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虚弱ゲーマーと似非弁護士の物語 -求めたのは力では無く-

作者:昼猫
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Act4 妖精の国

 時は2025年1月19日。
 アンドリュー・ギルバート・ミルズが店主として復活したダイシー・カフェにて、閉店間際にファブリスが何時ものブレンドと何時ものケーキに舌鼓を打ちながら人を待っていました。

 「いやー!此処のチーズケーキは何時も上手いね?これを堪能するために、護衛の目を盗んで抜け出す価値があると言うモノだヨ」
 「はぁ・・・・・・護衛の目を盗む――――ですか?以前から思っていましたが、ファブリスさんは相当な地位の高い方なんですか?」
 「フフ、どうだろうネェ?マスターを揶揄う嘘かもしれないヨ~?」

 相変わらずのらりくらりと真偽を読み取らせない言動に、ヤレヤレと肩を竦めるギルだが追及する気は無い様です。
 自分が目覚める間に士郎と協力して因縁を吹っかけて来る屑共を追っ払ってくれた恩もあるので、この謎大き老紳士の事情を詮索するつもりなど無かった。
 因みに本音を言えば、その屑共を探して手ずから落とし前を付けたいところだが、それでまた騒ぎになると自分の味方側に迷惑を掛けてしまうだろうと自重する事にした、とのことです。
 そんな考えに浸っていると、丁度ドアベルが鳴り響いて、新たな来客の入店を知らせた。

 「いらっしゃいま――――って、士郎か」
 「やぁ、衛宮君。時間ぴったりだネ?」

 2人の反応通り、新たな来客の正体は仕事時に着ているスーツ姿の士郎でした。
 士郎は軽く挨拶してからコーヒーを頼みつつ、ファブリスの隣の席に座ります。

 「これを」

 士郎の頼んだコーヒーを入れる為にギルバートが一旦自分達から離れたのを見計らい、カバンから取り出した書類などを入れた封筒を渡しました。

 「ふぅむ?これは・・・・・・?」

 封筒の中の書類にざっと目を通してから、取りだした写真を怪訝そうに見ながら士郎に尋ねます。

 「ALO内で、ある5人のプレイヤーたちが肩車をして世界樹上層を撮影した写真で、解像度ギリギリまで引き伸ばしたものです」
 「なるほど」

 士郎の説明を聞きながら興味深そうにファブリスが眺めていると、そこへ注文されたコーヒーを持ってきたギルバートが来ました。

 「お待ちどう。ん?写真・・・・・・・・・・・・って!?」
 「ふむ?」
 「如何した?」

 乗り上げるかのように、ファブリスの持っている写真を食い入るように見て来るギルバートに、2人は訝しんでいるが、本人はそれどころではありませんでした。
 二枚の写真の内、ぼやけた金色の格子内に囚われている様に、どこか気落ちした表情で白い椅子に座っている白いドレス姿の女性の容姿が、今も眠り続けて現実に帰って来ないSAO時の知り合いの1人であるKoBの副団長を務めていた金髪の少女、《閃光》のアスナに非常に似ていたのですから。

 「これは何だ?何の写真だ!?」
 「・・・・・・言って良いんですか?」

 ギルバートに問い詰められた士郎は、自分の依頼主であるファブリスに聞きます。

 「事が事なのでネ。事実関係がハッキリしていないから、ギルバート君が他言無用を貫」
 「喋りません!」
 「・・・・・・・・・」

 なら構わないと、視線で事情説明を士郎に促すファブリス。
 促された士郎は個人的に巻き込みたくないと言う感情を何とか抑えて、詳しい説明をする。
 目を瞑ったまま全てを聞き終えたギルバートは、決意を持った目をしながら言います。

 「――――その疑いについては省いた上で、この写真の事を話したい奴がいます」
 「先ほど他言無用にして欲しいと忠告したばかりの筈だがネ?」
 「そこを何とかお願いします!」

