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Fate/ExtraOrder タケル英雄伝

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プロローグ

 何か、生暖かいモノが頬を滑る。ちろちろと、まるで犬か猫に舐められている様だ。
 そんな感触に、目を開ける。ぼやける視界の中で、少女の姿を視界が捉えた。どうやら、何処かに寝ているらしい。冷たい床の感触が返ってくる。

「……?」

 眼鏡をかけたその少女と、目線が合った。少女は何度かまばたきをし、首を傾げる。

「うわぁ!?」

 思わず、反射的に飛び退く。少女も驚き、僅かにたたらを踏んだ。

「……君は、誰?」

 名前を尋ねる。すると少女は顎に手をやり、それからぼそりと呟いた。

「名乗る程の者では、ありません」
「え?」
「いえ、名前はあるのですが、あまり名乗る機会がなかった為にこう、印象的な自己紹介が思いつかなくて」

 ? と先程の少女の様に首を傾げる。ずきり、と今度は頭痛が走り、顔をしかめる。

「ここは、一体……」
「それなら分かります。ここは、人類の未来をより長く、より強く存在させる為の観測所。人理継続保障機関『カルデア』です」

 少女は窓の外に目をやり、そう返した。聞き慣れない単語に眉を潜め、立ち上がる。頭痛はすぐに収まり、手足も言う事を聞く。
 少女の目線を追う様に窓の外を見ると、真っ白な銀世界があった。屋内からは聞こえないが、きっと外ではびゅうびゅうと風の音が止む事なく続いているに違いない。
 だが、それよりも……。

「ここは、何処なんだ?」
「ですから『カルデア』です」
「いや、だから、俺は……」

 歯切れの悪い口調に少女は何が何やら、と言う様に戸惑いの表情を浮かべる。

「貴方は、マスター適性者ではないのですか?」
「……ごめん、何の事だかさっぱり分からないや」
「……貴方は、何者ですか?」

 少女の問いに、彼は名乗る。

「俺はタケル、天空寺タケル」


 がしゃん、と自動販売機が音を発し、ミネラルウォーターを落とす。それを引っ張りだし、タケルは近くのベンチに腰を下ろすと、一気にラッパ飲みした。

「ふぅ……」
「落ち着きましたか?」
「うん、ありがとう」

 タケルは苦笑いしながら、ミネラルウォーターのラベルを見つめる。何処にでもあるラベルなのだろうが、現状では、このペットボトルさえも困惑の対象だ。
 白塗りの壁、白塗りの廊下、さながら病院の様なこの建物を歩く中でタケルはもう一度こんな場所があるなんて聞いた事がない、と再認識する。窓の外の景色も見慣れない。そもそも、カルデアなんて聞いた事がないのだ。
 そんなタケルは少女の説明で更に戸惑う事になった。
 サーヴァント、『従者』という意味を持つこの単語の意味を説明され、タケルは眉を潜めた。簡単に説明するのならば、サーヴァントとは過去の英雄達の事だと言うのだ。それから少女の言った事はちんぷんかんぷんで、理解する事は難しかったが、それだけは分かった。
 そしてカルデアには、そのサーヴァントを使役する事の出来る適性を持つ人間達が集まってきているのだと言う。
 だが、とタケルはそこで自分について考える。

「ではその、貴方は気付いたらあの場所に倒れていた、と言うんですね?」
「うん。それに、君の言うマスター適性者って奴じゃないと思う。俺は、ただの人間だから。それと、レイシフトって何なの?」
「そうですね、では最初から説明します。まず、カルデアについてはもう分かりますね?」

 勿論、とタケルは頷く。

「人類をより長く、より強く存続させる為に、魔術と科学を問わず研究者達が集った研究所にして観測所、だよね。その、魔術って言うのがイマイチ分からないけど」
「その通りです。そしてその研究の最たるモノが地球環境モデル『カルデアス』の開発です」

 またよく分からない単語が出てきたな……とタケルは眉を潜めながらも、少女の言葉を聞き漏らすまいと耳を傾ける。今、自分が置かれている状況を説明できるのは彼女だけなのだ。
 
