風魔の小次郎 風魔血風録
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32部分:第四話 白い羽根の男その一
第四話 白い羽根の男その一
白い羽根の男
武蔵は夜叉姫の部屋にいた。彼女の前で報告している。
「不知火は命に別状はありません」
「そう」
夜叉姫はそれを聞いてまずは満足した顔になるのだった。
「それは何より。しかし」
「はい」
「不知火程の男がやられるとは」
「風魔九忍、噂だけのことはあります」
「その通り。武蔵」
夜叉姫は険しい顔で武蔵に声をかけてきた。
「わかっていますね」
「無論です」
武蔵もまた彼女の言葉に応える。頭を垂れて。
「不知火の敗北は痛手ですがこれは他の者達の気を引き締めることになりましょう」
「八将軍は確かに実力者揃い」
それは頭領である夜叉姫が最もよく知っていることである。しかし彼女はそれ以外にも知っていることがあるのだ。それが問題なのだ。
「しかしそれに驕る傾向があるのも事実」
「それは」
「私はそれを危惧していました。しかし」
「しかし」
「今こうして不知火が敗れたことが彼等の気を引き締めることになるのならよしとしましょう」
「左様ですか」
ここでは冷静な夜叉姫であった。
「しかし」
「しかし?」
「敗北するつもりはありません」
今度の言葉にははっきりとした意志があった。
「次の白凰との対戦は弓道において」
「その通りです」
「それにもまた風魔が出て来る筈。こちらの出す八将軍は」
「既に決めてあります」
武蔵は目を閉じて夜叉姫の言葉に答えた。
「そうですか」
「はい。あの二人ならば」
武蔵は二人と言った。
「必ずや目的を果たしてくれることでしょう」
「わかりました。ではその二人に任せます」
夜叉姫は武蔵の言葉をよしとした。
「今度こそ」
「はい、今度こそ」
言葉を交えさせる。その後で弓が放たれそれが届いたのは。森の中を進む白虎に対してだった。
「ほう、御前に来たか・・・・・・むっ」
共にいた紫炎のところにもそれと同じ矢が来た。彼はその矢を見て言う。
「私のところにもか」
「二人で向かえということか、武蔵は」
「そうだな」
紫炎は白虎の言葉に頷いた。
「私か御前一人でもいいと思うのだがな」
「不知火が敗北したからか」
二人はもうそれを知っていた。だからこそ武蔵の考えを読めたのだ。
「確かにあれは痛いがな」
「それでもまた。慎重なことだ」
「それでどうするのだ」
紫炎は白虎にあらためて尋ねてきた。
「どうするとは?」
「だからだ。御前が第一に出るかそれとも私が」
「弓道だったな」
白虎はそこを問うた。
「ああ、そうだ」
「ならば俺が行かせてもらう」
「御前が行くか」
「弓道ならばこの白虎の術の見せどころ」
左目は隠れている。右目だけで語るのだった。その右目から剣呑な光を放っている。
「思う存分暴れてやろう」
「わかった。では私は一旦夜叉姫様と武蔵に申し上げてくる」
「何をだ」
「次の絵画でのコンクールだ」
次の対決ももう決まっているのだ。
「それへの話をしてくる。それでいいな」
「そうだな。二人だしな」
「そうだ、二人だ」
それをまた言う。二人なのが重要なのだった。
「そちらは私が主にやらせてもらうぞ」
「わかった。それではな」
「しかし。今日のこの森は」
白虎はあらためて上を見上げた。木々の上に烏達が見える。その烏の鳴き声が聞こえてきているのだ。彼等の耳にも。
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