 カウンターテーブルに両手をついて、ギルバートはファブリスに向かって頭を下げます。
 そのスキンヘッドの店主の姿からは、かなりの本気度がよく解り、嘆息するそぶりを見せるファブリス。

 「仕方ないネ」
 「ほ、本当ですか!?」
 「ただし、その場に私も同伴させるのが条件だ」
 「そ、その程度でいいのでしたら!」

 嬉しそうに笑顔になるギルバートから視線を外して、士郎を見ます。

 「衛宮君もそれでいいネ?」
 「・・・・・・ギルは意外と熱くなりやすい所が有りますから、暴走しないようにしっかりと手綱を握って下さいよ?」
 「善処しよう」

 そうして深夜の3人の密談は終わったのでした。


 -Interlude-


 次の日。
 朝からちょっとしたイベントを体験した後、否が応にも事実関係を知りたくなる画像を送られた和人は、即座に家を飛び出して、送信して来た本人が営んでいる喫茶店のダイシー・カフェに来て、事情を聞いていました。

 「――――早く教えてくれ。この写真は何所で取られたんだ!」
 『そのゲーム内の中さ。アルヴヘイムオンラインの』
 「え?」

 自分の問いを返して来たのはエギルでは無く、お手洗いに続く廊下から発せられた姿なき声だった。
 そうして数秒後、姿を現したのは――――。

 「あ、貴方はファブリスさん!?」
 「いやぁ、覚えていてくれたとは何よりだ和人君。まさか君がギルバート君が是非とも話したいと言っていた少年だとは。奇縁だなぁ!あっ、ギルバート君。トイレありがとう」
 「・・・・・・・・・いえ。それにしてもファブリスさんと知り合いだったのか?」
 「あ、ああ。・・・・・・前に、親父の知り合いと言う事で・・・一度だけ話したことがあったんだよ」
 「?」

 何とも煮え切らないキリトの態度に、何故と訝しむギルバート。
 しかしその疑問の答えは本人では無く、ファブリスの口から告げられた。

 「キリト(・・・)君と話した日はSAOの正式配信日の昼前だったんだヨ。あの地獄の始まりの日だから歯切れが悪い言い方なのだろうさ。エギル(・・・)君」
 「俺のプレイヤー名!以前もそうでしたけど、如何して知ってるんですか?」
 「当然の様に俺のも把握してるようですが・・・・・・」
 「そこは情報通と言う事で納得してくれ給え」
 「情報通?と言う事はSAOで言ってたエギルの情報通の知り合いと言うのは・・・」
 「そう、私の事だネ。シクヨロ」

 もう10年以上前に軽く流行った言葉を使うこの老紳士に面喰らうキリト。

 「と。自己紹介で話の腰を折ってすまなかったネ。ささ、私の事は気にせずキリト君に説明してあげたまえよ、エギル君」
 「「・・・・・・・・・」」

 何所までもマイペースで胡散臭い老紳士にキリトは何とも言えない顔をしている様ですが、エギルを見ると苦笑しているのに気が付きました。
 この老紳士はいつもこんな感じなのだと、それだけで察する事が出来ます。
 それにキリトが今ここに居るのは、アスナに似ている画像の件についての事なので、言う通りに従うのが得策と判断しました。

 「―――――と言う訳だ。それでこの写真の提供者が・・・」
 「私と言う事だネ」
 「そうだったんですか。それにしても正規のゲームの中に何でアスナが・・・・・・?」

 そこでALOのソフトのパッケージ裏のメーカー名がレクト・プログレスだと言う事に気付いたキリト。

 「ファブリスさん。これ以外の写真は無いんですか?例えば他の未帰還者達が移っていると言うモノとか」
 「有るかもしれないし、無いかもしれない。先ほど写真の提供者が私だと言ったが、正確にはこの写真を持ってきたのは別の人物でネ。少なくとも私の手元には無いんだヨ」
 「そうですか・・・」
 「・・・・・・(チラッ)」
 「・・・・・・」