「『カルデアス』って言うのは?」
「星に魂があると定義し、その魂を複写して作られた極小大の地球です。『カルデアス』に文明の光が灯っている限り、人類史は百年先の未来まで予想されています」
「つまり、人間のこれからを知る事が出来るんだ」
「はい。ですが突如、光が消滅し始めたんです。光が無くなるという事は……」
「未来、文明が途絶えたって事?」
「そういう事です。観測の結果、人類は二〇一六年十二月をもって絶滅する事が分かったのです」
「え!? えっと、聞いておくけど、まだ十二月じゃないよね?」
「勿論です。そうであったら、私達はもうこの場にはいません」
「そ、そっか。そうだよね、ごめん」

 思わぬ言葉に慌ててしまい、タケルは恥ずかしくて少女に話の続きを促す。

「情報を洗い出した結果、遂に新たな異変を観測しました。それが空間特異点『F』。西暦二〇〇四年、日本の地方都市に二〇一六年までの歴史には存在しなかった、観測できない領域が発見されたのです」
「観測できない、領域?」
「カルデアはこれを人類絶滅の原因と仮定し、レイシフト実験を国連に提案、承認されました」

 レイシフト、その単語がタケルの一番分からない言葉だ。その事について尋ねたかったが、少女の方から説明してくれるだろうと思い、口をつぐむ。

「レイシフトとは、人間を量子化させて過去に送り込み、事象に介入する行為、つまりタイムスリップの様なモノですね。これによって過去に転移し、未来消失の原因を究明、破壊する。と言うのが、今回『カルデア』が行おうとしている、レイシフトの概要です」
「凄いな……まるでSF映画、『バックトゥ・ザ・フューチャー』みたいだ。タイムスリップが、実現したんだ」

 うーん、とタケルが腕を組んで考えていると、突然少女の顔に白い綿毛の様なモノが飛びついた。うわ、とタケルは驚きながらも、綿毛が生き物である事を知った。
 小さな、犬とも、リスとも言えない不思議な生き物だ。ただとてもきめ細やかな体毛が生えていて、触ったら気持ちが良いであろう事は理解出来る。

「だ、大丈夫?」
「こちらのリスっぽい方はフォウさん。カルデアを自由に散歩する、特権動物です」

 少女の言葉に応じる様に、フォウ、という鳴き声があがった。もしかしたら、鳴き声から少女が取った名前なのかもしれない。
 と、少女の肩を踏み台にしてフォウはタケルの腕へと飛び乗り、そこから床に降りるとそのまま廊下を走っていく。

「あの様に、特に法則性もなく散歩しています」

 広い廊下を小さな鶏ほどの大きさのフォウは歩いて行く。見た事もない存在にタケルは、

「不思議な生き物だね……」

 と呟くのが精一杯だった。
 
「私以外にはあまり近寄らないんですが、貴方は気に入られた様ですね」
「へぇ……って、気に入られた?」
「おめでとうございます。貴方がカルデアで二人目のフォウさんのお世話係の誕生です」
「あ、ありがとうって言った方が良いのかな……」

 得体の知れない生き物に気に入られる、と言うのも何だか複雑でタケルは苦笑いするのが精一杯だった。
 と、そこでタケルはふと自分の目の前にいるこの少女の名前をまだ知らない事に気付き、手を差し伸べる。差し伸べられた手を、少女は不思議そうに見つめている。
 
「改めて、俺は天空寺タケル。どうしてマスター適性者じゃない俺がここにいるのかさっぱり分からないけど、よろしく。気軽にタケルって呼んで」

 タケルが笑顔を浮かべると、少女も微笑み、手を握り返す。肌を通じて伝わる温もりに、タケルは自然と頷いていた。

「それで、君の名前は? さっきみたいに、名乗る程の者じゃない、なんて言わないよね?」
「え、私の名前、ですか?」
「俺も自己紹介したから、今度は君の番じゃないかな」
「私の名前は……」
「マシュ、マシュ・キリエライト。そこにいたのか」

