天上都市《イグドラシル・シティ》の一角。
割合こじんまりとした安価物件の家々が立ち並ぶ中の一軒。難しい漢字を書いた看板がブラ下がっている、見た事もないその家のポストに『見覚えのない手紙』を投函した
闇妖精の少女は、首を捻る。
―――あン?何だってこんなモンをこのクソ忙しい時に……?
自分のしたことに自分で訝しむインプの少女だったが、やがてその出口のない思考を打ち切る。なんか耳元で
ハンドベルの音色がうるさく鳴っていて、とてもではないが思案を深めていられなかったのだ。
それに、急いでいるのに変わりはない。
インプの少女――――否、
十存在の一人、《
非在存在》は焦っていた。
超越存在にトドメを刺され、リメインライトとしての待機時間さえも惜しんだ少女は、強制ログアウトを強行した。これで向こう――――ロベリアの身体は、待機時間を経てアバターのみがフリーリアのセーブポイントに送られたことになるが、そっちの方はもう考えない。
―――ヤツらはオレ様に確認をしに来た。つまり連中も、オレ様の全アカウントをきちんと把握している確信はない!!
こうなってくると、確認のためか、リストを自分に突き付けてきたのは明らかな悪手だ。あれで少女は、いまだ発見されていないインプのアカウントでダイブできたのだ。
現実と時間がズレているALO。あれだけ深かった夜の闇もそろそろお開きの気配を醸し出す中、街道の人込みの中を競歩のように歩く少女は思う。
―――とにかく、ほぼ総バレした以上、イグシティに隠してある本アカの財産をこのアカウント名義で借りた別倉庫に移し替えなきゃいけねぇぞオイ……!
もともと、少女が非在存在たりえたのは、ひとえに本命のアカウントである
鍛冶妖精の恩恵ゆえだろう。高補正のレプラコーンの鍛冶スキルの下、
古代武具級の武器防具を量産できなければ、とてもではないが現在の体勢は構築できなかった。
もっとも、その手段だとて数々のバグや裏技を駆使しなければならなかったので、あまり胸を張れた戦果ではないが。
―――クソッ!クソクソクソッッ!!!どうする!?最優先……いや、一番近いのはどこの《ロッカー》だ!?思い出せ!ックソ!!
焦燥にかられた者特有の、追い詰められた者特有の、気持ちだけ急いて現状把握が上手くいかない状態になりながら、それでも少女は足を止めない。
あてなどない。
ただ、ジッとしていれば《追いつかれる》気分になったからだ。
底知れない不安が顔を覗かせる。
底の見えない堕落が口を開く。
それらが今にも襟元を掴み、頭からバリボリと喰い潰されるような、そんな予感のような直感。
怖い、と。
少女は思った。
非在存在と呼称され、噂話のような実体のない生ける伝説である少女はギュッとレア装備の胸元を掴む。
ヴォルティスではない。そんな小さな存在ではない。
もっと大きな、彼の口から告げられた一言。それが毒のように全身を回り、少女の思考を蝕む。
その一言から連想されることを本当の意味で理解したら、自分は終わるだろう、と少女はぼんやりと、それこそ直感にも満たない、ただの勘のようなモノで薄ぼんやりと感じていた。
だから、かもしれない。
極大の悪意に触れた
少女が泣きそうな顔で大通りを横切っていると、横合いからのんびりと間延びした声が聞こえてきた。
「あれぇ~、リアちゃん~」
