真田十勇士
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巻ノ八十六 剣豪その八
「お見事です、ただ」
「ただとは」
「お動きは剣術だけではないですな」
このことも言うのだった。
「音がない、気配もさせない。まるで忍ですな」
「忍術ですか」
「それの持ち主ですな」
「多少は」
「そうなのですか、やはり」
「はい、嗜んでおります」
「ふむ、わかりました」
宮本は察したがここでもそれ以上は言わずに述べた。
「やはりそうでしたか」
「ではそれがしの剣は」
「剣術家の剣に加えて」
「忍術も入っていると」
「そう思いました」
「やはりそうですか、しかし」
「しかし?」
「それはよいですな」
宮本は笑って根津に言った。
「非常に」
「そう言って頂けますか」
「はい、 忍術は気配を消しますので」
「剣術と合わされば」
「これ以上はなく強いです」
「では」
「よいかと、特に戦の場では」
道場ではなく、というのだ。
「役立ちますな、しかし」
「しかしとは」
「戦はもうないのでは」
宮本は難しい顔でこんなことも言った。
「天下は急に穏やかになっていますし」
「そう思われますか」
「jはい、そうなれば」
宮本は難しい顔で話した。
「それがしとしましては」
「仕官がですか」
「それがなくなりますので」
それ故にというのだ。
「困ります」
「そうですか」
「せめて仕官が出来てから」
そうなってくれればとだ、宮本は苦い顔で言った。
「そうなって欲しいですが」
「それもですか」
「果たしてどうなるか」
「それは」
「泰平自体はいいにしても」
それ自体がだ、宮本もよしとしていた。彼にしてもそのこと自体はよくそしてこうも言ったのだった。
「仕官出来てからにしてもらいたいですな」
「宮本殿としては」
「そうです、せめて」
願って言うのだった。
「思います、しかし」
「それもですな」
「わからぬもの、若し泰平のまま終わるなら」
それならばとだ、また言った宮本だった。
「それがしも考えねばなりませぬな」
「近頃です」
幸村が言ってきた、彼が言うことはというと。
「天下に浪人が満ち溢れていますな」
「左様ですな」
「関ヶ原でお取り潰しになった家が多く」
「それで、ですな」
「多くの浪人が溢れています」
「その浪人達がどうなるか」
「それが問題です」
幸村は強い声で言った。
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