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英雄伝説~灰の軌跡~

作者:sorano
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第15話

今までの戦いで目覚ましい功績を挙げ続けたリィン達L小隊はリウイ直々に表彰される事になり、リウイやリフィアを始めとしたメンフィル・エレボニア戦争に参加しているメンフィル皇族やそれぞれの皇族の親衛隊長達によって見守られている中、リィンは表彰の前にリウイ達にある事を報告した。

同日、16:30――――

~モルテニア・ブリーフィングルーム~



「――――『オズ……閣下』。本当にルーファス・アルバレアは死に際にその言葉を口にしたのか?」

「はい。その事が少々気になり、報告させて頂きました。」

リウイの問いかけにリィンは静かな表情で頷いて答えた。

「そう言えば、レンやリィンお兄さん達が”総参謀”達と達と戦う前に”総参謀”は『”あの方”への忠義を貫き通す為』って言っていたわね。」

「”あの方”で、名前は”オズ……閣下”。確かに気になる話ね。」

「うむ。しかもエレボニアで”オズ”がつく名前のエレボニアの有力者と言えば、一人しか思い浮かばんな。」

「―――”鉄血宰相”ギリアス・オズボーンですね。そうなると……ルーファス・アルバレアが本当は何者かで、誰の思惑によって動いていたかという可能性が出て来ましたね。」

レンはリィンの説明を補足し、リィンとレンの説明を聞いたプリネとリフィアはそれぞれ真剣な表情で考え込み、ある仮説を立てた飛天魔族――――メンフィル建国前よりリウイに仕えているペテレーネと同じ古参のリウイの重臣にしてメンフィル帝国軍の”大将軍”であるファーミシルスは厳しい表情で呟いた。

「奴が諜報部隊でも正体を掴めなかった”鉄血の子供達(アイアンブリード)”の”筆頭”で、”鉄血宰相”の思惑によって内戦の状況を調整していたという事になるな。」

「え……それは一体どういう事なのでしょうか?」

ファーミシルスの代わりに答えたリウイの推測の意味がわからないペテレーネは不思議そうな表情でリウイに訊ねた。

「貴族連合軍、正規軍共に被害を最小限にして、クロスベルの件を切っ掛けに始まった”激動の時代”に備える為です。そこに加えて内戦でエレボニアの”膿”を纏めて排除する……と言った所でしょう。」

「エレボニアの”膿”………カイエン公を始めとした”貴族派”に所属している貴族達ですね。」

ペテレーネの質問に答えたイリーナの専属侍女長――――エクリア・フェミリンスに続くようにリウイの正妃――――イリーナ・マーシルンは複雑そうな表情で呟いた。

「ええっ!?もしそれが本当だとしたら、エレボニアの内戦は……!」

「―――”革新派”が”貴族派”を排除し、エレボニアの主権を握る為に”貴族派”に起こさせた”自作自演の内戦”という事になるな。」

「………フン、要するに”ハーメルの惨劇”を拡大化したようなものか。」

「………………」

「……そんなあまりにも愚かな茶番に巻き込まれたエレボニアの民達は”哀れ”としか言いようがないですわね。」

リウイ達の話を聞いてある事に気づいたツーヤは驚きの表情で声を上げ、ゼルギウスは厳しい表情で呟き、レーヴェは鼻を鳴らして不愉快そうな表情をし、プリネは複雑そうな表情で黙り込み、シグルーンは呆れた表情で溜息を吐いた。



「………―――報告ご苦労。お前が敵将が思わず口にした貴重な情報を聞き逃さず、俺達に報告してくれたお陰で改めて調査すべき事が出て来た。お前の働きに感謝する、リィン・シュバルツァー。」

「バリアハートに続き、パンダグリュエルでも貴族連合軍のナンバー2であるルーファス・アルバレアを討ち取るという大手柄を挙げるとは、お主達をパンダグリュエル制圧作戦に参加させる事を推薦した余やゼルギウス達もお主達を推薦した者として誇らしいぞ!」

