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提督はBarにいる・外伝

作者:ごません
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美保鎮守府NOW-Side B- PART11

 
前書き
 金城提督の暇潰しを兼ねた美保鎮守府の艦娘達を鍛えるプログラムが始まってしまった。果たして、彼女達は無事に今日という日を乗り切る事が出来るのだろうか……?

※今回は久し振りの飯テロ会となっております。 

 
 金城提督式ブートキャンプと料理教室

「ほれほれ、ペース落ちて来てんぞぉ!俺に追い付かれても良いのかぁ!?」

 暖かい陽射しの中、鎮守府裏手のグラウンドを走る艦娘達。その顔には疲労の顔が浮かんでいる。その後ろには軽い足取りで艦娘達を追いかける俺。一見危ない絵面だが、俺に捕まると何が待っているか解らない、という恐怖心を利用して発破を掛けているのだ。今は手始めの5kmのランニングの真っ最中。しかしただダラダラと走っていても効果は薄い……ならばと俺自身が最低限のペースメーカーになって彼女達を走らせている。

「ほれラスト1周!俺もペース上げるぞ!」

 そう叫んで本当にペースを上げる。艦娘達も追い付かれまいと動かない足を必死で前に出す。そしてゴールに辿り着くと、崩れ落ちるようにへたりこむ艦娘達。

「ほれほれ、座り込むと余計にキツいぞ。ゆっくりと歩きながら息を整えろ」

 俺に促されて、ヨロヨロと立ち上がって息を整えていく。何人かは平然としているが、大多数の連中が絶対的に走り込みが足りない。海上でバランスを取るのにも足腰の筋肉は必要不可欠だからな、走らせて無駄になるという事はない。ウチの連中も訓練課程の最後の方にはハーフマラソン走らせてもへばらないだけのスタミナが付いたからなぁ……艦娘の基礎スペックには舌を巻く。

「う~し、息は整ったな?お次は二人一組になって柔軟だ」

 質のいい筋肉は強く、且つしなやかで柔らかい。昔読んだ本にも似たような逸話があった。アメリカの高名な指圧師のインタビューだったのだが、ボクシングの世界チャンピオンのモハメド・アリを施術した際、その柔らかさがマリリン・モンローと同レベルの柔らかな肉体だったと驚いたという話をしていたのだ。超一流の筋肉は強く、柔らかい。曲げる・伸ばす・捻る・捩る……多種多様な方向に力が加わるのだから強いだけでは傷めてしまう。それに、柔らかい筋肉は代謝も上がるから、美容と健康にも良いしな。俺も一人でではあるが柔軟をこなしていく。柔道始めたガキの頃からの日課だからな、大してキツい物でもない。今では180゜開脚なんかも余裕で出来る。大分身体も解れたので艦娘達の柔軟を監督しながら自分用の筋トレを行う。やはり、全体的に身体の固いのが多いな。この様子じゃあ格闘の訓練に入る前に基礎的なトレーニングをミッチリと仕込んだ方が良さそうだ。




 その後も筋トレや走り込み、短距離ダッシュ等々地味だが身体を作る為に必要なトレーニングをこなしていく。恐らくだが俺はここに長居する事は無いだろうから、仕込むとしても基礎的なトレーニング方法のみになるだろう。身体が出来ていない状態で技術を教えても物には出来ないだろうからな、俺が基礎を築いて今後の交流するウチの連中に技術面は任せるとしよう。数時間後、一部の艦娘を除いてほとんどの艦娘は地面に倒れ伏し、粗く息を吐いている。正に死屍累々といった感じだ。

「はいはい、皆お疲れさん。今日一日お前さん等の動きを見せてもらったが……まだまだ技術を教えられるレベルじゃねぇ。当分は今日みたいな基礎的なトレーニングをこなしてもらう形になるだろう」

