神隠し
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第一章
神隠し
これはある府県のある村で起こった話だ、本当の話であるがしかし今その村が昔のまま残っていないことは書いておく。もっと書くとその村がどの府県のどの場所にあって当時はどういった名前だったかは書けない。東京都の話であるかも北海道の話であるかも知れないが場所はあえて書かない、もっと言えば書けない。
この村につうという娘がいた、つうは村の中の普通の農家の娘だった。
つうはごく普通に育ちごく普通に家の仕事の手伝いをしてごく普通に村の他の子供達と遊んでいた、だが。
不意にだ、そのつうがいなくなったのだ。
村の子供達がだ、一緒に遊んでいたつうがいないことに最初に気付いた。
「つう何処だ?」
「何処に行ったんだ?」
「姿が見えないぞ」
「一体何処に行ったんだ」
誰もが首を傾げさせる、そしてすぐに子供達の手により村のあちこち遊び場にもなっている近くの山も探されたが。
つうは何処にもいなかった、それでだ。
子供達はつうが家に帰ったと思って彼女の家に行った、だがそこにもつうはおらず。
つうの母にだ、こう言った。
「つういないぞ」
「急に何処かに行ったぞ」
「おいら達と遊んでいたら急にだ」
「急にいなくなったぞ」
「えっ、つう働いてもいないよ」
つうの母のいのは子供達の話を聞いて驚いて言った。
「それじゃあ何処に行ったんだ」
「わし等も探すぞ」
いのの亭主でつうの父である伍平はすぐに言った。
「つうのいそうな場所をな」
「そうだね、これは大変なことだよ」
「川で溺れてるかもしらねえ」
「山で迷っているか」
「そんなことだったら大変だ」
それこそとだ、伍平は話しているうちに表情を焦ったものにさせていった。話しているうちに次第に焦りだしてきたのだ。
「それならだ」
「ああ、すぐにね」
「わし等も探すぞ」
「早くつうを見付け出さないと」
大変だとだ。二人も話してだった。二人でつうがいそうな場所を夜になるまで探したのだが。
やはりつうはいなかった、それでその日は諦めて家に戻ろうとしたが。
伍平は考える顔でだ、いのに家の前まで来たところで言った。
「庄屋さんに話してな」
「それでだね」
「つうを探してもらうか」
「そうだね、ここまで探していないのならね」
いのは疲れきった顔で夫に応えた。
「もう仕方ないね」
「そう、だからな」
「村全体でだね」
「つうを探そう」
「それじゃあね」
こうしてだった、二人で村の庄屋のところに言って事情を話した。すると庄屋の茂吉も深刻な顔で言った。
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