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提督はBarにいる。

作者:ごません
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艦娘とスイーツと提督と・EX2

~榛名・カクテルゼリー~

 読者諸君ならご存知かも知れんが、俺は悪戯が好きだ。日常のちょっとした悪ふざけから、相手を驚かすドッキリの様な大仕掛けまで、色々な事をしてきた。今回もその悪い癖が鎌首をもたげて来て、やらかしてしまったのだ。そのターゲットは……榛名だ。あの海で酔っ払い、自分に素直になった榛名をもう一度見たい!と考えた俺は、榛名に渡した菓子の中にチケットを仕込んだのだ。

 リクエストされたお菓子はゼリー。こいつは好都合だった。実はワインやビール、カクテル等々の酒をゼリーにしたのだ。榛名も最初は敬遠していたのだが、甘く作って酒の濃さを誤魔化した好物のゼリーをチュルリチュルリと食べ続け……

~30分後~

「はるにゃはらいじょ~ぶれひゅ!」

「嘘つけ」

 顔が真っ赤でグデングデンに酔っ払った榛名が出来上がってしまった。

「らいじょ~ぶれひゅ!」

 俺の隣に座ってポカポカと俺を殴ってくる榛名。その目はいつもの明るく朗らかな眼差しではなく、半開きの目で据わった感じの眼差しである。

『一体どうしてこうなった……』

 心の中で後悔してみるが、元を正せば自業自得、身から出た錆ではあるのだが。もしもタイムマシンがあるのなら、昨夜ノリノリでアルコール濃い目のカクテルゼリーを作っていた俺を殴りに行きたい。

「えへへへへぇ~」

 榛名は今現在進行形で俺の腹に腕を回し、腹筋に頬を擦り付けて来ている。

「ほら、榛名一旦離れろ」

「やっ!」

 抱き付いている榛名を一旦引き剥がそうと力を入れると、引き剥がされまいと榛名が抱き付いたまま俺の鳩尾に右フックをぶちこんで来た。

「おっふ!?は、榛名お前鳩尾に……」

「や~ですっ!」

 息の詰まった所に、榛名が更に強く抱き付いてくる。既に力が入りすぎて、羽交い締めとかベアハッグに近い位の
力強さになっている。普段のお淑やかさで忘れがちだが、榛名も鎮守府屈指のパワーファイター霧島の双子の姉なのだ。同等の格闘戦能力があっても不思議ではない。それにしても正確に鳩尾を捉えた強烈な右フックだった。

「はるにゃはてーとくと一緒がいいんれしゅ!」

「分かった、分かったから。もう無理に引き剥がそうとしねぇよ」

「えへへぇ~♪」


 ダメだこりゃ。




「さて、酒癖悪いのは知ってたが……どう手懐けたものか」

「んふふ~」

 榛名、ニマニマしながら腹筋へのスリスリ継続中。と、いきなりスリスリが止まる。

「てぇとくぅ~……♡」

「ぬおぉ……力強ぇ、引き剥がせねぇ!」

 ソファの上に押し倒されてしまった。両腕は榛名の両腕に抑え込まれ、馬乗りになられている。普段から慣れ親しんだ体勢だが、今この状況だと全く嬉しくない。

「てーとくー……ちゅー♪」

「ファッ!?……ってか酒臭っ!」

 思わず変な声が出た。腕を押さえ付けたまま、榛名の顔が迫ってくる。キスの形にすぼめられた口の隙間から濃いアルコールの臭いが漂ってくる。

「ちゅー!」

 首を振って抵抗していたら、榛名の身体が上半身までズリズリと移動してきて、両足で腕をホールドされ、空いた両手で顔を固定されて榛名の顔が更に迫ってきた。これが野性の本能か、この場面で最も最適なホールド方法を思い付きやがった。

「や、止めろはるにゃ!酔いがひゃめたら後悔しゅんぞお前!」

 顔をムギュッと潰されたまま、説得を続けた。すると榛名の動きがピタッと止まる。

「てーとくは……」

「ん?」

 ポタリ、ポタリと顔面に落ちてくる雫。榛名の涙である。

「てーとくは、はるにゃの事、お嫌い、れしゅか……?」

 ヒック、ヒックとしゃくりあげながら泣く榛名に、何だかこっちがいたたまれなくなってきた。抑え込まれて身動き取れなくされてんの俺なのに。

「待て待て、嫌いな奴なんかにケッコン指輪渡さねぇぞ?俺は」

「しゅきあり!」

「んむっ!?」

 ズキュウウウウウゥゥゥゥン!と某漫画ならば擬音が付きそうな位の勢いでキスをされた。ごり押しと言ってもいい位の無理矢理で俺のメンタルを揺さぶった所に、嘘泣きの泣き落としで隙を作るとは……榛名、恐ろしい娘である。