 うん? と少女の名前を呼ぶ声にタケルはその声の主を探す。廊下を緑のスーツを着た男性が歩いてくるところだった。穏やかな微笑を浮かべるその男性にタケルが誰だろうか、と考えていると、

「レフ教授」

 男性の名前をマシュ・キリエライトが呼んだ。

「そろそろ、マスター適性者のブリーフィングが始まる。急いで管制室に」

 レフと呼ばれた男性はこちらへ近付いてくると共に、タケルの姿を認め、眉を潜める。

「君は……」

 レフが手首に付けている腕をあげ、タケルへ向けて何やら操作する。途端、腕輪から光が放たれ、小さな画面が空中に浮かび上がる。未知の技術にタケルは言葉を失ってしまった。

「? 君、名前は?」
「天空寺タケルと言います。その、気付いたらここにいて……」
「どういう事だね?」
「レフ教授、実はタケルさんは……」

 マシュがレフへとタケルを発見した経緯を伝えると、レフは目に見て動揺する。それだけ、このカルデアがどれだけ堅牢な場所であるかを物語っていた。

「ふむ。シュミレーションを受けた訳でもない、と。そして君は、カルデアの事も、サーヴァントの事も、レイシフトの事もマシュ君に説明されるまで聞いた事がなかった?」
「はい……と言うより、もっと根本的な問題があって……えっと」
「私はレフ・ライノール。ここの技師の一人さ」
「実は、ここは俺の知ってる世界と少し違うみたいなんです」

 タケルは思った事を口にした。そもそも、カルデアという建造物があるなんて聞いた事がない。秘匿されているという事もない。マシュ曰く、国連に話が通るほどなのだ。つまり、世界の首脳達に顔が利く存在という事になる。そんな事を、幾らなんでも知らない訳がない。

「違うとは?」
「俺の知ってる世界は、魔術なんていうモノはありませんし、そもそもカルデアなんて言う言葉も聞いた事がないです」
「……つまり、君はその、あり得ないが、別の世界から来た、と?」
「もしかしたら、そうかもしれないです。漫画や小説みたいですけど」
 
 聞き慣れない言葉、見慣れない光景、そして危機。タケルの住む世界と違う、としか言えない。

「矢継ぎ早ですみません。けど、そうでなきゃおかしいんです」

 マシュとレフは顔を見合わせる。信じてもらえるだろうか、とタケルが不安になる中、レフは微笑みを浮かべた。

「分かった。現時点ではどうにも言えないが、信じよう。それに、君からは切羽詰まったモノを感じる」
「ありがとうございます。それで、何ですけど、一つ聞きたい事があるんです」
「何かね?」
「俺も、そのレイシフトに参加させてもらっても良いですか?」

 無茶な話である事は分かっている。けれど、世界の危機なんていう言葉を耳にしてしまった異常、タケルは何か自分に出来る事を見つけたかった。別世界であっても、自分に出来る事はあるはずだ、と。

「一応、適性のあるマスターは四八人と決められた。だがあくまでもそれは適性があると認められた人々で、一応上限はない。もし君にマスターの適性があるならば、レイシフトに参加できるかもしれない」
「本当ですか!」
「ああ、私からも話を通してみるよ。ただ……もうすぐブリーフィングが始まる。遅れたら大変だ。ウチの所長は、結構根に持つタイプだからね」
「え!? そ、そのブリーフィングって何処でやるんですか?」

 話を聞いただけで、所長はどんな恐ろしい人物なのか、という想像をしてしまい、タケルは左右を見回す。当然カルデアの事に詳しくないタケルからしてみれば、建物内はまるで迷路だ。
 マシュが突然タケルの手を掴んだ。