「……身に余るお言葉、恐悦至極に存じます。自分はメンフィル帝国に仕える者の一人として当然の事をしたまでです。」

リウイの感謝やリフィアの賛辞にリィンは謙遜した様子で答え

「うふふ、手柄欲しさにこの戦争に参加した人とは思えない殊勝な台詞ね♪」

「茶化すのは止めなさい、レン。」

からかいの表情でリィンを見つめて指摘したレンにプリネは注意した。

「あなた。」

「ああ。―――――お前達の今までの目覚ましい働きを評し、現メンフィル皇帝シルヴァン・マーシルンに代わり、メンフィル大使リウイ・マーシルンが褒美を与える。まず、フォルデ・ヴィント。」

「ハッ。」

イリーナに促されたリウイはリィン達を見回して宣言した後最初にフォルデの名を呼び、リウイに名前を呼ばれたフォルデはリウイ達の前に出て跪いて頭を下げた。



「パンダグリュエルでの潜入、並びに攪乱任務を無事達成し、更には敵国の皇族であるアルフィン皇女をよくぞ捕えた。お前が望む褒美はなんだ?」

「俺が望む褒美は…………――”爵位”と領地です。」

「え…………」

リウイの問いかけに答えたフォルデの意外な答えにリィンは目を丸くしてフォルデを見つめた。

「”爵位”と領地……つまりはメンフィル帝国の貴族とメンフィル帝国が保有するいずれかの領地の領主の地位を望んでいるという事ですよね?」

「その通りでございます。」

「何故貴族と領主の地位を望んでいるのから、答えてもらっても構いませんか?」

イリーナの確認にフォルデは頷き、プリネは不思議そうな表情でフォルデに問いかけた。

「御意。……俺は早くに亡くなった両親に代わり、弟を養う為にメンフィル帝国軍に入隊しましたが、その弟も今では俺と同じ一人前のメンフィル帝国の軍人です。弟が自分の力で生きていけるとわかった以上、俺は俺自身の夢を叶えようと思い、俺が望む褒美の内容を答えさせて頂きました。」

「フォルデ先輩の夢………」

「その”夢”って、一体どんなものなのかしら?」

フォルデの説明を聞いたステラは呆け、レンはフォルデに続きを促した。



「それは………―――静かな地でのんびりと過ごしながら趣味である絵を描く事です。なので爵位は低めで辺境の領主でお願いします。爵位が高かったら社交界とか面倒な事に頻繁に誘われたり関わったりする羽目になりますし、都会の領主とかだったら仕事が忙しそうですし。」

そしてフォルデが顔を上げて笑顔を浮かべて語ったフォルデの夢の内容と要望を聞いたその場にいる全員は冷や汗をかいて脱力し

「フォ、フォルデ先輩…………」

「ふふっ、フォルデ先輩らしいですね。」

我に返ったリィンは疲れた表情でフォルデを見つめ、ステラは苦笑していた。

「クスクス、さり気なく色々と要望を付け加えるなんて欲張りさんね♪」

「ハア………例え辺境の領主でも仕事があるのはわかっているのだろうな?」

レンはからかいの表情でフォルデを見つめ、リウイは呆れた表情で溜息を吐いた後気を取り直してフォルデに問いかけた。

「ええ、それは勿論。でもリィンの親父さん―――シュバルツァー男爵も領主としての仕事をしながら、趣味である山での狩りを頻繁にしているとリィンから聞いた事があります。ですから俺もシュバルツァー男爵のような民達に慕われ、楽隠居生活を送る素晴らしい領地経営を行っている領主を目指すつもりです。」

「そんな不純な理由で父さんを目標にしないでくださいよ、先輩………」

「ハア…………」

「ア、アハハ………」

フォルデの答えを聞いたリウイ達が再び冷や汗をかいて脱力している中セレーネは苦笑しながら呆れた表情をしているリィンとエリゼを見つめていた。

「――――いいだろう。お前の望み通りの褒美になるように手配をしておく。ただし貴族や領主になるからには、相応の教育を受けてもらう事になるから、今の内に心構えだけしておくといい。」