はっと声のした方向を向くと、見慣れたトウモロコシ色の長髪が見えた。ウェーブがかったというよりは、寝グセをそのまま放って置いたという風な金髪の間から生える三角耳を揺らしながら、こちらへ近づいてきた女性アバターの名を、少女はそっと呟いた。
「フィー……」
狼騎士隊新人組、周囲からは凸凹コンビなどと(不本意ながら)呼称されていたでっかい方。
ネモフィラが、そこにはいた。
ケットシー領、フェンリル隊では新人は協調性の確立だとかコミュニケーション訓練だとか、新社会人みたいな理由で二人組を組まされる。
その際、各組のバランスを均等にするよう、入隊した時の成績を基に組まされるのだが、成績最上位のロベリアに対し、その時の最下位者がネモフィラだった。
どんくさい奴、というのが嘘偽りない第一印象だ。
いや、そもそも初めて会った時、そんな感情を抱いたのかは謎だ。なぜなら、あの時の自分はネモフィラの事を、ケットシー内部まで食い込むための足掛かりというか、まるっきり踏み台としてしか見ていなかったのだから。
だから、だろうか。ネモフィラに対する自分の態度は、どこまでも希薄だった。
付かず離れず、どころではない。コンビとして組まされたのはいいが、話をするのは訓練課程と上司の前でだけ。
影妖精領主とは違い、自分は才能の有無というものについては達観している。
持ってるヤツはいるものだ。
だがそれでも、ここまで持ってないヤツも珍しい、とは思った記憶がある。それくらい、素質というものが匂ってこなかった。
迫力、というか……いや、これは本人が天然なのが問題なのだろうか。
とにかく、さっさと彼女を見捨てて上への階段を登ろうとしている自分に対し、ネモフィラはそんな態度の相棒にいつまでも笑顔を向けていた。
そのしまりのない笑顔に苛立ちを覚え、ぶつけた時にも、やっぱり彼女は笑っていた。
その笑顔につられ、自分も笑うようになったのは、いつからだっけ。
「フィー……」
「リアちゃ~ん。おはよーですぅ?あ、でも
ALOじゃあそろそろ朝だけどぉ、
現実じゃ夜だからこんばんわぁ?」
ふわふわした笑顔を浮かべる相棒に、数瞬呆けていた少女はさっと顔色を変えて辺りを見回した。
あの《戦神》が自分を追っているということは、『ロベリア』が所属していたケットシーにも事情を話しているかもしれない。
素早く首を巡らせるインプの少女に対し、しかしネモフィラはきょとんと首を傾げるだけだ。
そんな彼女の様子を見、少女はゆっくりと肩の力を抜く。
―――そうよね。フィーがそんな腹芸できる訳ないわよね。
はぁ、と重い呼気を吐き出す少女は、だが次の瞬間。
「…………あれ?」
―――『リアちゃん』?
ちょっと待て。先ほどから、眼前の女性は何を言っている?
「ねぇ、フィー……」
「はい~?」
「あんた、何で、オレがロベリアだって……気付いたんだ?」
ケットシーのフェンリル隊の新人『ロベリア』は、スプリガン領直近の森の中で
超越存在に殺された。今頃は正式なログアウト処理が施されていることだろう。
そして、今。
少女は、インプ族としてログインしている。彼女をロベリアと断じられるのは、戦神サイドしかありえない。
ぞわり、と。足元から得体の知れないナニカが這いずり寄ってくる。
―――まさか、フィーが、ネモフィラが……?
