魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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ANSURⅥ其は恐怖に彩られし宵闇の化身なる者~LeseFear~
前書き
皆さん、劇場版Reflectionを観に行きました? 私はまだです。暇があれば行きたいな~。
闇黒の堕天使レーゼフェア戦イメージBGM
龍が如く2「散るは刹那」
https://youtu.be/OEYuXmEmQdk
†††Sideルシリオン†††
「・・・」
『マイスター、大丈夫?』
プライソンをこの手で殺し、レーゼフェアを探すために反対方向へと向かって飛んでいた。そんな中、俺の胸の内に渦巻くのは混乱だ。奴は死に際に、リアンシェルトは記憶を取り戻している、なんて言葉を遺して逝った。俺はありえないと否定したが、考える時間が出来るとひょっとして、という思いも生まれる。
(今考えればあの子の行動には不審な点があった)
俺の正体をユーノから隠すように大戦時代の書物を隠し、スマウグ戦でもはやて達を護り、今も彼女たちやミッドを護るために出張ってきている。以前あの子は、自分の居場所を護るため、と言っていた。いくらなんでもそんな理由で“堕天使エグリゴリ”が動くのか? あくまで俺を殺すのを主目的としているのに・・・。
(そもそも弱い者いじめが嫌だから俺を見逃すというのも変な話だ)
極めつけはシュヴァリエルに負けて植物状態となっていた俺を再生させた。
――待て、リアンシェルト! なぜ俺を助けた!――
――あのような無様な結果で死なせるなど、エグリゴリとしては納得できないですから。神器王はエグリゴリとの戦闘によって敗死する。それがこの戦の結末です――
スマウグとの決着後、俺がそう問い質すとリアンシェルトはそう言った。そこまで拘る理由・・・。順を追って“エグリゴリ”と対峙させようとするのが俺を死なせないため、強くするため、これまでの言動が全て演技だとすれば・・・。彼女の心にどれだけの傷を負わせていたことか・・・。
(リアンシェルト、お前はなんて・・・!)
俺や自身を騙してまで、俺に殺されようと決意したあの子への複雑な感情に拳を握りしめていたところに、『ルシル君!』いきなり通信が入った。相手は「はやて!?」だった。これまでずっと通信も念話も遮断されていたはずだが。
『ルシル君、そっちの状況はどうやろ?』
「今レーゼフェアの居るだろう場所へ向かっている最中だ」
オリジナルのプライソンの事は黙っておく。人殺しをしたことは出来るだけ知られたくない。愚かな考えだ、今さらな・・・。
「そっちは・・・リアンシェルトが来たんだな」
『うん。今のところはしっかり隕石を迎撃してくれてる。とゆうか、リアンシェルト・・・少将のおかげで今、ミッドはなんとか無事でいられる状況や。そやけど・・・』
はやては若干不安そうに言った。リアンシェルトは、俺以外には手を出さない、そう宣言しているからはやて達に危害は加えないだろうが、それでも“エグリゴリ”の1機だという事実に怯えているのだろう。
「とりあえず、今のところはリアンシェルトは味方だと考えていい。彼女も彼女で自分の立場を大事にしているようだしな」
『そうか? ルシル君がそう言うなら信じる』
嬉しいことを言ってくれたはやてが、すぐに少し沈んだ表情を浮かべたことに気付いて「何かあったのか?」そう訊いてみると、彼女は僅かに逡巡した後に『プライソンが急死したんよ』と答えてくれた。
(どういうことだ? まさかオリジナルの死と直結していたのか・・・?)