「こっちです」
「え?」
「遅れちゃ大変です。急ぎましょう」
「あ、ありがとう!」


「マシュが自分から人が関わるとはね。マシュ、彼の何処に興味を惹かれたんだい?」

 ブリーフィングが行われる予定の場所に向かうエレベーターの室内でレフが唐突にマシュに声をかける。マシュは少しの間考え込んでから、

「タケルさんは、カルデアにいる人達よりも、何かが違うんです」
「違う?」
「カルデアの人間は、皆一癖も二癖もあるんだが、天空寺君はもっと凄いという事かな?」
「俺は、別にそんな事ないと思うんですけど……」

 と、そこでタケルは言葉を切る。ガラスを挟んで、カルデアの広大な地下空間が目前に広がる。圧巻の景色にタケルはガラスに手を置き、驚愕する事しか出来なかった。
 カルデア、ここで、世界を救う為にレイシフトを行う。そしてもしかしたら自分はその候補者になれるかもしれない。そう思うと、タケルは頑張らなくては、と自然に拳を握っていた。何処であっても、自分のやるべき事はある。ここでも、全力を注がなければ……!


「うわぁっ!?」

 そう思っていたタケルは、思い切り突き飛ばされ、廊下に転がり出た。びっくりして振り返ると、既に部屋の扉は閉じられ、完全に自分が閉め出された事を語っていた。
 ついつい寝てしまった。部屋につくまでは良かったのだが、そこから気が緩んだせいでうとうとしてしまい、あろう事か所長が説明をしている中でタケルは爆睡してしまったのだ。

「もう……なんで俺って……」
「タケルさんは、ファーストミッションから外されてしまったみたいです」
「え!?」
「個室に案内します」

 あまり感情を表に出さないマシュも、少しばかりタケルに呆れている様子だった。恥ずかしさのあまり、タケルは頬を掻く。

「……俺、大失敗しちゃった?」
「はい。所長から目の敵にされると思います」

 マシュと共に廊下を歩く中で、タケルがそう言うと残酷な事実が突きつけられ、思わず溜め息をついてしまう。これではタケルの今後のミッション参加は絶望的かもしれない。
 
「魔術の世界は実力は勿論の事、家柄がものを言います。所長は魔術の名門の出で、血筋に強いこだわりを持っているんです。試験段階のレイシフトを成功させる為には、多くのマスター適性者が必要でした。でも、その候補者も一握りしかおらず……」
「じゃあ、俺はひょっとしたら出来ないかもしれなかったのかな?」
「はい、そういう事になります」
「そっか。どっちみち、俺には出来なかったのかもしれない。残念だけど……」
「カルデアを、降りますか?」

 マシュの問いに、タケルは首を振った。

「ここで俺が出来る事は、きっとあると思う。だからそれが見つかるまで、もう少し頑張ってみるよ」
「そうですか……」

 と、そこでマシュは足を止める。丁度タケルが倒れていた場所だ。マシュは窓の外の吹雪に目をやる。

「ここは、地上よりもとても高いところにあるんです。なのに、青空は見えないんです」
「マシュは、ここにどれくらいいるの?」
「二年ほどです」
「二年!? そんなに!? じゃあ、青空をもう二年間も見ていないんだ……」

 タケルが言うと、マシュはこっくりと頷いた。その眼差しには、青空への憂いが感じられた。
 

「ここが、タケルさんの部屋です。さっきレフ教授が急いで空き部屋を探してくれて」
「ごめんね、レフさんにありがとうって伝えてくれると嬉しいんだけど」
「構いません」
「ありがとう。でも、マシュもレフさんも、よく俺の事を信じてくれたね。普通、別の世界から~なんて誰も嘘だと思って聞いてくれないよ」

 タケルがそう言うと、マシュは首を横に振り、微笑む。

「魔術やタイムスリップがあるんです。別世界だって、あると思いませんか?」
「成程、そういう考えもあるのか……マシュも、ミッションに参加するの?」
「はい。ですから、私はそろそろ行きます」
「そっか……頑張ってね、応援してる」

 タケルが激励の意を込めてぐっとサムズアップすると、マシュは笑顔を返し、手を振ると廊下を足早に去って行った。
 
「良い子だな……」

 このカルデアで初めて会った人間がマシュで良かった、とタケルは微笑み、それから部屋のドアを開き、次の瞬間呆気に取られてしまった。
 急展開、とでも言えば良いだろうか。誰もいないはずの部屋のベッドには、白衣を着た青年が鎮座し、ケーキを頬張っているのだ。

