普通だった少年の憑依&転移転生物語
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【ハリー・ポッター】編
193 パッドフット帰還
SIDE ロナルド・ランスロー・ウィーズリー
勝手に感じていた虚しさを噛み殺して、〝洗浄〟したとかは除くとして──シリウス・ブラックを運ぼうとしてまずやったのが、シリウス・ブラックを守護せんとするクルックシャンクスを、シリウス・ブラックのお腹の上から退かす事だった。
当初は〝所詮猫だしな〟と、からかい混じりに「悪い様にはしないし、きっと悪い様にはならないよ」とクルックシャンクスに話し掛けた。
それはいっそ、先に噛み殺し損ねていた虚しさ故の投げ遣りだったのだが、そこで意外な事が起こった。……何と、クルックシャンクスがシリウス・ブラックの上から退いてくれたのだ。
それからと云うものの、クルックシャンクスの賢さに舌をまきながシリウス・ブラックを魔法で浮かせて、前以て大きめの布に〝目くらまし呪文〟を付与して作って〝なんちゃって透明マント〟を掛けた。……云うまでもなくルーピン先生──ではなくマクゴナガル先生の元に連れて行く為だ。
……もちろんの事ながら〝深夜徘徊〟となるため俺自身もその〝なんちゃって透明マント〟を被って“忍びの地図”を頼りに副校長室へと向かう。
(……〝商店〟に置いたら──止めとこう)
この〝なんちゃって透明マント〟はアニーの持っているモノホンの“透明マント”と区別化するために劣化こそするが、それでもその効力は5年ほどは保ち、“透明マント”と違って汎用性もある。
一瞬だけ、今もたまに不定期、不定所で開いている〝商店〟で売ってぼろ儲けしようと思ったが直ぐに思い直す。
〝商店〟に置く理由を諦めたのは他でも無い──〝〝汎用性〟が問題だから〟だ。……今ですら〝なんちゃって透明マント〟を使って〝深夜徘徊〟をしているのだ、そんなものを〝商店〟に並べたら、ダンブルドア校長が動くだろう。
(……マクゴナガル先生なら話を判ってくれるはず)
そんな打算を元に副校長室のドアをノックした。……宙にシリウス・ブラックを──床に地味について来ていたクルックシャンクスを携えながら。
……もちろん、俺自身の〝なんちゃって透明マント〟は脱いでいて“忍びの地図”をちゃんと仕舞ってある。シリウス・ブラックに被せてある〝マント〟は後で脱がす予定だ。
“忍びの地図”でマクゴナガル先生がまだ起きているのは知っていたので、部屋の扉は「こんな夜更けに一体誰ですか」とな愚痴と共にすぐに開かれる。
「……ミスター・ウィーズリー──一体どうしたと云うのですか?」
「夜分遅くにすみません──ですがどうしてもマクゴナガル先生にご報告したいことがあって、こんな時間ながらドアをノックさせていただきました」
「……入りなさい」
突然の──それも深夜に俺が訪問したことに訝るマクゴナガル先生。
俺は出来る限り慇懃に──マクゴナガル先生に部屋に入れさせてもらうために訪ねた理由を語ると、マクゴナガル先生は俺の狙い通りに部屋へと入れてくれた。
……マクゴナガル先生の部屋に入る時、シリウス・ブラック──とクルックシャンクスも一緒に入れるのを忘れない。
手順としては、まず俺がマクゴナガル先生に気にされない程度に扉を余分に開き、その隙間からシリウス・ブラックが部屋へと入りきったと同時にクルックシャンクス──とな塩梅だ。
「ささ──お掛けなさい」
マクゴナガル先生はシリウス・ブラックを部屋へと入れられているなんてつゆとも知らずに──杖の一振りのうちに、机の上に置かれていた書類を退かすと同時に紅茶を用意してくれた。
「……で、ミスター・ウィーズリーはこんな夜更けに一体どうしたというのでしょうか」
「……多分マクゴナガル先生は、どうして〝そんな事〟になったか納得いただけないと思うので、始まりからお伝えしようと思います」
マクゴナガル先生から「よろしければ」と薦められた紅茶を一口だけ口に含みカップをソーサーに置いたところでマクゴナガル先生がこんな夜半に部屋を訪ねて来た理由を訊いてきた。想定していた展開だったので、俺は予てより考えていた文を口にする。
……マクゴナガル先生は俺の語り口が某かの琴線に触れたのか、より一層怪訝な顔をする。去年のバジリスクについて思い出しているのかもしれない。気付かない事にして話を続ける。
「話は今夜、寝ている時に襲ってきた下手人に寝惚け半分に〝失神呪文〟を使用したところが始まりです」
「〝襲ってきた下手人〟──もしや、グリフィンドール寮に侵入者が現れたのですか!?」
「ええ。ですが話はまだ終わっていません」
「……嘘は吐いていないのでしょうね」
