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提督はBarにいる・外伝

作者:ごません
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美保鎮守府NOW-Side B- PART6

 
前書き
 突如始まった、軍内部のクーデター。元帥の懐刀と目されている金城提督の戦力を潰す為に、ブルネイの地でも一触即発の状態に陥っていたーー…… 

 
 あの日、各所では②

~ブルネイ第一鎮守府~

「重装備の歩兵が……30位、装甲車が6。うわぁ大部隊だねコリャ」

 窓の隙間から暗視スコープを用いて偵察を行っていた江風が、そう独り言を呟いた。しかしその口調には焦りの色はなく、寧ろ事態を面白がっている節が感じ取れた。実際問題彼女は深刻に捉えておらず、門の前で睨み合っている陸軍の隊長らしき髭のオッサンと大和・武蔵の両名が何をやらかすのか、それを傍観して楽しんでいた。なお、某青葉型重巡の一番艦が『大和&武蔵は手を出さずに何分間耐えられるか?』というトトカルチョを秘密裏に開催し、隠しカメラでその様子が鎮守府内の至る所に中継されていたりする。

 そんな事とは露知らず、苛立たしげに顔を赤くしている陸軍の隊長と、その怒気を柳に風と受け流している大和・武蔵。業を煮やした隊長が再びがなる。

「だから、早く門を開けろと言っておろうが!」

「ですから、申し上げている通りです。ここは海軍の拠点であり貴殿方は陸軍。踏み入るにはそれ相応の手順が必要な筈ですが?」

 と、怒鳴る隊長に大和が正論を返せば、

「更に言うならば、お見受けする限り憲兵隊の方々では無いようだな。一体何の権利があってこの鎮守府に踏み入るつもりなのか……ご説明願おうか?」

 と武蔵が追い撃ちをかける。大和と武蔵が述べている言葉は至極全うで、隊長らしき髭はぐぬぬぬと呻き声を上げる。

 本来、陸軍が海軍の敷地内に踏み込むにはそれなりの手続きが必要であり、不躾に踏み込もうという輩は『排除』が許可されている。例外は憲兵隊であり、軍内部の風紀を取り締まる役目を担う彼等には抜き打ちの捜査権が認められている。

「えぇい、いいからどかんか!どうせ貴様らの指揮官は後数時間で更迭されるのだ!」

 その言葉にピクリと反応する大和と武蔵。当然ながら彼女達の会話は執務室に詰めている大淀と加賀にも筒抜けであり、2人にも僅かな動揺をもたらしていた。

「どう思う?」

「事実だと判断するには材料が少ないですね。……武蔵さん、もう少し話を引き出して下さい」

 加賀と大淀は即座に、情報収集が必要だと判断した。





「ほう?興味深い話だ」

「ふふふ、判ったか?貴様らの上官はクーデターを企てているとの嫌疑が掛かっている。最悪、内乱罪の罪で銃殺刑だ……貴様らも道連れになりたくなければ、そこをどけ」

 勝ち誇った顔で髭を撫でる隊長。その顔には権力を傘に着て何とでも出来るという自信が漲っている。


「お断りします」

「……何だと?貴様、話を聞いていたのか!?」

「あぁ、聞いていたさ。先程貴様は『後数時間で更迭される』と言ったな?つまりはまだこの鎮守府の指揮権は金城零二大将に存在する。つまりは貴様が土足で踏み込む権利は無いという事だ」

 その瞬間、愚かな髭親父は自分が墓穴を掘った事を確信した。未だ正式に更迭が発表される前に先走った行動、それこそ自分がクーデター派の人間だと大声で喧伝して歩いているような物だ。その上最悪なのは制圧しなくてはならない鎮守府の艦娘達にそれをバラしてしまった事……その上、彼女達はそれを最大限利用出来る程度には有能だった事だ。

「これは……決まりですね」

「えぇ、そうね。発令してしまいましょう」

 その瞬間、鎮守府内にサイレンが鳴り響いた。

『鎮守府に所属する全艦娘に告げます。提督が害される可能性が高い事案が発生、危機管理マニュアルに則り鎮守府内に第一種戦闘配置を発令します!』

 大淀は全館に放送で流すと、提督に渡されていた緊急連絡先に電話を始める。しかしその顔は徐々に青褪めて来ており、どこに電話しているのやらと加賀は眉を顰めた。

「まぁ、どこに連絡していようが私のする事は変わりませんが」

 そう呟いて自らの傍らに置いてあった長いボストンバッグの包みを解く。中から姿を現したのは1丁の狙撃銃。その名は【SPR Mk12 Mod 0】……ゴルゴ13も愛用するアサルトライフルM16を、狙撃方面に改良した特殊目的ライフル。加賀は弓の陸上での取り回しのしにくさに限界を感じ、狙撃の腕を磨いていた。その腕は鎮守府でも一、二を争い提督ですら驚く程だった。そこに目を付けたのが悪ノリ大好き明石工房。提督が色々と手を回して手に入れていた銃器の中から1丁をくすねて、魔改造を施したのだ。それをこっそりと加賀に譲渡していた。

