消えるもの
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第五章
「そうなんだな」
「うむ、それはな」
「やっぱりそうだよな」
「その通りじゃ、この六十年の間にな」
「このサブマリン707の潜水艦もいいな」
この作品もだ、彼は見付けて言った。
「こっちもな」
「作者さんは青の六号と同じ人じゃ」
「ああ、そうだったのか」
「それもいいデザインじゃろ」
「シンプルでな」
それでというのだ。
「こっちもいいな」
「そうじゃろ」
「ああ、しかし本当にな」
こうも言った享恭だった、あらためて。
「色々な作品のプラモが出ていたんだな」
「アニメのは出るじゃろ」
興津はここでだ、少し寂しい顔になって享恭に話した。享恭も彼のその寂しい顔を見た。
「放送している時は人気があってもな」
「それでもか」
「放送が終わるとな」
「それでか」
「もうあっという間に忘れられる」
そうなってしまうというのだ。
「それこそのう」
「あっという間か」
「そうじゃ」
まさにというのだ。
「そうなってしまう」
「それで売れ残っていってか」
「ここに置かれるのじゃよ」
「いいデザインのも多いけれどな」
「アニメは流行ものじゃ、ガンダムやマクロスみたいに息の長い作品はな」
シリーズ化され何十年も続く作品はというのだ。
「滅多にないわ」
「それで放送が終わると忘れられていくんだな」
「次の作品が人気になってな」
「今もそうか、アニメでも何でもな」
それこそとだ、享恭は部屋の上の方にあるプラモ達を見上げつつ興津に応えた。そこにあるものを見ながら。
「そんなものだな」
「そうじゃろ」
「世の中はな」
「そうして消えていくのじゃ」
「人の記憶からか」
「そうしたものじゃ、しかしな」
それでもとだ、興津は享恭に話した。
「こうして残るものもある」
「売れ残りのプラモか」
「幸か不幸かな、それでここにあるのもな」
「俺が買っていいのか」
「好きなのを買っていくといい」
ここでだ、興津は享恭に顔を向けて微笑んで言った。
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