風魔の小次郎 風魔血風録
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4部分:第一話 小次郎出陣その四
第一話 小次郎出陣その四
一人は蘭子であった。もう一人は。学生帽を目深に被り木刀を持った長ランの男であった。その男が歩きながら自分の横にいる蘭子に問うた。
「おい蘭子」
「何だ?」
「ここは何処なんだ?誠士館か?」
「いや」
蘭子はそれを否定した。
「我が母校白凰学園だ。私が留守の間に好き勝手やっているようだな」
「待てよ」
黒い皮の鞭を取り出してきた蘭子を言葉で制止した。
「むっ!?」
「俺が行く。いいな」
「そうか。それなら任せた」
「ああ」
男はすっと前に出た。そうして姫子達のところに来て言う。
「何かわからねえけれど止めておくんだな」
「んっ!?」
「何だ手前は」
三人組は彼の姿を認めてそちらに顔を向けた。そうしてまた言うのだった。
「余所者が口出しするんじゃねえよ」
「痛い目に遭いたくなかったらとっとと帰りな」
「悪いが俺は部外者じゃないんだよ」
こう述べながら学生帽をあげてきた。そこから出て来たのは小次郎であった。
「小次郎っていうんだ。覚えておきなよ」
「小次郎・・・・・・さん?」
「あ!?」
姫子の言葉に顔をそちらに向けた。すると彼女の顔を見て。
「ええっ!?何だよこれ」
「!?」
姫子は小次郎が急に騒ぎ出したのを見てキョトンとした顔になった。何と彼は一目惚れしてしまったのである。姫子は彼にとって完全にタイプの女性だったのだ。
「こんな娘がいるなんてよ。メルヘンだなあ」
「メルヘン?」
「おい」
ここでまた三人組が小次郎に声をかけてきた。
「メルヘンだか何だか知らないけれどよ」
「白凰の奴なら容赦はしねえぜ」
そう言いながら小次郎を取り囲んできた。何時の間にかその手にはそれぞれ木刀や様々な得物を持っている。そして腕の甲にチラリと見えたのは。般若の刺青であった。
「容赦しねえっていうのか」
「どうすんだ?かかって来るか?」
「もう許すつもりはねえぜ」
「なら来な」
小次郎はその彼等に対して悠然と告げる。
「この小次郎様の実力、見せてやるぜ」
「へっ、言ってくれるな」
「それなら容赦はしねえよ」
彼等は小次郎のその言葉を受けて襲い掛かった。三方から同時だった。しかし小次郎は彼等のそれを前にしても悠然としているだけだ。木刀を構えているだけだ。
「小次郎!」
蘭子がその彼に声をかける。
「わかってるさ。見てな」
構えを鋭くさせる。そうして放つのは。
「風魔流水剣!」
その言葉と共に小次郎の後ろから風が起こった。それと共に三人の間を駆け抜ける。それが終わった時だった。
「なっ!?」
「どういうことなんだよこれってよ」
三人組は己が持っていた木刀を見て驚きの声をあげる。何と彼等の木刀が根元から真っ二つに折られてしまったのである。
「風魔流水剣」
小次郎はその技の名を口にした。
「手前等にはこれで充分だ」
「くっ、糞!」
「覚えてろよ!」
彼等はその折れてしまった木刀を投げ捨てて捨て台詞も残して逃げ去った。蘭子は彼等が去ったのを見届けると姫子の側に寄った。まずは彼女に声をかけ小次郎を連れて三人で総長室に入ったのであった。
「まずは戻りました」
「おかえりなさい、柳生さん」
堅苦しい趣きのある蘭子の挨拶に対して姫子のそれはおっとりとした柔らかいものであった。小次郎はずっと姫子を見てその目をハートマークにさせていた。
「こちらの方は」
「風魔の忍で・・・・・・おい」
「ああ・・・・・・メルヘンだなあ」
挨拶を全然聞かずに姫子に見惚れているだけであった。ずっと彼女だけを見ている。
「マイメルヘン。可憐だよなあ」
「小次郎っ」
その彼に蘭子が声をかける。声をかけられると不意に気付いたのだった。
「あっ!?ああ」
「聞いているのか。姫子様の前だ」
「姫子っていうのか」
小次郎はようやくここで彼女の名を知ったのだった。今まで夢うつつであったのだ。
「可憐な名前だよなあ。素敵で」
「有り難うございます」
姫子はそんな小次郎に対してもにこりと笑って応えるのであった。
「そう言って頂けると嬉しいです」
「いやいや、本当のことですよ」
相変わらずメロメロの調子で姫子に言葉を返す。先程の精悍な様子はもうない。
「こんなお姫様が総長さんだなんて」
「おい、小次郎」
そんな彼に蘭子が険しい顔で声をかける。注意しているのがわかる。
「本当に御前大丈夫か?」
「大丈夫だよ。何怖い顔してるんだよ」
「怖い顔も何も。御前おかしいぞ」
「おかしい?そうか?」
彼はまだデレデレしている。姫子だけを見ている。
「俺は別によ。何も」
「小次郎さんなんですね」
ここでまた姫子が小次郎に声をかけてきた。
「宜しく御願いしますね」
「いやいや、姫ちゃん」
「姫ちゃんだと!?」
それを聞いた蘭子がまた険しい顔を見せる。
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