 明らかに落胆している表情を見せるキリトに対して、エギルはまだ教えていない情報を教えたい衝動に駆られている様ですが、ファブリスの視線でそれが許されていないことを改めて自覚させられます。
 その2人のやり取りに気付いていないキリトは、顔を上げてエギルを見やりました。

 「エギル、このソフト貰って行ってもいいか?」
 「構わんが・・・・・・まさか行く気なのか?」
 「行動しなきゃ何も変わらない。行って、この目で確かめる。――――死んでもいいゲームなんて温すぎるぜ」

 キリトの言葉には、デスゲームを実際に経験した者とは思えないと言葉であると同時に、余裕を窺わせる感じが有りました。
 エギルは何とも言えない顔になり、ファブリスは横眼でじっと見るだけでした。
 2人の視線をものともせずに、キリトは席を立つ。

 「ハードを買わなきゃな」
 「ナーヴギアで動くヨ。アミュスフィアはアレのセキュリティー強化版でしかないからネ」
 「何から何まで教えてくれてありがとうございます」
 「いやいや、健闘を祈るヨ」
 「はい。エギルもご馳走様。また情報が入ったら連絡してくれよ?」
 「有ったらな。――――アスナを助け出せよキリト。じゃなきゃ俺達のあのデスゲームは真の意味でエンディングを迎えられねぇ」
 「勿論。何時かここでオフ会をやろう」

 キリトがエギルと拳を軽くぶつけ合ってから、店を後にしました。
 それを見送った2人。

 「ふむ。熱いネ。2年前の彼はあそこまで熱く無かった筈だが、死線を潜ればあんな風になるのかな?」
 「加えて惚れた女を取り戻しに行くからですよ。・・・・・・・・・ところで、如何してキリトが未だにナーヴギアを所持している事を知ってるんですか?」
 「企業秘密だネ」
 「企業秘密の多い方だ」
 「覚えておきたまえギルバート君。秘密がある人間は男はカッコよく、女は魅力溢れるモノなのだヨ」
 「自分で言いますか」

 何所までもマイペースなファブリスに、ギルバートは相変わらずと思うと同時に軽く辟易して行きました。


 -Interlude-


 キリトはALO内にてリーファと言う同行者を得て、世界樹に向かう途中、ルグルー回廊にてサラマンダーの襲撃を受けるも、辛くも撃退し、さらにはシルフとケットシーの領主らによる同盟を結ぶ会談を襲撃するサラマンダーの大部隊を何とか引かせることに成功しました。
 これにより、キリトは両領主と知己を得る事となりました。
 そこでの話し合いも終えようとしたところで、シルフの領主であるサクヤが思い出したように言う。

 「そう言えばアリシャ、今回の席で例の“彼”を護衛も兼ねて連れて来ると言う話はどうなったんだ?」

 サクヤの言葉にビクっと反応するアリシャ。

 「あ、ははは・・・・・・、それが実は――――アイツに連絡したのが三日前だったんだけど『そんな急に予定を開ける事は出来ない。近日中にスケジュールを作るからその日にしてくれ』って、断られちゃったニャン♪」
 「そんな事一度も聞いてないぞ?まさか意外と短気なお前の性格上、それに腹を立てて、返信せずに今日の会談に臨んだんじゃ・・・」
 「ニャン♪」
 「てへぺろみたいに誤魔化すな!今回の襲撃の原因と責任がシルフ領側(うち)にあるとは言え、キリトとリーファ(彼ら)の救援が無ければ全滅していたんだぞ!?」

 もうすぐで会話が終えると言う所で別の話題で白熱する両領主を遠巻きに見ている両陣営の部下達とキリト達。
 特にキリトとリーファ(ユイはキリトのポケットな中に居る)の2人は、会話についてよく解っていない様子だ。

 「サクヤ、何の話なの?」
 「ルーに以前から聞いていた、ルー曰く本当のALO最強プレイヤーはケットシーに居る《鬼神》だと言う話だ。以前のプーカ領領主は、とある理由からアイシャを目の仇にしていたらしく、隙あらば事あるごとにケットシー領のプレイヤー達に嫌がらせ等をしていた事があったそうなんだが、その内の一つにチームワークの向上のための演習をしていた時があったそうなんだが・・・・・・って、如何して私が説明してるんだ!?続きはお前が言え、ルー!」

