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仇を討つ

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第二章

「普段から激しい方じゃがな」
「それでも今はのう」
「普段以上にな」
「激しいな」
「どうしてじゃ?」
 誰もが首を捻る。
「あそこまでの激しさは」
「比叡山の時も激しかったがのう」
「今はそれ以上ぞ」
「うむ、比較にならん」
 信長はかつて比叡山を焼き討ちにした。その時に多くの僧侶に女子供を斬っている。その時で信長の苛烈さは天下に知られていた。
 そしてそれ以上だった。今の信長は。
 その怒らせた目で叫んで実際に一向宗の者達を斬らせていた。捕まえた者達は実際に女子供であっても斬っていた。
 そしてだった。大鳥居の砦を囲んだ時だった。
 兵糧攻めにたまりかねた砦の一向宗の者達が降伏を申し出た。だが、だった。
 信長は怒り狂った声でこう言ったのだった。
「ならん!」
「なりませぬか」
「それでは」
「奴等がこれまでしてきたことを思い出すがいい」
 こう家臣達にも足軽達にも告げたのである。
「我が弟彦七郎だけではないな」
「はい、氏家殿も多くの方が一向宗に討たれています」
「そして多くの兵達が死んでおります」
「これまでの戦で」  
 織田家はこれまで多くの敵と戦ってきた。しかし多くの大名家との戦で死んだ者より一向宗との戦で死んだ者の方が遥かに多いのだ。 
 信長はそのことについてだ。こう言ったのである。
「彦七郎のこと、他の者達のこと」
「どうしてもですか」
「許せませぬか」
「許せぬのはこのことだけではない」
 そうだというのだった。
「あの者達は戦の時に他の民達に何をした」
「他の民達にですか」
「してきたことですか」
「そうじゃ。言ってみよ」
 信長は強い声で彼等に問うた。
「何をしてきた」
「はい、ものを奪い人を傷つけ殺し」
「やりたい放題でした」
 こうした不心得者も多かったのだ。一向宗の中には一揆のついでに他の宗派の門徒達に対する狼藉を働く者もいたのだ。
 念仏を唱えれば死んでも極楽に行ける、ならば例え狼藉を働いてもだというのだ。
 それでだ。信長も今このことを言うのだった。
「だからよ」
「降伏を申し出てもですか」
「それでも」
「全員斬れ」
 砦にいる全ての者達をだというのだ。
「一人残らずじゃ。悪人共を斬り捨てよ」
 一向宗が言う悪人ではなかった。狼藉を働いてきたそうした意味での悪人達をだというのだ、そして実際にだった。
 砦の門徒達は全て斬られた。降伏は許されなかった。篠崎の砦の門徒達は。
 寝返りを言ったが信長はその彼等を一向宗の重要拠点だった長島城に押し込んだ。その上で長島城も兵糧攻めとした。
 そしてやはりたまりかねて城から出て来た門徒達をだった。
 信長は待ち伏せさせてそのうえでだ。一斉に鉄砲を放たたせた。
 舟で川に出ていた彼等は次々と落ちる。川は血で染まった。何とか生き残った彼等が川辺に辿り着くとそこにはだった。
 織田の兵達が待っていてだ。その彼等もだった。
 次々に斬り捨てられ川に返される。川は門徒達の屍と血で埋め尽くされた。
 最後に合わせて二万の門徒達が篭城する二つの砦、それもだった。
 囲みそうしてだ。信長は言ったのである。
「火じゃ」
「今度はそれですか」
「火ですか」
「そうじゃ。二万の門徒達を燃やしてしまえ」 
 実際にそうせよというのだった。
「よいな。悪人共を成敗せよ」
「そうされますか」
「ここは」
「命を助ける必要はない」
 信長の言葉はここでも変わらない。
「よいな。全員焼き殺せ、悪人共を成敗せよ」 
 家臣達にも足軽達にも告げてだった。信長は二つの砦に火を点けた。
 どちらの砦も忽ち火に包まれ燃え上がる。その中から。
 門徒達の断末魔の声が聞こえてきた。信長を呪詛する声に満ちている。 
 誰もがその声に顔を曇らせる、しかしだった。
 信長は顔を怒らせたままこう言うのだった。
「これでよいのじゃ」
「悪人を成敗したからですか」
「だからこそ」
「そう仰いますか」
「言ったな。あの者達によって多くの者が殺され」
 信興だけでなく多くの家臣や足軽達がだ。 
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