オリジナルであるプライソンすら知らなかったのだろうか。オリジナルとクローンの生死直結を。まぁいい。これで俺の正体がプライソンから漏れることはなくなった。
『ルシル君の複製能力や左目の視力について、なんも聴き出せへんかった・・・。ホンマにごめんな・・・』
はやてが沈んでいた理由がそれだった。複製権限はオリジナルから取り戻した事を伝えるべきだろうが、ここは「レーゼフェアが持っているかもしれない。だからそう不安がるな」と伝えておく。どの道、俺の左目の視力は取り戻せていないしな。レーゼフェアから視力と一緒に権限も取り戻した、ということにしておこう。
『・・・ホンマにゴメン』
「大丈夫だよ、はやて」
『うん。そんじゃルシル君。気を付けてな。ちゃんと帰って来――』
「ん? はやて・・・?」
突如として音声が途切れた。モニター越しのはやては何か喋っているようだが、残念ながら聞こえない。試しに「はやて」と呼ぶが、俺の声もどうやら向こうに届いていないようだ。そのことに気付いたはやても口をパクパクとしている。
「・・・じゃあ、アグレアスは必ず止めるからもうしばらく耐えてくれ、っと」
俺は人差し指に魔力を付加し、宙に指を走らせてそう文字を書いていく。はやてが力強く頷くと口パクで、待ってる、と返してくれた。そして微笑み合いながら通信を切った。
『マイスター・・・! 距離300m先、神秘を確認』
アイリから報告が入ったことで、俺もレーゼフェアの神秘をハッキリと捉えることが出来た。全長数kmの“アグレアス”内を翔け、「あそこだな・・・」スライドドアを視認する。
『あのねマイスター。リアンシェルトの事で悩むのはしょうがないと思う。でも今は、このアグレアスを止めるために・・・』
「アイリ・・・。すまない、ありがとう。そうだな、今は・・・」
ミッドを救うのを優先しなければ。リアンシェルトについては今回の一件が片付いてから問い質せばいい。これまでの事を考えればはぐらかされるだろうが、それでも強引に聞き出してやる。
「アイリ、恐らく苦しい戦いになる。負担も大きいだろうが・・・」
『それについては気にしないでね。アイリはマイスターを支える融合騎だもん。辛いことも精いっぱい受け止めるよ。だってマイスターの事が大好きだもん。一緒に戦って一緒に勝とう。ね?』
「本当に俺には勿体ない相棒だよ」
『えへへ❤』
心強過ぎる味方のアイリを胸に、俺はニュートラルのイェソドフォルムで“エヴェストルム”を起動し、「せいっ!」スライドドアに向かって振るった。袈裟斬りで寸断されたドアが崩れ始めたところで、閃光系砲撃の「アダメル!」を撃ち放って室内へと吹っ飛ばす。破壊時に発生した煙を突っ切っると、そこはプライソンと戦った広間と全く同じ部屋。唯一の違いは玉座が無く、そして「レーゼフェア」が居ることだ。
「あ、やっと来た! おっそーい! あと15分でミッドに墜落するんだから、もう少し手早くプライソンを殺してほしかったよ!」
やれやれと言った風に肩を竦めるレーゼフェアは、両腕に篭手型神器・“聖狩手甲エオフェフ”を装着して、「さぁ始めようよ! 僕は心中なんて真っ平御免だし!」構えを取った。
VS・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・
其は善性より堕とされし闇極の堕天使レーゼフェア
・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・VS
俺も“エヴェストルム”の柄に埋め込まれた魔石に魔力を流し込み、流し込んだ分の3倍近くの魔力が返還される。フォルセティから吸収した魔力の結晶やプライソンのリンカーコアを取り込んだおかげで、X-ランク程の魔力は捻り出せるようになっている。複製権限の奪取と奪還は不幸中の幸いということだな。
「イドフォルム・・・!」
“エヴェストルム”を実体剣から神秘付加された魔力刃へと神器化させる。残り15分。俺たちが脱出するための時間も必要なため、もう少し短い時間になるだろう。レーゼフェアに訊きたいこともある。リアンシェルトの件で、だ。それを計算して戦闘を終わらせなければ、俺やアイリもミッドと心中になる。