「え、だ、誰ですか?」
「ふぁーい、入ってまーす……って!? 誰だね君は!」

 青年がびしっ! とフォークをタケルへと突きつけた。

「ここは僕専用のサボり場だよ? 誰の許可を得て入ってきたんだね!」
「この部屋が、僕のだって聞いたんですけど」
「え!? だって、マスターは四八人なんじゃあ!? ここに来て、一人追加!?」
「そういう事になります。それで、貴方は?」
「ん? ああ、紹介が遅れたね。僕は、ロマニ・アーキマン。医療部門のトップで、カルデアの皆からはドクターロマンって呼ばれてるよ」
「トップ!? すみません、お休み中に!」

 タケルが頭を下げようとすると、ロマニ・アーキマンはそれを手で制した。

「いやいや、僕はただのお医者さんだよ。そんなにかしこまらなくても良い。でも、もうすぐレイシフトが始まるのに、どうして君はここに? カルデアに来たという事は、マスターなんだろう?」

 タケルが所長とのいざこざを説明すると、ロマニは苦笑いを返し、ケーキを頬張る。

「成程、所長の逆鱗に触れ、ファーストミッションから外された、と。僕と一緒だね」
「え?」
「所長に、『ロマニがいると現場の雰囲気が緩む』と言われて、追い出されてね。だからここで拗ねてたって訳さ」
「そうだったんですか。でも、俺は良い事だと思いますよ」
「本当かい?」
「はい。それって、誰かを和ませる事が出来るって意味ですから、とても良いと思います」
「おお! 僕は君の様な人間を待っていたんだ! 所在ない者同士、仲良くしようじゃないか!」

 そういう共通点というのはどうかと思うが、それでも話せる人物がいるのは嬉しい。タケルは素直に笑顔を返した。

「よろしくお願いします、ロマニさん。あの、聞きたい事があるんですけど、さっきここは地上より上にあると聞いたんですけど……」
「ああ、教えよう。カルデアは……」

 ロマニが口を開こうとしたその時、ロマニの手首に巻き付いているレフが着けていたモノと同じ腕輪が音を鳴らした。
 聞こえてきたのはレフの声だ。どうやら、通話機能を持っているらしい。

「うん? レフ、どうしたんだい?」
『もうすぐレイシフトが始まるんだが、Aチームは良好、しかしBチームの何名かに微かな変調が見られる。来てくれるか?』
「分かった、麻酔をかけに行こう。すぐに向かう」
『そこからなら二分で到着するはずだ。頼むぞ』
「OK」

 通話を切ったロマニ、タケルはふと、

「ここは、医務室じゃないですよね?」
「……まぁ、言い訳は考えるさ。今の彼は……」
「レフさん、ですよね。聞いてます。技師の一人だと聞いてます」
「控えめに言ったなぁ。レフはね、『カルデアス』の大事な部分を設計した魔術師なんだよ?」
「へぇ……」

 まさかあの穏やかな表情を浮かべるレフがそんな凄い人物とは知らず、タケルはそんな返事を返す事しか出来なかった。

「それじゃあ、僕はこれで行くね。楽しかったよ、天空寺君。もし暇だったら医務室に来てくれ。美味しいケーキでも……」

 その時、ロマニの言葉を謎の爆発音が遮る。直後、不気味な音に続いて天井の照明が切れた。

「停電?」
「まさか。カルデアで停電なんて……」
『緊急事態発生、緊急事態発生』

 アナウンスが流れ、カルデア内の発電所から火災が起きている事が知らされる。タケルはロマニの顔を窺う。

「火災だって……!」

 その切羽詰まった事態から、タケルは現状がとても危険な状態にある事を悟る。
 タケルの懐では、黒い目玉の様なアイテムが、力を発揮する時を待っているのだった…… 
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