風魔の小次郎 風魔血風録
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104部分:第十話 小次郎と姫子その二
第十話 小次郎と姫子その二
「最初から御前を見ていた」
「俺をかよ」
「また随分と精が出るな」
林彪は笑いながら小次郎に声をかけた。
「それで少しは使えるようになったか?」
「どうだろうな」
だがそれへの返答は曖昧なものだった。
「それはまだまだだろうな」
「おいおい、どうしたどうした」
兜丸は今の小次郎の言葉を笑ってはやす。
「小次郎の言葉じゃねえぞ」
「正直この風林火山は尋常じゃねえ」
小次郎の顔に険しさが加わる。
「使いこなせるようになるのはまだまだ先だろうな」
「そうなんだ」
麗羅はそれを聞いて素直に頷く。
「小次郎君が毎日必死に素振りしてもまだまだなんだね」
「ああ、だからもっとやるんだよ」
小次郎はこう言ってまた風林火山を振り被る。
「もっとな。まだまだだよ」
「それはいいとしてだ」
小龍が声をかけてきた。
「何だよ」
「もうそろそろ飯の時間だぞ」
「おっ、もうかよ」
「今日は栗御飯だ」
竜魔が言う。
「御前の好物だったな」
「おうよ、栗を食ったら元気百倍だぜ」
小次郎は栗と聞いただけでもう拳を握り締めていた。右の拳を。
「じゃあ余計に頑張るか」
「御前栗好きだからな」
「そうだよね。小次郎君って栗とか薩摩芋とか好きだよね」
項羽と麗羅が笑って言う。
「じゃあ明日は芋粥にしようかな」
「おいおい、凄い御馳走じゃねえか」
小次郎は芋粥と聞いてさらに笑顔になった。
「今日は栗御飯で明日は芋粥ってよ」
「全員揃ったしな」
「たまにはいいものだ」
劉鵬と竜魔もそれに賛成する。
「そうした馳走もな」
「といっても御前にとってか」
小龍はこの御馳走は小次郎限定とした。
「全く。自分の好きなものは何でも御馳走か」
「わかり易い奴だ、全く」
林彪と兜丸は少し呆れたように言ってみせてきた。
「しかし。食べなければどうにもならない」
「だからよ。早く皆で食おうぜ」
小次郎は満面の笑顔で霧風に対して応えた。何はともあれ彼等は今は食事にかかるのだった。それが終わってから白凰に行く。そこに行くと姫子が校庭で難しい顔をしていた。一人でベンチに座って俯き気味に何かを考えているようである。今は蘭子もいなかった。
「あれ、姫様」
「小次郎さん」
小次郎が声をかけてやっと顔を上げてきた。
「どうしたんだよ、何か困ったことでもあるのかい?」
「別に・・・・・・といえば」
覗き込むように顔を向けてきている小次郎に対してその難しい顔で答えてきた。
「嘘になりますね」
「じゃあ何かあるんだな、やっぱり」
「ええ」
小次郎の言葉にこくりと頷く。やはり難しい顔だ。
「そうですけれど」
「何なんだよ、相談なら乗るぜ」
胸をドン、と左手で叩いて笑顔で言ってみせる。
「何でもな」
「何でもですか」
「この小次郎様嘘はつかねえ」
啖呵さえ切ってみせる。
「何があろうともな」
「そうですか。じゃあ」
「それで何なんだよ。あのおっかねえデカ女にも言えないことなのかよ」
「一つはそうです」
「一つは、か」
「はい」
まずは頷いてみせる。だがやはりその顔は暗いものだ。
「まずは学校のことで」
「それならあのデカ女でもいけるよな」
「蘭子さんには感謝しています」
やはり彼女にとっては蘭子はかけがえのないものである。それがよくわかっていた。
「いつも側にいて助けて頂いて」
「あいつ姫ちゃんが何よりも大事だからな」
「幼い頃からでした」
二人の関係はその頃からのものである。まだ赤子の頃から常に一緒だったのだ。
「いつも気付けば横にいて護って下さっていて」
「料理だって作れるしな」
「家事も何でもできますし」
「そうそう、あれで案外大和撫子なんだよあいつ」
小次郎もそれは認める。
「洗濯だって掃除だってな。しっかりしてるしよ」
「学校のことでも。至らない私をサポートしてくれて」
「じゃあ何も問題ないじゃねえか」
小次郎はここまで話を聞いて述べた。
「全然。それでどうしてそんなに悩んでるんだよ」
「私は総長代理です」
自分のことを語る姫子であった。
「総長代理でしかないです」
「それが?」
今の言葉は小次郎にはわからないものだった。話を聞いても首を傾げるだけだった。
「どうしたっていうんだよ」
「総長は御爺様です」
次に言うのはこのことだった。
「ですから私は」
「何かよくわからねえな」
小次郎は話を聞いても首を傾げるだけであった。
「けれどまあ」
「それでですね」
姫子は小次郎が言うより先にまた言ってきた。
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