ぎちりと身体を強張らせる少女に、しかしふわふわ系ド天然のケットシーは(彼女にしては珍しく)本気で眉をひそめながら、首の角度を傾いだ。
「えぇ~?リアちゃんはリアちゃんですよぉ~。違うんですかぁ~?」
「…………………はぁ~、そーだなそーよねそーだったよね。テメェはいつでもそんな調子だったよな」
「??」
いつだって独特のペースを纏っている不思議ちゃんに、ケットシーだった頃とは違い、黒になった髪をぐしゃっと掻き回した。
結論、こんなUMAに陰謀論を持ち込む方がどうかしている。
そーいえばきいてくださいよさがしていたおんなのこがきがついたらどっかいっててー、と何やらあっちはあっちで色んなことがあったのか、おっとりとしながらまくし立てるという器用なことをするネモフィラの鼻先に人差し指を突き付ける。
「じゃーとっととお仲間のトコに尻尾振りに行きなさいよ!タスケテーっつって、お涙頂戴の負け台詞吐きに行きなさいよ!」
口をついて出るのは、暴言。
常ならない刺々しい口調に面食らう相棒の顔を見て、少女は自分がいかに惨めで愚かしい真似をしているかが分かったが、それで止められるほど人間の感情というのは薄っぺらにできていない。
圧倒的で理不尽な力で押し潰された後だ。胸の内に溜まったドス黒い膿のようなドロドロしたモノが、水風船の口を切ったように、一気呵成に吐き出される。
行き交う妖精達の視線を集めるほどの勢いで吐き出されたそれは、ただの八つ当たりだった。
ただの――――愚痴だった。
「クソッ!クソクソクソッッ!クソッタレ!!!何でだよ!?何でこうなっちまうんだ!!どこでボタンを掛け違えた!!!ああそうさ、確かに九種族間の関係を悪化させたよ!情報を操作して、仲間割れさせて、疑心暗鬼にさせてッ!何だってやった!!全部!全部全部全部!種族間の緊張を高めるためにやってた!!PKが悪い!?ああそうだな、確かにそーだ!誰だって自分とおんなじ形をしたモノを傷つけるなんてしたくないし、後味悪いよ!!気色悪いよ!!けど、けどよォ――――ッッ!!!」
そして、少女は核心を言う。
それをこんな負け惜しみのような形で言う事そのものに、どうしようもない敗北感を覚えながら。
「
ここは、
そーいうゲームだろう!!?」
そう。
確かに、プレイヤーキルなんて嫌だ。その気持ちは大いに分かる。
何たって街などにいるNPCとは違って、自分と同じ人間が操作しているプレイヤーを傷つけるのだ。倫理以前に、生理的な嫌悪感が湧く人はいるだろう。
『戦争は悪いことで、人殺しはいけないことです』
小学校の道徳の授業でも習う、基本的な命題だ。
だが、そんな崇高なテーマでも、時と場所はやはりあるものだ。
仮に、この言葉をプラカードに書いた反戦団体だかが、ホワイトハウスに乗り込んだとしても、それは別段特筆するべきではない。シークレットサービスのスキャンダルにはなるだろうが。
だが仮に、タワーディフェンス系のゲームをやっている人の肩を叩いて、「戦争はいけないことだよ」と説き伏せることはどうだろうか。
だが仮に、FPSでマシンガンをバリバリ撃っている人に向かって、「人を殺しちゃダメだろう」と言うのは、どれほどのことだろうか。
だが仮に、RPGで敵モンスターを殺してレベリングをしている人に、「動物をそんなに無碍にして心は痛まないのか」と言って、いい顔をされるだろうか。
ALOが、妖精というファンシーな世界観に対して妙にピリピリした空気を常に纏っていたのは、このゲームがいわゆるレベルというものを排除し、スキル値に重きを置いているハードなタイプだったのが一因だが、無論それだけではない。
ALOでのPKは、運営体によって推奨されていたのだ。
スキル値を上げるためには、そのスキルないし魔法を反復使用する必要があるが、それにはプレイヤー自身の
技術が問われる。だが、学習アルゴリズムに従ってアップデート毎に強くなっていくMobより、簡単にテンパったり随意飛行をマスターしてなかったりする他種族プレイヤーを襲った方が、総合的に見れば得だった。
だからPKはなくならないし、九種族は互いに敵対関係だった……はずだった。
そのはずだった。
「《
終焉存在》……ッ!アイツだよ!アイツが全ての元凶なんだッ!!野郎がフェンリル隊を立ち上げたり、グランド・クエストなんてモン達成しなけりゃ、こんな腐った平和は訪れなかった!!!」
例えば。
とある少年が、世界樹を攻略しなかったら。
運営体は変わらず、ケットシーはふぬけたまま、シルフ・ケットシーの同盟も成り立たず、サラマンダーはそのままのさばっていたことだろう。
とある少年から、樹形図のように連鎖していく歪み。
とある少年が、いたからこそ生まれた副作用。
「ロベリア、ちゃん……」
困惑するネモフィラの声を振り切るように、インプの少女は両手で顔を覆った。
「それでも……それでもだ!まだ、サラマンダーは昔のままだと思っていた!ストイックでヒリヒリした、あの時代のままでいてくれていると!!それが何だァ!?ケットシーの負債を肩代わりするゥ!?あんなに敵対関係にあったのに!?……ッふ、ざっけんじゃねェよ!!それが何を意味するのか分かってんのか!?他ならない、お前らサラマンダーがやることに!!」
旧時代(とは死んでも認めたくないが)の空気を唯一引き継いでいるサラマンダー勢が、自らその役割を放棄する。
それは、完全なる決別だ。
もう二度と、あの戦乱の時代には戻らない。
気持ちの悪いぬるま湯の平和に足首を浸からせて、上辺だけの仲良しごっこを謳歌する、と。
言外に、そして決定的に、そう言われたようで、少女は奥歯を砕かんばかりに噛みしめる。
―――あれ?
