ルーブルの聖女
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第一章
ルーブルの聖女
ルーブル美術館で話題になっていることがあった、じっくり回るとそれこそ数日はかかるというこの美術館の中にだ。
不思議な女がいるというのだ、雪の様に白い顔に淡い金髪にアイスブルーの瞳を持つだ。その女が毎日美術館にいるというのだ。
その話を聞いて美術館員の一人シャルル=ブリゲーニュは首を傾げさせて上司のジェルモン=ボレロに話した。
「最近の噂ですが」
「不思議な女が出るそうだな」
「はい、何者でしょうか」
こうボレロに言うのだった。
「一体」
「わしもわからない」
ボレロもこう言う、見ればブリゲーニュは身長二メートルに達する四角い顔の大男で黒い髪を短く刈り目は黒だ、美術館員というより柔道家に見える。ボレロは彼より三十センチ位小柄な茶色の髪の毛がかなり薄くなってきている初老の男だ。ふたりは美術館の中をチェックして回りつつそのうえで話をしているのだ。
「あの話はな」
「ボレロさんもですか」
「どうもな、しかしな」
「その女はですね」
「美術館の入館者にはな」
出入り口でチェックしているがだ。
「記録されていない」
「毎日ですね」
「だとすれば何者か」
「そんな話になりますね」
「幽霊だっていう人もいるな」
「それフランソワ二世みたいですね」
ある城に出て来ると言われているのだ。
「あの王様の幽霊ですね」
「そうだな、確かに」
「まあここは色々なものがありますから」
世界的な美術品がだ。
「それじゃあ何が出ても」
「おかしくないか」
「私はそう思います」
こうボレロに言った。
「ここだけは」
「まあわしはここに三十年いるが」
「こうした話は」
「あるな」
実際にとだ、ボレロもブリゲーニュに話した。
「幽霊の話は」
「色々とですか」
「これだけ色々なものがあってしかも古い美術館だ」
それならというのだ。
「それならな」
「幽霊話の一つや二つですか」
「あるものだろ」
「そういうことですか」
「流石にヒトラーは見てないがな」
フランスとの戦争に勝った時にこの美術館に赴き中を観て回って感激したのだ。画家志望だった彼はこの日を人生最良の日だと言った。
「まあそうした話はな」
「あるんだな」
「そうなんだよ」
この美術館にはというのだ。
「だからこの話もまたかってな」
「思ったんですか」
「最初に聞いてそう思ったよ」
「そうですか」
「ああ、しかし若しもだ」
「若しも?」
「幽霊じゃなくて不審者だったらな」
ここでだ、ボレロは暗い顔になってブリゲーニュに述べた。
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