「さて、鎮守府を護る為です。手を出すならば死んでもらいましょう」

 手早くSPRを組み立てると、加賀は窓際に張り付いた。窓を僅かに開け、銃口を屋外に出す。胸の谷間に挟んで隠しておいた『お守り』を取り出して1本くわえて火を点ける。ふわり、と漂ってきた提督と同じ銘柄の煙草の香りが彼女の集中力を高めていく。じりじりとヒリつくような焦りを感じつつも、加賀は不動。動くのは相手が動いてから……あくまでも正当防衛であると主張し、こちらの被る不利益を最小限にする為だ。撃たなくて済むかもしれない。しかし、撃てる準備をしないのは許されない。いや、自分でそれを赦さない。それが提督から代行としての責を預かった覚悟だった。




 その頃、鎮守府の正門前では未だに舌戦が繰り広げられていた。

「えぇい!貴様らもクーデターを企てた反乱分子だと捕らえられたいのか!?そこを退かんと実力行使に移るぞ!」

 大和と武蔵に墓穴を掘らされまくった髭親父は、顔を真っ赤にして怒鳴り散らしている。正にクーデターの真っ最中の人間がクーデターを企てている(という言い掛かりをつけた)者を捕らえる、などと笑えない冗談だが現実は小説より奇なりという事か。

「へぇ、面白い冗談ですね」

「全くだ。貴様、軍人など辞めてコメディアンにでもなったらどうだ?そっちの方が余程才能があるぞ」

 そんな脅しなど鼻にも掛けず、嘲笑ってみせる大和と武蔵。寧ろ挑発して苛立たせようとしている。髭親父の堪忍袋の緒が切れようとしたその時、ドゴン!と地面を叩く音が響いた。音の発生源は武蔵。その手にはコンクリートの破砕等に使われるスレッジハンマーが握られている。

 スレッジハンマー。1m程の長い柄と重い金属製の鎚頭を備えた作業用工具。その用途はコンクリートの破砕や線路の枕木にレールを固定する為の犬釘を打ち込む為など、強力なインパクトを求められる場面に用いられる。しかも明石の手によって製造された鎚頭は30kg。通常の鎚頭はせいぜい10kg程度なのだが、その3倍の重さ。それを武蔵は軽々と振り回し、人の頭に直撃などしたら文字通り破砕してしまうだろう。実際、叩き付けた地面のコンクリートは砕かれて小さなクレーターのような物が出来上がっている。

「実力行使?一向に構わんぞ、私は。ただし、敵対するなら私は全力でお前らをブッ叩くがな」

 叩き潰される。比喩表現ではなく、武蔵に対峙した陸軍兵全てがそう思った事だろう。それこそハエ叩きで叩き潰されるハエのような悲惨な未来が待っている。

「待って下さい!」

 そんな緊張の糸が張り詰めた状況に、凛とした声が割って入った。

「貴様……何者だ?」

「この鎮守府の総務を任されております、大淀と申します。こちらの非礼は詫びます、どうかご容赦を」

 大淀は深々と頭を下げる。

「貴様が頭を下げたところで、今更我々が引き下がれる訳が無かろうが!」

 髭親父は咄嗟に腰に提げた拳銃を抜くが、何処からか飛んできた銃弾に拳銃を射抜かれて取り落としてしまう。その音に合わせて、大淀が武蔵の頬を張った。

「武蔵さん!貴女の軽率な行動で鎮守府の皆が危険に曝されているんです!大人しく引き下がってください」

「ちっ……仕方ない。退くぞ大和」

 不満げな顔で引き下がる大和と武蔵を見送った後、大淀は再び髭親父に頭を下げた。

「私共の応対がなっておりませんでした。しかし、ここは私に免じて一度退いて、夜が明けましたらもう一度来訪して頂けないでしょうか?」

「そっ、そうだな。こちらも然るべき手順を無視した越権行為であった。一旦退いて体勢を整えてから来るとしよう」

 あれだけ断固として退く事をしなかった陸軍が嘘のように退いていった。

「奴ら、帰ったか?」

「えぇ、バッチリですよ武蔵さん。名演技でした」

 そう。先程の武蔵へのビンタも予定調和。陸軍を退かせる為に一芝居打ったのだ。





 最初に怒らせるだけ怒らせて、武蔵が相手に恐怖を植え付ける。そこに大淀が颯爽と現れてビンタ。格上であると思わせる。そんな相手が下手に出てくれば、悪い気がする者はいない。相手をいい気分にさせて、こちらの要望を通す。陸軍は大淀の手玉に取られてしまったのだ。

「ああいうプライドの高そうなタイプは、おだてて下手に出れば調子に乗ってくれますからね。チョロいもんですよ」

 と鼻で笑っていたが、その話を聞いた他の艦娘は

『流石は腹黒眼鏡……』

 と大淀の恐ろしさを改めて感じていた。

 
 
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