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第二章

「公安の者だが」
「何か?」
「聞きたいことがあるがいいか」
「はい、どうぞ」
 来ることは読んでいたので。落ち着いて返す。
「何でもお話します」
「そうしてくれるか」
「では」
 こうしてだった。彼は公安に連行された。何故連行されたのかも通報してきたのも誰かは察していた。全てわかっていたからこそ。
 そのうえで尋問、取調べを受ける。この際だ。
 かなり厳しい尋問を受けた。その際だった。
 取調べを行う捜査官の一人がこう言ってきた。
「あまり言わないとだ。軍事機密に関することだからな」
「何でしょうか」
 このことも読んでいるからだ。こう応える彼だった。
「一体どうされるのですか?」
「より厳しい取調べを行うこともあるが」
「そのことでしたら」
 落ち着いてだ。彼は取り調べ室においてその捜査官にこう答えた。
「我が国の大使館を通じて行って下さい」
「大使館!?」
「僕は留学生ですよ」
 臆することなくたんたんとしてだ。アルチェンコは述べた。
「それも至って真面目な」
「だからだというのかね」
「はい、僕は外国人です」
 彼はこの微妙な立場のことも話した。
「ですから何かをする際にもです」
「大使館か」
「大使館からお話を通して頂いていますか」
 悪びれない顔での質問だった。
「そうされていますか」
「いや、それは」
「それではお願いします」
 彼は逆にだ。捜査官に対して言い返した。
「僕に対する尋問等は大使館を通じて行って下さい」
「しかし君はだ」
「何でしたら部屋を全て調べて下さい」
 淡々としての言葉だった。
「何か出て来たらお話しましょう」
「わかった。では再び調べさせてもらう」
「それで何も出て来なかったら。釈放をお願いします」
 こう言ってだ。彼は自分の部屋を徹底的に調べてもらった。無論他の関連場所もである。そのうえでだった。
 彼は捜査官にだ。取り調べ室で問うた。
「何か出て来ましたか」
「君は蝶の収集が趣味なのだね」
「はい」
 その通りだとだ。答える彼だった。
「子供の頃からです」
「そうなのか」
「はい、それが何か」
「いや、随分図鑑も標本採集も多いと思ってね」
「そうですか」
「君の部屋も大学のロッカーも全部調べさせてもらったよ」
「何か出てきましたか?」
「いや」 
 首を横に振っての返答だった。
「何もね。どうやら君は」
「はい、ただの留学生です」
「その様だね。失礼をした」
「いえ、お気遣いなく」
 ここでも平然として返すアルチェンコだった。その雰囲気は明らかに只の留学生ではない。特に姿勢がである。
 それは捜査官にもわかった。だが、だった。
 証拠は出なかった。何一つとして。 
 しかもだ。尚且つだった。
 外交問題、留学生を長期間拘束してはそうなりかねない。だからだった。
 捜査官もだ。こう言うのだった。
「わかった。それではな」
「はい、では」
 こうして彼は釈放された。だが大学にはいづらくなったということで祖国に帰国することになった。その際だった。
 蝶の図鑑や標本採集を持って帰ることを願い出た。このことについてはだ。
 その国の責任者の誰もがだ。こう言うだけだった。
「そんなものはどうでもいい」
「君は『潔白』だしね」
 疑わしいが証拠はない、だからだというのだ。
「持って行くといい」
「蝶なぞな」
 こう彼に告げてだ。そしてだった。 
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