「ハッ!メンフィル帝国の寛大なお心遣いに心から感謝致します。」

リウイの言葉に会釈をして答えたフォルデはリィン達の後ろへと下がった。



「ステラ・ディアメル。」

「はい。」

リウイに名前を呼ばれたステラは返事をした後リウイ達の前に出て跪いた。

「若輩でありながらも次代のメンフィル皇帝であるリフィアの親衛隊員としての任務をこなし、更にはバリアハート制圧作戦にて我が国の同胞達を傷つけた愚かなアルバレア公の夫人を討ち取った事に加えて、”想定外の相手”―――”有角の若獅子達”と彼らを支える”光の剣匠”を始めとした協力者達をよくぞ撃退した。……フッ、まさか我が国に亡命する事を望んだティアメル伯爵家の変わり種が僅か3年でここまで成長するとは、俺も予想できなかったぞ。」

「……身に余るお言葉、恐悦至極に存じます。陛下達―――メンフィル帝国が世間の事を何も知らず、ただ自由な生き方を求めていた身勝手な考えで貴国に頼った私を受け入れたお陰で今の私がいると言っても過言ではございません。こんな私を受け入れ、様々な事を教えて頂き、更にはリィンさんを始めとした多くの仲間達と出会う切っ掛けを作って頂き、私を成長させてくれたメンフィル帝国から受けた恩にようやく報いる事ができて何よりでございます。」

静かな笑みを浮かべて自分を見つめるリウイの言葉に対し、ステラは謙遜した様子で答えた。

「フフッ、あの放蕩皇子が彼女の事を知れば、表面上はいつもの調子で流しつつ、心の中では後悔するかもしれませんわね。エレボニアはくだらない血統主義から抜けられない事によって、彼女のような才能ある者達に故郷であるエレボニアに未練はないと思わせ、他国へと亡命する決意をさせたのですから。」

「ファ、ファーミシルス様。」

「フッ、それはあるかもしれないな。―――ステラ・ディアメル。お前が望む褒美はなんだ?」

口元に笑みを浮かべたファーミシルスの指摘にペテレーネが冷や汗をかいて苦笑している中リウイは静かな笑みを浮かべてファーミシルスの指摘に同意した後気を取り直してステラに問いかけた。

「私が望む褒美は………フォルデ先輩同様、”爵位”と領地です。」

「あら………」

「ほう………?」

ステラの望みを聞いたシグルーンは目を丸くし、ゼルギウスは興味ありげな表情でステラを見つめていた。

「フム……お主は何故、爵位と領主の地位を望むのじゃ?確かお主は貴族の令嬢である事が嫌で、我が国に亡命したと聞いておるが……」

「私が実家を出奔し、故郷であるエレボニアを捨ててメンフィル帝国に亡命したのは自分の生きる道を選ぶためです。例えディアメル伯爵家と縁を切っても、私が貴族の家に生まれた娘である事は事実。”貴族の義務(ノブレスオブリージュ)”までは捨ててはいません。そして私がメンフィル帝国に亡命するまで生きて来れたのは民達が治めてくれた税であり、亡命後の私がメンフィル帝国の保護を受けて生活をし、今こうしてこの場にいられるのも民達が治めてくれた税。貴族の家に生まれた娘として……民達から受けた恩に報いる為に私自身が領主になって、民達に豊かで平和な生活を送らせてあげたいのです。」

「ステラ………」

不思議そうな表情で問いかけたリフィアの質問に静かな表情で答えたステラをリィンは驚きの表情で見つめ

「………ファーミシルス様の仰る通り、エレボニアは本当に惜しい人物を逃しましたね。」

「ええ……まあ、それを言ったらレーヴェやヨシュアもそうなるんでしょうね。」

「フッ、ヨシュアはわからないが、例えハーメルの件がなくても、俺がエレボニア―――”国”に仕えるなぞ絶対にありえんがな。」

「クスクス、皇族であるプリネお姉様の親衛隊の副長として”メンフィルと言う名の国に仕えている”レーヴェからまさかそんな言葉が出てくるなんてね♪」

「レ、レンさん。」

静かな表情で呟いたイリーナの言葉にプリネは頷き、プリネの言葉に対して答えたレーヴェの指摘を聞いてからかいの表情で呟いたレンの言葉を聞いたツーヤは冷や汗をかいた。



「ただ、私が守護すべき御方であるリフィア皇女殿下は当然ですが、短い間ですが私の面倒を今まで見て頂いたゼルギウス将軍閣下とシグルーン副将軍閣下にも申し訳ないと思っております。私が領主になれば、リフィア殿下の親衛隊を退役する事になりますので………」

