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嫉妬を止めて

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第八章

「今回はな」
「そうだったの」
「ああ、けれど御前がプロレス雑誌読むなんてな」
「たまたま友達に見せてもらったの」
「そうだったんだな」
「そう、それで読んだけれど」
「いい記事だったな」
 兄は妹に笑って言った。
「俺も読んだけれどな」
「自分でそうしたのね」
「ああ、俺そんなこと言ったかとも思った位だ」
「そこまでいい記事だったの」
「本当にな」
「そうなのね、あとね」
 ここでだ、彩は宏伸にこうも言った。
「友達、美優紀ちゃんにサインしたことある?」
「美優紀ちゃん?時々うちに来る御前クラスで可愛い娘か」
「あの娘の方が可愛いでしょ、とにかくこの娘にサインした?」
「そういえばさせてもらってないな」
 首を少し傾げさせてだ、宏伸は答えた。
「それは」
「だったらね」
「それならなの」
「ああ、サインさせてもらっていいか?」
「自分からするの」
「声がかかったらな」
 その時はというのだ。
「それでいいか?」
「それじゃあね、ただサインもなのね」
「何時でも誰でも受ける」
 サインも然りというのだ。
「それがレスラーだ」
「そういうことね、まあ」
「まあ。何だ?」
「確かにいいかしら」
 兄を見てだ、妹はこうも言った。
「美優紀に羨ましいとは思う必要がない位に」
「何が羨ましいんだ?」
「こっちの話よ、まあとにかくね」
 あらためてだ、彩は兄に言った。
「もう私変なことは思わないからね」
「何かわからないが悩む、羨ましいと思うならな」
 それならとだ、宏伸はスクワットから腕立て伏せに移って彩に言った。
「まずはトレーニング、技の勉強だ」
「プロレスの、なのね」
「そうしてもっと強くなるんだ」
「自分がっていうの」
「そうだ、俺はそうだ」
「その前向きさ尊敬するわ」
「ははは、俺なんか尊敬するより親父とお袋を尊敬しろよ」
 宏伸は笑って応えた、そしてその兄にだ。
 妹は微笑んだ、そうしてだ。こう言ったのだった。
「もう美優紀を羨んでそれであれこれ思うことはしないわ」
「何かわからないがとりあえずいいんだな」
「私はね」
「ならいいがな」
「ええ、じゃあお兄ちゃん今はこのまま」
「暫くトレーニングをな」
 腕立て伏せをしつつ言うのだった。
「していくぞ」
「ここでなのね」
「ああ、汗をかけばかくだけ強くなるからな」
「そうしてどんどん強くなっていって」
「世界最強になるぞ」
「私も自分も努力しないと駄目ね」
 こうも思った彩だった、そんな兄を見て。
 他人の姉妹と自分の兄弟を比べて嫉妬しても意味はない、そしてその兄の言葉を受けて自分が努力してこそとわかった。そしてそれからだった、彩は嫉妬することがなくなった。何に対してもそうなりまずは自分で努力してと考える様になった。


嫉妬を止めて   完


                     2017・1・20 
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