「勝手に決めるんじゃねェよクソ野郎どもが!ここは、そういう
世界じゃないだろう!皆が皆、互いに争いながら削り合うように高め合う!そんなゲームだったろうがッッッ!!」
血反吐を吐くように、少女は叫んだ。
いつの間にこうなった。いつの間にそうなった。
苛立つ感情を置き去りに、世界は確実に組み替えられていく。
大好きだった世界が。
大好きだったゲームが。
壊されていく。そう感じた。
「原因は!要因は!きっかけは明白だッ!!あァそーだ、《
生還者》達だよ!!あいつらが、自分達の勝手な《常識》を持ち込む!さもそれが当たり前なように、毒を撒き散らす!!何でだ!それが正常だったのは、あの掃き溜めみてェな城だけだろうがッ!!」
石畳の上に、点々と黒い染みができる。
それが零れ落ちた真珠のような涙の跡だと気付くのに、しばらくかかった。
―――ッあれ?
「今じゃ
十存在の半数は――――ッくそっ!これは……違っ、ぅぐ……!」
ALOの感情表現システムは大袈裟だ。
脳内パルスの波線から感情を読み取るシステムを前に、涙を隠すことはできない。
インプ特有の白磁のような頬を滂沱と伝う涙を、少女は慌てたように何度も拭った。拭っても拭っても、涙は止まらなかった。
嗚咽を殺す少女の震える肩に、ネモフィラは静かに手を置く。
泣きじゃくるインプの少女に向かって、彼女は相も変わらずほわほわとした調子でこう言った。
「リアちゃんって、オレオレ口調だったんですねぇ~」
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「はぃ?」
――シリアス展開 は ふわふわ系天然には 効果がないようだ!!▼ ――
思わず昔懐かしいレトロゲームのテロップが脳裏に浮かぶほど、完全に思考が停止した少女をほったらかして、不思議ちゃんのケットシーはきゃっきゃうふふな言葉を続ける。
「あはは~。初めて見ましたぁ、一人称が『オレ』の女のひと~。いるんですねぇ世の中にはぁ」
「ちょっ、ちょちょ!オイ待てこの頭のネジゆるゆる系のUMAモドキ!自分の会話ペースに他人を巻き込むな!!ババァか!!」
「むっ、そーいえばリアちゃん。こないだ秋田のおばーちゃん家から干し柿が届きましてね~……」
「繋げさせねーよ!!?ナニ人のこっぱずかしい絶叫全部流そうとしてんだよ!?」
「え~、だってぇ――――」
そうやって、彼女は柔らかく微笑んで少女の手を取った。
――――否、《少女》ではない。
《ロベリア》の、手を取った。
「リアちゃんは、置いてけぼりにされたと思ったんですよねぇ~」
「…………ぁ?」
「おんなじ思いでゲームをしていた皆が離れてく。
運営が変わって、人が変わって、それでも変わらないと信じていたモノが、変わっていって……どうしていいか分からなくなった。違いますかぁ?」
「……知ったような口をきくなァ、
新米が」
軋るような声で、ロベリアは言った。
湿った声だった。
「オレがどォいう存在か把握してんのか?