「果て無き闇あるところに限り無き光あり。二天の狭間で生まれるは永劫の影。我は影の王、闇の支配者、光の仇敵。世は何時しか闇に堕ち影に覆われ光は露と消ゆ♪」
――闇色に染めたる影国――
――舞い降るは、汝の煌閃――
レーゼフェアの足元から影が勢いよく拡がり始めた。対する俺は光槍を周囲に展開。そして「ジャッジメント!」と号令を下して射出し、天井・壁・床にランダムに突き立てて行く。炸裂させずに維持することで、あの子の影の支配圏を少しでも狭めることが出来るはずだ。
「無駄だよ! それだけじゃ僕の影を全て消せない!」
――血肉を求む伝道者の凶つ剣――
光槍によって消滅している範囲外の影より無数の剣が伸びて来た。全方位からの刺突・斬撃攻撃だが、避けられないことはないし迎撃だって可能だ。数年前のプライソンでのアジトとは違うところを見せてやる。“エヴェストルム”の魔力刃を構成している魔力を無属性から閃光系に変化させ、「ふんっ!」伸びて来る影剣を斬り捨てていく。
「マグニ!」
――噛み砕け、汝の凍牙――
術式や魔力、身体能力を強化するマグニを発動した上で氷雪系の龍・マトリエルを発動。その巨大な口でレーゼフェアに噛みつこうとする。あの子はダンッと強く床を踏みしめ、「串刺しだ!」新たな影剣を床から突き出させて氷龍を迎撃した。氷龍は一瞬で破壊され、氷の破片がぶわっと周囲に舞った。それとほぼ同時に俺はあの子の背後へと回り込む。
「この・・・!」
振り向きざまの裏拳を繰り出すレーゼフェアだが、すでに俺は“エヴェストルム”の穂先を奴の脇腹に向け終えている。しかし発射するよりあの子の裏拳が到達した。
「ふえ・・・!?」
レーゼフェアが驚きの声を上げた。何故ならあの子の裏拳が空振ったからだ。とは言っても俺の鼻っ面をギリギリ掠るようなものだったが。
「惜しかったな!」
先ほどの氷龍には2つの意味を込めていた。1つは純粋に攻撃として。まぁ直撃すれば儲けもの程度としか考えていなかったが。もう1つが目晦ましとしてだ。迎撃された場合は、至近距離での攻撃へ移行するつもりだった。そのための下準備。氷の破片が光を乱反射させ、レーゼフェアの間合いを狂わせるというものだ。おかげであの子の裏拳の直撃は免れた。いや本当ギリギリだったが。
――戦滅神の破槍――
穂先より放った雷撃系砲撃の直撃により、「のわぁぁぁ!」レーゼフェアが吹っ飛んだが、宙で体勢を立て直して床に降り立った。しかしそこはまだ「攻撃範囲だ」と指をパチンと鳴らす。あの子の側に突き立っている光槍を爆破させると、あの子は「ひゃあん!」悲鳴を上げて閃光爆発に呑み込まれた。
「第二派装填!」
爆破させた分以上の光槍を再展開させ、「ジャッジメント!」光に呑まれたままのレーゼフェアへ向けて射出して床に突き刺していく。
――影渡り――
背後に気配を感じ、俺は床を蹴って前へ向かって跳び退く。アイリが『砲撃体勢!』そう教えてくれた直後、感じ取れていた気配からレーゼフェアの魔力が発せられた。
「そぉーーいっ!」
――黒き閃光放つ凶拳――
急上昇しつつ反転したすぐに足元を砲撃が通過して行った。レーゼフェアは突き出していた右拳を背後へ振り戻した反動でダッシュ開始。そんなあの子へ向けて、俺は周囲に閃光系魔力スフィアを8基と展開。
「往けッ!」
――女神の宝閃――
8発の上級砲撃を連射。レーゼフェアは「閃光系は通用しないって知ってるよね~?」陽気な声で砲撃を殴って粉砕した。砲撃が粉砕されるまでの間に放射した魔力弾があの子に着弾していくが、「あいたた!」そう軽く言いながら突破して来た。
――戦滅神の破槍――
そんなレーゼフェアの背後に雷撃系スフィアを1基と展開し、猪突猛進なあの子の背中に向けて発射する。あの子の足元は砲撃や光槍によって照らされているため影は出来ていない。影渡りによる回避も影操作による防御も出来ない。が、「ハズレ!」あの子はヘッドスライディングすることで砲撃を回避した。
