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産女異伝

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第六章

「産女はお産で死んだ女のあやかしです」
「女の」
「子も死ねば」
「それでは」
「はい、あれは私の女房と子でした」
「そうだったのですか」
「話を聞いてやはりと思い」
 市兵衛はさらに話した。
「顔を見て確信しました」
「奥方とお子でしたか」
「そうでした、そしてです」
「ご自身で」
「ことを終わらせることが出来ました」
 遠くを見つつだ、市兵衛は作左衛門に話した。
「そのことを有り難く思っています」
「そうですか」
「はい、しかし悪い女房ではなかったのですが」
 ここでだ、市兵衛は俯いてこうも言った。
「あやかしになるとは」
「それだけ無念の気持ちが強かったのでしょうか」
「そうでしょう、子と共に死んだのですから」
「だからこそですか」
「あやかしにまでなったのでしょう」
 大柄な身体の背も丸くなっていた、そのうえでの言葉だった。
「残念で仕方がありません」
「それがし多くは言えませぬが」
 作左衛門は背を丸めている市兵衛を気遣って言った。
「ご亭主、そしてお父上に成仏させてもらってです」
「女房と子も」
「嬉しく思われているでしょう」
「そうであれば何よりです」
「はい、それでは」
「今から殿にことの次第をお話しましょう」
「そうしましょうぞ」
 市兵衛は作左衛門と共に城に入り継政に全てを話した、話を聞き終えた継正は満足した顔で二人にねぎらいの言葉をかけてだった。
 市兵衛に多くの礼の銭と宝を与え作左衛門にも働きに見合うだけのものを与えた、そうして二人を休ませた。
 そのうえでだ、家老達に言った。
「ある程度わかっておった」
「産女のことはですか」
「あの山伏の女房だったと」
「おおよそな」
 そうだったというのだ。
「それで頼んだのじゃ」
「そうだったのですか」
「あの者に因縁があるからこそ」
「あの者ならば産女を成仏出来る」
「そう思われたからこそ」
「そうだった、そして実際にそうしてくれた」
 市兵衛、彼はというのだ。
「あの者はあの者で女房と子供を救いな」
「城下町も救った」
「そうなのですか」
「そうじゃ、よかった」
 実にとだ、継政は言った。
「あの者にとってもあの者の女房子供にとっても城下町にとってもな」
「全てですな」
「よかったですな」
「まことに」
「そうなのですな」
「うむ、実によかった」
 こう言うのだった、そしてだった。
 継政は城下町の夜の外出禁止を解いた、夜の町に再び賑わいが戻った。子を失った母親が成仏したからこそ。
 この話は岡山に古くからある話だ、とはいっても古書には記録がなくある古老が知っていた話である。この話を聞き伝えておくべきかと思いここに書き残した、この話が後世にまで残るのなら何よりも有り難いことである。


産女異伝   完


                        2016・11・24
 
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