非在存在だ、黒幕だ、悪だ!!そんな感傷的な理由で、オレを定義するんじゃねぇ!!オレの目的はただ一つ!このアルヴヘイムに住む妖精全部を仲違いさせることなんだよォ!!」
「そうして、自分が信じてたあの世界に戻したかった」
「……っ」
ふんわりとした長髪を揺らめかせながら、ネモフィラは鈴の転がるような音で笑った。
「辛かったね。苦しかったね。ありがとうね、このゲームを面白くさせようとしてくれて」
「…………ッ!」
そして。
ケットシーの少女は。
「頑張ったね」
「――――ッッ!!」
―――やめろ。
ロベリアはうずくまり、子供がイヤイヤをするように耳を覆う。
それは、その言葉だけは、今はかけるな。
歯を食い縛り、必死で胸の奥底で燃える昏い熾火を燃やそうとする。憎しみを、悔しさを、絶対に忘れないように。
ヴォルティスに邪魔されたが、完全な
詰みではない。時間はかかるが、再びサブアカウントを育て、またこの世界に狂乱と混乱を撒き散らしてやる。
脂汗を垂らしながら、余裕のない嗤いを顔に張り付けるロベリア。
だが。
「頑張ったよ、ロベリアちゃんはもう、じゅ~~ぶんに……頑張った」
縛った心が、ほどける。
盛る炎が、消えていく。
「やめッ……やめて!ぜんぶ、終わったことに――――!!」
「認めるよ」
ガチン、と。
ロベリアの身体が縫いとめられる。
戦神の白濁した《正義》ではない。真っ白でまっさらで、そしてちっぽけなただの《善意》によって、インプの少女の動きは完全に停止していた。
「他の誰が認めなくてもいい。蔑まれたって構わない。世界の全てがロベリアちゃんに背を向けても、私だけは手を取るよ」
ふわふわと、日向のような笑み。
その笑顔に救われてきた少女は、今日もまた――――救われた。
「だって、それが友達でしょ~?」
限界だった。
都市伝説にして噂の結晶体。
十存在の一角に名を連ねる、姿なき《
非在存在》ではない。
すくい上げられた手にすがるように、《ロベリア》は膝をついた。石畳の上にうずくまって、子供のように大声で泣いた。
次々に地面に零れ、弾ける涙の粒が、昇り始めた朝日の陽光に照らされ、混じり合い、溶けあうように消えていった。
二人の少女のその様子を見ていた、【神聖爵連盟】メンバーの一人、茶髪の少女、ストルは路地裏に体重を預けながら肩をすくめた。
《
非在存在》の少女は、自身のアカウントが全て把握されていないと思っていたようだが、実はその判断は微妙に間違っていた。
ただしくは、確信だけがなかっただけだ。それによって、卿は博打を打った。突き付けたリストにわざと穴を開け、そのアバターが最後に確認された地点に人員を配置する、待ち伏せの形だ。
その場に現れなかったら、更なるサブアカウントがある可能性があり、そこから捜査の手を広げなければならないが、何のことはない。あの少女は始終、閣下の手のひらの上だったのだ。
―――でも。
ストルは路地の角から顔だけ覗かせ、大通りのド真ん中で泣きじゃくっているインプの少女と、それをあやすように胸に抱くケットシーの少女を見た。
「……あー、まいったなぁ。こーゆーのズルくない?」
たはっ、と軽い調子で微笑みを漏らす少女は、そのままの流れでメールウインドウを出した。
彼女は少し考え、宙空に浮くホロキーボードを叩く。
そこには、こう書かれていた。
『このままじゃ、私達が《悪》ですよ』
メールを送った少女は、う~んと大きく伸びをする。
返答は気にしない。そんなもの、見るまでもなく分かっているのだから。
ストルは天空に手のひらを仰ぎ、その華奢な指の隙間から零れてくる朝陽に目を細めた。
許すという事は、強さの証である
――――マハトマ・ガンディー