「えへへー」

 してやったり、といったどや顔で微笑む榛名。未だ馬乗り状態。

「榛名、お前なぁ……」

「てーとくーっ!」

 ガバッ、と抱き付かれた。さっき上半身までにじり寄ってきたせいで服も半脱げ状態で密着される。あれやこれやが素肌ポロンでベタッと密着される。

「ちょ、待て榛名、さすがにこれ以上は」

「なでなでしてくだしゃい」

「……は?」

「ナデナデれしゅ」

 むぅ~……と頬を膨らませている榛名。何だこのクッソ可愛い生き物は。少なくとも、俺の知っている榛名ではない。

「……まぁ、その位なら」

 頭を慈しむようにナデナデしてやる。榛名は撫でられつつ、顔を俺の胸板に擦り付けて来る。

『さ~て、これで満足して大人しくなってくれると嬉しいんだが……』

「てーとくー?」

「何だ?」

「てーとくは~……はるにゃの事、しゅきでしゅか?」

「…………?」

「はるにゃの事、しゅき?」

 小首をカクンと傾げて、ニコニコしながら尋ねてくる榛名。ストレートに可愛い。

「…………」

 さて、何と答えた物か。

「しゅーき?」

 再び微笑んで尋ねてくる榛名。ヤバい、これは泣かせる選択はできん。

「……あぁ、好きだぞ?お前の事は」

「ふふ、ふふふふ……えへへ」

 酒のせいで朱に染まっていた榛名の頬の赤みが更に赤くなる。

「はるにゃもー、てーとくの事、だいしゅきでしゅ♡」

「そうか、ありがとよ」

 そう言って再び頭を撫でる。

『しっかし、すげぇ変わり様だな。酒乱というか……とてつもない甘えん坊さんじゃねぇか』

「♪」

 撫で続けているとご機嫌になってきたのか、鼻唄を歌い始めた。

『さてどうしたモンか。流石にずっとこのままじゃあマズいぞ、色々と』

 今はまだ大人しくしているが、俺の愚息がいつ目を覚ます事やら。そんな事を考えながら撫で続けていると、榛名に更なる変化が現れた。

「♡」

 何かハァハァし始めた。目もうっすらハートマークが見える気がする。




「てーとく」

「何だ?」

「あちゅいでしゅ」

「あ?」

「あちゅいので、脱がせてくだしゃい」

「Oh……」

 榛名よ、お前はいつの間にイタリアに国籍を変えたんだ?とツッコミを入れようと思ったが、寧ろ日本の艦娘の方が脱ぎ癖が酷い奴が居たのを思い出してグッと堪える。

「脱ぐのは禁止だ、我慢しろ」

 流石にこの状況下で榛名に脱がれたら、流石の愚息も目を覚ましてしまう。そうなっては抑えも効かん。

「むー」

 また頬を膨らませている榛名。可愛く怒ってもダメな物はダメだ。

「じゃあ自分で脱ぎましゅ!」

「なっ!?バカ止めろ!」

 咄嗟に抱き締めて動きを封じる。

「やー!はーなーしーてー!」

「離してたまるかこのやろっ……!」

 必死に榛名を押さえ付ける。ジタバタと暴れるので更にキツく抱き締める。

「……てーとくの」

「ん?」

「てーとくのエッチ!」

「はぁ!?」

 なんつー事を叫びやがるんだこの酔っ払いは。

「てーとくのエッチ!変態!けだもの!」

「ぐふぅっ!?」

 今のは来た。精神的にクリティカルヒットした。その瞬間に拘束が緩んでしまった。

「しゅきあり!」

「あっヤベッーー!」

 拘束をほどいて服を脱ぎ始める榛名。バサリ、と数秒で服を脱ぎ去って下着姿になってしまった。更に榛名の暴走は止まらない。

「はー、すずしー♪」

『あ!あいつ下着にまで手をーー!』

 流石にこれ以上はマズイ。俺としても、酔いが冷めた後の榛名にしてみても。俺は咄嗟に軍服の上着を脱ぐと、榛名に被せた。




「ふぅ、間一髪セーフって奴だな」

 大人しくなった榛名は、俺の軍服に鼻を押し付け、クンカクンカしている。

「……これ……」

「頼むから脱ぐなよ?な?」

「てーとくの匂いがしましゅ」

「え」

「ふふ」

 穏やかな笑みになった榛名は、軍服を更に自分に密着させるようにギュッと引っ張ると、ソファに横になってスヤスヤと寝息を立て始めた。

「ふぅ、何とか鎮まったか……」

 下手すると酒癖の悪さじゃあ一番タチが悪いんじゃ無かろうか。とりあえず片付けるか……

「あ、ブラにパンツまで落ちてるじゃねぇか。って事は榛名、マジでスッポンポンになってんのか今」

「ヘイdarling、ただいま~……。寂しかったヨ~って、what?」

「あっ」

 最悪のタイミングで最悪の人物がやって来た。2人きりの執務室、(恐らく)全裸で眠る榛名、そしてその下着を握り締める俺……どう見ても『事後』です、本当に(ry

「おい、落ち着け金剛。勘違いだ、なっ?」

「……darlingの」

「いや、待て、落ち着け金剛っ!」

「darlingのアホー!」

「へぶぅっ!」

 バッチイイイィィィィン!と金剛に助走付きのビンタを喰らって吹っ飛ばされた。さすがはウチの最高錬度、パワーが違いますよ。その後、泣きじゃくる金剛を宥めて事情を説明し、何とか事なきを得た。そしてスヤスヤと眠る榛名を部屋に運び、残っていた比叡に後始末をお願いした。

 翌日、酔いが冷めた榛名には記憶が完全に残っており、恥ずかしさから引き込もってしまったのはまた別の話。









 
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