非日常なスクールライフ〜ようこそ魔術部へ〜
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
6月
テスト編
第55話『予習』
前書き
今回から新章入ります。だけど、今回は日常寄りです。
次回から本気出す()
「雨、止まないね」
「そうだな…」
窓から外を眺めつつも、ため息を溢す結月。その背中を見ながら、晴登も同じくため息をつく。
今朝から天気はこの調子だ。故に、外へ出かけることもできない。尤も、外に出たがるのは、晴登ではなく結月なのだが。
「こんな日がずっと続くなんて、"梅雨"って凄いね」
「凄いと言えば、確かに凄いな。考えたことなかった」
実は昨日から6月に入り、この地域は既に梅雨を迎えている。雨が一向に止まないということで、嫌う人も多いだろう。インドア派の晴登でさえ、それは例外ではない。
学校に行ければ多少は紛れるのだが・・・
「じゃあハルト、暇なら遊ぼうよ!」
「結月は勉強しろよ。道具は渡したろ?」
「むぅ…」
膨れる結月だが、仕方ない。まずは一刻も早く、この世界に馴染んでほしいのだ。
そのために、小学生レベルの日本語のテキストを与えているのだから。
「急に違う言語を使うのが難しいのはわかるが、住むって決めた以上頼むよ」
「他でもない、ハルトの頼みなら断る義理はないね。ボク頑張る!」
「おぅ…そ、そうか」
そう言って結月は、晴登の机を借りて勉強を始める。その顔は、先ほどと打って変わってやる気に満ちていた。
今の会話で少なくとも理解できるのは、己が彼女のトリガーだという事だ。複雑な気持ちである。
「じゃあ俺は何しよっかなー・・・って、よく見たら6月はテストあるじゃん!?」
何をしようかと口にしながら、徐に手をマンガに伸ばしていた晴登は、6月の日程表を見て戦慄する。
テストというのも、もちろん4月にやった小学生用ではなく、4月からの学習が物を言う中学生用のテストだ。もちろん、4教科ではなく、英語も含まれ5教科である。
それなりに勉強はしているが、いざテストを前にすると自信が無い。
「結月に勉強させてる場合じゃないかも…。とりあえず、大地たちともう一度勉強会開くか?」
前回の勉強会がどれだけ役に立ったのかは不明だが、やらないよりはマシだろう。とすると、実行は次の休日辺りか。
「けど.、この雨なら大地が来れないかも…」
莉奈の家は窓ごしで会話できるほど近いから問題は無いが、大地の家は近いとは言い切れない。雨の中来てもらうのはさすがに申し訳ないから、そうなるのは避けたいところ。
となると、勉強会の開催は困難かも・・・
「…っとそうだ、暁君の力が借りられるんじゃ…!?」
前回では全く面識すら無い状態だったが、今なら「勉強教えて」って言うぐらいはできるだろう。
学年一の秀才である彼の力を借りれば、学力アップも夢ではない。
「……と思ってるけど、別に大地をバカにしてる訳じゃないぞ。アイツもすごい奴だし。運動面を加味して考えると暁君より凄いし・・・」
「ハルト、さっきから何ブツブツ言ってるの? 勉強しないの?」
「あ、する。ごめん」
結局晴登も、潔く勉強を開始した。
* * * * * * * * * *
〜数時間後〜
「ハルトハルト、"ひらがな"が読めるようになったよ!」
「いや、展開速すぎだろ!?」
結月の歓喜の声で、勉強が一時中断。
タイミングが良いのか、時計は正午である12時を示している。
「そろそろ昼飯の時間だな」
結月の成長ぶりに驚きつつも、晴登は昼食の準備を始めることにした。
「あ、ボクも手伝うよハルト」
「そうか? じゃあ頼む」
「えへへっ、頑張るよ!」
「頼む」と言うだけでこの有様。迂闊なことは口に出せないと、晴登が感じた瞬間だった。
「ハルトとの共同作業楽しみー!」
「他に言い方なかったの?」
* * * * * * * * * *
「あー、やっぱハルトの作る料理は最高だよ!」
「俺より料理上手い人はたくさん居るよ?」
「それでも、ハルトの料理が一番!」
「そうか…」
さっき、結月にこの世界の食材を紹介がてら、一緒に昼食を作った。
彼女の目には新しい食材ばかりだったろう。それらを見て驚いていた様子は、異世界での晴登とよく似ていた。
「じゃあ午後も勉強やるか・・・と思ったけど、雨が止んでるな。どうする結月?」
ふと外を見ると、偶然にも雨が止んでいて、青空が見えていた。恐らく、もう一度降るとは思うが、少しくらいは外に出れるのではないだろうか。
ようやく、結月に街の案内ができそうだ。
「…え? 勉強したい」
「あれ、意外とハマってる!?」
「早くこの世界に慣れたいし、ハルトと同じ言葉を扱えるようになるって考えると、手が止まらないんだ」
「ね、熱心で何よりだ…」
この場合はどうするべきなのだろうか。せっかく意欲を持ってくれてるから、このまま勉強させてた方が良いのだろうか。
しかし、この世界に慣れるというのであれば、外に出てみる事も必要であるとは感じる。
「…ま、本人にお任せするか」
しかし外野がとやかく言って邪魔するのが、最もいけない事。本人の意思を尊重しろと部長にも言われてる訳だし、勧めすぎるのは止そう。
「じゃあ俺も勉強再開だな」
結月が机に向かったのを見て、晴登も再び勉強を始めた。
* * * * * * * * * *
〜1時間後〜
「ハルトハルト、カタカナも覚えたよ!」
「やっぱ展開速すぎるだろ!?」
結月の目覚しい成長に、さすがに晴登も驚愕を顕にする。いくら何でも早すぎやしないだろうか。
もしかして、結月の物覚えは超が付くほど良かったり…?