 艦娘達の顔には、あからさまに嫌そうな色が浮かぶ。まぁ基礎トレーニングなんてものは地味でキツいと相場が決まってる。それをいかに嫌がらずにこなせるかが重要だ。

「この後の夕食だが……俺が疲労回復に適したメニューを準備させて貰う。味もそれなりに期待していいぜ?」

「あの、提督……」

「なんだ?って、俺今提督じゃなかったな……でも、なんだ?」

 おずおずと赤城が話しかけてきたが、思わず提督と呼ばれて返事しちまった。自分で提督じゃないとか言っておきながら。いやはや、癖という奴は恐ろしい……なんて考えてしまった。

「あの、出来ればお料理の様子を見学したいのですが……宜しいでしょうか?」

「あぁ、別に構わんぞ。ってか、量が量だから手伝って貰えると助かるわ」

 他にも見学したい奴はいるか?と尋ねてみたら、予想以上の希望者がいて驚いた。まぁ手伝いの手が増えると思えばそれもいいか。そんな風にぼんやりと考えながら、厨房へ向かう。

「金城提督、今日はよろしくお願いいたします!」

 厨房で待っていたのは、メモ帳を手にした鳳翔さん。鼻息荒く、やる気マンマンといった様子だ。

「お、おぅ……よろしく」

 さて、始めようか。メインテーマは疲労回復に効く食事だ。





 秘訣その1:豚肉を食べる時にはクエン酸と共に!

 疲労回復に効く栄養素として有名なのはビタミンB1。炭水化物や糖質を体内でエネルギーに効率よく変換してくれる栄養素だ。『疲れた時には甘い物』と良く言うが、甘い物だけを摂っても疲労回復には繋がらない。ビタミンB1を一緒に摂る事で脳や身体にエネルギーを送り、疲労回復を助ける事が出来る。そんなビタミンB1を多く含む食品は、鶏肉、大豆、いんげん豆、鰹節等。夏バテに良いとされる鰻もビタミンB1を多く含む食材だな。中でも豚肉は牛肉の10倍のビタミンB1を含んでおり、良質のタンパク質も摂れるので疲労回復と筋肉の増強にも一役買ってくれる。

 しかし、豚肉だけを食べるのは疲労回復にとっては逆効果。むしろ疲労物質が増えてしまうケースもある。ならばどうするか?答えはクエン酸……レモンやみかん等の柑橘類、パイナップル、キウイ、梅干し、お酢等に含まれている酸味の元だ。クエン酸はビタミンB1の吸収を助け、疲労回復効果を高めてくれる。豚肉料理にレモンを添えたり、一緒に食べるサラダにレモンベースのドレッシングを使ったり、酢の物を一緒に摂ったり……やり方は様々だ。今回は豚肉に消化を助けてくれるキャベツ、それとレモンを合わせた『レモン鍋』を作ろうと思う。


《豚バラとキャベツのレモン鍋》※分量2人前

・豚バラ肉:250g

・キャベツ:5~6枚

・春菊:1/2袋

・しいたけ:4つ

・長ネギ:1本

・レモン(できれば国産):1個

(スープ)

・水:800~1000ml

・めんつゆ(2倍濃縮):大さじ3

(薬味)

・大根おろし:1/2カップ

・青ネギ:適量

・七味唐辛子:適量



 さて、作っていこう。豚バラは食べやすい大きさにカットし、キャベツはざく切り。春菊は根元を切り落としてざく切り。しいたけは石附を落とし、レモンは薄い輪切りにしておく。レモンは外国産だと農薬は防腐剤が皮に塗られていたりするので、しっかりと表面を洗ってから切るようにしよう。

 鍋に水とめんつゆを入れ、強火にかける。煮立ってきたら弱めの中火に火を弱め、バラ肉、野菜を加えてレモンの薄切りをのせて煮込む。具材に火が通ったらOKだ。食べる時にはレモンやバラ肉で薬味を巻いてどうぞ。



 秘訣その2:トマトで酸化防止!