「リフレクティブミラー!」
複製に頼らずにすずかの反射魔法を発動。レーゼフェアの頭上を通過して俺に戻って来た砲撃を反射鏡で反射させて、今度はあの子の真正面へと向かわせる。立ち上がったばかりのあの子の視界が砲撃で塞がれたのを確認し、あの子の直上へ移動。
「忘れたのぉ? 閃光・炎熱・雷撃系は、僕のエオフェフの前じゃ無力だってことをさ!」
ただの拳打で上級の雷撃砲が粉砕される。レーゼフェアの所有する神器は、神属の威厳を示すとされる閃光と炎熱と雷撃の3属性を無力化させることの出来る籠手・“聖狩手甲エオフェフ”の複製品。そんなことくらいは理解している。俺がオリジナルの持ち主から複製し、レーゼフェアに授けたのだから。
「って、あれ? 居ない・・・?」
砲撃が粉砕された際に放電現象が発生した。おかげでレーゼフェアの視界をさらに妨げたことで、「ふんっ!」俺の直下に居るあの子の背中に“エヴェストルム”を突き立てることに成功した。零距離での一撃を狙ったが・・・
「あま~い!」
――高貴なる堕天翼――
レーゼフェアの背中から放射状に20枚と展開されるクジャクの尾羽のような魔力翼。その衝撃であの子の背中に突き立てていた魔力刃が砕かれ、さらには俺も「っく・・・!」吹っ飛ばされた。
「油断したね? でも残念! 僕も本気を出すよ!」
――昏き淵より手招く罪深き聖域――
広間一面を覆っていた影が急速にレーゼフェアの元へ収束していく。あの子の足元に広がる影から伸び出すのは、何百本という先端が剣状になった影の触手。あの子を護るように周囲をうねうねと蠢く。
「まずは厄介な照明灯から排除したげるよ!」
ブワッと広範囲に向けて伸び出す触手が、苦手なはずの閃光系魔力で創られた光槍に巻き付いて呑み込み続ける。魔術は属性の優劣以上に神秘の優劣が重要だ。レーゼフェアの影が俺の光槍の神秘が上回ってしまったのだろう。
「さぁ空に舞っちゃえよ、神器王!」
足元の影をさらに拡げたレーゼフェアが腕を振るうと、3ケタ程の影の触手が鞭のようにしなりながら超速度で伸びて来る。空戦形態は維持しているため、その場に留まることなく、ゆりかごの玉座の間の3倍近く広いこの部屋の宙を飛び回って回避。俺の両拳の前方に円陣を1枚ずつと展開し、その前方に閃光系の魔力スフィアを10基ずつの計20基を創り出す。
「はっ!」
――浄壊なせ、汝の光輝――
円陣を殴ってスフィアを魔力弾としてバラけて放つと、無数の触手を足場にして俺の元へ飛び跳ねて来たレーゼフェアが「なにコレ・・・?」小首を傾げた。もし万が一にもレーゼフェアの記憶も戻っていたとすれば、ザグザゲルの効果がどういったものかは知っているはずだが・・・。
(レーゼフェアも演技として知らないフリだとすれば・・・)
胸の内でモヤモヤと渦巻く迷い。リアンシェルトの記憶が戻っていると知らなければ、レーゼフェアとも何も気にすることなく闘えていた。だがあの子の記憶も戻っているとなれば・・・。
(確かめてみるしかないか、やはり・・・)
魔力弾20発はレーゼフェアを避けるように床に着弾すると直径10m程の半球状に炸裂し、床に広がる触手を伸ばす影を一瞬にして消し飛ばしていく。影の本体から切り離された触手上部も宙に掻き消えて行き、俺の至近にまで迫って来ていた影剣も消滅した。触手を足場としていたあの子が「ふわっ?」ガクッと体勢を崩したが、背中に展開している魔力翼を活かしてすぐさま姿勢制御。しかしその僅かな隙を突いた俺は・・・
――力神の化身――
「捕らえよ!」
――リヒテンファーデン――
対レーゼフェア用に組んでおいた閃光系魔力によるバインドを発動する。サファイアブルーに輝く魔力の糸に四肢を拘束されたあの子は「閃光系とか面倒くさいなぁ、もう!」そう言って足掻きを見せるが、マグニによる強化を受け、なおかつ弱点属性によるバインドだ。時間を掛ければ破壊できるだろうが、その時間は与えない。さらにバインドの発光量を上げてやる。
(エオフェフにじかに接触しなければ問題はない!)