「確かにお主のような有能な者が余の家臣でなくなるのは残念ではあるが、余は本人が望まぬ事を強要するような器の小さな者ではない。それに、お主のような民を大切にする者が我が国の領土を治める領主の一人になるのならば、次代のメンフィル皇帝として歓迎すべき事じゃ!だから、余達の事は気にするな!」

「……殿下の仰る通りだ。お前が目指す未来もまた、将来のメンフィルの……リフィア殿下の支えとなる未来。胸を張って、お前が目指す未来を進め、ステラ。」

「例え親衛隊から去っても貴女は形は違えど、メンフィル帝国を……殿下を支える者。ですから私達の事で苦悩せず、自分で決めた自分の道を歩みなさい。」

申し訳なさそうな表情をしているステラに視線を向けられたリフィアとゼルギウス、シグルーンはそれぞれ応援の言葉をステラに送り

「………はい!」

リフィア達の応援の言葉に対し、ステラは笑顔で力強く頷いた。

「―――リフィア達にも異論はないようだし、決まりだな。ちなみにお前はフォルデのように要望は無いのか?」

「………可能ならば、今回の戦争で手に入れる事になる元エレボニアの領土の領主にして下さい。私がメンフィルに亡命するまで生きて来れたのはエレボニアの民達が治めてくれた税ですから、その恩に報いる為にも元エレボニアの民達が豊かで平和な生活を送れるようにしてあげたいのです。」

「……―――いいだろう。お前の望み通りの褒美になるように手配をしておく。勿論フォルデ同様、貴族や領主になる為の相応の教育が受けられるようにもしておく。それでいいな?」

「はい!メンフィル帝国の寛大なお心遣いに心から感謝致します。」

リウイの言葉に会釈をして答えたステラはリィン達の後ろへと下がった。



「エリゼ・シュバルツァー並びにセレーネ・アルフヘイム・ルクセンベール。」

「「はい!」」

そしてリウイに名前を呼ばれた二人は返事をした後リウイ達の前に出て跪いた。

「二人とも軍人ではないにも関わらずをバリアハート制圧作戦ではリィンとステラを良く補佐しつつ、”想定外の相手”である”有角の若獅子達”とその協力者達を撃退し、更にはパンダグリュエル制圧作戦では”帝国解放戦線”の幹部の一人である”S”をよくぞ討ち取った。……自慢の愛弟子と妹の活躍にお前達もさぞ、鼻が高いだろう?」

「……恐れ入ります。短い間に随分成長したね、セレーネ………」

「ツーヤお姉様………ふふ、今のわたくしがいるのもツーヤお姉様のお陰でもありますわ。」

「フフッ、さすがかつて”姫将軍”と呼ばれていたエクリアお姉様自ら指導しただけあって、僅かな期間でとても有能な女性へと成長しましたね。」

「ふふっ、まさか将来はその娘を自分の後継者――――”姫将軍”として育てるつもりなのかしら?」

リウイの賛辞の言葉に対してツーヤは会釈して答えた後セレーネに微笑み、ツーヤの賛辞の言葉に対して驚いていたセレーネはツーヤに微笑みで返し、イリーナは微笑みながらエリゼを見つめ、ファーミシルスは興味ありげな表情でエクリアに視線を向けて問いかけた。