「誓って」
「……判りました、続きをうかがいましょう」
マクゴナガル先生のその激昂も想定の範囲内の事だったので、〝心波〟にて無理矢理本気である事を伝えマクゴナガル先生を宥める。……マクゴナガル先生が落ち着いた頃を見計らって更に語り──騙る。
「その男は泥にまみれ汚れた服、痩せ細った身体、延び放題のボサボサの髪とな感じで、おおよそ見るに耐えない容姿をしていました。……当然、そんな男に襲われる理由に覚えはありません──そこで俺は〝開心術〟を使いました。〝開心術〟でまず判ったのが〝そいつ〟の名前なのですが、それは順を見て明かします」
「……っ…」
息を呑むマクゴナガル先生。消え入る様な声量で「もしや…」とも口にしているあたり〝下手人〟の正体にも気付きかけているのかもしれない。マクゴナガル先生の呟きを無視だ。
「〝そいつ〟が俺の寝込みを襲った理由は〝とある男〟の──ピーター・ペティグリューの身柄を欲していたからです」
「有り得ません! ペティグリューは──ピーターは…」
「シリウス・ブラックには殺されていません。だって誰もピーター・ペティグリューの遺体は確認していないはずです」
「確認されています、それは…」
「腕一本や足一本ならともかく、指一本ただそれだけで〝遺体〟だと断定できましょうか」
「ですがピーターは行方不明です。言っておきますがピーターは〝目くらまし呪文〟が使えませんでしたよ」
マクゴナガル先生「〝目くらまし呪文〟は高度な魔法ですからね」と言外にピーター・ペティグリューの劣等さをに露にしながら反論する。
「それによしんば〝目くらまし呪文〟をピーターが使えていたとして、姿を表さない理由はどう説明しますか?」
「姿を現さなかったのは粛清を恐れたからです。……≪死喰い人≫共から逃げていたのでしょう」
「どうしてそこで≪死喰い人≫の話が出るのでしょうか」
「それはピーター・ペティグリューが売った情報で〝名前を言ってはいけない例のあの人〟が凋落したからです」
「そんな──まさか…」
絶句しているマクゴナガル先生。俺は容赦せずに告げる。
「ジェームズ・ポッターとリリー・ポッターの居場所を売ったのはピーター・ペティグリューです。……シリウス・ブラック氏の機転で〝忠誠の術〟の〝秘密の守り人〟はピーター・ペティグリューと云うことになっていたのです」
「ああっ、シリウス…」
マクゴナガル先生はその場に崩れ落ちた。
………。
……。
…。
5分ほどしてマクゴナガル先生が回復して、ごもっともな事を訊いてきた。
「……ブラックがピーター・ペティグリューの身柄を欲している理由は判りました──ですがどうして貴方を襲ったのです」
「状況証拠からの類推になりますが──まず吸魂鬼は〝人間〟の幸福な気持ちを啜って生きていますよね」
「ええ、そうですね」
「〝人間〟のと云うことは、逆説的に〝動物〟の気持ちはうまく吸えないと云うことです」
「確かに吸魂鬼が動物を襲ったと云う例は聞きませんね──もしや」
俺とアニーに〝動物もどき(アニメーガス)〟について教授したのはマクゴナガル先生だ。……故にシリウス・ブラックがアズカバンを脱獄出来た理由を気付けたのだろう。
「……ミスター・ウィーズリー、貴方はブラックが未登録の〝動物もどき(アニメーガス)〟であると言いたいのですか?」
「シリウス・ブラック氏だけではなくピーター・ペティグリューもです」
「信じられません──いえ、もしも貴方の仮定が正しかったとしても、ブラックは大量のマグルを殺害しています──っ、まさか、それも…?」
短く首肯すると、マクゴナガル先生がまた──もう何度目かの絶句をする。しかし今度は復活が早く、直ぐに「……訊かせて下さい」という言葉と共に持ち直す。
「どうしてアズカバンの檻の中でどうやってピーター・ペティグリューを見付けたのでしょうか」
「恐らく新聞でしょう。ガリオンくじグランプリを当てた時、〝判る人だけにしか判らないピーター・ペティグリューの特徴〟について話しましたから」
「……状況証拠は十分、話の筋も通っているかと思います。……ですが決定的な証拠がありませんし、ブラックもきっと逃げているでしょう。……それに、この話を聞いた私にどうしてほしいのですか?」
「〝シリウス・ブラック氏の所在〟についての心配は無用です」
俺はそう言いながら〝マント〟に掴む。
「〝どうするべき〟かは〝本人〟に聞くべきでしょう──っ」
一気に〝なんちゃって透明マント〟をひっぺがす。〝マント〟の中に居た人物を見たマクゴナガル先生は頭を抱えた。
SIDE END
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