風魔の小次郎 風魔血風録
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149部分:第十三話 暖かい風その八
第十三話 暖かい風その八
「生きて帰って来ないと許さないですから」
「安心しな、俺は不死身さ」
いつもの小次郎の言葉だった。
「だからよ。行くぜ武蔵!」
「来い、小次郎」
小次郎が動き武蔵が迎え撃つ。そんな形になっていた。
「風魔烈風剣!」
「飛龍覇皇剣!」
今最後の両者の激突となった。互いの剣が打ち合い凄まじい衝撃が起こる。両者はその衝撃の中で互いにせめぎ合っていたが敗れたのは。武蔵だった。
「くっ!」
「勝ったな!」
後ろに吹き飛ばされる武蔵を見て小次郎は勝利の声をあげた。
「俺の勝ちだ!」
武蔵は壁に叩きつけられ前から倒れた。これで勝敗は決したのであった。
武蔵はもう起き上がれない。意識を失っているようだった。だが小次郎はもう彼には近付こうとはしなかった。
「止めをささないのですか」
「ああ」
夜叉姫の問いに答えるのだった。
「いいさ、もうな」
「そうですか」
「とにかくこれで終わりだな」
そう言うと風林火山を右肩に担いで武蔵に背を向けた。今の彼が闘えなくなったことも背中から狙うような男ではないこともわかっていたからだ。
「この闘いはよ。だからもう」
「白凰に兵を向けることはありません」
これははっきりと言う夜叉姫であった。
「もう。安心するのです」
「そうか。じゃあ姫さん、蘭子」
「はい」
「ああ」
自分達に顔を向けてきた小次郎にそれぞれ応える二人であった。
「帰るぜ」
「ええ」
三人はそのまま部屋を出ようとする。しかしここで夜叉姫が最後に姫子に声をかけるのだった。
「北条姫子」
「何でしょうか」
「この度は貴方達の勝利です」
夜叉姫はこのことははっきりと認めていた。
「ですが」
「ですが?」
「次の戦いではわが夜叉が勝利を収めます」
このことも告げるのであった。
「それはお忘れなきよう」
「次ですか」
「そうです。夜叉はただ敗北するだけではありません」
その様な下らない組織ではないというのだ。
「それはお忘れなきよう」
「貴女はあくまで戦いを求められるのですね、夜叉姫」
「それが忍の運命である限り」
「忍ですか」
「そうです、私は忍」
このこともまた認める。彼女はあくまで忍であるというのだった。
「このことをどうして忘れることができるでしょうか」
「左様ですか」
「それは貴女も同じ筈」
姫子もまた言うのであった。
「そうではないですか」
「私は」
「貴女が白凰の主であって風魔の主ではないこともわかっています」
だがそれでも言うのだった。姫子に対して。
「ならば貴女の戦いは」
「はい、学園を守ることです」
それこそが姫子の戦いであるというのだ。
「私の戦いは」
「ならばそれを行い続けられることです」
夜叉姫は姫子に厳かな様子で告げた。
「貴女の戦いを」
「もう白凰には何もされないというのですね」
「勝敗が決したのは明らかです」
「だからですか」
「そうです。しかし我が夜叉と風魔の因縁は別」
「別ですか」
「そうです」
白凰と誠士館、風魔と夜叉のことははっきりと分けていたのであった。表と裏、表裏一体であってもだ。それは分けていたのである。
「それはくれぐれも」
「わかりました。それでは」
「はい。また御会いしましょう」
こう言葉を交えさせたうえで姫子は小次郎、蘭子と共に部屋から姿を消した。三人が校舎を出るとその前に風魔九忍と八将軍がいたのだった。
「勝ったな」
「ああ」
校舎から出た小次郎はまず竜魔の言葉に応えた。彼はここでも右肩に風林火山を担いでいる。
「風魔と夜叉の戦いも今度のは終わったぜ」
「そうか」
「ああ、終わった」
また竜魔の言葉に頷くのだった。
「これでな」
「武蔵の妹が死んだな」
竜魔は次にこのことを急に口に出した。
「わかっていたのかよ」
「感じた」
目を閉じて小次郎に対して頷く。
「そして感じたのは俺だけではない」
「皆もか」
「当然我等もだ」
八将軍を代表して陽炎が言ってきた。
「感じた。武蔵は」
「御前等もかよ」
「いいのか、小次郎」
今度は竜魔から小次郎に尋ねてきた。
「あれで。いいのだな」
「武蔵に止めをささなかったことかよ」
「そうだ。確かにあの男はこれで夜叉を離れる」
報酬が支払われた。傭兵としての契約はこれで終わりだというのは忍の世界では決まっているのだ。
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