「その才能俺に分け与えてくれよ…」
「ハルト、力になれなくてゴメン・・・」
「いや、そんな話の流れじゃないよ今!?」
冗談を言ったつもりが、真に受けられるというあるある事態。しかも結構深刻そうな顔をするから、より申し訳なく感じる。
「しかし、ひらがなもカタカナも終わったとなると、次はもう漢字か。数時間で園児卒業って飛び級し過ぎだろ」
「何言ってるのかあまりわからないけど、凄いなら嬉しいな」
結月は一転して、屈託ない笑顔を見せる。嬉しさが滲み出ているその笑顔に、晴登は安心感を覚えた。
「じゃあ、あと一押しだな」
「そうだね」
小学生レベルだろうと、漢字を覚えるとグッと日本に馴染める。そうなれば、一人で自由に外を出歩けるようになるだろう。そしていつかは居候を卒業して、一人で暮らせるように・・・
「これでようやくハルトのお嫁さんになれるね」
「ぶふぉっ!? どうしてそうなるの!?」
「ボクとしては許嫁のままで良いんだよー?」
「別に許嫁って決まってないから!」
いつどのタイミングで好かれたのか、正直今でもわからない。思い返すと、助けられてばっかりの情景が浮かぶ。女子の気持ちは男子にはわからない、というものだが、これでは迷宮入りもいい所だ。
「けど、こういうのは詮索しない方が賢明だろうな」
人の心を根掘り葉掘り聞き出すのは、デリカシーに欠ける行為だ。そもそも、訊くのが恥ずかしい。
「あんまり意識させないでくれよ…」
最後にポツリと、晴登は本音を零した。
* * * * * * * * * *
〜夕食〜
「結局昼食と同じか」
両親が外出し、自分と結月と智乃の三人で夕食をとることになる。作るのはもちろん晴登だが、手伝いとして残り二人も参加するそうだ。
「簡単なやつで良いよな?」
「良いよ、お兄ちゃん!」
「ボクも構わないよ、お兄ちゃん!」
「おい、妹を二人持った覚えは無いぞ」
うだうだとツッコミながらも、結局は料理。
三人でやれば時間も短縮され、なんとものの数分でシンプルの極み、『野菜炒め』が出来上がってしまう。
「さすが、シンプルなものは速い」
「「そして美味しい!」」
「つまみ食いして良いとは誰も言ってないぞ」
「「ケチ」」
見事なくらい息ピッタリの二人。
ケチ呼ばわりされる筋合いは無いのだが、そんなにお腹が空いているのだろうか?
「母さん達は今日は帰って来なそうだな。残す必要は無いみたいだ」
「じゃあ全部食べていいの?!」
「そうなるが・・・何でそんなに嬉しそうなの?」
「そりゃお兄ちゃんの料理が美味しいからだね」モグモグ
「そんなに美味しいのか…?」
自分では普通レベルだと思っているが、これだけ評価が高いと、「自分は料理が得意なのでは?」と錯覚してしまいそうになる。
別に嬉しくない訳ではないのだが。
「じゃあ、お風呂入れておくか」
「「」」ゴクリ
「な、何だよ…? 一緒には入らないぞ」
「「ケチ」」
「その理屈はおかしいだろぉ!!」
あまりの理不尽さに、たまらず声を上げる晴登。
しかしそれを無視するかのように、二人は黙々と夕食を食べる。
「俺が何か悪いのか……?」
女心が全く掴めない晴登だった。
* * * * * * * * * *
「・・・なぁ」
「なに、ハルト?」
「いや『なに?』じゃないよ! 何で俺の布団に入ってるの?!」
「え~いっつもこうやって寝てたじゃん」
「あれ、否定できない!?」
ただいまの時刻は午後9時。就寝時だ。
智乃はもう自室でグッスリ寝ていることだろう。本来であれば、その部屋にはもう一人居るのだが・・・
「何で今日はこっちに…?」
「ハルトが恋しくなったから」
「うっ……!」
正直な返答を聞き、頬が紅潮する。そのため晴登は、結月に見られないようにすぐさま顔を背けた。
「今日は…特別だからな」
「ハルトは優しいね。ありがと」ダキッ
「止めろ、抱きつくな!」
ギャーギャーと騒ぎ立てる二人。
しかし結局は、何事もなく眠りについていた。
* * * * * * * * * *
~翌日~
「じゃあ今日は転校生を紹介します」
「転校生の三浦 結月です。よろしくお願いします!」
「・・・知ってた」
後書き
時間軸が目まぐるしく変わって、自分でもクソ文章だなと思いましたが、目を瞑って頂けると幸いです。アレです、四コマ漫画的なノリと考えて下さい(懇願)。
まだ先の展開がアヤフヤな訳ですよ。下手すると、テストの前に恋愛編がぶち込まれそうで怖い。
でもまぁそれは最終手段なんで、きっと大丈夫でしょう。
それではまた次回!
ページ上へ戻る