 指摘されたアリシャはえーと口を尖らせながらも、説明役を引き継ぐ。

 「――――それをプーカの大部隊が襲撃したんだけど、その演習の指揮を取ってたのが“アイツ”だったこともあって、1,2分で全員瞬殺したのよ。中にはデュエル大会の上位陣メンバーも数人いたにも拘らずねー。因みに大部隊の人数は50人くらいだった筈だよ?そんで、そん時の“アイツ”の戦闘の凄まじさと殺気による恐怖心に煽られたプーカの誰かが、まるで鬼の様だと、その戦闘の有り様は《鬼神》の如しと言われたのが始まりだったよ」

 その説明だけ聞けば凄いと想像できるのですが、実際にこの目で見たわけでもないのでイマイチ実感を持てないキリトとリーファ(2人)は、相づちを打つ程度の感情で「へー」とか「凄いな」と言う感想だけでした。
 それにアリシャはあくまでも説明をしているだけであり、話題の人物を贔屓にする気も無いので特別気にする態度と反応でもないのです。

 「その“彼”を今日の護衛として付けて来る筈だったと聞いていたのにな・・・」
 「ニャハハハハ」
 「如何して連れて来なかったの?」
 「ん?アイツってばリアルが忙しいとか抜かして滅多に来ないのよ。この半年の間に来た回数は四回くらいかな?」
 「忙しい人なんだな・・・・・・・・・ん?じゃあ、如何してそこまでの強さを維持出来てるんだ?」

 当然の質問であるが、キリトはこのゲームのマニアックな特性を忘れているのでは?と考えたリーファがそれを指摘します。

 「キリト君。ALOはどスキル制だって事忘れてない?」
 「いや、忘れたわけじゃないがそれにも限界はあるだろ?最強クラスの実力を維持していくためには、そこはやっぱり定期的にALO(此処)に来ないと難しいんじゃないか?」

 それもそうかと呟くリーファの疑問に答えるのは、勿論サクヤから説明役を押し付けられたアリシャです。

 「その疑問の答えは単純明快、アイツのプレイヤースキルが人外だって事よ。素手でナイフを粉々に砕いたり、プロレスラーなどの格闘選手の元プロの不良達――――所謂くずれが十数人相手に一撃も貰わないで全員瞬殺レベルで気絶させたり、家事が発生したマンションから取り残された赤ん坊を助ける為に六階から飛び降りても無傷だったなどのとんでもない事を平気でやってのけてきた奴なのよ」
 「・・・・・・そ、それは、どのゲームでの話だ?」
 「ううん、全部現実でのアイツの逸話――――実話よ?」
 「「「「「「「「・・・・・・・・・・・・」」」」」」」」

 これには以前から少しばかり聞いていたサクヤを含めたシルフ領首脳陣、それにキリトとリーファも呆気に取られて押し黙りました。

 「その人外的ポテンシャルと戦闘力は、普段の日常生活じゃ使われないし本人もその手の職業についてるわけじゃない。だから私がそれらを全力解放できる場所を教えてあげたのニャン♪」
 「・・・・・・・・・単に自分の領のプレイヤー達の強化に当てたかっただけだろ?」

 半信半疑ながら誰よりも早く復帰したサクヤが、アリシャの本音を言い当てます。
 しかしアリシャは気にしません。

 「兎に角、アイツには人外的強さが有るのよ。次合う時はアイツもつれて来るから、今度こそ楽しみにしていてね♪」
 「あ、ありがとう・・・」

 引き気味に、それにサクヤ同様に、半信半疑のままお礼を言うキリト。
 そこで今更ながらリーファが言う。

 「その人の名前はなんていうの?」
 「ん?あっ、そうか言うの忘れてたわ。えっとね、アイツの名前は――――“ネームレス”よ」 
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