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真田十勇士

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巻ノ八十五 猿飛大介その二

「ここで終わるつもりはありませぬな」
「そう思われるか」
「違いまするか」
「佐助の祖父殿となれば我等の祖父殿と同じ」
「では」
「備えておりまする」
 こう言ったのだった。
「それがしも」
「目は死んでおりませぬ、そして穏やかでもありませぬ」
「そうした目ですか」
「今の真田様のお目は、そして」
 自分の孫も十勇士の他の者の目も見て言った。
「孫も他の方々も」
「時が来ればです」
「そうですな、ではです」
「ではとは」
「それがしがここに来た介がありました」
 大介は笑ってだ、幸村にこうも言ったのだった。
「何よりです」
「といいますとまさか」
「いや、それがしも歳ですから」
 大介は笑って幸村に言った。
「何時あの世にかわかりませぬ」
「それ故に」
「それがしの術の全てをです」
「我等にですか」
「お伝えしたいと思いまして」 
 そう思ってというのだ。
「こちらに参りました」
「そうでしたか」
「宜しいでしょうか」
 大介は幸村にあらためて問うた。
「その様にして」
「祖父殿がそう言われるなら」
 幸村は大介の気持ちを汲み取って答えた。
「それでは」
「わかり申した、ではこれよりです」
「祖父殿の忍術の全てを」
「殿と佐助、そして他の義兄弟の方々にも」
 十一人全員にというのだ。
「そうさせて頂きます」
「では頼む」
「今より」
 こうしてだ、幸村と十勇士達は大介の忍術を教わることになった。彼等は屋敷の外に出て森や険しい山それに川においてだ。
 忍術の鍛錬に励んだ、大介は高齢を感じさせない猿の様な動きで休みなく動く。そのうえで孫に対して言った。
「ふむ、あの時よりも遥かにな」
「腕をあげておるか」
「見事じゃ、流石我が孫じゃ」
「ははは、褒めてくれるか」
「うむ、しかしじゃ」
 ここだ、大介は。
 木の葉に念を入れて手裏剣にして投げた、そしてその手裏剣をかわした猿飛に対して今度はこう言った。
「かわす間が遅い」
「今でか」
「そうじゃ、一瞬だがじゃ」
 それでもというのだ。
「遅いわ」
「その一瞬がか」
「問題じゃな」
「一瞬といえど時は長い」
「その一瞬をじゃ」
「速くせよというのじゃな」
「うむ」
 その通りとだ、大介は孫に言った。二人で山の中を凄まじい速さで駆けながら。 
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