「ちょっ、眩しい! 眩しいんだけど!」
レーゼフェアの全身が閃光に呑まれたことで、影による脱出もバインド破壊も不可能となった。弱点属性がハッキリしているあの子は、俺の魔力と神秘がしっかりしていればおそらく“エグリゴリ”の中で一番弱い。だからこそ弱点属性の少ない風嵐系のフィヨルツェンとコンビを組ませていたわけだが。
「レーゼフェア!」
「なにさ! これで勝ったと思わないでよ! この部屋は影が出来やすいように設計されているんだから!」
――影分身――
レーゼフェアの強みは、自身の影だけでなく遠く離れた影をも支配できる事。現に俺やあの子から離れた地点に出来ている影から、あの子と全く同じ姿の人型の影が何十体と出現した。“エヴェストルム”の穂先に閃光系魔力を付加し、携えている左手を右肩にまで持って来て・・・
「ふんっ!」
勢いよく横に振り払いつつ穂先から光線を放ち、床に横一線のラインを刻み込む。それは俺たちと影分身を隔てる境界線だ。
――天地に架かれ、汝の明けの明星――
“アグレアス”に穴を開けないように威力を限界にまで絞った状態で発動したルシフェル。ライン上に沿うように連続で砲撃が立ち上り、攻撃力を伴った光の壁としてそびえ立つ。本来は屋外で発動するべき対地空多弾砲撃ゆえ、今のルシフェルは4分の1もその効果を発揮できていない。が、レーゼフェアの影分身を蹴散らすことくらいは出来る。
「どうなったの!? 見えないよ~!」
「お前の分身は全て消し飛んだよ。さて、レーゼフェア。お前に2、3、訊きたいことがあるんだがな」
「はあ? 僕が神器王の疑問に答えるとか、そんなのあるわけな――」
「リアンシェルトはヴァルキリーとして記憶が戻っているという。お前はどうなんだ? レーゼフェア」
「っ! は、はあ? 何を言ってるのか解らないよ! き、記憶? ヴァルキリー? 僕、そんなの知らないもん!」
この質問をするためにレーゼフェアを捕らえたんだが、返って来た答えを聞いて「なるほど・・・」俺は自分の愚かさを呪った。あの子の返答の最初、息を呑んだのが判った。まさか、が現実味を帯びていく。
「レーゼフェア。お前も記憶が戻っているんだな」
「・・・知らないもん! はあ? 僕はヴァルキリーなんて知らないもん! 僕はレーゼフェア! エグリゴリのレーゼフェアだもん!」
「レーゼフェア・・・」
「うるさい! 知らないって言ってるでしょ! むぅ~! もう放せよ~!」
エグリゴリ達はずっと洗脳され続け、記憶はもう戻らず、俺と敵対して、破壊してやることが救済になるという考えしかなかった。父親として最低過ぎるだろう、さすがに・・・。もう少し疑うべきだったんだ。
「頼むよ、レーゼフェア・・・」
バインドの発光量を完全に抑え、さらにバインド自体を解除してレーゼフェアを解放する。アイリが『マイスター!? それは危険過ぎ!』と言うが、素直にさせるにはこれくらいしなければならないだろう。自由になったあの子の頭を胸に抱く。
「っ!」
「本当に記憶が戻っていないなら、今すぐ俺を殺してみろ。出来るだろ、エグリゴリのレーゼフェア・・・」
今の俺は完全に無防備だ。正直、今の状態でレーゼフェアの全力を受けたら死ぬ自信がある。でも信じよう。だってお前は昔から嘘を吐く時はいつも、はあ?とか、もん!が多いものな。
・―・―・回想だ・―・―・
今日もヨツンヘイム連合との戦闘を無事に終え、私たち“アンスール”や“戦天使ヴァルキリー”は、アースガルドはセインテスト王領・グラズヘイムに在るヴァルハラ宮殿へと帰還した。私と恋人のシェフィリスは仲間たちと別れ、本作戦に参加した各“ヴァルキリー”の状態を確認していた。
「ブリュンヒルデ隊が留守番でも、戦線押し返しは楽だったね」
「あの子たちはここ最近ずっと稼働していてくれたしな、少しは休ませてやらないと」
「ティーナやシュヴァリエル達も休ませてあげたいんだけど・・・」
「ヘルヴォル隊は出来るだけ出したいな。あの子たちの高火力と防御力は魅力だからな」
今回の戦闘にはティーナ率いるヒルド隊とシュヴァリエル率いるヘルヴォル隊、そしてクリスト率いるゲイルスケルグ隊の3隊に参加してもらった。ヘルヴォル隊は特攻隊のため、ダメージを負う割合が高い。ティーナ個人もミサイル娘なため、ヘルヴォル隊と並ぶダメージ率だが、撃破率が異様に高い。ハイリスクハイリターンというわけだ。
