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顔はいいけれど

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第二章

 結局彼の性別はわからない。それでだった。
「本当にどっちだ」
「だから男だ」
「女よ」
 論争が続くのだった。
「男に決まってるだろ」
「女でしか有り得ないわよ」
「本当にどっちだ」
「どっちなのよ」
 どちらか、問題はそこだった。
 しかしそれがどうしてもわからず議論が続くのだった。
 それはジョーイの所属事務所でも同じでだ。彼等は言い合うのだった。
「だから男じゃないの?」
「いや、女でしょ」
「物腰は男っぽいだろ」
「いえ、女らしいでしょ」
 彼等からしてこうだった。事務所の面々もわからなかった。
「背は高いから」
「身体つき華奢でしょ」
「いや、顎のあたりが」
「髭ないわよ」
 男の象徴であるそれがだというのだ。
「剃り跡もないじゃない」
「じゃあ女じゃない」
「そうよね。つるつるじゃない」
「髪の毛多いけれど体毛自体は少ないじゃない」
「だから女よ」
「絶対にそうよ」
 女派は事務所にもいた。それでだった。
 こう意固地に主張する。しかし事務所の中にいる男派はこう反論するのだった。
「そんなの脱毛できるだろ」
「最近髭だってできるぞ」
「だからジョーイは男だよ」
「あのきっぷがよくて潔い性格は男だよ」
「絶対に男だ」
「間違いない」
 性格を見て男だというのだ。
「書くその字とかイラストだって男だろ」
「それでどうして女だって言えるんだよ」
「ジョーイは男、これ間違いない」
「賭けてもいいぜ」
 彼等はジョーイを男だと確信していた。しかし。
 女派も反論する。その気配りの細かさは女のものだと。こうした水掛け論めいたやり取りが始終続いた。だが結局彼の性別はわからないままだ。
 それでだ。ジョーイのマネージャー、男である彼も首を捻ってだ。こうジョーイに言うのだった。
「君本当はどっちなの?」
「ジョーイが男か女かって?」
 一人称はあえて自分の名前にしている。僕とか私といった一人称で性別を勘ぐられない様にしているのか。そうして話すのだった。
「そのこと?」
「そう。どっちなのかな」
「どっちかしらね」
 楽しげに笑ってだ。ジョーイはマネージャーに返すだけだった。
「それを知っているのはね」
「君だけだっていうのかい?」
「それと神様だけよね」
 その楽しげな笑みでの言葉だ。
「ジョーイの性別のことはね」
「君はデビューはインディーズだった」
 そこからメジャーになり今の事務所と契約したのだ。
「その時から今みたいな感じだったけれど」
「ジョーイは歌いはじめてからこのスタイルだよ」
「わかってるよ。そのこともね」 
 マネージャーとしてだ。知らない筈がなかった。
「君を見つけたのは僕だし」
「ジョーイの音楽がよかったからよね」
「歌だけじゃなくてファッションもね」
 アーチストは歌だけでなくその衣装も注目される。マネージャーはジョーイのそうしたことまで見てそのうえで声をかけてスカウトしたのだ。
 だからジョーイのことはわかっていた。その性別以外は。
 だがジョーイのプライベートのことは彼も知らないのだ。携帯で連絡をしてジョーイの家の場所も知らない。全ては謎に包まれているのだ。 
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