 身体の調子をととのえるなら、ビタミンの摂取も必須だ。俺個人としてのオススメは何と言ってもトマト。ビタミンA、C、Eを多く含み、前述した豚肉と相性の良いクエン酸も含む。さらにリコピンというカロテノイドは身体を錆び付かせる活性酸素を除去してくれる高い抗酸化作用を誇る。ビタミンは熱を加えると破壊されやすい為、出来れば生食を薦めるぜ。

《トマトとオクラの塩麹和え》※分量2人前

・トマト:1個

・オクラ:1袋

・貝割れ大根:少々(無くてもOK)

・塩麹:小さじ1

・削り節:大さじ2位


 てなワケで簡単に出来るトマトの和え物をご紹介。オクラは板摺りをして産毛を取り、3分くらい塩ゆでする。茹で上がったら薄く輪切りに。トマトは薄いくし切りにして、貝割れ大根は根元を切り落として水洗いしてザルにあけ、水気を切っておく。

 野菜が準備出来たら全てをボウルに入れ、塩麹と削り節も加えてサッと混ぜれば出来上がり。削り節と塩麹の量は自分の好みに調整してくれ。削り節が多い方がダシが出て個人的には好みだな。



「う~ん、やっぱり美味しそうですね」

 熱心にメモを取っている鳳翔さんの反対側では、俺の手元を覗き込みながら目を輝かせている赤城がいる。指をくわえて今にも涎まで垂らしそうだ。

「主菜と副菜はこれでいいかね。後は玄米入りの雑穀米と汁物と……あぁ、それと食前のスムージーも作っとかないとな」

「スムージー……ですか?」

「あぁ。フルーツと野菜たっぷりでな」



秘訣その3:フルーツは食前に!

 果物は酵素を沢山含む。疲労回復だけでなく、全ての生命活動に於いて酵素は必要不可欠。しかし、その酵素を活かすには『酵素を摂取するタイミング』が重要になるんだ。

 ご飯やおかずは食べてから2~4時間かけて腸に届くが、果物の酵素は食べてから30分で腸に届く。食前に果物を食べておくと、その酵素の働きによって腸内環境を整え、その後に入ってくる食べ物の消化吸収を助けてくれる。食前に果物を食べなかったり、食事の際に生野菜から食べない人は消化吸収を体内で生成される体内酵素のみで行わなければならず、作られる量が有限の体内酵素が無くなると免疫力が落ちたりして待っているのは『早すぎる死』だ。因みにだが、酵素の含まれる食品は『生の食べ物』と『発酵食品』のみ。加熱したら酵素は壊れてしまうので注意だ。酵素の多いフルーツは、パパイヤ、(缶詰じゃない)パイナップル、イチゴ、キウイなど。出来るだけ毎日取った方がいい。

《セロリとフルーツの酵素たっぷりスムージー》※分量2人分

・セロリ:1/2本

・パイナップル:1切れ

・パパイヤ:1/2個

・イチゴ:5~6個

・キウイ:1個

・水:200~400cc

・氷:適量



 作り方はとっても簡単。上の材料をミキサーに入れて、滑らかになるまで撹拌するだけ。スムージーの良いところってのは、野菜や果物を加熱せずに美味しく頂ける所だ。日課にするなら、はじめの内は飲みやすいようにハチミツを加えてみたり、水を豆乳に変えたり、果物や野菜の組み合わせを変えたりとアレンジは自在だ。スムージーそのものが重要というよりも、『食前にフルーツを食べる』というのを習慣付けさせる為の1つのやり方だからな。

「ほれ、味見」

 作りたてのスムージーをコップに注ぎ、赤城に手渡してやる。

「え、いいんですか!?」

「あぁ。そんなに物欲しそうに眺められてるとな」

 俺が苦笑いで返すと、赤城は顔を真っ赤にしてスムージーをゴクゴク飲み干している。ふと、殺気にも似た視線を感じてそちらを振り向く。視線の先には加賀がいたが、彼女は他の艦娘達とトマトの塩麹和えを作っていた。勿論、こちらは見ていない。

『…………?』

「提督、どうしたんです?」

「あぁいや、何でもねぇ。さてと、残りの汁物もさっさと仕上げますか」

 気のせい、か。



秘訣その4:大豆の『レシチン』で体と頭の疲労回復!

