犯人を追えるかもしれない」

「槍のことならある程度の知識があるが、あんな短ぇのは見たことがねぇな」

「となると鑑定スキルが必要だな。お前とシュウがあげて……るわけないな」

「当然、君もね」

 すると唐突にアスナは足を止める。

「ていうか、そのお前っていうのやめてくれない」

 アスナが少し怒り気味なる。

「あ、あぁあ、じゃあ……あなた?」

 アスナが不機嫌な顔をする。

「副団長様……閃光様?」

 アスナは少し呆れた顔をする。

「普通にアスナでいいわよ」

「それで、鑑定スキルとかだけどフレンドに当ては?」

「う〜ん、友達で武器屋やってる娘が持ってるけど……今は一番忙しい時間だしすぐには頼めないかな?」

「それなら俺の知り合いの雑貨屋にでも頼むか」

「あいつに頼むのかよ」


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 第五十層・アルゲード

 街の本通りから一本外れた寂れた路地にシュウたちが目指すところはあった。

「相変わらずアコギな商売してるようだな」

「よう、キリトか」

 カウンターにいたのは茶色の肌をしたガタイのいい男。シュウやキリトの良き理解者のプレイヤーのエギルだ。

「久しぶりだな、エギル」

「おう、シュウも一緒か」

 シュウとエギルは拳を合わせる。

「安くしいれて安く提供するのがうちのもっとうなんでね」

「後半は疑わしいもんだな」

 キリトもエギルが拳を合わせる。

「頑張ってるな、エギル」

「おめぇに心配されなくても心配ねぇよ」

 すると後ろからついて来たアスナの姿をみるやいなや、シュウたちをカウンターの中へと引きずりこむ。

「ど、どうして、ソロのお前らがしかも、あ、アスナと一緒とは、どういうことだ! お前ら仲悪かったんじゃないのか!?」

 話せば長くなる、とだけいってから本題を簡易的だが説明した。

「圏内でHPが0に。デュエルじゃないのか?」

「【Winner】表示を発見できなかった」

「直前までヨルコさんと話していたなら睡眠PKの可能性もないわね」

「突発的なデュエルにしてはやり口が複雑すぎる。事前に計画されたPKだってことは確実だろうな」

「そこでこいつだ」

 キリトは、カインズに刺さっていた短槍をストレージからオブジェクト化する。それをエギルに渡す。

「プレイヤーメイドだな」

「本当か?」

「誰ですか、作成者は?」

「グリムロック。聞いたことのねぇ名前だ。少なくとも一線級の刀匠ではねぇ。それに武器自体も変わったことはねぇ」

「でも、手がかりにはなるはずよ」

「一様、固有名も教えてくれ」

「《ギルティー・ソーン》となっているな。罪の茨ってところか」

 再びエギルはキリトへと短槍を返す。

「罪の……茨……」

 ギルティー・ソーンをキリトがじっと見る。よし、とつぶやき。そして何か思いついたように刃先を自分に向ける。

「待ちなさい!!」

 自分の手を突き刺そうとするキリトをアスナが強い声で制止させる。

「なんだよ」

「なんだよじゃないでしょ!? バカなの!? その武器で実際に死んだ人がいるのよ!?」

「でも、試してみないとわからないだろ」

「そういう無茶はやめなさい!?」

 キリトから槍を強引に奪い取るとエギルへと渡す。

「この武器はエギルさんが預かっててください」


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 翌日、ヨルコから詳しい話を聞くことになった。
 ヨルコの入ってたギルド、《黄金リンゴ》内でいざこざがあったらしい。なんでも、たまたま倒したモンスターが敏捷力をあげる指輪を落としたらしく、その指輪をギルドで使うか売却して分配するかで意見が別れた。結果は五対三で売却となった。そして、ギルドのリーダーのグリセルダが売却しにいったあと帰って来なくなった。グリセルダは死んでいたそうだ。死んだ理由は不明。そして、グリムロックがグリセルダの旦那だったことを聞いた。
 指輪の売却に反対したヨルコ、カインズとあと一人の元へ向かった。
 《聖竜連合》のディフェンス隊のリーダー、シュミットの元へ。

「グリムロックの武器でカインズが死んだというのは本当か」

「……本当よ」

 ヨルコがゆっくり頷く。するとシュミットの顔がみるみる青ざめていく。

「何で今更カインズが殺されるんだ! あいつが……あいつが指輪を奪ったのか!? グリセルダを殺したのはあいつだったのか。グリムロックは売却に反対した全員を殺す気なのか。俺やお前も狙われているのか」

「グリムロックさんに作ってもらった他のメンバーの仕業かもしれないし……もしかしたらグリセルダさん自身の復讐かもしれないし」

「えっ!」

「だって、圏内で人を殺すなんてこと幽霊でもない限りは不可能だわ」

 シュミットが再び青ざめる。

「私、昨夜寝ないで考えた!」

 ヨルコが声を荒げて立ち上がる。

「結局のところグリセルダさんを殺したのはメンバー全員でもあるのよ!!」

 今までの彼女からは想像もつかないほどの動揺っぷりだ。

「あの指輪がドロップした時、投票なんかしないでグリセルダさんの指示に従えば良かったんだわ!!」

 その場にいた全員が何も口を出せない。

「ただ一人、グリムロックさんだけはグリセルダさんに任せると言った。だからあの人には私たちは全員に復習してグリセルダさんの仇を打つ権利があるんだわ」

「冗談じゃない。……冗談じゃないぞ。今更、半年も経ってから……何を今更……お前はそれでいいのかよ!! こんなわけもわからない方法で殺されていいのかよ!!」

 シュミットが震える体でヨルコに詰め寄ろうとする。それを止めようとしたその時だった。
 ───グシャ!
 鈍い音が部屋に響いた。
 今までのヨルコの激情が嘘かのように急に声を出さなくなる。そしてわずかに発せられた言葉は声にならなかった。

 ───……まさか!!

 ヨルコが背中をこちらへと向けた。そこには、小さな槍。罪の茨と呼ばれた短槍が突き刺さっていた。ヨルコは窓の縁に倒れこみ、そのまま窓の外へと落下していく。

「ヨルコさん!!」

 シュウとキリトは慌ててヨルコが落下してった方向を見る。そこには、地面と激突する寸前に光の欠片となって消滅する青髪の女性が。

「うそ……だろ」 
 

 
後書き
誤字脱字、気になる点、おかしな点、感想などありましたら感想等でお知らせください。
また読んでいただければ幸いです。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