| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

風魔の小次郎 風魔血風録

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

14部分:第二話 夜叉八将軍その二


第二話 夜叉八将軍その二

 ある病室で。一人の可憐な少女が眠っていた。しかし彼女は何かに脅えていた。
「逃げて・・・・・・」
 白いベッドの中で眠りながら呻いてこう呟いていた。
「お兄ちゃん、逃げて。風が来る」
 風が来ると。そう言っている。
「強い風が来るよ。だから逃げて」
「絵里奈ちゃん、絵里奈ちゃん!」
 彼女が呻いているのに気付いた看護婦が慌てて声をかけた。
「どうしたの、一体」
「あっ、看護婦さん」
 その若い看護婦に声をかけられて目を醒ました。
「ちょっと。夢を見ていたの」
「そう、夢だったのね」
「うん」
 夢と聞いてほっと胸を撫で下ろした看護婦に対して述べた。
「風が。お兄ちゃんに向かって」
「風が!?」
「そうなの」
「風だったら絵里奈ちゃん」
 看護婦はあまり話がわからなかったがそれでもふと気付いた。気付いたのは窓の向こう側だった。
「外は結構風があるわね、今日は」
「そうなの」
「絵里奈ちゃんお外好きよね」
 窓を開けながら絵里奈に尋ねる。するとすぐに風が部屋に入り心地よい空気を入れた。
「今日は野球の試合みたいね」
「野球の?」
「ええ」
 絵里奈に対して答える。
「隣の球場でね。はじまるわ」
「そうなの」
 見れば下の球場前にユニフォーム姿の選手達がやって来ていた。彼等は次口と荷物を下ろしている。それからグラウンドに入るのだった。
「この前はサッカーで今日は野球か」
 グラウンドには小次郎もいた。蘭子も姫子もいる。
「何か球技が続くな」
「我が校は球技だけじゃないがな」
「他のスポーツもか」
「実は文化部にも力を入れている」
 こう小次郎に答える。
「またそこでの助っ人も頼みたいが」
「頼みたいが。何だよ」
「御前はな。どうも」
 自分の右手に立つ小次郎に顔を向けて難しい顔になるのだった。
「頭が悪いからな」
「だから駄目だっていうのかよ」
「そうだ。今回も」
 今の野球の試合の話をはじめた。
「本来ならば出てもらうつもりだった」
「じゃあ何時でも準備オッケーだぜ」
「だがこの前のサッカーで懲りたからな」
 理由はそれだった。
「だからいい。試合のサポートだけでな」
「ちぇっ、そうかよ」
「ああ。姫子様もおられる」
 ここで姫子を見る。
「今回の誠士館との戦いも勝たないとな」
「わかったぜ。ところでよ」
「何だ?」
 小次郎は話が一段落ついたところで話を変えてきた。蘭子もそれに乗る。
「蘭子、御前どうして姫ちゃんに仕えているんだ?」
「姫子様と御呼びしろと言っているだろう。まあいい」
 今はよしとした。
「それがどうしたのだ?」
「いやさ、俺達は北条家とは代々主従なわけで」
 まずは自分達の身の上について述べる。
「だから今こうして助っ人に来ているんだけれどよ。御前はどうしてなんだ?」
「私がか」
「ああ。柳生の家だからか?」
 まず問うのはそこであった。
「柳生家も代々北条家に仕えてるんだったよな」
「そうだ」
 蘭子は小次郎のその問いにこくりと頷いてそれを認めるのだった。
「それでなのか?」
「それもある」
 それもまた認めた。だがそれだけではないとも言うのだった。
「私も父の兄も」
「御前妹だったのかよ?」
「おかしいか?」
「いや、まあその可能性はあるのは事実だけれどよ」
 ジロリと睨んできた蘭子に対して答える。
「ただ。弟がいそうだからよ」
「弟もいるがな」
「ああ、それはわかるぜ」
「何を感じているのかわからないが皆北条家にお仕えしているのだ」
「そうか」
「そうだ。ただ」
 ここでまたそれだけではないと述べる。
「それだけじゃねえのかよ」
「ああ。こんなことを言えば駄目なのかも知れないが」
 また前置きしてきた。
「私はあの人が好きなのだ」
「好きなのかよ」
「あの穏やかで真面目で」
 見れば姫子はこれから試合に向かう選手達の世話をしているバットやグローブを手渡したりにこやかな笑みで優しい言葉をかけたりしている。まるでマネージャーの様に。
「何でも必死に頑張れるあの方がな。好きなのだ」
「姫ちゃん自信がな」
「幼い頃よりお側でお仕えしてきた」
 それだけ深い絆が二人にはあるのだ。
「その間一度として我儘を言われたことはない。普通の女の子ならその重圧に耐え切れない今でもな。そんな姫子様が好きなのだ」
「そうなのか」
「ああ。少しおっとりというかぼんやりとしたところもあられるがな。それがまたな」
「蘭子、御前いい奴なんだな」
「褒めても何も出ないぞ」
 こうは言っても顔を微妙に赤らめさせていた。
「言っておくが」
「いいさ。ところで今回の俺はサポートだったな」
「ああ」
 小次郎のその言葉に答える。
「じゃあよ。今日の試合センター狙って打つといいぜ」
「センターをか」
「ああ。今日の風は左から右だ」
「風か。わかるのか」
「そうさ。俺は風魔だからな」
 自身のいる忍について言った。
「風を読むのはお手のものなんだよ」
「それでセンターなのか」
「右でも左でもそこに打てばボールが面白い動きをするぜ」
 グラウンドを見ながら蘭子に語る。
「ただ、右バッターは下手に流し打ちしない方がいいけれどな」
「わかった」
 小次郎のその言葉に頷く。すると小次郎はまた蘭子に対して言うのだった。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