 レシチン、という栄養素がある。その効能はストレス解消、疲労回復、脳の働きのサポート等々『ブレインフード』と呼ばれる位に脳に良い働きをしてくれる。さらに体内の余分なコレステロールを運んで排出してくれるのもレシチン。コレステロールに働くというビタミンEを清掃業者とすると、レシチンはごみ収集車のような働き、と例えれば解り易いか?ビタミンEはレシチンの酸化を防ぎ、レシチンはビタミンEの吸収を助ける力もある。互いが互いに自分の仕事をしやすい環境を作ってるワケだ。

 そんなレシチンがダントツに多いのは大豆食品。大豆、枝豆、味噌、醤油に豆腐に油揚げに納豆etc……どれも和食にゃ欠かせねぇ。案外、日本人がストレスに強いとされる所以はこの辺にあるのかもな。なので、今回はそんな大豆食品たっぷりの『納豆汁』を作るぜ。

《大豆食品たっぷり!秘伝の納豆汁》

・山菜ミックス:適量

・納豆:600g

・油揚げ:3枚

・木綿豆腐:2丁

・水:適量

・味噌:適量

・長ネギ:適量

・セリ:適量

・ほんだし:大さじ2位



 納豆汁ってのは山形の郷土料理でな。ペースト状になるまで磨り潰した納豆を、山菜なんかを入れた味噌汁に溶いた物だ。納豆独特のあの粘りと味が味噌汁に溶け出しててなぁ、納豆好きには堪らんご馳走だ。昔、柔道の試合で山形に遠征した時に民泊させてもらった家の婆さんが作ってくれて、あんまり美味かったんでレシピを教えてもらったんだ。

 まずは一番時間の掛かる納豆からだ。擂り鉢に納豆を全部入れて、すりこぎで納豆の粒が無くなってペースト状になるまで磨り潰す。ここで大事なのは面倒がらずに綺麗に納豆の粒を磨り潰す事。それによって納豆がしっかりと味噌汁に溶け込んで、さながらとろろ汁の様な滑らかさが生まれる。納豆を磨り潰している間に薬味の長ネギとセリを細かくみじん切りにしておき、油揚げも食べやすい大きさに切っておく。

 お次は味噌汁の支度。鍋に水を適量沸かして、出汁を入れる。出来れば昆布よりも鰹節や煮干しなどの味の強い出汁がいいだろう。そうじゃないと納豆の味に出汁が負けちまうからな。沸騰してきたら納豆汁の具材になる蕨やゼンマイ、山うど、細竹、ナラタケなんかを刻んで入れるんだが……今回は手元に無いんで、スーパーに売ってる山菜ミックスで代用だ。山菜ミックスの水気を切って鍋に入れ、適当に刻んだ油揚げも一緒にドボン。山から取ってきた山菜だと15分くらい掛けてじっくりと煮るが、今回は山菜ミックスだから、強火で5分も煮れば十分だな。

 具材に火が通ったのを確認したら、一旦火を止めて味噌と納豆をお玉に掬って溶いていく。納豆ペーストを一気に鍋に入れると、固まってダマになってしまうので、味噌を溶くように少しずつ溶いていこう。味見をしてちょうどいい塩加減になったら、再度点火。弱火にして、お玉でゆっくりかき混ぜつつ5分くらい温める。

「す、すごいドロドロですね……」

 鳳翔さんをはじめ、他の見学していた連中も、少し引いている。なんだよ、こんな見てくれしてるが美味いんだぞ?これ。

 汁が十分に温まったら、仕上げに賽の目に切った豆腐を加える。こうすると、翌日に残っても腐りにくいとかなんとか。豆腐を入れて少し温めたら器に盛ってネギとセリをたっぷりと散らす。お好みで一味か七味を振ったら完成だ。

「さぁ出来た、『金城特製スタミナ回復定食』だ」

 周りからワッと歓声が上がる。と、そこに秋雲がやって来て美保提督が呼んでいる、と告げられた。どうやらこれからの流れを打ち合わせしたいらしい。配膳等は艦娘達に任せて執務室へと上がる。やれやれ、やっぱり俺ぁ料理してると落ち着くぜ。 
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