「お二人ともお願いしますから、私をその二つ名で呼ばないでください………おめでとう、エリゼ。貴女を指導した身として、とても誇らしいわ。」

一方視線を向けられたエクリアは疲れた表情で溜息を吐いた後気を取り直してエリゼに称賛の言葉をかけた。

「今こうして陛下達から称賛の言葉を頂けたのも、エクリア様のご指導の賜物。これからもどうか、ご指導よろしくお願いします、エクリア様。」

「ええ、これからもお互いによろしくね、エリゼ。」

「うふふ、エリゼお姉さんがエクリアお姉さんの教えによって有能になればなる程、ますますエリゼお姉さんに”あらゆる意味”で頭が上がらなくなるわね、リフィアお姉様♪」

「ぬぐっ…………」

エクリアとエリゼが互いに微笑みあっている中、からかいの表情のレンに見つめられたリフィアは疲れた表情で唸り声をあげた。



「フッ………―――二人がそれぞれ望む褒美はなんだ?」

仲間達の様子を見て静かな笑みを浮かべたリウイは気を取り直して二人に問いかけた。

「「………………」」

リウイの問いかけに対してエリゼはセレーネと視線を交わして頷いた後リウイを見つめて意外な答えを口にした。

「恐れながら陛下、私達の褒美は兄様に回してください。」

「へ………」

エリゼの答えを聞いたリィンは呆け

「わたくしはリィンお兄様を支える”パートナードラゴン”として……エリゼお姉様はお兄様を支える妹して、それぞれお兄様を支えて来ました。そしてそれはこれからも変わりません。ですからどうかわたくし達への褒美はお兄様に回してください。」

「エリゼ……セレーネ………」

セレーネの説明を聞いたリィンは驚いた。

「うふふ、正しくはリィンお兄さんのハーレムの一員としてじゃないのかしら♪」

そしてからかいの表情で呟いたレンの問いかけにその場にいる全員は冷や汗をかいて脱力し

「こんな時に茶化すのは止めなさい、レン。」

「フフッ、ですがレン皇女殿下が仰っている事もあながち間違ってもいませんわね。」

「それにここまで献身的な女性も滅多にいないだろうな。」

我に返ったプリネは呆れた表情でレンに指摘し、シグルーンとゼルギウスはそれぞれ苦笑していた。



「ふ~む……しかし幾ら本人たちの希望とはいえ、手柄をたてた者達に何の褒美も無しと言う訳にはいくまい。」

「常識で考えれば”昇格”が妥当ですが……セレーネはともかく、エリゼさんに関しては既に侍女の中では最高位の地位である専属侍女長ですから、”昇格”のしようがありませんものね。」

考え込みながら呟いたリフィアの意見に続くようにプリネは困った表情で答えた。

「……あの。二人への褒美について私に提案があるのですが、皆様さえよろしければお答えさせて頂きますが……」

「エクリアお姉様?」

「――――構わん。お前の案を聞かせてくれ。」

その時エクリアが申し出、エクリアの申し出を聞いたイリーナが不思議そうな表情で首を傾げている中リウイはエクリアに内容を話すように促した。

「かしこまりました。まずエリゼについてですが………彼女自身に爵位を与え、将来シュバルツァー家の”分家”を作る礎を築き上げさせてはどうでしょうか?」

「え…………」

「シュバルツァー家の”分家”を……?――――!うふふ、なるほどね。シュバルツァー家の将来を考えれば、分家は幾らあっても困らないものね。」

エクリアの提案を聞いたエリゼが呆けている中少しの間考えて既に察しがついたレンは意味ありげな笑みを浮かべてリィンとエリゼを見つめて呟いた。



「”シュバルツァー家の将来”………?あの、それは一体どういう事なのでしょうか?」

レンが呟いたある言葉が気になったリィンはリウイ達を見つめて訊ねた。

「うふふ、リィンお兄さん達にあの件を教えてあげてもいいかしら、パパ?」

「……別に構わんだろう。どうせリィンへの表彰の時に答える話なのだからそれが少し早くなっただけの上エリゼ自身の耳にも入っている話だ。」

レンに問いかけられたリウイは静かな表情で答え、リウイの許可を聞いたレンはリィンとエリゼを見つめてある事を答えた。

「パパの許可もとれたし、シュバルツァー家の将来を教えてあげるわね。まずシュバルツァー家は”男爵”から”公爵”へと昇格させることを決定しているわ。」

「ええっ!?い、一体どうしてそんな事に……!?」

「あら、リィンお兄さんが魔神―――それも”七大罪”の一柱に精霊王女、果ては古神と契約した事でメンフィルは協力関係を結ぶ事が非常に困難な存在と協力関係を結べた上、エリゼお姉さんは次代のメンフィル皇帝であるリフィアお姉様の専属侍女長兼お目付け役という大役をこなしているのだから、そんな優秀な人材を送り出してくれた”シュバルツァー家”を昇格させて当然でしょう?」

