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蟹の愛情

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第五章

「身体が」
「うむ、だから鋏に弱い」
「しかもこの数ですから」
 蟹達がというのだ。
「我等の十倍はいます」
「これで争うと」
「はい、我等は確実にです」
 まさにというのだ。
「敗れます」
「ではか」
「残念ですが」
「わかった」
 苦々しい顔でだ、与太郎は傍の者の言葉に頷いた。
「ではな」
「貴殿にも相応しい相手がおろう」 
 大蟹、大甲利平は与太郎にまた言った。
「だからな」
「この婚礼は諦めろか」
「そうして去れ」
「仕方ない」
 与太郎は利平にもこう言った。
「ではな」
「うむ、湖に帰りだ」
「蛇の正室を迎えよというのだな」
「その通りだ」
「そうさせてもらう、わしも勝てぬ戦はせぬ」
 そこまで愚かではないというのだ。
「だからな」
「それではな」
「者共去るぞ」
 与太郎は手下の蛇達にも告げた。
「これでな」
「はい、わかりました」
「それではです」
「湖に去りましょう」
「ここは」
「ではな」 
 誇りは守ってだ、与太郎は長左衛門にも言った。
「そういうことだ、邪魔をした」
「はい、それでは」
「もう来ぬ、わしも約束は守る」
 伊達に蛇の総大将ではない、それで長左衛門にもこう言ったのだ。
 そのうえでだ、利平にも言った。
「正室の話は蛇の総大将の間でする」
「それも守るな」
「この者にも言った通りだ」
 長左衛門の方を見て利平に答えた。
「わしは約束は守る」
「蛇としてだな」
「蛇はしつこいが約束は守る」
 誇りがあるからこそだというのだ。 
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