「アプリコットに回復最優先を指示しておくよ。これから戦勝会だし、主役でもあるあの子たちが参加できないのは可哀想だもの」
「まぁアプリコットから送られてくるデータを見る限り、すでに回復率が80%超だけどな」
なんてシェフィと話をしていると、『お父様、お母様! プリメーラですが、今お時間よろしいですか!』そんな念話が入った。相手は「プリメーラ?」だった。
『どうしたの? なんか怒っているようだけど・・・』
『そうなんです、お母様! お父様と一緒に1階の第3調理室へ来て頂けますか!』
プリムがお怒りモードに入っている。感情統制プログラムが強レベルなプリムが怒るとなれば、それは姉心が働いている時だ。“ヴァルキリー”の少年組が何かやらかしたかな。そういうわけで指定の調理室へ来たんだが・・・。
「聴いて下さい、お父様、お母様! この子たち、戦勝会で振舞われるデザートやスイーツをつまみ食いして、さらには2皿を空にしたんです!」
腕を組んで仁王立ちのプリムの隣には少年組の1人であるソアラが居り、2人の目の前には正座をさせられた“ヴァルキリー”が7人。リオとミオとナーティア、それにコゼットとエミリアとカレンの予想通りな少年組(身長が155cm未満)の一部と、それに「レーゼフェア・・・」だ。
「はあ? 僕はなんのことか知らないもん。最初から空だったもん」
「どの口が言いますか! ヴァルキリーの開発ナンバリングで1ケタという姉のあなたが、率先して食べていたとソアラから報告が入っています! リオ、真面目なあなたが居ながらどうして止めなかったの?」
「あぅ~。だからダメだって言ったのにぃ~・・・」
名指しを食らったリオがしょんぼり肩を落とした。自分以外の6人はそれほど真面目ではない、外見通りの子供の精神だから止めきれなかったんだろうな。うん、これは仕方がない。真面目君1人が騒いだところで止められないものもある。
「僕もダメだって言ったもん。でもこの子たちがさ~」
「「「「「「えええーーーっ!」」」」」」
レーゼフェアが肩を竦めると正座させられていたリオ達が叫び、「裏切り者ぉー!」と罵った。対するレーゼフェアは「はあ? なんのことか知らないも~ん」としらばっくれる。
「嘘おっしゃい、レーゼフェア! 嘘を吐く時いつも、はあ?と、もん!が付くその口クセ! さらに言えば、口の周りにマロンクリームが付いている!」
プリムがビシッとレーゼフェアの口を指差すと、あの子は袖口でグイッとクリームを拭って「僕、食べてないもん」白々しい嘘を吐いた。ここでとうとう妹に当たるプリムが「ふんっ!」レーゼフェアの頭に拳骨1発。
「いだっ! 殴ることないじゃん、プリメーラ! 僕って一応お姉さんなんだよ!?」
「なれば少しは姉らしく振舞ってくれませんかねぇ! もう! お父様とお母様も何か言ってください!」
私とシェフィは顔を見合わせて苦笑いをし、「それじゃあみんなで新しく作ろう」と提案。私やシェフィと一緒に菓子作りが出来ることを、リオ達だけでなくプリムまでもが「本当ですか!?」と満面の笑顔を浮かべた。
「僕、食べる係だから~」
「に・が・さ・な・い♪」
逃げようとしたレーゼフェアの両肩に手を置いたプリムは、レーゼフェアを味見係ではなく後片付け戦力として居残らせた。
・―・―・終わりだ・―・―・
「・・・出来ないよ・・・」
レーゼフェアがそう漏らした。確定した。リアンシェルトはまだ確認できていないが、レーゼフェアは確実に記憶を取り戻している。俺は「どうしてこんな・・・」さらにあの子を抱きしめる力を強めた。
「何で戻って来なかった・・・。記憶が戻っているのなら、どうして俺のところへ戻って来てくれなかったんだ・・・?」
「戻れるわけない。僕は、僕たちは、大好きな人たちをこの手で殺した。洗脳されてた? そんなの言い訳だよ」
「それはお前たちが悪いわけじゃない! 責められるべきはお前たちのプロテクトをしっかりしていなかった俺だ!」
“ヴァルキリー”が洗脳されるわけがない、という油断が招いたのが堕天使戦争だ。究極的な原因は開発者であり、こうして生き残っている俺にある。
「それでも僕たちが犯した罪は消えないんだよ! 憶えてる! この手でフォルテシア様を殺したこと! 血の温かさも、肉を斬った感触も! あの日から今日までずっと、悪夢として僕を軋ませる!」