「―――加えて先日のバリアハート制圧作戦での活躍もありましたから、それがシュバルツァー家を”公爵”へと昇格させる決定打になったそうです。」

驚愕の事実に驚いているリィンにレンとプリネはそれぞれ説明し

「………………」

「フフ、おめでとうございます、リィンさん。」

「ハハ、お前達の同期の中での一番の出世頭は訓練兵からいきなりリフィア殿下の親衛隊に配属されたステラだったが、その記録を遥かに塗り替えたじゃねぇか、リィン。」

二人の説明を聞いたリィンが口をパクパクしている中、ステラとフォルデはそれぞれリィンを祝福した。



「えっと……リウイ陛下の口ぶりからするとエリゼお姉様は既にご存知だったようですが……何故今までお兄様にその件を教えなかったのですか?」

「……兄様にはこの戦争を終わらせる事に集中して欲しかったから、その集中を乱すような情報は教えない方がいいと思って、黙っていたのよ。――――陛下、私達”シュバルツァー家”の昇格の件はリフィアを通して私の耳にも入っておりましたが確か”男爵”から”侯爵”だったと聞いているのですが……?」

セレーネの疑問に疲れた表情で答えたエリゼは気を取り直してリウイに問いかけた。

「バリアハート制圧作戦での活躍で”公爵”に昇格する事をシルヴァンが決めたとの事だ。―――なお、公爵家となったシュバルツァー家には今回の戦争で得る事になる元エレボニアの領土――――クロイツェン州の統括領主を任命するとの事だ。」

「ちなみに現シュバルツァー家の当主であるリィンお兄さんとエリゼお姉さんのパパ―――テオ・シュバルツァー男爵にその話をした際、シュバルツァー家の昇格はリィンお兄さん達自身の手で掴んだものだからシュバルツァー家の昇格はリィンお兄さんがシュバルツァー家の跡を継いだ時にして、自分は男爵のままでいいと言う希望があったからリィンお兄さんがシュバルツァー家の跡を継いだ時に正式にシュバルツァー家が”公爵”に昇格する事になっているわ。」

「勿論今までユミルの領主であったシュバルツァー家が突然広大なクロイツェン州の統括領主を務めるなんて無理がありますから、臨時統括領主を務めてる事になっている私やレン達の元で”統括領主”として色々学んでもらう事になっていますから、その点に関しては安心してください。」

「……メンフィル帝国の寛大なお心遣いに心から感謝致します。ですが確かメンフィル帝国の”公爵家”は皇家である”マーシルン家”の分家の方達のみと記憶していますが……」

リウイとレン、プリネの説明を聞いたエリゼは会釈をした後戸惑いの表情でリウイ達を見つめた。

「別にメンフィル帝国の”公爵家”は”マーシルン家”の分家でなければならないという決まりはないのですが………偶然にもリィンさんの婚約者の中で遠縁とはいえ、メンフィル皇家の一員であるセレーネさんがいらっしゃるのですから、結果的にはシュバルツァー家はマーシルン家と縁を結ぶ事になりますよ。」

「と言うかリィンお兄さんは妾の娘とはいえ、元メルキア皇女に魔神、精霊王女どころか、女神まで娶るのだから、常識で考えればそんな存在と比べたらメンフィル帝国の公爵家の条件の云々なんてどうでもいいでしょう♪」

「そ、それは………」

(フッ、これでアルフィン皇女まで娶る事になったと知れば、更に狼狽える事になるだろうな。)

「ハア………―――エクリア様、私に爵位を与える事でシュバルツァー家の分家を作る礎を築き上げさせる事とどう関係するのでしょうか?」

苦笑しながら呟いたイリーナの答えに続くようにからかいの表情で答えたレンに見つめられたリィンは表情を引き攣らせ、リィンの様子をレーヴェは静かな笑みを浮かべて見つめ、エリゼは疲れた表情で溜息を吐いた後気を取り直してエクリアに問いかけた。



「………貴女がシュバルツァー家の分家の当主となる子を産めば、シュバルツァー家の陣容を厚くして、急速に大規模化したシュバルツァー家を安定化させる事ができるでしょう?」

「あ………」

「ですがその場合、リィンさんの正妻になる予定のエリゼさんの子供が”シュバルツァー公爵家”の当主になれないという問題が浮上してしまいますが……」

エクリアの答えを聞いたリィンが呆けている中、ある事に気づいたイリーナが複雑そうな表情でエクリアに指摘した。

「二人の長男か長女を”本家”である”シュバルツァー公爵家”の当主にして、その後に産まれてくる子供達かセレーネさんを含めたリィンさんの他の奥方達が産む子供達を養子にすればいいし、そもそもエリゼのリィンさんへの想いの強さを考えれば二人の子供が一人だけなんて、まずありえないと私は思っているわ。」

「フフ、言われてみればそうですわね。」

「そう言えばリィンへの想いの強さのあまり、ベルフェゴール殿との契約を知った際ペテレーネ神官長の御力を借りた”強硬手段”を取ってまで結ばれたと殿下も仰っていたな。」

「ア、アハハ……そんな事もありましたね。」

「………一体いつ、私の許可も取らずに私のプライベートをゼルギウス様達に教えたのかしら、リフィア?」

ツーヤの指摘に対するエクリアの答えを聞いたシグルーンは微笑みながらエリゼを見つめ、ゼルギウスは苦笑し、ゼルギウスの言葉を聞いてかつてエリゼに頼まれて媚薬や痺れ薬を調合した事を思い出したペテレーネが苦笑している中エリゼは膨大な威圧を纏ってリフィアに微笑み

「ぬおっ!?エ、エリゼよ。滅多にない表彰の機会なのだから、そんな些細な事を気にするでない。」

エリゼに微笑まれたリフィアはのけ反った後顔色を若干悪くしながら指摘し

「それもそうね。だから、その件については後でじっくりと追及させてもらうわ。」

「………………」

エリゼの答えを聞くと表情を青褪めさせて身体を震わせていた。



「ア、アハハ……それでエクリアさん。セレーネへの褒美はどんな内容なのですか?」

リフィア達の様子を苦笑しながら見守っていたツーヤは気を取り直してエクリアに問いかけた。

「セレーネさんへの褒美もエリゼ同様、彼女にも爵位を与える事です。そうすれば、将来”シュバルツァー公爵家”の当主となるリィンさんの”パートナードラゴン”としてリィンさんを補佐をする彼女に”箔”をつけてあげさせる事でクロイツェン州の貴族達の煩わしい意見を一蹴させる事が可能な上、エリゼ同様将来リィンさんと結ばれる彼女の子供をシュバルツァー家の分家の当主にする事ができる事によってシュバルツァー家の陣容をさらに厚くできますし、それに………彼女とツーヤさんの世界では彼女達―――”アルフヘイム家”は本来は皇族なのですから、私達の世界でも”アルフヘイム家”は皇族程ではありませんが特権階級を持つ一族となります。」

「あ………」

「……わざわざあたし達”アルフヘイム家”の事を考えて提案して頂き、本当にありがとうございます。」

エクリアの説明を聞いたセレーネが呆けている中、ツーヤは静かな表情でエクリアを見つめて会釈した。

「……確かにその案ならば、シュバルツァー家にとっても我等メンフィルにとっても”益”になる話だな。―――エクリアの案に反対がある者や他に案がある者はいるか?」

「………………」

一方納得した様子で頷いたリウイはイリーナ達を見回して確認し、リウイの確認の言葉に対して反論や他の案がない事を示すかのように誰も答えなかった。

「反対や他の案もないようだし、二人への褒美はエクリアの案とする。また、二人の希望通り、リィン・シュバルツァーが望む褒美を合計3個とする。」

「「はい!メンフィル帝国の寛大なお心遣いに心から感謝致します。」」

リウイの言葉に会釈をして答えた二人はリィン達の後ろへと下がった。

「最後にリィン・シュバルツァー。」

「ハッ!」

そしてリウイに名前を呼ばれたリィンは返事をした後リウイ達の前に出て跪いた。






 
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