ドンッとレーゼフェアに突き飛ばされた俺は「きっとアンスールのみんなは恨んでいない!」と伝える。俺とシェフィが“エグリゴリ”の殲滅を決めた際、そして実際に破壊した際、“アンスール”のみんなは悲しんでくれた。しかも戦闘の中で戦死しても、遺されたメンバーの中から“エグリゴリ”を恨む声が出ることは無かった。
「たとえそうでも! 自分自身を許せないんだよ! 記憶が戻って、自分たちが犯した罪を思い出した時、僕たちは決めたんだ! せめて敵として父さんと戦って、その手で眠りにつこうって!」
「っ! バンヘルドも、グランフェリアも、シュヴァリエルも、それにガーデンベルグやフィヨルツェンの記憶も戻っているんだな・・・?」
「・・・うん。戻ってるよ。父さんがベルカって世界に来るよりずっと前に、ね。・・・最初はね、自壊しようとしたんだよ。でも僕たちには、当時のヴァナヘイム王から自壊も自傷も出来ないように、アンスールのみんなを殺すように、特別なプログラムが組み込まれた。だから記憶が戻っても、そのプログラムがある以上は嫌でも父さんと戦わないといけなかった。だからこうして父さんに敵意を持たせるような行動して、僕たちエグリゴリを斃し易いように仕向けてた・・・」
自分の愚鈍さに怒りを覚える。気付けなかった、バンヘルド達が正気に戻っていたことに。気付いてやれば、もっと違う結末を用意できたのかもしれないのに。唇を噛みしめ、拳を握りしめ、皮膚が傷つき血が流れるのも放って「すまない・・・!」頭を下げる。
「・・・父さん。さぁ、再開しようよ。僕と父さんの最期のダンス」
「レーゼフェア!」
構えを取るレーゼフェアに「やめてくれ!」と言うと、あの子は「だったら僕やミッドと一緒に死ぬの?」と冷めた声でそう返された。あの子が消えない限り、“アグレアス”はミッドに向かい続ける。それはミッドの壊滅を意味する。俺は「くそっ!」と吐き捨て、レーゼフェアを破壊すること以外での策を考える。
「ああ、そうだ。ステガノグラフィアなら、アグレアスのシステムをハッキングすれば・・・!」
どれだけの機能を持とうが所詮は機械兵器。システムを掌握してやれば、その管制権限を奪い取ることが、と考えたところでレーゼフェアが管制機だということを思い出す。ハッとしてあの子を見れば・・・
「無理だよ。アグレアス内に管制機器は1つと存在してない。全て僕の頭に収まってる。そういう風にするようにプライソンに頼んだからさ」
そう言って人差し指でこめかみをトントンと打った。
「もうこれで父さんは僕を斃すしかなくなった・・・よ!」
――闇の女王の鉄拳――
俺に向けて突き出された右拳より直径2mの影の拳が放たれた。横移動して回避すると、レーゼフェアは接近戦を仕掛けるためか突っ込んで来た。俺は閃光系砲撃の壁・ルシフェルを解除して、逃げの一手を取る。
『マイスター!? 早くしないとはやて達が・・・!』
「判っている! 判ってはいるんだ! 判っては・・・」
アイリに急かされるが、どうしてもレーゼフェアを斃そうという思いが揺らぐ。あそこまで自分を追い詰めていたあの子たちを、ミッドが危ない、はいそうですか、じゃあ斃します、なんていうほど俺は・・・。
「父さん!」
『マイスター!』
――血肉を求む伝道者の凶つ剣――
――コード・シャルギエル――
広間の影から無数の影剣が突き出して来たため、それらを紙一重で回避ながら逃げ回る。アイリはアイリで独断で自身の魔法を発動させ、氷槍10本を射出して影剣を迎撃する。ユニゾン状態なら俺の神秘も扱えるアイリだ。可能な事だ。
「逃げないでよ、自分の責任から、運命から! 父さんはそんな弱虫なんかじゃなかった! 僕の大好きな父さんは、絶対に背中を向けない英雄だった!」
「それは相手によるぞ・・・、レーゼフェア・・・」
――影分身――
影剣1つ1つがレーゼフェアの姿を取る分身となり、1対約100となる。あの子本体と分身が一斉に右腕を引き、体の前方に闇黒系魔力のスフィアを展開。そして右拳でスフィアを殴って「ソワール・エロジオン!」砲撃として放射した。全方位からの砲撃に、俺は防性術式ではなく・・・
――曙光神の降臨――
攻性術式のデリングを発動。俺を中心に閃光系魔力が球状に爆ぜ、レーゼフェアの砲撃や効果範囲に呑み込まれた分身すらも消滅させた。デリングも消え、改めてあの子の真正面から向かい合う。
「父さん。アグレアスがミッドに衝突するまで10分を切ったよ。・・・父さんの今の罪は、僕を生かそうとすること。自分の罪を償うなら、僕や残りのエグリゴリを斃すこと。それがアンスールの神器王、ルシリオン・セインテスト・アースガルドとしての最後の務めだよ」
「っ・・・!」
「お願い、父さん。僕に償いをさせて、罰を与えて。父親として、悪い事をした子供を叱ってよ・・・」
――真技・宵闇に咆哮する影獣――
二重円の中に正五角形と逆五角形を合わせた十角形、その中に円、また中に六角形という魔法陣を足元に展開したレーゼフェア。両腕を大きく広げ、広間全体から影を自身に集束させていく。さらに広間全体に影が拡がって行き、室内が薄暗くなる。そしてあの子の姿が、2mを優に超える影に覆われた3つ首の獣・ケルベロスと化した。
『もう時間が無い。覚悟を決めて、父さん。娘として最期のお願い』
3つ首の口が大きく開き、巨大な闇黒系魔力弾・砲撃・斬撃が放たれて来た。さらにあの子の周囲の影から円柱が8本とそびえ立ち、そこからも小さな魔力弾や針が放たれて来る。それらを空戦形態の機動力を以って回避し続ける。
『僕を救って、父さん!』
「~~~~っ! くそぉぉぉーーーーッ!」
“エヴェストルム”にある2つのシリンダーに収められたカートリッジ全12発をフルロード。そして待機形態の指環に戻した上で「我が手に携えしは友が誇りし至高の幻想!」と詠唱。左手に携えるのは、レーゼフェアの手によって殺害された闇黒系最強の魔術師、フォルテシアの神器・“宵鎌レギンレイヴ”。
「救ってやる・・・! 今すぐにその悪夢から・・・解放して、眠らせてやるからな!」
――うん。お願い。早く、休ませてあげて、あの子を――
放り投げた“レギンレイヴ”を高速回転させ、ケルベロス・レーゼの攻撃を寸断させる。“レギンレイヴ”は闇黒系の神器だが、その神秘はあの子の魔術に込められた以上の物を秘めているため、あの子の魔術を容易く迎撃できる。
『やっとその気になってくれた!』
――影渡り――
床に広がる影にずぶずぶと潜り込んで行くケルベロス・レーゼ。寸でのところで“レギンレイヴ”の一撃が躱された。俺は頭痛と胸痛に「ぅぐ・・・!」呻きながらも、“レギンレイヴ”を閃光系魔力で8つと構築して投擲する。広間の全面に広がっている影を斬り裂きつつ飛行を続ける。
――影分身――
8本とあった影の円柱がケルベロス・レーゼと同じケルベロス形態を取り、雄叫びを上げながら突っ込んで来る。俺は広間中央に陣取りながら自身の周囲に閃光系魔力スフィアを10基と展開。
――女神の宝閃――
スフィアより砲撃を放射し、ケルベロスを消し飛ばしていく。そんな中で俺の足元に広がる影より『せーい!』ケルベロス・レーゼが飛び上がって来た。俺はその大きな口に呑み込まれ、喉の入り口にて四肢が影と同化しているレーゼフェア本体と顔を合わせた。
「父さん・・・」
「本当に待たせたな。お休み、愛おしいレーゼフェア」
「うん。父さん、おやすみなさい♪」
――曙光神の降臨――
閃光系魔力爆発を起こしてレーゼフェアを覆っていた影が消し飛び、宙に放り出されたあの子へ向かって“レギンレイヴ”9つが急速で接近。
――復讐神が希うは絶対なる終焉――
全身を斬り刻んだと同時に魔力で構築した“レギンレイヴ”が一斉に爆発してレーゼフェアの装甲を完全に削り取り、複製神器の“レギンレイヴ”がトドメの一撃としてあの子の胸を貫いた。
「っ・・・あぁ・・・言い忘れ・・・た・・・父さん・・・左目・・・視力を無くし・・・なくて・・・――」
魔力爆発に呑み込まれながら消滅して逝くあの子は、とても可愛らしい満面の笑顔だった。そして最期に語った左目の問題。あの子は消滅するその中で教えてくれた。俺の左目は・・・。
後書き
リアンシェルトだけでなくレーゼフェア、さらに言えば他のエグリゴリの記憶が戻っていることが判明した今話。とうとうレーゼフェアも退場となり、残りは彼女より弱いフィヨルツェンと、三強のガーデンベルグとリアンシェルトの3機のみとなりました。
次話でプライソン戦役編を完結させ、そのあとに軽くエピローグを数話だけ入れてエピソードⅣの完結としたいと思います。あと2つもエピソードが残っているので、掛け足で進ませていく・・・かな?
引退まで残り4年。Ep5で2年、ラストエピソードはForce編を諦めたので1年も掛からないかもしれません。残り1年で飛ばしてきた日常編や完全修正。あくまで予定ですがね~。
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